秩父農工科学高校「群白残党伝」

明治維新後に起きた秩父事件から2年。秩父事件の残党がある山小屋に集まっていた。今度は武力闘争ではなく直訴を目指すというが……。

良かった点

  • 小屋を表現した装置と照明による「舞台」の構成が巧み。
  • 演技力が高い。
  • 笑いと狙うところではきちんと笑いをとれている。
  • キーとなる、竹次郎と女の子(役名忘れた)の関係性がきちんと構築されている。

気になった点

  • 全体の演技力が高いだけに、苗吉の声がよく聞き取れないのが非常に惜しい。
    • 大人っぽい声を作ろうとして聞き取りにくくなっている感じがするので、聞き取れないぐらいなら無理に声を作らなくてもよかったのでは
  • もっと笑わせて観客を引き付けることもできたのではないか。

いろいろ

埼玉では有名な秩農ですが、10年ぶりの観劇でした。笑いに対するすさまじい執着というイメージだったのですが、今回は高校演劇寄りの(高校演劇でウケそうな)題材でした。*1

とてもよく作りこみされていて、そして結末はどこに向かうのかと思ったら、最初の語り手に戻し、しかも制服を着ている違和感をだして無事着地というあたりはさすがといった印象です。

でも、なんというか、完成度が高いだけに「もっとできたのではないか」という欲もあります。よく知らない「秩父事件」を説明されて、直訴とか言われても「直訴ねー、ふーん」という感想を持ちます。これからどうなるのというワクワクではなく、「直訴してどうなるの?」冷めた感情がありました。これ、多分、前半で「これから出てくるコレコレは美味しいですよ!」って観客に提示しきれてないせいだと思います。最後のオチがどれだけうまくても、そのオチに興味を持たせられなかったら(演出としては)失敗だと思うんですよね。

もしくは、もっと笑いに振ってしまうとかもあるのかな。笑い要素は入れていたのだけど、全体のバランスで見たとき「無茶苦茶笑わせます!」でもなければ「要所要所で笑いを取るぜ」でもないため、ちょっとアンバランスな印象を受けました。シリアス一辺倒という選択肢もあったのでは。

とはいえ、警察隊が来た当たりからの引き込まれてグイグイ見ていましたし、着地もきれいで演技も良い。楽しく観劇させていただきました。

*1 : 10年前のイメージを持つのはよくないですね……。

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松本県ケ丘高校「遠藤周作「深い河」より」

  • 原作:遠藤周作
  • 脚色:日下部英司(顧問創作)

妻の余命宣告を受ける男。妻の死後から3年、妻の生まれ変わりを求めて男はインドへと旅立った。

良かった点

  • 照明を効果的に使い、抽象的でダークな舞台をきちんと作り上げていた。
  • 開幕の動作を合わせるシーンの動きが見事にそろっていた。
  • 小道具としての椅子が効果的に使われていた。
  • おじいさんや病気の妻など、動作による演技がとても良かった。

気になった点

  • 抽象劇ということを差し置いても、病院の個室の出入り口がバラバラなのは気になる。例え抽象的だとしても、病室であるその瞬間はリアルであるわけで、(銀杏の木以外は)きちんと1つの出入り口から出入りすべきでは。
  • 場面転換は一瞬だとしても照明を落としても(多少暗くしても)よかったのではないでしょうか。

いろいろ

この手の劇は苦手なのですが、それでも率直な感想を述べたいと思います。

序盤と河に入るシーンで、「動きを合わせる演出」の動きを合わせる意図がよくわかりません。動きを合わせることを見せたかったのはわかりますが、それでも何がしたいんだろうという疑問が残ってしまいました。

そして不条理劇としての男のむなしさが際立って表現されていたのかなと考えると、やや疑問が残ります。意味ありげな元ボランティアの女性の背景を中途半端に描いていたのですが、それ必要だったのでしょうか。主軸がぶれてしまった印象もあるので、もう少し男のフォーカスしても良かったのではないだろうか……とか色々考えましたが、まあ難しいですね。

基礎演技力が高く、演出も終始安定していて、安心して楽しめました。

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高崎商科大学附属高校「Arco iris」

  • 作:高崎商科大学附属高等学校演劇部(生徒・顧問創作)
  • 演出:猪熊友芽

文化祭を1ヶ月半後に控えたある日の教室。そこに「この前の生徒総会で男子もスカートを着られる」議案が否決された話題が出た。

良かった点

  • 自然な演技と自然な流れから織りなす素敵なストーリーが良い。
  • セリフに「前提として」組み込むことで、自然な会話の中で説明をする台詞回しが良い。
  • いわゆるLGBTQを扱いながら、違和感がまるでない。
  • 架空の文化祭のページがQRコードでパンフレットに書かれていて、しかも結構作り込まれている。
  • 多人数の舞台で、教室の人の出入りによる変化や、廊下を通る人などがとてもうまく使わていた。
    • 例えば、ある人が居るときと、居ないときで内容が変わるという人物の関係性もよく表現されていた。
  • 海斗がラストシーンで教室に入ろうとして、でも3人の女装をみてやや少しビビってる(?)感じが良い。
  • 伏線もうまく効いている。
  • 間の使い方が秀逸。この日見た公演の中では飛び抜けて上手かった。

気になった点

  • 教室を形作る窓パネルがやっぱり少し低く感じる(6尺)。そして(一体ではない)横の扉と奥行きがずれてるのが気になる。
  • 校庭などを舞台手前、奥を教室として照明で分けていたけど、教室の中身と手前を同時に見せる必要はないような気がする(聖也がドレスを着るシーンを除く)。
  • 欲を言えば導入部の人数を減らして、もう少し導入をわかりやすくしても良いかもしれない。
    • 人物の関係性もよくわからない段階で、たくさんの人物がやり取りすると見ている方としては分かりにくいし伝わりにくい。
    • 短い時間の中で全員の関係性を描くことはできないけども、聖也と琴葉以外の関係も、もう少し表現できたら更によかった。

いろいろ

舞台の肝は「登場人物同士の関係性だ」みたいなことは、多分講評とかでもよく聞いてきたと思うんですけど、その関係性がとてもよくできていて、中でもメインとなる「聖也」と「琴葉」の関係性が丁寧に表現されていました。これら関係性の表現こそが、舞台のエネルギーであり軸であり、全体の駆動力だったと思います。

聖也についてTS(トランスセクシャル*1)なのかTV(トランスベスタイト/異性装者)なのかを無意味に深掘りすることなく*2、それでいて違和感なく表現していて驚きました。こういうセクシャルマイノリティの立場を違和感なく*3描いた作品を見ることは本当に稀です。この舞台のキーとなる、教室で一人ドレスを憧れの視線で見つめ、人の気配を感じて慌てて、そして最後には着て(そこに至る一挙手一投足も非常に良い)「教室の窓に映る自分の姿で喜んでいる」という表現には唸りました。

それらを最後にラストシーンで6人で写真撮っている姿の、なんと素敵なことでしょうか。

もういくらでも語れるぐらい今大会2つめの「とても面白い」上演でした。過去を見返すと高崎商大附属の進化すごすぎます。誰がなんと言おうと、今大会ベストの上演です。

*1 : 一般的に性同一性障害に該当するけどそれに限らない。

*2 : 多分TSで設定されているとは思いますが、TSだとしても「どのようなTSなのか」といった辺りを掘り下げることが表現上無意味というだけでなく、登場人物たちにとってもそれが全く無意味であるということがきちんと表現されていることがとても重要。

*3 : 現実との激しい乖離や理解不足のひどい表現は、プロの創作物を含め非常によく見かける。

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追加のたわごと(1/29)

上の感想リンクにもありますけど、入賞しないのが解せないというのは同感です。

講評とかの発言(他校に対してのものを含む)から想像するに「現実がそんなハッピーエンドになるわけないし、もっと上手くいかない部分について描けよ。そしてなんか訴えかけて来いよ」ということなんだと思うんです。でも、この作品のコンセプトは(きっと)「こうあって欲しい」であり、それをこれでもかというぐらい丁寧にきちんと描いている。要求が無茶苦茶なんです。

演技・演出上の問題点をつつけばそれはありますが、そんなん入選した他校にだってあります。

好みが評価に影響を与えるのは(自身を含め)否定しませんが、それでも、この作品の良さをまるで分かってないと思えてならず、見る目なさすぎるだろ審査員と素直に言いたい。

立川女子高校「あのこをさがして」

  • 作:立川女子高校演劇部
  • 優秀賞(全国大会へ)
  • 創作脚本賞

学童クラブを舞台に、小学生女子5人とそこへボランティアにやってきた高校生の織り成す物語。

良かった点

  • 小学生が無茶苦茶小学生だった。服装はもとより、動きがすごく小学生。
  • 大人と高校生と小学生がきちんと演技わかられていて、それだけで素晴らしい。
  • 小学生YouTuberを登場させ、それを物語としてうまく使っている。
  • 難しい内容を果敢に描いている。
  • (コロナ禍で)マスクをするという行為を作品内に取り込んで、それを素材の一つとしてうまく使っている。

気になった点

  • 舞台装置がほぼなくテーブル二つぐらいがおかれており、それが学童クラブだったり、高校生の家だったり、公園だったりするのだけど、それにしては広すぎる感がする。照明等で舞台をもう少し狭めてもよかったのでは。
  • 序盤の前ギリギリの位置で演技するシーンで顔に照明が当たっていないシーンが2~3度かあった。
  • ホリと効果音の使い方がやや説明的。昼、夕方、夜を表現するためのホリ幕、昼を説明する一瞬だけのセミの鳴き声とか。
  • ラストシーンにて、緞帳を下ろさず暗転で終わっていましたが、緞帳をあえて使わなかった意図がよく分からず、むしろ緞帳が下がったほうが奇麗だったような気がしてしまった。

いろいろ

舞台の広さとホリゾント幕が終始気になってしまいました。最後の演出にホリを使いたいのだとしても、何とかする方法はあったのではないでしょうか。

シナリオが難しく、受け手の問題という部分は否定しきれないですが、それでも「もう少しわかりやすくしても良かったのではないか」と感じました。主人公の高校生の最後の台詞の意図するところがよく分からなかったんですよね。口裂け女という都市伝説を通して(あなたの身近にいる)「あのこをさがして」欲しいということなんだと思うのですが、それがラストだとすると全体から漂う散漫さが気になってしまいます。

なぜなんだろうと考えると「いろいろなあのこ」が登場してしまっているからです。

  • 姿の見えない主人公の姉(おそらく本命のあのこ)
  • 主人公(次に目立つあのこ)
  • 子どもたち

特に「主人公」と「主人公の姉」についての描写が分散している印象を受けました。主人公の境遇もわかるのですが、ここは断腸の想いで主人公(の境遇)をもっと普通の人に設定したほうが良かったのではないでしょうか。主人公が普通であることで、観客からの主人公への感情移入も誘いやすくなりますし、主人公の視点を通しての「あの子」たちがより際立つと思うのです。

とはいえ、ものすごくリアリティのある上演で、YouTuberという比較的新しい題材を効果的に使っており、色々と楽しめました。

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松本美須々ケ丘高校「カラマーゾフの兄弟」

  • 原作:ドストエフスキー
  • 脚色:郷原玲(顧問創作)
  • 演出:櫻井美希
  • 録画映像による上演
  • 優秀賞

カラマーゾフの血を引く兄弟たちの織り成す物語。

良かった点

  • 抽象的な舞台と照明を的確に使って、独特の暗いムードと雰囲気をよく表現していた。
  • 全体的に声の演技がうまく、ドミートリーと、端役?か何か(あまり喋らかった女子)の声質も良かったと思う。

気になった点

  • 全体的に「叫ぶ」演技がとても多く、せっかく演じる能力が高いのに叫ぶことで演技の幅を狭めていました。叫ぶ以外の方法もあったのではないでしょうか。
  • 「ゾシマの復活」というシーンが2度ほど登場するものの、現在の構成では意味するところが全く分からない。

いろいろ

原作をバッサリ削って翻案したのだと思いますが「ゾシマの復活」という部分を残す必要があったのか疑問です。最後が、兄弟の話として終わる現構成なら、もっとこの部分にフォーカスすれば深みを出せたのではないでしょうか。原作が魅力的でその部分を一生懸命なぞっているんだろうなという以上の感想を(想像される台本からは)感じられないのです。

多分、原作を知ってる人(例えば審査員になるような人)には大ウケなのでしょうが、普通の観客には(そしておそらく会場にいた多くの生徒にとっては)よく分からんことになっていました。別に大衆向けこそが正義と言う気はありませんが、少なくとも原作の魅力が伝わる程度には翻案してほしいと感じます。

とはいえ、台本の問題を別とすれば、かなり良く作りこまれており、演技も安定し、声も聞き取りやすい。素敵な上演でした。

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