麻布大学付属渕野辺高校「幕末ジャイアンツ」

脚本:四海大
潤色:佐藤 栄一(顧問)
演出:江花 明里
※優秀賞

あらすじと概要

幕末の坂本竜馬。米国人とベースボールで戦うために、大久保利通、新撰組3名、西郷隆盛などとベースボールチームを結成し、一生懸命勝負するのだけど。

主観的感想

誰しも知ってる幕末の有名人がずらりと勢揃いして、ベースボースをするドタバタコメディ。前々からよく見かける作品で気になっていましたが、初めて観ました。主役9人中8人男子が演じる非常に勢いのある劇で、大変面白かったと思います。

パンフレットによると「みどころは迫力と殺陣」だそうですが、その殺陣がなぁ……。動きにキレがないんですよ。動作の美とでもいいましょうか。キレというのは静と動、「動作前の停止」と「動作中の動き」と「動作後の停止」、この3つがあって初めて成り立つものなのです。この3つを明確に演じなきゃいけないのですが、出来ていません。そして刀は金属(鉄)ですからもっと重いんですよ、絶対軽そうに持ってはいけません。こう言っては悪いかも知れませんが、大勢の「勢い」で誤魔化しているという印象でした。

これは劇全体にも言えることで、9人がよく合わせてリアクションを取るというコメディの基本ができており笑いも起こっているのですが、勢いに重点を置きすぎるあまり「間」が手抜かりになっています。必要な「間」まで早い(必要な止めもない)。同じことで、大勢しゃべることで必要な台詞が聞き取れないこともあり、ここも誤魔化した印象を受けました。

ただそれだけ勢いに重点をおいただけあり、テンポの良い笑いと、個々人のキャラクター付けなどを使って(もう少し人物像をつくった方がいい役もありましたが)、面白く仕立てていました。野球シーンで横を向き合って処理しそうなところを、打ち手も投げ手も正面を向けて処理したのはよかったと思います。

ラストは、再び敵同士みたいな終わり方でしたが、もうちょっと哀愁が出てもよかったかなとも思います。尺の問題もあるのでしょうが(元台本は2時間らしいので)、最初の敵同士と最後の敵同士の対比を意識して描くとか少し配慮がほしかったなと感じました。

細かい点

  • BGMが若干余計かなーと思いました。シリアスシーンのピアノ。
  • 木製バットなのに打った音が金属バッドだったり、ラストの9回裏のいいシーンで打ったときのSEがなかったり、その辺の処理が若干いい加減に感じました。
  • 全体的に巻きという感じで、もう少し間を使って演技してほしかったかな。

審査員の講評

【担当】中澤武志 さん
  • 途中までメモを取らずに「うわぁー面白れーなー」と思って観てた。面白かったです。
  • 出てくる人物は、すべて歴史上の有名な人物で、各自が持っているその人物のイメージを壊しながら進んでいくのが面白かった。
  • 集団のエネルギーはすごかった。
  • 竜馬のしゃべりが早く、台詞の意味を理解する前に「うわぁー」ってクションで動いてしまいそのシーンが流れてしまっている。(全体的に)どういう状況で、誰に向かって、どういう心情で話しているのかが見えてこなかった。
  • 刀って相当重いので、刀を挿したまま走るときは腰を落とす。袴や帯に刀を挿すということもない。
  • 台本で、所々歴史的事実を使っているところが本当にいいのかなーと思った(編注:架空なら架空で進んだ方がどっち付かずにならず良かったのではないかということではないかと思う)。
  • ベースボールシーンで盛り上がっておわってしまってもよかったかな。
  • とりかくエネルギッシュで面白かった。

甲府昭和高校「靴下スケート」

脚本:中村 勉(顧問創作)
演出:山下 僚子、大場 祥子
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

ゴミ袋の山の部屋にやってきた家庭教師。ゴミの山と不真面目な生徒と家庭教師、その中で……。

主観的感想

ものすごい肩の力の抜ける、なんとも捕らえどころのないシュールな劇です。なんとも言えない妙な雰囲気で起こるバカバカしさ、ゴミの山のゴミで意味不明に遊ぶというそういう作りで、顧問の先生が出演者二人(演劇部員が二人なんだそうです)のために充て書きした台本とのこと。

間の使い方はとても良いんですが、メリハリがなぁーと感じました(メリハリのなさを狙ったものかも知れませんが……にしてもなぁ)。全体にもう少し声を出していい気はするし、ゆるむところはもっとゆるんでいいと思います。テンポがずーっと変わらないから飽きてくるんですよね。ノリの部分はもう少し乗って(一時的にテンション上げて)いいと思うし、抜け(ゆるみ、ボケ、オチ)の部分はもっと抜けた演技をしたらよかったんじゃないでしょうか。その方が、もっとバカバカしさが出たと思うんですが、あまり演技で笑いを取れているという印象はありませんでした(爆笑には至らないという感じで)。BGM選曲ではかなり受けてましたけど。

二人しかいない演劇部という追いつめられた状況で、シュールでバカバカしいという不思議な舞台作りに懸命に取り組んだ姿には好感を受けました。

細かい点

  • 最後のゴミを投げ合うシーンは、きちんと役者が楽しんで投げ合っていた。
  • (申し訳ないけど)台本の要請に演技力が付いていってないなという印象を受けました。
  • 劇とは関係ないけど、高校演劇でよく見かける「作 中村勉」ってこちらの顧問だったんですねぇ……。

審査員の講評

【担当】青木勇二 さん
  • 幕が上がり、部屋として大きいかなと思った。
  • 進につれ、広大な夢の島が見えてきた。
  • 何もメッセージ性がなく、現代を象徴している。観ている方が常にさめて観ることで、二人の孤独感を想像させた。
  • BGMも何気なくて好き。
  • ゴミ袋から役に立たないものが出てくる楽しさがあった。
  • ゴミを投げ合うラストはいつまでもこのままでという感じが出ていて良かった。

新島学園高校「桜井家の掟」

脚本:阿部 順
演出:演劇部
※優秀賞

あらすじと概要

4姉妹で暮らす家に次女蘭が彼氏を連れてくるという。一喜一憂する姉妹たち、訪れる彼氏の両親。実は姉妹たちには秘密があった。

主観的感想

関東大会参加校だけで一体何校が演じたのだろうか……というほど上演校の多い元全国上演台本です。パンフレット(別刷り)によると

この作品に取り組むにあたり、私たちはオリジナルの舞台(ビデオなど)を見ないことに決めました。

とあります。これは非常に陥りやすい劣化カーボンコピーを防ぐ大切な判断だったと思います。

さて内容ですが、前半の間が非常に悪い。県大会と比べるのは酷かも知れませんが、県大会よりも間が悪くなっています(間がなく台詞が続いてしまう、リアクションが早い)。役柄をあげるのは大変申し訳ない感じもしますが、長女夏実(なつみ)役が緊張していたのかまるっきり早口になっていました。初っぱな三女の杏(あんず)がダイエット中であるという下りの台詞を飛ばしてしまったらしく、この影響もあって杏に関するダイエットネタがすべて不発。このなかなか笑えない状況は、彼氏である光一の母の性格豹変ネタが出るまで続きました。長女役が責任というのではなく、お客の反応か思い通りいかず焦ってしまったのかどの役も県大会より間が悪かった印象です。肩の力が抜けておらず「ゆるみ」も出来てなかったと思います

笑いでお客を引き込めなかった最大の要因は「間の悪さ」なのですが、もう1つ、群馬ローカルネタ(地域名など)をそのまま県大会同様「笑いのネタ」として使ってしまったことにも原因があると思います。群馬の地域ネタでは笑いは起きないという覚悟が役者やスタッフたちにあらかじめあれば、もう少し違っていたかもしれません。

一方で、エンディングにかけての見せ方は県大会より良くなっていました。光一は台所にいるのではなく外に出かけていましたし、その変更も投げやりな書き換えではなくきちんとフォローを入れて行っていました。県大会であっかどうか忘れてしまいましたが、光一からもらったセーターを蘭が着ていたりとか(ただあっさり流しすぎな気もしましたが)。全体的に「家族劇(姉妹劇)」ということが、県大会よりもしっかり浮き彫りになっていたと思います。

前半の間の悪さが返す返すも悔やまれる、非常に惜しい演劇でした。いやもちろん、楽しかったんですけどね。

細かい点

  • 最初の自転車で買い物おばさんというギャクシーンで、夏実と杏がリアクション(別に台詞に限らず)しないのが勿体なかった。
  • 階段で叫ぶとき真横を向いて叫んでいた。建物の構造上、斜め上を向くシーンだと思います。
  • 携帯の音をリアルにならしていた(裏かな?)のは良かった。
  • スロー暗転がやっぱり意味がわからない。
  • 装置は県のときと変わらずよく出来ているんですが、暗転時多量の蛍光テープが客席でもはっきり見えてしまい非常に気になりました。
  • (光一の)父の電話シーンで、その電話の内容を英語(でたらめ英語ですが)にしたのは失敗です(県では英語じゃなかったと思う)。あの早さで喋った場合、何を言ってるのか客の理解が追いついていきません。同じく電話中に父は舞台袖に消えてしまうのですが、部屋の構造的にどこいったんだ? と疑問に感じてしまいます。別の処理を考えてほしかったところ。
  • 光一の母が、外で暴走グループをやっつけて戻りおしとやかに挨拶するシーンで、光一母はもっともっとおしとやかに挨拶するとより面白かったと思います。
  • 光一の父の携帯を窓の外に捨てるシーンで、投げ捨てるというよりは「そっと放っていた」いたのできちんと投げつけてほしいと思います。本物で投げる訳に行かない場合は、こっそりモック(店頭用の偽物)に入れ替えるとか。モックは(秋葉原やリサイクルショップなどで)比較的簡単に手に入ります。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • BGMの音量が全体的に大きかったと思う。
  • 役者の個性が大変生きていた芝居で、これは台本の力でもあった。
  • 台詞が頭から尻つぼみになっていたのが気になった。感情というのは語尾にでるので気を付けてほしい。
  • ところどころデフォルメされていて笑えました。
  • 心のやりとりから妹が姉を助けに行くしシーンや、(光一の)母が父を叩くとき普段は我慢している母が叩いた後でどんな気持ちに変わったのかとか、そういう心の部分が出るとよかった。
  • 恋をしていく姉(蘭)の姿は、もっと乙女になって良かったんじゃないか。恋によって変わっていく様子かもっと出てよかったんじゃないか。
  • 窓の外にホリが引いてあったけども本当に必要だったのか。大黒幕でもよかったんじゃないかと思う。
  • チームワークがよく楽しく観させて頂きました。

三条東高校「例えばジャニスのソウルフルナンバー」

脚本:大島 昭彦
演出:藤石 愛巳
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

夢の世界と現実の世界と。夢の世界にいるもう一人の僕。そんな抽象的なイメージの中で現実と夢を行き来しながら描かれるものは。

主観的感想

非常に難しい抽象劇です。夢の中の僕と現実の僕。現実のフラストレーションが夢に昇華され、夢での出来事がまた現実に跳ね返る。主人公(高校生?)の日々の思いのかけらを拾い上げ描いていく作品なんだと思います。夢の中で工事現場監督かと思えば、学校の先生だったり、クラスメイトの(武者小路)祐子と親しくなったと思ったら夢だったり……。

優秀賞(フェスティバル)とのことですが、残念ながらとてもそうは感じられませんでした。全体に早口であり、間が悪く、テンポが一定でメリハリがない。リアクション(動作)もメリハリがない。そういう演技の基本や細かい嘘をきちんと積み上げてこそ、夢とも現実ともおぼつかない独特の空間にリアリティ(というと変ですが説得力とでもいいましょうか)が生まれるのですが、そこがないがしろにされ、劇空間としての成立が失敗したのではないかと思います。

台本を解釈なく(または解釈不足で)演じたという印象が非常に強く、台詞が役者を置いてきぼりにして一人歩きし、テーマを描ききれなかったという印象がぬぐえません。真に迫らないんですよね。主人公の「僕」が最初と最後で変わったんだということを、僕の内面として魅せてほしかったと思います。

細かい点

  • 演技力にかなりの疑問を感じます。間などはそうなのてすが、「うわぁ…、なんで武者小路さんがここにいるわけ」「花火大会の日に街の巡回なんてつまわらいわね」など、説明台詞をやや棒読みした感じがあり、台詞を書き換えたり内面から言葉を発するという努力が不足した印象があります。気持ちで演じてください。その言葉はどういう心の動きから出でいるのか考えることを、もっともっと大切にしてください(詳しくは資料室を参照してください)。
  • 主人公僕と祐子が会話しているシーンを、他のクラスメイトが覗き見するというシーンがあるのですが、主人公と祐子が親しく会話しているという感じにはどうにも見えません。ほとんど動きなく向き合って楽しい会話なんて現実にはあまりありません(向き合うというのは、基本として敵対の関係です)。親しく話すということをなんとなくで演じてませんか? 自分が親しく談笑するときどんな感じですか? あのシーンで実際に心の中で言葉を交わしてみましたか? 言葉を交わしてみてから、その言葉を(舞台上で)省略するというプロセスを取りましたか?
  • 最後の方で主人公僕と祐子のキスシーンがあるんですが、まるきり嘘です。キスに至るということは、本当に好きになった結果でなければならないのです。役作りというのは、役の中で相手を好きになることから始まります。ドラマで共演した男女が現実でも恋愛してしまうのは、ドラマの中で本当に好きになる(という役作りをする)ので、それが現実に影響して恋愛してしまうのです。役をきちんと作るということは、こういう内面を作ることを意味します。厳しいかも知れませんが、少なくとも舞台の上に居るときは本当に好きにならなければいけないのですよ。
  • 工事現場のSEが舞台にマッチしておらず説明的でうるさい印象を受けました。電車のSEもしつこかったように思います。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • ソウルメイキング(河合隼雄の言葉)ドラマだったと思う。魂にまつわる物語を現代人は失っているというが、まさに神話(個人の神話?)についての話(編注:記憶曖昧)。
  • ひとつひとつの言葉を味わうということをよくやっていたと思う。
  • 本音と建て前、現実と非現実をうまく演じ分けていた。
  • ジャニスジャップリンの歌が途中で終わってしまって、もっと聞いていたかった。
  • 舞台装置は左右のバランスを考えて使うともっとよかったと思う。やや右に寄っていた。

作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。