松本県ケ丘高校「遠藤周作「深い河」より」

  • 原作:遠藤周作
  • 脚色:日下部英司(顧問創作)

妻の余命宣告を受ける男。妻の死後から3年、妻の生まれ変わりを求めて男はインドへと旅立った。

良かった点

  • 照明を効果的に使い、抽象的でダークな舞台をきちんと作り上げていた。
  • 開幕の動作を合わせるシーンの動きが見事にそろっていた。
  • 小道具としての椅子が効果的に使われていた。
  • おじいさんや病気の妻など、動作による演技がとても良かった。

気になった点

  • 抽象劇ということを差し置いても、病院の個室の出入り口がバラバラなのは気になる。例え抽象的だとしても、病室であるその瞬間はリアルであるわけで、(銀杏の木以外は)きちんと1つの出入り口から出入りすべきでは。
  • 場面転換は一瞬だとしても照明を落としても(多少暗くしても)よかったのではないでしょうか。

いろいろ

この手の劇は苦手なのですが、それでも率直な感想を述べたいと思います。

序盤と河に入るシーンで、「動きを合わせる演出」の動きを合わせる意図がよくわかりません。動きを合わせることを見せたかったのはわかりますが、それでも何がしたいんだろうという疑問が残ってしまいました。

そして不条理劇としての男のむなしさが際立って表現されていたのかなと考えると、やや疑問が残ります。意味ありげな元ボランティアの女性の背景を中途半端に描いていたのですが、それ必要だったのでしょうか。主軸がぶれてしまった印象もあるので、もう少し男のフォーカスしても良かったのではないだろうか……とか色々考えましたが、まあ難しいですね。

基礎演技力が高く、演出も終始安定していて、安心して楽しめました。

twitter等でみかけた感想へのリンク

松本美須々ケ丘高校「カラマーゾフの兄弟」

  • 原作:ドストエフスキー
  • 脚色:郷原玲(顧問創作)
  • 演出:櫻井美希
  • 録画映像による上演
  • 優秀賞

カラマーゾフの血を引く兄弟たちの織り成す物語。

良かった点

  • 抽象的な舞台と照明を的確に使って、独特の暗いムードと雰囲気をよく表現していた。
  • 全体的に声の演技がうまく、ドミートリーと、端役?か何か(あまり喋らかった女子)の声質も良かったと思う。

気になった点

  • 全体的に「叫ぶ」演技がとても多く、せっかく演じる能力が高いのに叫ぶことで演技の幅を狭めていました。叫ぶ以外の方法もあったのではないでしょうか。
  • 「ゾシマの復活」というシーンが2度ほど登場するものの、現在の構成では意味するところが全く分からない。

いろいろ

原作をバッサリ削って翻案したのだと思いますが「ゾシマの復活」という部分を残す必要があったのか疑問です。最後が、兄弟の話として終わる現構成なら、もっとこの部分にフォーカスすれば深みを出せたのではないでしょうか。原作が魅力的でその部分を一生懸命なぞっているんだろうなという以上の感想を(想像される台本からは)感じられないのです。

多分、原作を知ってる人(例えば審査員になるような人)には大ウケなのでしょうが、普通の観客には(そしておそらく会場にいた多くの生徒にとっては)よく分からんことになっていました。別に大衆向けこそが正義と言う気はありませんが、少なくとも原作の魅力が伝わる程度には翻案してほしいと感じます。

とはいえ、台本の問題を別とすれば、かなり良く作りこまれており、演技も安定し、声も聞き取りやすい。素敵な上演でした。

twitter等でみかけた感想へのリンク

長野西高校「めぐるめぐる梶の葉たち」

原案:宮端 優子
脚本:演劇部(生徒創作)
演出:大谷 万悠

あらすじと概要

戦時中の高校で女子3人の青春を描く。

主観的感想

学校の昔の文集(でみつけたいい話)を元とした、戦時中の劇です。舞台写真は高校のページ参照

パンフレット等によると昭和20年の設定とのことですが、それにしては元気で陽気すぎたように思います。お話としては、戦争へ将校への千人針と学校が軍人たちに使われてしまうことに対する「綺麗に使ってください」という女子たちの必死の嘆願という2本柱になっています。

舞台装置ですが、斜めに置かれた6面体の手前2面と上1面をハズした形の空間を教室と見立ています(上記写真参照)。舞台では、役者たちが袖ではなく装置の裏に引っ込みます。この意味が全く分かりませんでした。装置の近くまで内幕を引いてしまい、袖に引っ込めばよかったと思います。そのせいで袖から装置裏手まで移動する人物が見えるなど無理が生じていました。

戦時中という設定にしては、床が綺麗すぎ、ほうきも上履きも、まして制服も何もかも綺麗すぎました。役者の切迫感、装置、ストーリーの中の「弁当」の中身、どれ1つとっても戦中ということを台詞の文章以外で説明できなかった、演出できなかったことが最大の問題でしょう。そのため、戦時下のしかも終戦間際の切迫したムードというものがどこからも感じ取れず、この演劇をリアルに見せることに失敗しました。もっと必死に戦中のことを調べないとダメです。また、ラストシーンで現代の演劇部部室へ戻り、この物語の成り立ちに関する話を述べるのですが、この部分ははっきり言って蛇足という印象を受けました。

あくまで印象ですが、いっそ、現代の「私たち」が戦中にワープしてその視点を通して戦中を描くぐらいの方が話として伝わりやすかったのではないでしょうか。いいエピソードの文集をみつけて、それを翻訳し必死に伝えようとした気持ちはとてもよく分かりますし、その努力も大変だったと思うのですが、では実際それがどの程度伝わったのかというと「ああいいお話を見つけたんだね」以上の感想を持つには難しいかと思います。

細かい点

  • この高校も演技のテンポが一定で、メリハリがなく、間もイマイチな印象を受けました。資料室を参考にしてください。
  • 登場人物も顔をメイクしていたように感じます。メイクで血色悪く見せるなら分かるんですが綺麗にしていたのでは、メイクするほど余裕があったの? 戦中なのにそんなに血色がよいの? と感じました。

審査員の講評

【担当】勝島 譲吉 さん
  • 学校史をドラマを作るというのはよくあるのだけど、自分たちのドラマにしようという熱気は伝わってきた。
  • 現代の部分をふくらますことでもっと良くなったのではないか。
  • 声がよく出ていて、姿勢も良かった。
  • 話の筋として、校舎の存続と千人針があったんだけど、最終的には「校舎の存続」に傾いて、千人針の方がおざなりになってしまった。
  • 校舎を綺麗に使ってくださいとお願いにいくとき、千人針を握りしめていてもよかったのでは。
  • セットに窓があるんだけど、夕陽が映り混んでいるとき先生が歩いてきて、窓の向こうが廊下なのか外なのか分からなくなった。
  • 建物のセットが周りの明るさで浮いてしまった感じがする。建物だけを中心とした照明でも良かったのでは。