関東学園大学附属高校「砂の城 ~彼女が僕に勇気をくれた」

作:中島 清志
潤色:関東学園附属高校演劇部
演出:(表記なし)

あらすじ

授業をサボって海辺にやってきた少年「勇気」のもとに魔女が現れる。その魔女は間違えてその少年の寿命を縮めてしまったという。それを修正するためには、少年「勇気」は少女「勇気」が手術を受けないように説得しなければならない。少年「勇気」と少女「勇気」のどちらかしか助からないのだという。そうして浜辺で会う少年「勇気」と少女「勇気」。二人は気持ちの交流をはじめ、やがて手術前日になり……。

脚本について

はりこのトラの穴掲載作品。見た印象からして、はりこだろうなーと思ったらやっぱりその通りでした。作りが高校演劇でよくある感じです。と思ったら地区大会上演ビデオの作者さんのレビューが。当たり前ですが、すごい的得てます。

主観的感想

最初のシーン、波音と台詞がかぶって声がきこえない。音響はアッタクだけ(音の最初だけ)大きく聞かせれば、あとは徐々にボリューム(フェーダー)を下げても大丈夫なのです。またギャグのシーンでBGMを少しかけるのですが、その後徐々にフェードアウトしている。そういう場面では区切りをつけるためカットアウト(ボリュームを急に下げる)の方が適切だと思います。

劇序盤に、魔女が「まあまあ、劇ってこういう所が面白いんだから」という台詞があるのですが、「劇」という単語を使った時点で観客は現実に戻されるということがまったく配慮されていません。全編通してそういう一歩引いたタッチならばわかりますが、ことシリアスな題材にはかなり不適切だと思います。例え台本に書いてあっても、自分たちで判断して削らないとダメです。

かなりキツい意見になってしまいますが、勇気(少年)の演技がいまいちです。頑張ってはいるのですが、この本において主役に要求される演技レベルは非常に高く、「自分の命と少女の命を天秤にかける迷いや苦悩」が滲み出なければならないのに、そこが出ていません。それを言ってしまえば、魔女、少女、その母親も、誰一人として表に出さない苦悩らしきものが演技から伺えませんでした(いや、少女は多少出てたかな)。与えられた役の情況を自分自身に置き換えて、どんな気持ちになるかということをもっとよく考え、ときには部員みんなで議論をし、役をきちんと作ることが大切です。

さて開始20分間、永遠と魔女と勇気少年のやり取りが続くわけですが、その時点で話の方向性がまったく見えずかなり眠くなってきます。実際、会場内で何人も寝ているお客さんが居ました。この辺は、地区大会で指摘されているにも関わらず本を修正しなかったことが最大の敗因でしょう。シナリオを書かれた方にも指摘されているのに。

【全体的に】

命というものに真正面から取り組んだ劇なんですが、それにしてはシナリオにいくらかの難があり、それにも増してドラマを演出するという視点が完全に抜け落ちたために悲惨な状況になってしまいました。テーマに対して演じ手の技量が不足したと言ってしまえばそれまでなのですが、同時に「では具体的にどうしたら良かったのか」という問いかけには非常に答えにくいものがあります。それぐらい難しいテーマです。

ちょっとキツくなりすぎてしまいましたが、そこまで酷いかと言うとそうでもなく。基礎的な演技力はきちんとあるのですから、もう少し「シナリオを読む」という作業(練習)をするだけで、より上達するのではないかと思います(県大会突破を狙えるぐらいに)。あと、勇気少女は設定上小学生なのですが、声がものすごく小学生しててよかったです。音響の方は、そこそこ適切に処理され、波音などよくムードがでていました。シリアスシーンでBGMに逃げる場面もありましたが、そこまで気になるほどではなかったように思います(ベストではありませんが)。

審査員の講評

【担当】ヨシダ 朝 さん
  • 台本を読んだとき「グッ」とくる泣かせる芝居だと思った。例えば、見に行った時、それを見てない友人に説明して一言で言える芝居ってつまらない芝居だけども、「実際にみなきゃ分からないよ」と言える芝居がいい芝居で、これはそういう種類の芝居だと思う。
  • 台本で読んで、魔女と勇気少年のコントが長いのではないかと思ったが、実際に見てやっぱり長いなと思った。テーマからして最初にやわらかいコントでお客さんを引き付けておくのは正しいのだけど、15分ぐらいあってせめて7~8分ぐらいにしてほしかった。観客として何が言いたいのかわからず、なかなか本題に入らないというジレがあった。
  • 波音がやってくるのと砂のお城が崩れるタイミングがシンクロしない。水をかぶる芝居もなかった。(編補足:そういう細かいことを表現することで、)本当は見えない波や砂の城が見えてくる。
  • キャラクターの作り方をもっと丁寧に。例えば(少女勇気の)お母さん。子供が心臓病なのだから、(子供が死んでしまうかもしれない)手術が近づくにつれ、少しずつ緊迫感が増すなど雰囲気を出してほしかった。そういう細かい役作りをすることは大事。
  • 最後の手術失敗の時、お母さんが「安らかな寝顔でした」というのだけど、それは言わなくても伝わったのではないか。むしろ言わない方が伝わったのではないか。言わずに少女勇気の手紙を読むことで、お客の想像が膨らんだのではないか。
  • 最初のコントとあとのギャップの、それぞれの部分をきちんと作りましょう。

高崎東高校「ステップ」

作:高崎東高校演劇部(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

NEET(ニート)の兄、妹、母親、単身赴任で家にいない父親の家族コメディ劇。兄は昆虫にはまっていて、最近の行動はなんだかよく分からない。そこに近所でおこる不審な誘拐事件の犯人として兄が疑われているという噂が舞い込んでくる。兄と父親が昆虫の幼虫のことで電話してるのを盗み聞きした母が、てっきり兄が子供を誘拐したものと勘違いして……。

主観的感想

【脚本について】

コメディの王道かな。電話の会話を母親に盗み聞きさせ、兄を誘拐犯と勘違いさせるなどの作りはうまく出来ていました。講評でも述べられているとおり、おっとりな母親、元気な妹、NEETの兄という人物の色づけがうまく出来ています。

その一方でやっぱりこれも話全体としては無理があります。家族劇、青春劇だと思うんですが、出てくる人物のキャラ立てはうまくできているのに深みや背景がない。最終的に昆虫好きの兄は北海道に単身赴任している父親の元へ引っ越すという結論を出すのですが、そこに至る葛藤やら、なんでNEETなのかといった描写、そんな兄のことを母や妹はどう想っているのかなど、そういうドラマが全くありません。

では全編とおしてコメディなのかというと、コメディとして見たときも中途半端。「60分笑いっぱなし」とはいきません。作者が演劇部表記であることや内容から推測して、多分話を構成したというよりは数珠繋ぎにシーンを作って繋げていったのではないかと思うのですが、それだけに非常に散漫な作りになってしまいました。

【劇について】

後ろに幕を張って、その前に家財道具を置くことで家に見立てているのですが、やっぱりパネルがほしい。壁があって囲ってしまわないと家という感じはどうにもしません。照明のあたる範囲を狭めればよかったのでしょうが、どこの高校もそういうことをしていなかったので、おそらく照明のあたる部分を絞れない舞台(照明装置)だったのでしょう。

笑いを狙っているのですが、全体に微妙な笑いです。というのも台詞と台詞に「間」がほとんどなく、台詞のテンションがほとんど一定だから「ゆるみ」などがなく見ていて飽きてくるのです。コメディとして中途半端になった原因はここにもあると思います。唯一電話で父とやりとりするシーンは一番おいしく面白かったんですが、他が散漫すぎてしまったといえるでしょう。あと電話の声、少し大きかったかな。

【全体的に】

ドラマ性がなくテンポが一定だと、もうそれは飽きるしかなくなるわけで、そういう意味で勿体ない劇でした。とはいえ1つ前の市立前橋同じく、全くなってない悲惨なものかと言うとそうではなく、劇にはなっていますし初歩的なミスや致命的な演技の欠陥もありません。逆に言えば、それぐらいドラマ性がないシナリオと、テンションの変わらない芝居が悪影響するということを示した典型例とも言えます。全体に一生懸命になりすぎたあまりの失敗かもしれませんね。

とにかく、演じるときのテンションを変化させること、台詞と台詞のあいだにある「間」を大切にすること(練習を録音して自分たちで聞いてみること)、この2点を注意するだけでかなり変わるのではないかと思います。それだけやってもよく分からなかったら、さらに県大会上位の上演やプロの上演、全国大会の上演などを「間」や「テンション」に着目して見てみるといいでしょう。

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 面白い台本で、着想が優れていると思う。
  • 父は北海道へ単身赴任、おっとりした母、サクサクとした感じの妹、主役のカブトムシのかぶり物(よく出来ていた)を被った兄。それぞれキャラが違うというのは良いドラマのポイントになっていた。
  • カブトムシの子供を間違えて殺してしまったという兄の電話を、(人間の)子供を殺したと勘違いした母や、事実が分かったときの母の戻りかたもほんわかしていた。
  • ラストシーンのあと、なつき(兄)は昆虫学者になったのかな、何になったのかなと今後を想像させた。
  • シーン最初で扇風機で声が変わるところがあったが、ややしつこいように感じた。しかも客席ではそんなに声が変わったように聞こえなかった。
  • いたって普通な家庭環境から立ち上げて60分よく作ってあった。

新島学園高校「桜井家の掟」

作:阿部 順
演出:新島学園演劇部

※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

桜井家の4人姉妹の元へ、次女の蘭が彼氏を連れてくるという。乙女を夢見る長女夏実、ワルな感じの次女蘭、食べるの大好きな三女の杏、なんでも言ってしまう四女真希という個性豊かな姉妹劇(家族劇)。連れてくる彼氏にビクビクする夏実と杏。しかし、光一はごく普通の男子だった。ほっとしたその彼の前で、突然真希は「自分たちの親は離婚して、今週いっぱいで離ればなれになる」と告げる。

脚本について

2002年度に行われた第48回全国高等学校演劇大会で千葉県立薬園台高校が上演した優秀賞受賞作。高校演劇Selection 2003下収録

主観的感想

毎年毎年、変に小難しい台本を選んでは失敗してきた感がある新島ですが、今年は新島に合った(注:見下しているのでなく、過去の地区公演を見る限り気質として合っていると思う)台本でドタバタコメディ。掛け合いの間や登場人物の個性付けなど、非常によく出来てました。まあ、ほとんど地区公演の修学旅行と被る人物と配役だったような気もしますが、その意味でも余計役作りはしやすかったのではないかと思います。非常に面白かったです。

前半、少しだけ間か詰まっている(ほんのちょっと間がほしい)と感じる場面はありましたが、全体的にいい掛け合い(間)をしていました。掛け合いの妙(テンポ作りなど)はさすがです。途中、三女(か四女)のほほを叩くシーンでスローモーションで暗転したのですが、あれは意味がわかりませんでした。遊び心としては好きですが、あまり効果的な演出ではなかったように思います。

装置は部屋をきちんと作ってきていてさすが。ただ扉が若干ぐらついていたのが気になりました。講評によると、あれだけ激しく扱ってもびくつかないのは大変な労力ということですが、でも少しグラついてしまったのが残念。また階段の部分がセットで切れ目になっているのですが、階段を挟んで舞台奥側と手前側に隙間が見えるのが残念でした。奥側にもう1枚パネルをおいてほしいと思います。

さてここまではいいのですが、相も変わらず新島の問題はテーマとその解釈(演出)です。毎年のように演出不在の新島は、例年全編を通して何かの1つのテーマを描くということが大変苦手で、今回の家族劇というニュアンスで劇をみたときに光一の存在がどっちつかずになっています。姉妹劇(家族劇)なのに話の中心、スポットは常に「蘭とその彼である光一」に当たっているわけで、「あくまで4姉妹が主役なんだ」という主張(演出)がまるで見えてこないのです。ラストシーンで姉妹みんなでケーキを食べ、それをバックから(姉妹の)親とおぼしき人影が見つめるのですが、その前のシーンでは光一が居るのに、最後の最後で奥(台所?)に引っ込んでいて出てこない。なぜ出てこないんだという疑問と共に、このラストシーンに来てようやく主役は4人姉妹だということが分かるのです。逆に言えば、最後にそのシーンをみないと主役がどっちだか分からないのです。

ラストシーン前では、彼氏(光一)のことは噂させる程度にしておくべきだったのではないかと思います(引っ越しの手伝いには来ているけど何か買い出しに言ってるとか、用事で帰ったとか)。

【全体的に】

音の処理や光の処理はさすが新島という感じで、安定感がありました。演技や舞台装置、その他すべてを含め本当に安定した作りになっていると思います。とにかく間の使い方が適切で、他校にはぜひ参考にしてほしいと感じました。地区公演と違い作り込んでいる様子で(逆に言えば地区公演は若干手抜き感があるわけですが……)、全体の作りはさすがでした。

これだけ実力があれば、あと必要なものはテーマの解釈とその演出なんですけどね……。これ、地区公演含め昔から何度となく書いてきている割に進歩がないのでダメかもしれませんが(である限り関東突破もダメだと思いますが)。参考までに、検索して見つけた青山先生の評はこちら。私より的確でしょう。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • この作品は全国大会の台本だと後で知った。既成本でも、地元地名を取り入れ丁寧に作り込んでいた。
  • 時計の針が進んでいたり、カレンダーに×が増えたり、取り外したものの跡が残っていたり、最後のケーキがリアルだったりと、細かいところまで手を抜かず非常に丁寧な作りだったと思う。
  • 照明、音響、装置なども適切でよく作ってあった。
  • 窓があってその向こうにキャラクターの細部まで見えたのはすごい。
  • 四人姉妹が姉は姉として、妹は妹としてキャラが立っていた。
  • 光一の母の豹変ぶりとか、こっちの度肝を抜くような、かといって違和感を感じることもない全体的なアンサンブルの良さはさすがだった。
  • 光一の父がフィリピンパブの人と電話するシーンでは、さわやかすぎた感じがする。もっとギトギトした感じが出てもよかったのではないか。
  • 今後の4人姉妹を想像させる、よくい作品。
  • 欲を言えば、声が重なるところなどでそれぞれの役者がもう少し声が出たりパワーが出たりするとよかったかな(編注:記憶曖昧)。
  • あとカナヅチ、ノコギリとかは(編注:視覚的に)もっと分かりやすい方がよかった。

甲府西高校「盤上の沖縄戦」

脚本:土屋百合香(生徒創作)、高須 敏江(顧問)
演出:甲府西高校演劇部
※創作脚本賞

あらすじと概要

囲碁部員のカズミのもとへやってきたマキ。マキは演劇部のために台本を書いていた。囲碁の勝負と、マキの台本の沖縄戦。その二つが交叉して……。

主観的感想

囲碁の「捨て石」をキーワード(着想)として、沖縄戦を劇中朗読劇として描いた作品。囲碁という着想はよかったと思うのですが。

途中「あたり」「ウッテガアシ」「シチョウ」などの囲碁用語が出てきて、それを結びつけて戦争を描いていく過程において、どうにも疑問を感じてしまいました。私自身は囲碁をたしなむのですが、それもあり囲碁としての意味と描きたいものにギャップを感じてしまいます。囲碁的な意味でも、戦争という意味でももっと精査する過程が必要だったのではないでしょうか。

要するに、観客に対して、それらの用語から結びつけられる戦争における現実が効果的に伝わったかということなのです。また、どうみても囲碁を実際に打っているようには見えない。今年の北部関東大会で上演されたナユタという作品では、将棋を道具として使い、将棋の記譜をきちんと覚えた上で本当に打っていました。そういう小さなリアルの積み重ねが演劇には必要です。

物語終盤における戦時中の中絶についてのテーマ。カズミが大反対するのですが(それは物語構成上必要なのですが)、その背景が全く描かれません。なぜそこまで固執したのか、その背景をきちんと描いてほしいです。それに加えこれで戦中のお産のお話で終わってしまい、捨て石というキーワードはどこに行ってしまったのかという印象を受けました。テーマは1つに絞って、途中でブレないことを気を付けましょう。

全体的に、ゆるみのない演技であり、力を張りすぎてお客を置いてきぼりにしたといえると思います。メリハリ、ゆるみについては全体感想にゆずります。着想が評価された(?)創作脚本賞ではあるものの、その全体的な完成度については疑問符を打たざるを得ないでしょう。しかしながら、全体を通して真面目な作りには好感を持ちましたし、(おそらく修学旅行か何かで感じた)沖縄戦争についての衝撃を伝えようとする必死な想いは充分伝わりました。それだけでも大きな意味があったと思います。

細かい点

  • 演技中2人の出演者が(現代シーンで)ずっと机を挟み横で向き合ってるのが気になった。変化を付けてほしかったというか、二人の間の関係というものが見えてこなかった。普段は友達? とかクラスメイトとか? 囲碁の都合上、対面で向き合うのは分かりますが、対面というのは敵対という心の関係を示すので、そういう配慮がほしかったところ。
  • 戦中の中絶の話について、カズミがキレるシーンにおいて、彼女が怒っているのは分かってるのだけどやや嘘っぽい。本当に怒ったときというのは、心の底からわき出す怒り、ふるえ(声や体に表れたりすることもある)というものがあるのですが、それがない。上辺で精一杯怒っている感じで、リアリティーがない。
  • 戦争シーンでの声だけの出演で「あかんぼうなんて」とか「気づかれるぞ」とかがあるのですが、声の戦中の緊迫感が全くありません。嘘っぽいです。
  • これら怒りや緊迫感の表現は非常に難しいのですが、でもきちんと役として人物の気持ちを作ってほしいなと思います。
  • 部室にしては広すぎるので、正面で範囲を絞ってこじんまりとした舞台をつくった方が作品に合っていたのでは?
  • バケツを使って雑巾がけするシーンが本当に水が入ってて、本当に水拭きしているようだった。非常によかった。

審査員の講評

【担当】内山勉 さん
  • 分かりやすく素直な芝居作り。
  • どんちょう前の携帯の入りもいい。
  • シンプルな白黒のセットもよかった。
  • マキか語ることで(劇中物語の)チヨの世界が作られるわけですが、音楽→照明→語りという順番だったので物語の構造が分かりにくくなっていて並列的になってしまった。マキか語ることで生まれる世界なのだから、まず語りが入るべきだったのでは。
  • 二人の掛け合いの中からチヨの世界が生まれるきっかけがあるべきなんだけども、なんでチヨの世界が生まれるのか、どうして次にいう台詞を思いついたのかといった心の衝動としての言葉がないためウソになってしまい、台本通りやっているという印象を受けた。
  • 碁盤の上の戦いからチヨの世界が生まれるという展開だと、ストーリーが生きたと思う。
  • スカートとトレパン、白の服と黒の服という色分けをしてキャラ立てしてた。
  • チヨの話は作られた話っぽくなく、実話なのかなって感じがした。でも物語上は作られた話であるわけで。
  • 上下(かみしも)のエリアが広すぎた。狭まった空間(部室)から、はみ出るという芝居がよかったのかな。

麻布大学付属渕野辺高校「幕末ジャイアンツ」

脚本:四海大
潤色:佐藤 栄一(顧問)
演出:江花 明里
※優秀賞

あらすじと概要

幕末の坂本竜馬。米国人とベースボールで戦うために、大久保利通、新撰組3名、西郷隆盛などとベースボールチームを結成し、一生懸命勝負するのだけど。

主観的感想

誰しも知ってる幕末の有名人がずらりと勢揃いして、ベースボースをするドタバタコメディ。前々からよく見かける作品で気になっていましたが、初めて観ました。主役9人中8人男子が演じる非常に勢いのある劇で、大変面白かったと思います。

パンフレットによると「みどころは迫力と殺陣」だそうですが、その殺陣がなぁ……。動きにキレがないんですよ。動作の美とでもいいましょうか。キレというのは静と動、「動作前の停止」と「動作中の動き」と「動作後の停止」、この3つがあって初めて成り立つものなのです。この3つを明確に演じなきゃいけないのですが、出来ていません。そして刀は金属(鉄)ですからもっと重いんですよ、絶対軽そうに持ってはいけません。こう言っては悪いかも知れませんが、大勢の「勢い」で誤魔化しているという印象でした。

これは劇全体にも言えることで、9人がよく合わせてリアクションを取るというコメディの基本ができており笑いも起こっているのですが、勢いに重点を置きすぎるあまり「間」が手抜かりになっています。必要な「間」まで早い(必要な止めもない)。同じことで、大勢しゃべることで必要な台詞が聞き取れないこともあり、ここも誤魔化した印象を受けました。

ただそれだけ勢いに重点をおいただけあり、テンポの良い笑いと、個々人のキャラクター付けなどを使って(もう少し人物像をつくった方がいい役もありましたが)、面白く仕立てていました。野球シーンで横を向き合って処理しそうなところを、打ち手も投げ手も正面を向けて処理したのはよかったと思います。

ラストは、再び敵同士みたいな終わり方でしたが、もうちょっと哀愁が出てもよかったかなとも思います。尺の問題もあるのでしょうが(元台本は2時間らしいので)、最初の敵同士と最後の敵同士の対比を意識して描くとか少し配慮がほしかったなと感じました。

細かい点

  • BGMが若干余計かなーと思いました。シリアスシーンのピアノ。
  • 木製バットなのに打った音が金属バッドだったり、ラストの9回裏のいいシーンで打ったときのSEがなかったり、その辺の処理が若干いい加減に感じました。
  • 全体的に巻きという感じで、もう少し間を使って演技してほしかったかな。

審査員の講評

【担当】中澤武志 さん
  • 途中までメモを取らずに「うわぁー面白れーなー」と思って観てた。面白かったです。
  • 出てくる人物は、すべて歴史上の有名な人物で、各自が持っているその人物のイメージを壊しながら進んでいくのが面白かった。
  • 集団のエネルギーはすごかった。
  • 竜馬のしゃべりが早く、台詞の意味を理解する前に「うわぁー」ってクションで動いてしまいそのシーンが流れてしまっている。(全体的に)どういう状況で、誰に向かって、どういう心情で話しているのかが見えてこなかった。
  • 刀って相当重いので、刀を挿したまま走るときは腰を落とす。袴や帯に刀を挿すということもない。
  • 台本で、所々歴史的事実を使っているところが本当にいいのかなーと思った(編注:架空なら架空で進んだ方がどっち付かずにならず良かったのではないかということではないかと思う)。
  • ベースボールシーンで盛り上がっておわってしまってもよかったかな。
  • とりかくエネルギッシュで面白かった。