高崎商科大学附属高校「Arco iris」

  • 作:高崎商科大学附属高等学校演劇部(生徒・顧問創作)
  • 演出:猪熊友芽

文化祭を1ヶ月半後に控えたある日の教室。そこに「この前の生徒総会で男子もスカートを着られる」議案が否決された話題が出た。

良かった点

  • 自然な演技と自然な流れから織りなす素敵なストーリーが良い。
  • セリフに「前提として」組み込むことで、自然な会話の中で説明をする台詞回しが良い。
  • いわゆるLGBTQを扱いながら、違和感がまるでない。
  • 架空の文化祭のページがQRコードでパンフレットに書かれていて、しかも結構作り込まれている。
  • 多人数の舞台で、教室の人の出入りによる変化や、廊下を通る人などがとてもうまく使わていた。
    • 例えば、ある人が居るときと、居ないときで内容が変わるという人物の関係性もよく表現されていた。
  • 海斗がラストシーンで教室に入ろうとして、でも3人の女装をみてやや少しビビってる(?)感じが良い。
  • 伏線もうまく効いている。
  • 間の使い方が秀逸。この日見た公演の中では飛び抜けて上手かった。

気になった点

  • 教室を形作る窓パネルがやっぱり少し低く感じる(6尺)。そして(一体ではない)横の扉と奥行きがずれてるのが気になる。
  • 校庭などを舞台手前、奥を教室として照明で分けていたけど、教室の中身と手前を同時に見せる必要はないような気がする(聖也がドレスを着るシーンを除く)。
  • 欲を言えば導入部の人数を減らして、もう少し導入をわかりやすくしても良いかもしれない。
    • 人物の関係性もよくわからない段階で、たくさんの人物がやり取りすると見ている方としては分かりにくいし伝わりにくい。
    • 短い時間の中で全員の関係性を描くことはできないけども、聖也と琴葉以外の関係も、もう少し表現できたら更によかった。

いろいろ

舞台の肝は「登場人物同士の関係性だ」みたいなことは、多分講評とかでもよく聞いてきたと思うんですけど、その関係性がとてもよくできていて、中でもメインとなる「聖也」と「琴葉」の関係性が丁寧に表現されていました。これら関係性の表現こそが、舞台のエネルギーであり軸であり、全体の駆動力だったと思います。

聖也についてTS(トランスセクシャル*1)なのかTV(トランスベスタイト/異性装者)なのかを無意味に深掘りすることなく*2、それでいて違和感なく表現していて驚きました。こういうセクシャルマイノリティの立場を違和感なく*3描いた作品を見ることは本当に稀です。この舞台のキーとなる、教室で一人ドレスを憧れの視線で見つめ、人の気配を感じて慌てて、そして最後には着て(そこに至る一挙手一投足も非常に良い)「教室の窓に映る自分の姿で喜んでいる」という表現には唸りました。

それらを最後にラストシーンで6人で写真撮っている姿の、なんと素敵なことでしょうか。

もういくらでも語れるぐらい今大会2つめの「とても面白い」上演でした。過去を見返すと高崎商大附属の進化すごすぎます。誰がなんと言おうと、今大会ベストの上演です。

*1 : 一般的に性同一性障害に該当するけどそれに限らない。

*2 : 多分TSで設定されているとは思いますが、TSだとしても「どのようなTSなのか」といった辺りを掘り下げることが表現上無意味というだけでなく、登場人物たちにとってもそれが全く無意味であるということがきちんと表現されていることがとても重要。

*3 : 現実との激しい乖離や理解不足のひどい表現は、プロの創作物を含め非常によく見かける。

twitter等でみかけた感想へのリンク

追加のたわごと(1/29)

上の感想リンクにもありますけど、入賞しないのが解せないというのは同感です。

講評とかの発言(他校に対してのものを含む)から想像するに「現実がそんなハッピーエンドになるわけないし、もっと上手くいかない部分について描けよ。そしてなんか訴えかけて来いよ」ということなんだと思うんです。でも、この作品のコンセプトは(きっと)「こうあって欲しい」であり、それをこれでもかというぐらい丁寧にきちんと描いている。要求が無茶苦茶なんです。

演技・演出上の問題点をつつけばそれはありますが、そんなん入選した他校にだってあります。

好みが評価に影響を与えるのは(自身を含め)否定しませんが、それでも、この作品の良さをまるで分かってないと思えてならず、見る目なさすぎるだろ審査員と素直に言いたい。

新島学園高校「カイギはDancin'」

  • 作:大島昭彦(顧問創作)
  • 演出:小池 宗太
  • 最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

ある田舎の町長が収賄と脱税が逮捕された。氷上アリーナ誘致計画が頓挫しそうになる。そんな中、次の町長を狙う副町長と、そこにある学校の新聞部の織りなす物語。

感想

舞台中央から下手側に町長室、上手側に新聞部を配置して照明で区切って進行します。

町長室に長寿会の老人3人が居るのですか、ちゃんと老人してます。動き方も、腰がとても悪い人と、少し足腰弱ってる人と、足腰が元気な人みたいに演じ分けられています。他校がよくやってしまいがちな、老人たちの反応速度が早すぎるという失敗や、新島が過去の上演でよくやっていた「老人たちがみんな同じ老化度」というミスはありません。副町長や秘書もそれっぽく見えますね。ややステレオタイプなところもありますが、さすがですね。副町長はステレオタイプのほうがのうさん臭さは出ますし。

新聞部の面々も楽しそうで良いです。ただ、途中将来の話をすると部室トーク(35分目くらい)が、立て板に水すぎて反応になってなかったのは残念でした。やや台詞が多いのかな。部室トークは全体的に、もう少し反応をきちんと作って演じてほしいところです。

ラストのほうは超展開(プロジェクター投影の文字)で、新聞部顧問だった先生が総理大臣になるのですけど、そこにインタビューに行く元部員とか、なかなかにみせてくれました。でもこのラストシーンならば、神谷先生とその部員の、逮捕された元町長に対する想いをもっと描いてくれた方が良いかな。2人は元町長や元町長のやったことをどう思っていたのか。

政治ネタを扱った舞台は、過度に説教臭くなったり、言いたいことが多すぎて崩壊したり、リアリティがありすぎて実感がなかったり、台詞が上辺だけ滑ったりという失敗が大変に多いのですが、さすがの大島先生というべきかその辺のラインはきちんと弁えていて、政治ネタを扱いつつきちんと成立している珍しい上演でした。