高崎女子高校「ラストメッセージ」

  • 作:山下 真尋(生徒創作)
  • 演出:尾池えみり

あらすじ・概要

不思議な招待状で集められた4人。そこは人間界と天界の狭間の世界だった。

台本の感想

登場人物のうち3人の問題を解決していくというストーリーになっています。

基本的に独白ベースで、それぞれ1つだけでも60分以上かかりそうな問題だらけで、ちょっと違和感を覚えました。この問題は「創作脚本を書かれる方へ」に書かれているので省略しましすが、3人分も描かなくても、学(マナ)のことだけで良かったんじゃないかな? そうしたとしても個人の抱えてる問題を、エピソードの積み重ねではなく、その場の対話だけで解決しようとすると説得力を持たせるのは大変かもしれません。

あと細かいことなのですが、白衣を着た研究者くるみの「この人の専門はなんなんだろう」という疑問が残りました。研究者って、狭い専門分野のことは詳しいけども専門分野以外のことは大して詳しくはないのです。専門分野=興味を持つ対象はとても限られています。くるみの発言を聞いていると、その特定の「専門分野」が見えて来ず、何に対して学術的な興味を持っているのかもよく分からず、科学的なこと全般に詳しい人みたいになっていました。*1

とはいえ、生徒創作で県大会に上がられたことは素直に評価したいです。60分を一幕で処理しているのも良いですね。不自然な破綻もなく、よく出来ていると思います。

*1 : さらに言えば遺伝研究は、今時単純な交配(優秀な遺伝子と優秀な遺伝子を組み合わせる)などより、遺伝子組み換えや直接的な遺伝子操作のほうが説得力がありますし、何のテストもしないで他人の遺伝子を「優秀」と判断することもあり得ません。

感想

この世とあの世の狭間の世界に迷い込んだ4人の物語。いくつかの抽象的なカラーブロックと、ソファー、ホワイトボード、椅子、ダルマ、ぬいぐるみなどが置かれた舞台。講評で指摘がありましたが、たしかにカラーブロックだけの抽象的な舞台のほうがこのお話には合っていたように思います。おそらく「現実とあの世の間」ということで両方の物を置いたのだと思うのですが、「現実とあの世の間」という設定自体がそもそも非現実の世界なので、現実的な要素を排してもよかったのかもしれません。

天使なのかな、進行役のアナンとバルは白い服を着ています。他4人との対比で分かりやすいです。

気になったのは、見知らぬ世界でミッションを解くという妙な状況に陥ったのに、4人が案外すんなり受け入れてることです。もっと戸惑ったりするよね? 良かったのはニュース音声。高校演劇だと嘘っぽいものが非常に多いのですが、文面も喋り方もリアリティがあって良かったと思います。でも、ラストシーンのニュース音声は余計だった気も。なくても分かるよね……。

喋り方とかよく気をつけて演出されていたと思いますが、演技が型だったのがもったいなかったと思います。

  • 「おどろく」という演技
  • 「悲しむ」という演技
  • 「手を広げて遮る」という演技
  • 「物を探す」という演技
  • 「手を合わせてごめん」という演技
  • 聞きたくないと「耳をふさぐ」演技

全部が悪いというわけではないのですが、「それらしい演技」をしているシーンがとても多くて嘘っぽさを感じてしまいました。棒立ちよりは型であっても体を使う方が良いのですが、リアルではないんですよね。気持ちを作らないで演じてしまったんじゃないかな?

色々言ってしまいましたが、素直に60分楽しんで見れましたし、全体的に丁寧に作られていたと思います。上演おつかれさまでした。

前橋南高校「南流 新陰流怨 ~分裂~」

  • 作:吉田 藍(既成扱い/元顧問による創作)

あらすじ・概要

高校分裂をかけて戦う、剣道部男子vs女子の決戦。それに向けた、練習の様子。

感想

新陰流怨と書いて「シンカゲリオン」だそうです。どういう舞台かを説明する前にキャスト表を貼っておきます。

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話の筋としては、男女を別々の学校に吸収合併させることの是非をかけ、剣道部男子と女子で戦うというものですが、実際にはそんなことはどうでもよくてエヴァンゲリオンの同人誌ならぬ同人劇です(笑)

登場人物の名前を見ればわかると思うのですが、そのままエヴァのキャラを借りてきて、アスカなど多くのキャラは見た目や髪型も似せて、更に1人はエヴァの女子制服を着ています。台詞もエヴァ劇中からパクってきた台詞の応酬。エヴァ暴走をパクったエピソードも起こります。BGMもエヴァのものを使っています。同人誌と表現するのが一番しっくり来ます。

しかし、これを舞台として見せられますと、辛い。高校演劇の舞台で、同人誌を朗読されたら居たたまれないですが、劇なので朗読以上に居たたまれない(苦笑)

完全にネタ上演だし、ネタとして全力投球しているので、もう何を言うのも野暮というものですが、それでも書くとすれば以下の点です。

  • エヴァの知識がない人にはおそらく意味不明。
  • 構成を考えるにエヴァのネタ要素をすべて引いても十分成り立ったのでは?
  • 同人劇として完成度を高めるなら、全編ただのネタですよと分かる演出をしてもよかったのでは?*1
  • そもそも今時の高校生にエヴァ*2なんて通じるの?

剣道部員が居るのか、剣道部に修行に行ったのか分かりませんが、剣道シーンが素人目にはかなり説得力がある演技になっていました。経験者からはツッコミどころもあるのかも知れませんが、動きや見せ方がよく出来ていたと思います。

脚本書いた先生の趣味なのか、生徒側からの要望による脚本なのか、ひたすらそれだけが気になる上演でした。よくこれだけネタに全力投球できたなと称賛します。そのエネルギーはすごい。上演おつかれさまでした!

*1 : ギャップを狙ったのかもしれませんが、普通の演劇として演出されているので、せいぜい失笑ぐらいしかできないのは困りものでした……。

*2 : しかもネタの多くがTV版

高崎商科大学附属高校「ニューカマー」

  • 作:荻野 葵平(生徒創作)
  • 潤色:商大附高演劇部
  • 演出:五十嵐 千華
  • 創作脚本賞

あらすじ・概要

おかまバー「レインボー」を訪れるOL二人。クリスマスの夜、不幸せな人たちに訪れた、ちょっぴり幸せな物語。

台本の感想

基本的に一幕で進行する劇です。とても面白かった。

よく出来てるんですよね。言葉の掛け合いとか、台詞回しとか、よくありがちな失敗がなく、自然な会話の中からストーリーを無理なく説明していきます。そもそも、おかまバーという設定が面白い。途中漫才のシーンとか、この辺も上手いです。演じてる人も上手いのですが、台本の時点でちゃんと面白く掛け合いや笑いが作られているというのは相当なことです。

かなり完成度も高いと思います。

感想

十分な高さの(8尺程度)のパネルで囲まれたバー。赤レンガ風に塗ってあり、下手に出入り口、中央にバーカウンター、上手にステージが置かれています。最初のBGMを含めムードがとてもよく、入り口を開けると奥にバーの電飾看板が見えるのもにくい演出です。美品やコート掛け、酒瓶など、抜かりがありません。

主役であるバーのトシちゃん。おかま演技なんだけども、実際にこういう人「居そうだな」と感じさせます*1。リアクションがだいたいちゃんと出来ていて、台詞の掛け合いもリアリティがあります。間の使い方がとても上手いんですよね。特にギャグシーンや漫才シーンでは間の使い方が際立っていました。いい演出です。

気になった点。

  • クリスマスなのに、お客さんがほとんど居ない。
  • クリスマスなのに、店内装飾にクリスマス色がない。
  • ステージがあるほどの広さなのに、お客さんがほとんど居ない。
  • ステージに何人も芸人が出て来るのに、お客さんがほとんど居ない。*2
  • トランプマジックで使った巨大トランプは、客席から見やすいように「A」とか「2」とか小さめの数字にしたほうが良い。
  • お菓子を出すシーンで、実際にお皿にお菓子を乗せていたのはとても良かったのですが、袋ごと乗っていたのは気になりました。普通は開封して白い紙の上に並べたりします。

バーのステージの使い方なのですが、配置の都合上、舞台上手に置くのまでは分かります。でも、客席の方を向いて演じるシーンと、舞台下手(バーの中心)を向いて演じるシーンが両方あるので疑問に感じました。このステージの正面はどっちの設定なんですか? 歌のシーンで、置いてあったスピーカーを使ったのかその場から音が聞こえる演出はとても良かったのですが、唯一そのシーンて下手を向いていて正面の設定が分からなくなりました。どちらかに統一したほうが良いと思います。

全体的に、非常によく演出されていて、どのシーンでも客席がどう受け取るかよく考えられており、そして相当念入りに練習されています。それでいながら、やりたいことをやりきった感があり、見ていてずっとワクワクしていました。面白かったし、演技・演出面からも入賞すると思ってました。サクライの使い方とか面白すぎるでしょ(笑)

装置を見るだけで引き込まれる完成度の高さと、細かい部分まで配慮された演出。それでいて入選しなかった理由を考えると難しいですね。講評で指摘があった人間ドラマの不足、最後のしんみり感の不足は、しいて言えば台本の問題であって、それを舞台評価に含めるのは違うような気がします。

構成の選択肢として、ステージの登場人物を減らして、その分を恋愛模様・恋模様に振るという手はたしかにあります。お客より、ステージ演者が何倍も多いという問題も解決できるでしょうし、登場人物の背景を描き出すこともできると思います。バーのマスターやサエコの背景をより描く選択肢はあったでしょう。でもそれ、好みの問題だと思うのですよね。ギャグに振り切った舞台もありだと思うし、純粋に観客を楽しませるという行為も、もっと評価されるべきだと思います。*3

とても笑わせて頂きました。上演おつかれさまでした。

*1 : 行ったことあるわけではないので分からないけども

*2 : どう考えてもお店が赤字になってしまう。

*3 : ただし、その場合は、もっともっと覚悟を持ってギャグに振り切ることは必要だったかもしれません。

新島学園高校「ハニーはどこへ行った」

  • 作:大嶋 昭彦(顧問創作)
  • 演出:三ヶ尻 怜司

あらすじ・概要

謎の穴掘りバイトをしていた男2名。穴からハニワが出てきた。そして時代は遡り、古墳時代と思しき時代へ……。

感想

上手に4段の階段状の段差(低め)、下手奥にちょっとした高さの台という例年の新島よりはシンプルな舞台装置。そして台本も、古墳時代と現代で、勾玉をキーにした男女の縁と、それぞれの時代のうねり。例年の現代劇(人情もの)とは違う雰囲気でした。台本のツッコミどころとか挙げてもいいのですが、それよりも踊ってみたり、ほどほどに緩かったりと、楽しんで演じてるように感じられました。

気になった点。

  • 妙にリアルな車とか電車のSEに、とても唐突感がある。説明的なSEを流さなくても時制(現代)を説明する方法はいくらでもあるし、そもそも時制を説明する必要すらないと思う。
  • 最後のSEが講評によると戦闘機の音とのことで、これから戦争とか起こるという比喩だと思われるけども、普通に聞いてるとただの飛行機やジェット機の音で何のことか分からない。
  • ご当地アイドルの格好が制服に3色のチョッキというシンプルそのもので、もう少しそれっぽいものを用意してほしかった。

一番印象に残っているのは「ハニワのダンス」です。あのBGMが耳に残ってしょうがない(苦笑)

全体的に台本の構成に無理があると思うのですが、それを無理やり解決しようとして台詞が多い。台詞が多いので時間が足りない。時間が足りないので、みんな早口。発声がしっかりしているので、ちゃんと聞き取れるのですが、古墳時代設定では言い回しが難しいので理解がワンテンポ遅れる。ワンテンポ遅れるので話についていくのが精一杯になってしまう。

加えて、演技も(時間的余裕がないのか)型になっているものが多い。リアクションもあまりできていない。

古墳時代のシーンはいくらでも削れるシーンがあったので10分ぐらい削ってしまうか、そもそも現代のシーンはまるごと削ってしまって、その分余裕を持って演出すれば、ぜんぜん印象が違ったのではないかと思いました。

がんばって演じていたし、よく作り込んでいたと思うのですが、ちょっと時間が足りなかったかな。上演おつかれさまでした。

伊勢崎清明高校「ミュージカルとかもやっていきたい」

  • 作:清明演劇部+原澤 毅一(既成)
  • 演出:高江洲 波江

あらすじ・概要

漫才、ミュージカル(昼ドラ風サスペンス?)、教室シーンを織り交ぜながら進む舞台。この上演はいったいなんなんだろうか……。

感想

中割幕をかなり引いて、舞台中央奥が出入り口になっています。その手前に学校で使う椅子が2脚あり、左右に置かれて制服の生徒が2名居ます。この2名は教室シーンでのみ居なくなります。

話の概要としては、教室シーンが現実で、漫才、ミュージカルシーンは演劇部での練習上演という設定で、それが明かされるのは上演の最後になっています。「部員不足で存続の危機なので、ミュージカルとか漫才とかもやって1年生を入れたい」という真相が明らかになります。

漫才ですが、発声が悪く、たぶん複式呼吸できてないんじゃないかな(特に下手の人)。聞き取りにいから面白さが伝わらない。そもそも漫才って、演劇以上に「間」の扱いが難しいのにそれ全然できてない。一方ミュージカルは、ミュージカルもどきの医者と奥さんの不倫というふざけた設定で面白かったです。あのくだらない演出大好き。……ただ運動靴なんですよね。「違和感の演出」なら衣装着てるのはおかしいし、室内シーン(2回目)でのみ靴を脱いでいるのもおかしいよね。というか漫才だって、オチ考えるとちゃんとした衣装を着なくてよかったんじゃないかな。

台本のリアリティを考えたら演劇部が片手間でやってる漫才もミュージカルも下手でもようそうですが、舞台として成立させることを考えたら完璧なまでに上手い方が面白いと思います。


教室シーンで「文系大学より理系重視の国の政策で文系はピンチ」とか、「演劇部、上手なんだけど話が時代劇って感じで何やってるかよくわからない」とか、「だから今年から古典みたいのじゃなくてもっとウケる奴に変えていく」といった内容の台詞が出てくるのですが、時代劇って去年の上演ことですよね。ここに書かれた危機感って多分実際に感じてるもので、その視点は台本を書いた原澤先生の立場ですよね。生徒の視点じゃないてすよね。

「演劇部ちょっと危機っぽいしー、時代劇とか、昔やってた能とかよくわからないって言われるしー、ここはいっちょ『まんざい』とか『みゅーじかる』とか、みんなが好きそうな事をやってみたらいいんじゃないのかなー」

内容がふざけてる以前にスタンスがふざけてる。タイトルもふざけてる。もう「全力でふざける」。別に「ふざけてる」からダメじゃないですよ。全力でふざけるのも演劇の自由な表現のひとつで、とても面白いと思います。ただ「漫才もミュージカルもふざけてるだけですよ」(ただし真剣に)ってこと、ちゃんと観客に伝わっていましたか? 講評で「漫才の服装」を指摘されてることから考えても、多分全く伝わってなかったんじゃないかと思います。

この上演の問題は、そういう劇であるということを「去年の伊勢崎清明の作品や、更に言えば以前に原澤先生が顧問として関わった上演を知らないと理解できない」というところにあるのです。つまり、本作品は内輪ネタです。内輪ネタを、観ている大半が事情も知らないコンクールの舞台でやったのです。みなさんはそのことを理解しているのでしょうか。


とはいえ完成度は高いし、観ていて面白いし、ミュージカルというネタはバカバカしくて笑ったし、教室などシリアスシーンは引き込んでいくし、さすがでした。上演おつかれさまでした。