高崎商科大学附属高校「見送る夏」

作:越智 優

あらすじ・概要

夏休みの宿題をするため早枝子の家に集まった友人3人。そして、早枝子の家に居候している従姉妹の茉莉。わいわいがやがや、遅々として進まない宿題と暑い夏、そして茉莉はなぜ居候しているのか。そこへ茉莉の姉がやってきて……。

感想

舞台中央に畳が置かれた6畳程度の空間。丸ちゃぶ代と木製の棚とクラーラーとテレビ。なぜ部屋部分以外の照明を思い切り明るくしていたのがもったいないと思いました。照明を中央部だけに限ればそれだけでグッと部屋っぽくなったのかもしれません。夏っぽさとしては全体が明るいのはアリなのですが、雨のときに(明るさの)差がついたらよかったなあ。物語の大切な空間としての「部屋」がないがしろにされた印象があります。

友人達の一部が声が聞き取りにくかったのですが、4人+茉莉のワイワイガヤガヤとした年代相応の元気さがよく出ていたと思います。服装のかぶりにも配慮され、叫びから止めに流れるテンポの取り方も考えられていました。途中携帯は実際に鳴らしてたのかな? あとまんじゅうを実際に食べていたところなど必要なリアルの追求は評価したい。

しかし、演者には申しわけないですが、塔子(茉莉の姉)に振れないわけにはいきません。ものすごく頑張って演じているのはよく分かるのですが、残念ながら一人浮いていました。茉莉たち子供に対する唯一の大人の役割なので非常に重要で、他の人物を演じることに比べても難しいのですが(だから他の人より下手ってわけではないのですよ)、台詞のトーンで大人っぽさを意識しすぎたために真に迫って来なかった。重みがでてなかった。

台詞を速く言わないよう注意して演じられていたんだけども、それでもやや速くだったことと、1行の台詞の中での強弱(と速さの変化)がついてなかったこと、リアクションができてなかったこと、相手の台詞を受けての発声でなく順番で台詞を言っていたことが災いして「台詞を読んでいる印象」が強くなってしまったことが原因に感じます。1行の台詞の中にも気持ちの変化や思考の変化が入っているので、そこがもう少し出せたらなあと惜しく感じました。

じゃあ他の4人ないし5人は完璧だったかというとそうでもなくて、にぎやかなリアルが追求されていてよく演じられていた反面で人物の演じ分け(性格付け)まではみえてこなかった。茉莉はシナリオの立場として違うものの、4人は仲良しの4人であって1人1人までは区別ができなかった。台詞の裏にある関係性まで出てきたらもっとよかった。細かいところでは、笑いや面白さを見せるやりとりはもうちょっとオーバーな演技でよかったと思います。

全体的に

劇全体として夏の1コマというシナリオですが「演出意図はなんですか?」と聞かれて、たぶん答えられないんじゃないでしょうか。

夏をテーマに茉莉を含め色々なことがごちゃごちゃと入った台本なので、これといって軸の通った筋立てはされていません。だからこそ、何を見せるかという意識を明確にもって演じないと「なんだったんだ?」という印象が強く残ってしまい薄っぺらく感じてしまいます。儚さ? 哀愁? 過ぎ去るもの? 何かあったのかなあ。

よく努力され、とても頑張って演じられていただけに、それがもったいないと感じました。

前橋市立前橋高校「夏芙蓉」

作:越智 優

あらすじ・概要

卒業式の日、深夜の教室。千鶴のもとへやってくる友人3人。何か言いたげで、それでも賑やかに4人で楽しむ千鶴たち。おかしを食べて談笑も盛り上がったところで、友人達が帰ろうとする。それを引き留めた千鶴は……。

高校演劇では非常に有名な台本です。

感想

左手に教壇、机がまばらに4つ。右手にも壁、そして黒板。教室をがんばって再現しているのだけど、致命的に机が足りない。演者に必要な机しか置かないという配慮は分かりますが、それに対する説得力が不足しています。最低でも10セットぐらい用意してらよかったのではないかと。加えて照明が明るすぎ。深夜の教室なのだから、もう少し明るさを控えて、教室以外の部分に照明が当てないようにすべきだったと思います。さらに言えば教室を舞台いっぱいに広げる必要も、教室全体を照明の中に収める必要もないわけで(全体感想も参考に)。

以前観た新潟高校の劇はもうおぼろげにしか覚えてませんが、それに比べるととてもよく出来ていたと思います。例えば、教室で友人達とちゃんと「にぎやか」にしているところなどは評価高いです。

台詞のかけあいはよく研究されていて、人物も服装を含めよく性格付けされ元気があってよかったのですが、笑いを狙ってところで台詞の間やアクション(体)をうまく使うともっと笑いが取れたと思います。台詞はとてもよく聞こえて、分かりやすいのだけども、これだけのレベルで演技できるならさらに上を目指してゆるみの演技もできたらいいかなと。力の入ってない台詞の発声。

そんな感じで、若干物足りなさはありましたが、ラストにかけての流れは見事でぐいぐいと引き込まれてしまいました。ラストシーンで「ちぃ、私たち一緒に卒業したよ」という台詞をいうシーンは特に秀逸だったと思います。それだけに、なぜそこで幕を降ろさないとずっこけてしまいました(笑)。客席でも拍手の準備してた人がいて、拍子抜けてしましたよ(苦笑)

全体的に

劇全体に対してうまく間を配分し1時間ぴったりに収めたのはうまい配慮だったと思います。

さらに上を目指すにはと考えるとやはり演出。この台本は、前半のシーンにおける「微妙なズレ(違和感)」を目立たさせずにそれでいて観客が認識できるように提示するという非常に難しいことを要求されます。その「ずれたパズルのピース」のような違和感を、劇全体のムードに反映することができていたかというと難しい。日常として観客に認識させながら、それでいてどこか非日常的な一コマと観客に認識させる必要があったのではないかと。

「幽霊である」ということをこれ以上前フリし過ぎるとあからさまになり過ぎてそれはそれで興ざめしてしまうので、それ以外のことで非日常性を表現することはできなかったのかな。それはちょっとした舞台装置かも知れないし、登場人物の格好や小道具に対する微妙な違和感かもしれないし、はたまた照明の処理かもしれない。具体的にどう改善するべきかは難しいのだけど、現状だとあまりにも日常過ぎた。

加えて全体の流れを通してのシーンの緩急をきちんと演出していたなら(個別のシーンの演出に目が行きがちですが、それと同じぐらい大切なことです)もっと良くなったのかも知れないなあと感じました。演出の仕事です。