沼田高校「港の空に銃が叫ぶ」

脚本:小野 知明(生徒創作)
演出:小野 知明

あらすじ

港にて、事件を追っている刑事3人の。うち2人が外に出ていき一人刑事――信夫が 残されると、そこへ容疑者――和也が現れ捕らわれてしまう。

【以下ネタバレ】

やがて、和也と信夫の二人は山のふもとまで逃げ隠れる。 そのうちに、犯人に着せられた罪はデタラメで、 警察書の所長と暴力団が癒着してて、それを知ったために狙われているのだと言い、 信夫はそれを信じる。そしてその容疑者に協力するのだけど……。

主観的感想

【脚本について】

ハードボイルドを作りたかったのでしょう。 それは分かるのですが、台詞回しがやや稚拙。 ハードボイルドの決まり文句といえばそうなのかも知れませんが。 例えば、平田オリザ著「演劇入門」の冒頭に書かれている 台詞回しについての話、遠いイメージから入り、 直接的な説明を避けるということが出来てない。 劇曲、シナリオ全般についてやや勉強不足。 他の(優れた)劇曲の構成を分解するなどの経験もおそらく不足している。 そして、細部の考証が甘い、またはいい加減。 署長が直接「電話に出たり」「容疑者像」を作ったりということに無理がある。

という感じで、見ていて苦笑いしてしまった作品。 考えようによっては、ブロックや全国を目指さず、 創りたいものを創り続けた正面突端な脚本で、 これはこれで良いのだと思います。

【脚本以外】

まず演技に手抜きが見られる。動作の演技、表情の演技、 リアクションの演技、 どれをとっても「きちんと動作を考えて、検証して、更に検討して……」と いう煮詰めたプロセスが伺えない。 演じてる方も、一つの動作を最後まで行わず、 途中で止めてしまう点が多々みられた。 それと全体的に『間』が悪い……というか余り考えられていない。 全て一言で表すならば『荒い演技』。

また、ステージ上、手前から奥に幅数メートルに光が当たっているのですか、 その光の当たっている部分の一番手前で演じていることが多く、 時々、Yシャツに(光が)混ざる前の原色が映ったり……。

審査員の講評

【掘】
  • 男の子の世界。こういうのがやりたい! というのを見せてらもった気分。格好いい。 演じる人たちも楽しんでいた。
  • ただでも、台本書いた人は、書いたときのイメージと実際できあがったものを観て、 イメージが違うと感じたのではないか。
  • もっと格好よくやろう。例えば、殴り合いのシーンで間が開きすぎ (注釈:実際にあてず空振りで殴り合いを演じていた)。
  • 最初のシーンで段ボールが山積みされていたが倉庫には見えなかった。落書きとかあれば……。
  • シーンが移って山道であることを、後から台詞で気づくのはお客に不親切。
  • ゴミ捨て場のゴミの神様のフリして、そんなのを簡単に信じちゃったり、 いろいろな意味で真っ直ぐ過ぎてしまったのかもしれない。
【原】
  • BGMをもう少し作り込んでいい。最初のBGMはいらないかな。
  • 男の子の役者がずらっといるのがうらやましい。男が椅子を蹴飛ばすと、 こんなに怖いのか(迫力あるのか)と思い知った。特に高校生に見えない人も居た。
【中】
  • まさに男の世界で、他の(二人の男性)審査員が喜んでました。
  • (女子校に居るせいもあり)男子の役者という存在がうらやましい。
  • すべてギャグ路線で行くのかと思ったらリアルっぽいところもあって、 コンビニ袋持ってきたと思ったら中は出さないし、多少統一感に欠けた。
  • 殴り合いを倉庫の中でやってしまって、段ボールを崩してしまってもよかったかも。

太田東高校「君とともに。」

脚本:大貫 未来(生徒創作)
演出:太田東高校演劇部

※創作脚本賞

あらすじ

舞台は、ある高校のミステリー研究部。その部は、生徒会長の手により潰されようと していた。苦肉の策として、部長はコックリさんを呼び出す儀式をする。

【以下ネタバレ】

現れたのは神の遣いと称すオキツネサマ(?)の朔(サク/女)。 3つの願いを叶えてくれるというサクに、 下らない願いを2つ願い残り一つになってしまう。 部の存続を……というところで下校時間。また明日ということになる。 呼び出した人と一緒にいる必要があるサクは、部員の秋良(アキラ)と共に帰る。 秋良はサクに名前を訊ねていて、 帰り道サクは「この人なら違うかも知れない」と呟く。

翌日、サクに部の存続を願おうとした時、生徒会長がオキツネの浅葱(アサギ/サクの妹) を連れ現れる。その目的は、人間を脅してサクを普通のオキツネにするよう願ってもら うために(神の遣いのために自由が無いという設定)。でも、そんなアサギの気持ちを 秋良は受け入れて……。

主観的感想

【脚本について】

部活の存続という設定はよく見られるものですが、 そこにオカルト的要素で異界の者を呼んでしまうという発想は中々。 そこにおける、異端なオキツネとの人間の心の交流物語。 これもまたベタですが、悪くないです(個人的にはかなり好みです)。

一つ挙げるとすれば、 サクと秋良の下校時にサクがボソっと「この人なら……」と言う場面の台詞が長い。 必要な前フリであることは理解しますが、 『独白』というのは脚本において最終手段である訳ですから、 劇の流れの中にその「気持ち」を入れるプロセスを取って欲しかったと感じます。 上演時間は8分程余っていた訳ですから。サクの背景をもう少し描いて良かったかな。

ラストシーン。ここは言わば「人間」と「人外の異質なもの」の 邂逅(カタルシス)となるシーンなのですが、これが実は前フリがない。 唐突に最後にテーマを少しだけすり替えられた感じがしました。 この原因は、呼び出されたオキツネが余りに普通な存在として、 登場人物全員に受け入れられたことが問題と感じます。 フリとして、多少異質さを出しておくことかも知れません。 それとラストシーン後のエピローグがあるのですが、 サクのその後に間接的に匂わす程度でいいから触れてほしいかな……と。

とはいえ、話はかなり好きですし、よくやりがちな下手な台詞回しもないし、構成 (フリ/伏線)も考えられていて良く出来た面白い本だと思います。

【脚本以外について】

かなり面白かった。 きちんと笑いを取り、それでいてテーマをきちんと描いている。 登場人物の性格がきちんと付いていたこともあり、 うまくお客を引き込んだ要素だと感じました。

気になったのは、途中ドタバタをするシーンがあるのですが、 ドタバタの1コマと1コマの間に少しだけ時間が開いたこと。 ほんのちょっとなんだけど、勿体ない。 全体的にテンションが高めで押し通すのですが、 この状態で少しだけ『間』や『止め』、 会話トーンの変化というものを付ければなぁ、と惜しく感じました。

問題にしたいのは音楽の使い方。 FF(ファイナルファンタジー)のBGMを2曲程(?)使用するのですが、 曲とゲーム(FF)のイメージが強すぎるために、 (個人的に)見ていて少し違和感がありました。 BGMが大きすぎる場面もありました。 特に、ラストシーンのシリアスシーンでしんみりした曲を流すのですが、 音楽で演出というよりも、音楽鳴らして押し切ってしまえ!  という感じすらしました。 BGMなんかに頼らず劇の迫力で押し切って欲しかった……。

特筆すべきは、あまり出番はありませんでしたがアサギ役のキャスト。 感情の表し方、台詞の強弱など、演技が際立って上手かったように感じました。

えっと、(好みで言えば)今大会マイベスト作品です。面白かった!

【会場の様子】

この日の中では、一番笑いが取れていた様子でした。 これはただ単にお客が温まってきただけと切り捨てることも出来ます。 ですが、上演後「一番面白かった」という声が聞こえたことを ここに記して置きたいです。

審査員の講評

【中】
  • 全体的に(話の)構成がよく出来ていました。きちんとまとまっていて楽しく観られた。
  • 高校生がよく使う部活という設定に、オキキツネサマという尋常でないものが 入ってくるあたり、よく構成されいてる。
  • 舞台が教室なのか部室なのかよく分からなかった。
  • 途中「名前を訊いただけ」という台詞もあるが、 その通りサクと秋良(あきら)にどこで友情が芽生えたのかよく分からなかった。
  • サクと浅葱があまりオキツネっぽくない。 また二人をペアの衣装にするとか、いっそ白塗りにするなど工夫がほしかった。
【掘】
  • 楽しくみることができた。さわやかだった。
  • 無理をしていない自然な演技で、こちらも楽に観られた。
  • 他校にも言えることだが、 部屋を作る場合に注意してほしいことがある。 6尺のパネルを7ヶほど並べて部屋としていたが、 最低でも1尺5寸は高さを足すこと、そうしなければ部屋には見えない。 6尺止まりで部屋をつくっていけない(ブロック大会以上では、 そのような6尺パネルの部屋はまず見られない)。 そして部屋を斜めにしてしまって、窓や入り口をつけ実際に出入りしてほしい。
  • 部屋の広さも、中割を引いて明かりを切るなどして狭める必要がある。 そうでないと異様にでかく映ってしまう。 「舞台に劇を合わせるのではなく、舞台を劇に合わせる」ことを心がけてほしい。
【原】
  • 女性が強くて、男は笑わせ役になっていた。
  • 女を生かすために、男の子が捨て石になっていたわけで、 その辺よく感謝しましょう(笑)

高崎女子高校「1/2」

脚本:松井 美樹(生徒創作)
演出:高崎女子高校演劇部

あらすじ

祖母、母、息子、娘の一見幸せな4人家族。そこへ天使と悪魔が訪れた、この家族を 救うために。家族には天使と悪魔の姿は見えない。この家族は少し前に父を無くし、 また借金が残っていた。死期が近いと自覚した祖母は、 私がもうじぎ死んでその保険金で幸せに暮らすように言うのだが……。

【以下ネタバレ】

祖母の命を奪うことが本当にこの家族を救うことなのか。そう悩む悪魔と天使の二人。 そんな中、祖母は病院することとなる。 天使は過去に似た経験があり、生かすことだけが幸せではないと、言われた記憶。 最後には命を奪い、おばあさんは遺書を残す。 そこに一緒に入っていた片割れの鈴、もう片割れは天使が持っていた。

主観的感想

【脚本について】

台詞回しと人物像が極めてステレオタイプ。今時、子ども向け漫画でも出で来ないよ うな、母、息子、娘、祖母の偶像化された人物像と、あまりにも陳腐な台詞回し。その せいで、このテーマに必要不可欠な人としての想いや深みが全く出ていない。

天使や悪魔といったモチーフや設定が曖昧すぎ。言わば非常に安易な考えに基づく設 定であって、その二つの役割の差すら見てて理解できない。天使が初仕事のときは悪魔 が、悪魔が初仕事のときは天使が一緒に付き合うという意味の台詞があり、ここからも 双方の役割の違いが全く分からない。この天使と悪魔が『命を奪うべきか悩む』ところ にテーマとしての本質があるにも関わらず、悩んでいる様子(描写/シーン/行動)が まるでない。ただ、それらを除けば基本構成(コンセプト)などは悪くない。

【脚本以外】

BGMと被ったとき、または他の台詞と被ったときに、横を向いたりして話すため、 台詞がほとんど聞き取れない。横を向いて声をホール全体に届けられないなら、 必ず前を向いてほしい。

劇が進行しているその時の中心、会話している人たち以外がまるっきり止まっている。 そこの演技が出来ていない。特に、天使と悪魔はそれが目立った。特にさせることがな いなら、何かしら癖やら性格付けをして出すべき。

最大の問題は天使と悪魔。まず格好からして、白い服、黒い服を着ている人間にしか 見えない。マント風の衣装などの工夫が欲しいし、逆に「全く人間と変わらない」こと をネタとしたらどうだろう。悪魔が祖母に向かって何度も問いかけを発し、その度に天 使が「無駄だ、何も聴こえてない」と言う。そう台詞で表さないと、それが演出できな いのは明らかに問題。 また本来影の主役であるべき祖母が、天使と悪魔を完全に喰っていて、 もはや中心軸がボケている。

【全体的に】

笑いの取りかたは上手い。その辺きちんと仕上げてきている。 間の取りかたや繰り返しのパターンなど、基本はきちんと抑えている。 台詞に問題は感じられる物の、劇はほぼ仕上げてきている。 さすが常連と言うべきか。

審査員の講評

【原】
  • 天使悪魔というものは、高校演劇では比較的よく用いられるモチーフ。 その中ではよく出来た作品。
  • お婆さんが極めて丁寧かつ効果的に用いられ、それが劇全体を支えている。
  • 話の進行役ではない手の開いた役者が動いているのだけど、 整理されていないため注意がそちらに行ってしまった。
【掘】
  • 背景にある一千万の借金が深刻そうに映らなかった。
  • これがやりたいという一本が見えない。 焦点が「天使・悪魔」にあるのか? 「家族」にあるのか?
  • 病院のシーンは本当に必要だったのか、一場面で(場面転換なしで)流せなかったのか?
【中】
  • お婆さんが、最初とても元気そうで「もうすぐ死ぬ」感じがしなかった。
  • 台詞面をお互いに検証して、もう少しそれらしくできなかったか?

桐生南高校「本日も大安なり」

脚本:青山 一也(顧問創作)
演出:藍原 宏心

あらすじ

同性愛の父親と、息子二人と娘(一番下)今日子。今日子は、父親のために恋人 大輔(男)を探し紹介する。そんなちょっと変わった、でもどこか温かい家族でのお話。

【以下ネタバレ】

ドタバタの中、家族に受け居られていく大輔と、それを快く思わない今日子。 やがて父と養子縁組をするという話になると、今日子は喧嘩をし、家を飛び出した。 それを追いかける大輔。彼女はファザコンだった。

主観的感想

【脚本について】

もう既に何作も創作脚本を書かれているベテラン(?)。 昨年の桐生南も同顧問の創作脚本でしたが、 シナリオの出来以前に力及ばすといった印象でした。 お話の作りは昨年よりも良い印象です。 上演パンフの紹介欄に(以下引用)、

この台本は非常に出来が良いのですが、とても難しく、 台本のレベルに生徒が付いていけないという状態が長く続いてしまいました。
とある通り、とても完成度の高い脚本です。 笑いの中に何か一つを描き出すという、演劇らしい要素がよく詰まっています。 多分本だけ読んでも面白いと思います。

ただ問題を上げるとすれば、 今日子のラストへのフリがないかな、前半から少し入れた方が良かったよう に感じます。

【脚本以外】

紹介にある通り、演技が頼りない。 一番上の兄貴、大輔に始まり、他も多少演技に不安を感じる。 笑わせるところではもっとオーバーにしていいし、 演技のメリハリ、強弱をもっと付けるといい。 兄貴とかは、もっと性格を出していいと思う。 この学校も、声のトーンがほぼ一本調子なのが残念。 その辺は自覚があるのか、台詞の間を意識的に開けることで 変化を付ける努力は買いたい。 ただ、だからと言ってトーンの変化、 声色の変化をしなくて良いという理由にはならない。 特に気になったのは、ラスト付近で今日子が飛び出していくシーン。 全然飛び出してないのでただ走っている。あれは大問題。

舞台が広すぎた印象。 幕などを使って狭めた方が良かったと思われます。 また、冒頭に内幕を引いてその前に出るシーンがありますが、 舞台を狭めて袖付近をスポットで使うとか、 なんとか一場面で済ませる工夫がほしかった。

【全体的に】

とにかく演技をもっと頑張ってください。 これだけ笑わせつつも、家族というテーマを描いたのは見事です。 演技が多少頼りないながらも、十二分に楽しんで観られる劇でした。

審査員の講評

【原】
  • 台本を読んだとき(同性愛もので)「これはすごいことになっちゃったな」と感じた。 これを高校演劇でやっていいのかとすら感じた。
  • 実際の舞台をみて、さわやかでドロドロしておらず、 ぜんぜんいヤラしさを感じないことがよかった。
  • お父さんが(高校生が演じているのに)お父さんに見えて、 しかもそれっぽく見えたのは上手かった(目つきのおかげか?)。 大輔の方もよかった。
  • 幕をおろして大学のシーンを(前)でやるが、あれは省けるのではないか。
  • お父さんが家族に受け入れられているわけで、 その告白をしたシーンの方が(この劇でフォーカスがあてたものより) よっぽどドラマではないかと考えてしまった。
【中】
  • 本来重たいテーマを軽く扱ってみせる劇という印象を受けた。
  • 家族が(お父さんを)明るく受け入れてしまっている姿が腑(ふ)に落ちない。
  • ラストの養子縁組の話は本当に必要だったのか?  そんなことをしなくても良いように、十分幸せそうに映ってしまった。
  • 一部の台詞が聞き取りにくかった。
【掘】
  • この本は青山先生しか書けないのではないかと感じた。
  • 軽いタッチで演出されていて、楽しめた。
  • リアル志向でやろうとしているのか、 嘘のリアル志向(そんなのあり得ないということの積み重ね)でやろうとしているのか、 どっちつかずの印象を受けた。
  • それが災いして、「嘘リアルな嘘(ばかばかしい嘘)によるリアルさ」ではなく、 単なる嘘っぽさを全体から感じてしまったのが残念。 (補足注釈:おそらく、 例えばお父さんの設定や家族に受け居られているなど無理のある部分を、 バカバカしい嘘によって裏付けすることで逆にお客の意識を取り込めたのではないか、 という意図の評だと思われる)