太田東高校「君とともに。」

脚本:大貫 未来(生徒創作)
演出:太田東高校演劇部

※創作脚本賞

あらすじ

舞台は、ある高校のミステリー研究部。その部は、生徒会長の手により潰されようと していた。苦肉の策として、部長はコックリさんを呼び出す儀式をする。

【以下ネタバレ】

現れたのは神の遣いと称すオキツネサマ(?)の朔(サク/女)。 3つの願いを叶えてくれるというサクに、 下らない願いを2つ願い残り一つになってしまう。 部の存続を……というところで下校時間。また明日ということになる。 呼び出した人と一緒にいる必要があるサクは、部員の秋良(アキラ)と共に帰る。 秋良はサクに名前を訊ねていて、 帰り道サクは「この人なら違うかも知れない」と呟く。

翌日、サクに部の存続を願おうとした時、生徒会長がオキツネの浅葱(アサギ/サクの妹) を連れ現れる。その目的は、人間を脅してサクを普通のオキツネにするよう願ってもら うために(神の遣いのために自由が無いという設定)。でも、そんなアサギの気持ちを 秋良は受け入れて……。

主観的感想

【脚本について】

部活の存続という設定はよく見られるものですが、 そこにオカルト的要素で異界の者を呼んでしまうという発想は中々。 そこにおける、異端なオキツネとの人間の心の交流物語。 これもまたベタですが、悪くないです(個人的にはかなり好みです)。

一つ挙げるとすれば、 サクと秋良の下校時にサクがボソっと「この人なら……」と言う場面の台詞が長い。 必要な前フリであることは理解しますが、 『独白』というのは脚本において最終手段である訳ですから、 劇の流れの中にその「気持ち」を入れるプロセスを取って欲しかったと感じます。 上演時間は8分程余っていた訳ですから。サクの背景をもう少し描いて良かったかな。

ラストシーン。ここは言わば「人間」と「人外の異質なもの」の 邂逅(カタルシス)となるシーンなのですが、これが実は前フリがない。 唐突に最後にテーマを少しだけすり替えられた感じがしました。 この原因は、呼び出されたオキツネが余りに普通な存在として、 登場人物全員に受け入れられたことが問題と感じます。 フリとして、多少異質さを出しておくことかも知れません。 それとラストシーン後のエピローグがあるのですが、 サクのその後に間接的に匂わす程度でいいから触れてほしいかな……と。

とはいえ、話はかなり好きですし、よくやりがちな下手な台詞回しもないし、構成 (フリ/伏線)も考えられていて良く出来た面白い本だと思います。

【脚本以外について】

かなり面白かった。 きちんと笑いを取り、それでいてテーマをきちんと描いている。 登場人物の性格がきちんと付いていたこともあり、 うまくお客を引き込んだ要素だと感じました。

気になったのは、途中ドタバタをするシーンがあるのですが、 ドタバタの1コマと1コマの間に少しだけ時間が開いたこと。 ほんのちょっとなんだけど、勿体ない。 全体的にテンションが高めで押し通すのですが、 この状態で少しだけ『間』や『止め』、 会話トーンの変化というものを付ければなぁ、と惜しく感じました。

問題にしたいのは音楽の使い方。 FF(ファイナルファンタジー)のBGMを2曲程(?)使用するのですが、 曲とゲーム(FF)のイメージが強すぎるために、 (個人的に)見ていて少し違和感がありました。 BGMが大きすぎる場面もありました。 特に、ラストシーンのシリアスシーンでしんみりした曲を流すのですが、 音楽で演出というよりも、音楽鳴らして押し切ってしまえ!  という感じすらしました。 BGMなんかに頼らず劇の迫力で押し切って欲しかった……。

特筆すべきは、あまり出番はありませんでしたがアサギ役のキャスト。 感情の表し方、台詞の強弱など、演技が際立って上手かったように感じました。

えっと、(好みで言えば)今大会マイベスト作品です。面白かった!

【会場の様子】

この日の中では、一番笑いが取れていた様子でした。 これはただ単にお客が温まってきただけと切り捨てることも出来ます。 ですが、上演後「一番面白かった」という声が聞こえたことを ここに記して置きたいです。

審査員の講評

【中】
  • 全体的に(話の)構成がよく出来ていました。きちんとまとまっていて楽しく観られた。
  • 高校生がよく使う部活という設定に、オキキツネサマという尋常でないものが 入ってくるあたり、よく構成されいてる。
  • 舞台が教室なのか部室なのかよく分からなかった。
  • 途中「名前を訊いただけ」という台詞もあるが、 その通りサクと秋良(あきら)にどこで友情が芽生えたのかよく分からなかった。
  • サクと浅葱があまりオキツネっぽくない。 また二人をペアの衣装にするとか、いっそ白塗りにするなど工夫がほしかった。
【掘】
  • 楽しくみることができた。さわやかだった。
  • 無理をしていない自然な演技で、こちらも楽に観られた。
  • 他校にも言えることだが、 部屋を作る場合に注意してほしいことがある。 6尺のパネルを7ヶほど並べて部屋としていたが、 最低でも1尺5寸は高さを足すこと、そうしなければ部屋には見えない。 6尺止まりで部屋をつくっていけない(ブロック大会以上では、 そのような6尺パネルの部屋はまず見られない)。 そして部屋を斜めにしてしまって、窓や入り口をつけ実際に出入りしてほしい。
  • 部屋の広さも、中割を引いて明かりを切るなどして狭める必要がある。 そうでないと異様にでかく映ってしまう。 「舞台に劇を合わせるのではなく、舞台を劇に合わせる」ことを心がけてほしい。
【原】
  • 女性が強くて、男は笑わせ役になっていた。
  • 女を生かすために、男の子が捨て石になっていたわけで、 その辺よく感謝しましょう(笑)