東京農業大学第二高校「父と暮せば」
- 作:井上ひさし(既成)
- 潤色:吉野勝哉(顧問)
- 演出:中林綾音
女はエレベーターでしか出入りできない部屋にいました。やがてエレベーターの鍵を奪われました。そして足の自由を奪われました。次に耳を奪われました。そして目を奪われました。最後に……
舞台中央に広めの台が置かれ、奥に黒と白の高めのオブジェ。どうやらここが部屋のようです。部屋が途中で途切れ観客席側に突き出しているという設定だとわかります。かなり気合の入った装置で、これだけでも期待度アップです。
まずびっくりするのが主演の「女」の圧倒的な演技力。ほとんど女のひとり語りなのですが、とてもよく聞き取れる声であり、色々な感情が入り乱れた台詞。一つの台詞の中でも「夫が好きだ」という気持ちと、「外に出られないストレス」と、「言いくるめられてしまった釈然としない」気持ち。そんな複数の感情が目まぐるしく現れては消える台詞。恐ろしくうまく演じられています。
また姿勢と動作がとても美しく、言葉を発しなくても動作だけで表現してしまう。「他の学校に足りないのはこれだよ」と叫びたくなる気持ちでいっぱい。ただ欲を言えば、もっと多くのことを動作で表現することはできたんじゃないかな。
足が動かなくてった女に、夫は車椅子をプレゼントするのですが、車椅子が最初から置かれているので違和感がありました。プレゼントするシーンに出してほしかったかな。
終盤、街の喧騒として救急車の音がするのですが、日本の救急車のサイレンなので一気に萎えました。この舞台の設定は日本なのですか? 違いますよね。
すべてを奪われそうになって、それでも声だけは奪われたくない。「声を奪うなら命を奪え」と言う。すごいラストでした。
とても良かったし、納得の優秀賞(関東)なのですけど、より良い上演を目指すは難しいですね。
「声だけは奪わせない」と言われて「ほかは良いけど声はダメなんだ」で終わりかねないところなのかな。どうして声はダメなのかもっともっと客席に使わってくると良かったと思います。声以外の色々は、すんなり受け入れてる感がしてしまうのです。
それと強く叫ぶように発声して演じるシーンがやや多かったかな。最後の声のシーンを際立たせたいなら、ほかのシーンでもっと叫ばせないようにしたほうが良いのかも知れません。物理的に叫ばなくても、叫ぶことはできます。微妙な演出のさじ加減なのでやり方は色々あると思いますが、少なくとも演出を立て、きちんと方針を整理したほうが良いでしょう。
よほど練習したんだろうなと思わせる圧倒的な上演した。すごかった。