2004年度 群馬県大会

高崎女子高校「1/2」

脚本:松井 美樹(生徒創作)
演出:高崎女子高校演劇部

あらすじ

祖母、母、息子、娘の一見幸せな4人家族。そこへ天使と悪魔が訪れた、この家族を 救うために。家族には天使と悪魔の姿は見えない。この家族は少し前に父を無くし、 また借金が残っていた。死期が近いと自覚した祖母は、 私がもうじぎ死んでその保険金で幸せに暮らすように言うのだが……。

【以下ネタバレ】

祖母の命を奪うことが本当にこの家族を救うことなのか。そう悩む悪魔と天使の二人。 そんな中、祖母は病院することとなる。 天使は過去に似た経験があり、生かすことだけが幸せではないと、言われた記憶。 最後には命を奪い、おばあさんは遺書を残す。 そこに一緒に入っていた片割れの鈴、もう片割れは天使が持っていた。

主観的感想

【脚本について】

台詞回しと人物像が極めてステレオタイプ。今時、子ども向け漫画でも出で来ないよ うな、母、息子、娘、祖母の偶像化された人物像と、あまりにも陳腐な台詞回し。その せいで、このテーマに必要不可欠な人としての想いや深みが全く出ていない。

天使や悪魔といったモチーフや設定が曖昧すぎ。言わば非常に安易な考えに基づく設 定であって、その二つの役割の差すら見てて理解できない。天使が初仕事のときは悪魔 が、悪魔が初仕事のときは天使が一緒に付き合うという意味の台詞があり、ここからも 双方の役割の違いが全く分からない。この天使と悪魔が『命を奪うべきか悩む』ところ にテーマとしての本質があるにも関わらず、悩んでいる様子(描写/シーン/行動)が まるでない。ただ、それらを除けば基本構成(コンセプト)などは悪くない。

【脚本以外】

BGMと被ったとき、または他の台詞と被ったときに、横を向いたりして話すため、 台詞がほとんど聞き取れない。横を向いて声をホール全体に届けられないなら、 必ず前を向いてほしい。

劇が進行しているその時の中心、会話している人たち以外がまるっきり止まっている。 そこの演技が出来ていない。特に、天使と悪魔はそれが目立った。特にさせることがな いなら、何かしら癖やら性格付けをして出すべき。

最大の問題は天使と悪魔。まず格好からして、白い服、黒い服を着ている人間にしか 見えない。マント風の衣装などの工夫が欲しいし、逆に「全く人間と変わらない」こと をネタとしたらどうだろう。悪魔が祖母に向かって何度も問いかけを発し、その度に天 使が「無駄だ、何も聴こえてない」と言う。そう台詞で表さないと、それが演出できな いのは明らかに問題。 また本来影の主役であるべき祖母が、天使と悪魔を完全に喰っていて、 もはや中心軸がボケている。

【全体的に】

笑いの取りかたは上手い。その辺きちんと仕上げてきている。 間の取りかたや繰り返しのパターンなど、基本はきちんと抑えている。 台詞に問題は感じられる物の、劇はほぼ仕上げてきている。 さすが常連と言うべきか。

審査員の講評

【原】
  • 天使悪魔というものは、高校演劇では比較的よく用いられるモチーフ。 その中ではよく出来た作品。
  • お婆さんが極めて丁寧かつ効果的に用いられ、それが劇全体を支えている。
  • 話の進行役ではない手の開いた役者が動いているのだけど、 整理されていないため注意がそちらに行ってしまった。
【掘】
  • 背景にある一千万の借金が深刻そうに映らなかった。
  • これがやりたいという一本が見えない。 焦点が「天使・悪魔」にあるのか? 「家族」にあるのか?
  • 病院のシーンは本当に必要だったのか、一場面で(場面転換なしで)流せなかったのか?
【中】
  • お婆さんが、最初とても元気そうで「もうすぐ死ぬ」感じがしなかった。
  • 台詞面をお互いに検証して、もう少しそれらしくできなかったか?

共愛学園高校「ばななな夜 ~Banana ん Night~」

脚本:入江 郁美
演出:清水 ゆり

※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

公園でたまたま一緒になった高校生二人。二人は唐突に謎の荷物をあずけられた。 いかにも怪しいその荷物、決して開けるなと言われたその荷物。 中身は死体の一部ではないか? と冗談半分に疑いつつも、それを預かる二人。 次々と通りすぎる人々と、そんな人たちが起こす騒動。箱の中身はなんだったのか。

【以下ネタバレ】

最後にあずけた人間が戻ってくる。その中身を開けるとそれはバナナだった。 二人は何を感じたのか、そのバナナを銃のように打って遊び、そのまま去っていく。

脚本についての説明

2001年の全国大会において、栃木県立宇都宮女子高等学校が上演した生徒創作脚本。 全国大会にて優秀賞を獲得し、同大会『創作脚本賞』受賞作。 ドタバタの中で、一つを描き出す、とても優れた脚本のようです (高校演劇Selection2002下収録)。

(参考)
http://koenkyo.org/ensou93/13.html
http://members.at.infoseek.co.jp/keichan3sai/hukuoka/hutukame.htm (一番下)

主観的感想

主役である二人の高校生が居るのですが、おっとりボケっとした方と、 少し格好付けている強気な方(入江と呼ばれていた)が目立たない。 もっとキツかったり、勝気だったりと性格付けをするだけで違う気も。 主役二人が「振り回されるドタバタ」という構図をハッキリさせるだけでも、 全く印象が違ったのではないでしょうか。

高女同様、話の進行している以外の舞台上人物が止まっている。 上記、入江という人物が、あと一人の主役の金魚の糞のようで役割が全然分からない。 台詞の止めのタイミングとトーンの強弱。 ほとんど一本調子で喋っているので、全然メリハリがない。 小声にしたり、急にトーンを落したり、声色使ったりと工夫が見られない。

笑いなど、完成度は高め。 ただ、もっと上手くすれば、うんと笑わせることが出来たように感じます。 押しの笑いが多くメリハリや裏切りの笑いがない、という感じです。 「ああ、ここで、こう裏切れば」と感じる箇所が何ヶ所もありました。

【全体的に】

ドタバタ劇なのにドタバタしなかった。この一点に尽きるでしょう。 たしかに笑いを取ってはいましたが、 きちんとドタバタすればもっと笑いを取れた場所はあるはずですし、 逆に笑わせることに専念しすぎて「そこに何かを描き出すこと」が非常に散漫、 または全く何も考えていない状態となってしまいました。 ドタバタして翻弄されて、そこに何かが描かれないと全く生きないラストですから。 選んだ脚本が難しかったということなのか? 演出の段階で脚本をいじりすぎたのか?  原作では公園は夜のようですが、なぜ昼間にした(=昼間にしか見えない)のか よく分かりません。

折角面白い脚本を持ってきたのに勿体ないです。 これでは、笑った以外の感想を持つことは難しいでしょう。

審査員の講評

【中】
  • 楽しかった。ダンスを取り入れるところ、体の使い方、 台詞の滑舌の良さなど、いかにも共愛らしい。
  • ただ演技がちょっと硬いかなあと感じた。
  • 公園が夜の設定であるのに、明るすぎて夜に見えない。 審査員の間で街灯を設置してはどうか、という意見も出た。
  • 台本を読んだときに「入江=不良少女」というイメージを持ったが、 電話に素直に応対したりちょっとイメージが違ってしまった。
  • 夜の持つ魔力というものがちょっと足りない。 緊張感があってよかったが、抜くところを入れてもいいのではないか。
【原】
  • TVで見た(過去の宇都宮女子の)上演や、台本のイメージでは、 「夜の公園でバナナを預かっていました」というだけのお話で、 人も死なない、すごく変な人は出てこないのに、最後にメルヘンになっていくという 面白さがあると感じていた。
  • 舞台が夜に見えない。
  • ラストシーンでのバナナの撃ち合いが長く感じられてしまった。
  • (話の狙いは)二人が束縛された日常から解放されるカタルシスだと思うが、 そういう束縛の描写がない、薄い。
  • 最後の最後で、蛍光塗料を塗ったバナナにスポットを当てるが、 (塗料か、スポットの)どちらか一方で良いのではないか?
【掘】
  • 過去の(宇都宮女子の)上演などで都合4回見て、 当時「この作品ってこの子たちしかできないよね」と言われていが、 今回「共愛のばななな夜」がきちんと出来ていた。
  • ダンスか上手いのは分かるが、本当に必要だったのか検討するべきではないか。
  • イトウさんが銅像の股の下を手で触れるシーンは、 演じる以前に役者である以前の人として恥ずかしいと思うのだが、 そういう恥ずかしさが出てもよいのではないか。
  • みんなよく発声などを練習していて感情を排した台詞回しなのがとても上手い。 一方で、登場人物たちの声がみんな似たものに聞こえてしまった。 台詞には上下(高い、低い)があるのだから、よく考えてみてほしい。
  • バナナの撃ち合いが長く感じられたのは、 そのテンポが一定で変化しなかったからだろう。 (はじめはふざけておっかなびっくり、やがて面白くなって早く打つなどの) テンポの変化がみられるべきではないだろうか。

桐生第一高校「ジャンヌ」

脚本:飯田 宏敞(ひろあき)
翻案:山吹 緑
演出:根上屋 貴之

※優秀賞(次点校)

あらすじ

魔女たち3人が、ちょっとした試みで少女4人を選びジャンヌとした。 歴史になぞらえるために。その少女たちは、魔女たちに翻弄される。

【以下ネタバレ】

そして少女たちは戦争に参加し、そして最後には裁かれ処されることとなる。 そのとき、4人のうちの一人が自ら進み出て火刑台に登った……。

主観的感想

なんだか分からない……。 終始シリアスであるけど、それ自体は全く構わない。 おそらく(言わずと知れた)ジャンヌという少女について真正面から扱ったもののようです。

シリアスなのですが、迫力や緊迫感といったものがほぼ感じられず、 4人の17歳の少女が『ただ魔女たちの言いなりになっている』ために、 観てて白けてしまいます。 少女たちの背景をもっと描いても良かったのではないでしょうか。 4人中3人は、性格付けすらされておらず、 これもまたスポットが当たるべき少女たちを薄っぺらにしています。

随所でダンスを使いシーンを構成していますが、 そのダンスが上手いわけではなく、手や動きはまだしも足元(立ち位置)すら揃っていない。 そして、特別効果的な(意味のある)演出とも思えない。

ラスト近くでスポットを使うのですがスポット外が明るいので、 おそらく(舞台の約束として)見えてない人たちの姿がよく見える。 そして、台詞の聞き取れないシーンがあり、最後には9分残し。 かなり作り込んで来ているが、それが空回りした印象。 何をどう魅せるのか(特に物語的要素の側面)、そのために何が必要なのか、 もっと徹底的に考えて作ってほしい。

審査員の講評

【掘】
  • 選択した本が少々欠点がある。 それは良い台詞は一杯書かれているのだけど、 登場人物(特に選ばれた4人のジャンヌの)内面が描かれてないので伝わってこない。
  • しかし、衣装や舞台の色合いがとても綺麗で、音楽・照明などもよく、スタッフワークは最高。
  • その力で最後まで引っ張りきった。
【中】
  • (脚色した)「2004年秋」という台詞があるのだが、 当時と時代性も異なり2004年である必要が感じられなかった。 この時代と今の女性は違うだろう、と気になってしまった。
  • 衣装がとても綺麗。
  • ダンスが……地区大会よりはマシだけど……。 もっと自信をもって(自信が持てるぐらい練習して)演じてほしい。
  • 声がほとんど叫びっぱなしで、気になった。
【原】
  • とにかく美しい舞台だった。
  • 爆音とBGMが重なっているシーンがあったが、多少疑問を感じた。
  • (魔女たちの)黒いタイツスーツは非常に効果的。
  • ジャンヌが火刑台に登るシーンが印象に残っている。

桐生南高校「本日も大安なり」

脚本:青山 一也(顧問創作)
演出:藍原 宏心

あらすじ

同性愛の父親と、息子二人と娘(一番下)今日子。今日子は、父親のために恋人 大輔(男)を探し紹介する。そんなちょっと変わった、でもどこか温かい家族でのお話。

【以下ネタバレ】

ドタバタの中、家族に受け居られていく大輔と、それを快く思わない今日子。 やがて父と養子縁組をするという話になると、今日子は喧嘩をし、家を飛び出した。 それを追いかける大輔。彼女はファザコンだった。

主観的感想

【脚本について】

もう既に何作も創作脚本を書かれているベテラン(?)。 昨年の桐生南も同顧問の創作脚本でしたが、 シナリオの出来以前に力及ばすといった印象でした。 お話の作りは昨年よりも良い印象です。 上演パンフの紹介欄に(以下引用)、

この台本は非常に出来が良いのですが、とても難しく、 台本のレベルに生徒が付いていけないという状態が長く続いてしまいました。
とある通り、とても完成度の高い脚本です。 笑いの中に何か一つを描き出すという、演劇らしい要素がよく詰まっています。 多分本だけ読んでも面白いと思います。

ただ問題を上げるとすれば、 今日子のラストへのフリがないかな、前半から少し入れた方が良かったよう に感じます。

【脚本以外】

紹介にある通り、演技が頼りない。 一番上の兄貴、大輔に始まり、他も多少演技に不安を感じる。 笑わせるところではもっとオーバーにしていいし、 演技のメリハリ、強弱をもっと付けるといい。 兄貴とかは、もっと性格を出していいと思う。 この学校も、声のトーンがほぼ一本調子なのが残念。 その辺は自覚があるのか、台詞の間を意識的に開けることで 変化を付ける努力は買いたい。 ただ、だからと言ってトーンの変化、 声色の変化をしなくて良いという理由にはならない。 特に気になったのは、ラスト付近で今日子が飛び出していくシーン。 全然飛び出してないのでただ走っている。あれは大問題。

舞台が広すぎた印象。 幕などを使って狭めた方が良かったと思われます。 また、冒頭に内幕を引いてその前に出るシーンがありますが、 舞台を狭めて袖付近をスポットで使うとか、 なんとか一場面で済ませる工夫がほしかった。

【全体的に】

とにかく演技をもっと頑張ってください。 これだけ笑わせつつも、家族というテーマを描いたのは見事です。 演技が多少頼りないながらも、十二分に楽しんで観られる劇でした。

審査員の講評

【原】
  • 台本を読んだとき(同性愛もので)「これはすごいことになっちゃったな」と感じた。 これを高校演劇でやっていいのかとすら感じた。
  • 実際の舞台をみて、さわやかでドロドロしておらず、 ぜんぜんいヤラしさを感じないことがよかった。
  • お父さんが(高校生が演じているのに)お父さんに見えて、 しかもそれっぽく見えたのは上手かった(目つきのおかげか?)。 大輔の方もよかった。
  • 幕をおろして大学のシーンを(前)でやるが、あれは省けるのではないか。
  • お父さんが家族に受け入れられているわけで、 その告白をしたシーンの方が(この劇でフォーカスがあてたものより) よっぽどドラマではないかと考えてしまった。
【中】
  • 本来重たいテーマを軽く扱ってみせる劇という印象を受けた。
  • 家族が(お父さんを)明るく受け入れてしまっている姿が腑(ふ)に落ちない。
  • ラストの養子縁組の話は本当に必要だったのか?  そんなことをしなくても良いように、十分幸せそうに映ってしまった。
  • 一部の台詞が聞き取りにくかった。
【掘】
  • この本は青山先生しか書けないのではないかと感じた。
  • 軽いタッチで演出されていて、楽しめた。
  • リアル志向でやろうとしているのか、 嘘のリアル志向(そんなのあり得ないということの積み重ね)でやろうとしているのか、 どっちつかずの印象を受けた。
  • それが災いして、「嘘リアルな嘘(ばかばかしい嘘)によるリアルさ」ではなく、 単なる嘘っぽさを全体から感じてしまったのが残念。 (補足注釈:おそらく、 例えばお父さんの設定や家族に受け居られているなど無理のある部分を、 バカバカしい嘘によって裏付けすることで逆にお客の意識を取り込めたのではないか、 という意図の評だと思われる)