新島学園高校「カイギはDancin'」

  • 作:大島昭彦(顧問創作)
  • 演出:小池 宗太
  • 最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

ある田舎の町長が収賄と脱税が逮捕された。氷上アリーナ誘致計画が頓挫しそうになる。そんな中、次の町長を狙う副町長と、そこにある学校の新聞部の織りなす物語。

感想

舞台中央から下手側に町長室、上手側に新聞部を配置して照明で区切って進行します。

町長室に長寿会の老人3人が居るのですか、ちゃんと老人してます。動き方も、腰がとても悪い人と、少し足腰弱ってる人と、足腰が元気な人みたいに演じ分けられています。他校がよくやってしまいがちな、老人たちの反応速度が早すぎるという失敗や、新島が過去の上演でよくやっていた「老人たちがみんな同じ老化度」というミスはありません。副町長や秘書もそれっぽく見えますね。ややステレオタイプなところもありますが、さすがですね。副町長はステレオタイプのほうがのうさん臭さは出ますし。

新聞部の面々も楽しそうで良いです。ただ、途中将来の話をすると部室トーク(35分目くらい)が、立て板に水すぎて反応になってなかったのは残念でした。やや台詞が多いのかな。部室トークは全体的に、もう少し反応をきちんと作って演じてほしいところです。

ラストのほうは超展開(プロジェクター投影の文字)で、新聞部顧問だった先生が総理大臣になるのですけど、そこにインタビューに行く元部員とか、なかなかにみせてくれました。でもこのラストシーンならば、神谷先生とその部員の、逮捕された元町長に対する想いをもっと描いてくれた方が良いかな。2人は元町長や元町長のやったことをどう思っていたのか。

政治ネタを扱った舞台は、過度に説教臭くなったり、言いたいことが多すぎて崩壊したり、リアリティがありすぎて実感がなかったり、台詞が上辺だけ滑ったりという失敗が大変に多いのですが、さすがの大島先生というべきかその辺のラインはきちんと弁えていて、政治ネタを扱いつつきちんと成立している珍しい上演でした。

伊勢崎高校「にこにゃんちゅう」

  • 作:小野里康則(顧問創作)

あらすじ・概要

日本の伝統芸能「にこにゃんちゅう」という勝負のチャンピョン(クイーン)の決定戦が行われていた。

感想

幕があがりホリだけの何もない舞台。そこで行われる「にこにゃんちゅう」という謎の競技。

講評でもルールがよく分からないと言われてましたが、要するに「あっち向いてホイ」のようです。

あっちむいてホイにこちゃんちゅう
パーにこ(女の子)
グーにゃん(猫)
チョキちゅう(ネズミ)

じゃんけんに勝った後の「天井」「ルンバ」とかは逃げる場所=向く方向で一致したら負け。理解するのに結構時間かかったんで、何やってるんだろう?感はありましたが、見てて恥ずかしくなる*1謎の競技を真剣にやっているのは純粋にすごいと思います。

キーマンとして未来が見える薬をセールスマンが売りに来て、その中で旗揚げゲームをします。10連敗してしまうわけですが、普通最初にトリックを疑わないのかなというのが疑問でした。

TV収録シーンでADがカンペを出すみたいな演出必要だったのかな。位置的にも視界に入らないし、もうひと工夫するか、もしくは要らなかったんじゃないかと感じました。

劇全体「なんだったんだろう」というキツネにつままれた感がありますが、力いっぱいやりきったみたいパワーと情熱は十分に感じましたし、この手の劇にありがちな「もはや見ていられない……」とはならず、ちゃんと最後までみせたことを素敵だと思います。

*1 : 共感性羞恥

桐生南高校「夏の終わり、狐の嫁入り。」

  • 作:栗田 綾菜(顧問創作)
  • 演出:亀里 涼介
  • 創作脚本賞

あらすじ・概要

おじいちゃんは国語の先生で、おばあちゃんは理科の先生だった。二人が大好きな美紅(みく)。やがておじいさんが亡くなり、おばあさんも一人では暮らせなくなってしまい、高校生になる美紅はおばあちゃんの家で二人暮らしをすることにした。。

感想

装置は、ちゃぶ台が置かれ、薄汚れた壁で囲まれ、写真などが置かれた部屋を丁寧に作ってきていました。これだけリアルだと、出入り口の「のれん」がちょっと謎にはなりますが、とても気合いを入れて作ってきたと思います。

にぎやかワイワイの友達たちがとてもよくできていて、下手に全力でにぎやかさを演出すると進行を邪魔してしまうのですが、その辺よく配慮していたと思います。おじいさん、おばあさんもよく演じていましたが、少し反応速度が早かったかな。老人は思考速度が落ちますので、「……んっ、なんだって?」まで行かなくても、若者よりは会話に対する反応が少し遅くなります。

気になったところ

まずおばあちゃんが部屋を掃除するシーン。BGMに乗せて「形」(掃除をしてますという記号的演技)で済ませていたのがとてももったいない。掃除を時間をかけてきちんとするだけで、おばあちゃんのリアリティが増しますし、性格も見えてきます。台詞でない部分で人物を説明でき、しかもきれい好きを伏線とできるとても貴重なシーンなのです。*1

きれい好きに関して付け足すなら、日常の別のシーンでも細かいところで(美紅たちがやってくるとき、いつも掃除をしている。写真のほこりを落としている。テレビを雑巾がけしている等)で演出した方がよかったんじゃないかな。また、おばあちゃんがボケた後の「部屋の散らかり」も形になっていますね。もっと違う表現の仕方はありませんでしたか?

途中にある美紅の周りに三角コーンを3つ置いて工事用ポールで囲む演出。これなんだったんでしょう? 壊れていくおばあちゃんか美紅(との関係?)か何かを明示してるんだと思うのですが、これ単なる説明ですよね。しかもほぼ伝わってない説明。台詞や状況で十分伝わっていたと思うのですがその演出本当に必要だったのですか。おばあさん一人になってしまった家を取り壊しているのかと思いましたし、急に工事関係者みたいな人たちが出てきて違和感だらけでした。

序盤ですが、美紅がなんでおじいちゃん、おばあちゃんにここまで想い入れてるのか全く伝わってきません。説明はありましたが、欲しいのは説明ではありません。エピソードです。エピソードが無理でも、関係性(の演技)で匂わせてほしいところです。

一番もったいないのは、ラストシーン(ラスト前)ですね。

「私はこの日のことをずっと忘れないと思う。5人で食べた最後の夕飯」

最後に家族みんなで食べた最高の夕食シーンです。良いですよね。美しい。このシーンのためだけにこの劇が存在したと言っても過言ではないぐらいの名シーンですね。

…………なんで省略したの! なんでみせてくれないの!!

台詞なく、ただただ美味しそうに食事するシーン*2劇中で一番の見せ場でしょう。それ省略するってどういうことなんですか! と叫びたい気持ちでいっぱいでした。

あとこれは好みの問題ではありますが、ラストシーンで美紅が泣いて終わるので本当に良かったのかな。美紅は、劇中大きな声を出し叫んだり泣いたりしながら感情いっぱいな姉として演出されているので、その美紅が大泣きするのは比較的普通のことです。もしこの大泣き演出を成立させたいなら、美紅はそれより前のシーンでもう少し控えめに演出したほうが良いのではないかと思います。

台本について

栗田綾菜先生の脚本です。以前も述べました通りやや荒削りな印象を受けました。

  • 説明セリフが多い。
  • 場面転換(暗転)がやや多い。

セリフに関しては台本作者のセンスであり個性なのですが、以前より良くなったものの状況を台詞で喋らせがちですね……。魅力的な台詞についてもう少し検討してほしいかなと思います。

途中にあった、美紅が実家にメールするシーンや実家で老人ホームのことを父と母が検討するシーン。シーンまるごと要らないと思います。

メールを送るという行為は貴重な伏線となりますし、その後、家族の中で何が起こったのだろうかというのは美紅の預かり知らぬところなので、それを匂わせる(もしくは次に会ったときに会話させる)ことで非常にきれいに処理することができます。少し演出の話が混ざりますが、あのシーンはテンポを悪くするだけでなく、そもそもが説明的なシーンであり、舞台の端に椅子や机を用意することで更に説明度合いが増しています

さて、栗田先生脚本は家族問題、特に嫁姑問題や痴呆問題について興味があるのかな。勝手な解釈かもしれませんが、理想として家族は大切にしたい、でも現実には問題が多く理想通りに行かないといった印象。全体的に(特に痴呆関連の描写は)以前の「ファミコン!」より良くなっていたと思います。

まとめ

今の状態だと美紅にばかりスポットが当たっているのですが、もっと「おばあちゃん」や「美紅とおばあちゃんの関係」にスポットを当てれば、印象は(文字通り)劇的に良くなったと思います。それと、台詞以外で表現(説明ではない)することに気を配ると良いでしょう。

色々書きましたが、上演終盤からすすり泣く声が客席で聞こえてましたし、力いっぱいの素敵な上演でした。

*1 : 細かいことですが、畳は畳の目に沿ってほうきがけします。畳の目に逆らってほうきがけすると、きれい好きには見えません。

*2 : できれば本物で!!