都立淵江高校「シンデレラたちのマーチ」

作・演出:塩屋 愛実(創作)

あらすじと概要

少年院に送られた親殺しなどの少女たちの心の交流を描いた物語。

主観的感想

まず幕前での親とのやりとり(の一人芝居)から始まり、幕が開いて少年院となります。机5つを半円形に並べたシンプルな舞台。全体に、心理劇なんですが、5人の登場人物のそれぞれの独白(モノローグ)挟んでいくので、最終的に誰の何を描きたかったのかはっきりしないという終わり方になってしまいました。

独白による描写なので、背景というものも描ききれておらず、なんとなく中途半端。難しいところではありますが、きちんとした背景付けをした上で、それを含めどうにしたかったのかが見えたらよかったかな……とは思います。パンフなどをみると「感動させる芝居を作りたい」とのことですが、そこにはやっぱりステレオタイプではない少年犯罪に対する思慮が必要だったのではないでしょうか。そして描写をあまり分散させないように。

この高校もですが、ゆるみが出来ていません。全キャラが「張り」「張り」となってしまったために若干台詞が聞き取りにくく、張りつめたムードがずっと続くので観る側としては疲れ(飽き)やすく、そこも考慮がほしいなと思いました。

全体的に丁寧な舞台作りだったと思います。後半の抽象的なイメージを体で表現するなどの演出(方針)はとても良かったと思います。おそらく「このまま(社会状況)では、こういう事件をどこでも誰でも起こす可能性がある」といったような背筋が寒くなるような終わり方でそれも面白かったです。ただどうせならばもっと徹底的に背筋を寒くしてくれたならなという感じもします。そのためには「狂気」に対する視点として「普通」な人物を配置する必要があったのかもしれません。

細かい点

  • 少年院なのにあそこまで私語をしていいのかな~、特に作業中。
  • 客席に出て野村さんを踏みつけるシーンがあるんですが、せっかくの美味しいシーンなのに客席でやるから見えない。無理に客席にやらず舞台の手前でよかったのでは?
  • 野村さんのキャラ付けはよく出来ていたんだけど、それと比較して他が若干弱いかなー。野村さんにしても(けっして悪いというわけではないのですが)この手の心理劇では、表層的なキャラ付けに捕らわれず、内面的なキャラ付けに重点をおいたらよかったのではないかと思います。
  • みんな同じ服を来ているので誰が誰かイマイチ分かりにくい。分からなくはないんですが、もう少し配慮がほしかった。

審査員の講評

【担当】青山一也 さん
  • 自分たちが思うイメージを形にしたのはこの高校だけ。
  • 成功すればせすごく面白い反面、失敗すると全く分からないということになる。
  • ではどうだったかというと、前半は成功していると思う(リンリンリリンとか)。
  • 後半は、心象を体で表現していたのだけど、あまり成功していない。
  • 見終わったとき5人の役者を抱きしめたいと感じたいい作品だった。
  • 野村さんはものすごくいいからみ、良い味を出していた。
  • 音響の選択がすべて裏をかいていてとても良かった。その分、最後の選曲がベタだったのが残念。
  • みんなジャージで、特に役柄的に○○と小川さんが同じ髪型だったので区別が付きにくかった。

甲府昭和高校「靴下スケート」

脚本:中村 勉(顧問創作)
演出:山下 僚子、大場 祥子
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

ゴミ袋の山の部屋にやってきた家庭教師。ゴミの山と不真面目な生徒と家庭教師、その中で……。

主観的感想

ものすごい肩の力の抜ける、なんとも捕らえどころのないシュールな劇です。なんとも言えない妙な雰囲気で起こるバカバカしさ、ゴミの山のゴミで意味不明に遊ぶというそういう作りで、顧問の先生が出演者二人(演劇部員が二人なんだそうです)のために充て書きした台本とのこと。

間の使い方はとても良いんですが、メリハリがなぁーと感じました(メリハリのなさを狙ったものかも知れませんが……にしてもなぁ)。全体にもう少し声を出していい気はするし、ゆるむところはもっとゆるんでいいと思います。テンポがずーっと変わらないから飽きてくるんですよね。ノリの部分はもう少し乗って(一時的にテンション上げて)いいと思うし、抜け(ゆるみ、ボケ、オチ)の部分はもっと抜けた演技をしたらよかったんじゃないでしょうか。その方が、もっとバカバカしさが出たと思うんですが、あまり演技で笑いを取れているという印象はありませんでした(爆笑には至らないという感じで)。BGM選曲ではかなり受けてましたけど。

二人しかいない演劇部という追いつめられた状況で、シュールでバカバカしいという不思議な舞台作りに懸命に取り組んだ姿には好感を受けました。

細かい点

  • 最後のゴミを投げ合うシーンは、きちんと役者が楽しんで投げ合っていた。
  • (申し訳ないけど)台本の要請に演技力が付いていってないなという印象を受けました。
  • 劇とは関係ないけど、高校演劇でよく見かける「作 中村勉」ってこちらの顧問だったんですねぇ……。

審査員の講評

【担当】青木勇二 さん
  • 幕が上がり、部屋として大きいかなと思った。
  • 進につれ、広大な夢の島が見えてきた。
  • 何もメッセージ性がなく、現代を象徴している。観ている方が常にさめて観ることで、二人の孤独感を想像させた。
  • BGMも何気なくて好き。
  • ゴミ袋から役に立たないものが出てくる楽しさがあった。
  • ゴミを投げ合うラストはいつまでもこのままでという感じが出ていて良かった。

桐蔭学園高校「それください」

作・演出:高橋 淳(創作)

あらすじと概要

自殺志願者掲示板、そこで集まった5人の人物。でも主催者は遅刻して来るのだが……なんだか主催者の様子がおかしい。

主観的感想

作・演出ということですが、自殺志願者が集まるというありがちなエピソードを使いながら、実は集団自殺ではなく新興宗教に狂った主催者に殺されるだけとし、そこで自殺志願者が死ぬことを拒否するという構成は非常に秀逸です。自殺という話を使いながら、これだけ嘘くさくない話作りは初めて見たような気がします。

さて幕開き、舞台手前に白っぽい薄幕があり、その奥に一人の人物……というのがよく分かりませんでした。その薄幕もどいて、部屋に見立てた黒パネルで囲まれた部屋(ビルの部屋かな)と簡素な椅子。そこにやってくる自殺志願者たち。その自殺志願者の人物立てがよく、偏屈なおじさんである鬼火、絶望さん(オタク)、女装者(性同一性障害設定かな?)麻衣とその彼氏亮とか、一見肉体派な智宏とか。

各人のエピソードが若干浅いなぁーと思ったら、鬼火さんが最後にラストをもっていって、よかったと思います。もっと鬼火の苦悩を掘り下げて描いたらなとは思いますが、それでも適度に笑いに振りつつシリアスな劇としてまともに見られたのはめずらしかったです。面白かった。

細かい点

  • 麻衣(女装者)が「私のような存在が認めらないので自殺します」って言うんですが、残念ながらというべきか何というか女装がとても似合ってます。さまになっていて普通に可愛いんですよ。あれで「認められないから……」と言っても説得力のかけらもありません。女装者が認められないのは、似合わない(可愛くない)から生理的に受け付けられないという要因が大きいので、似合ってしまったというのは配役ミスです。
  • さらに言えば、似合ってしまったことは最悪構わないのですが、役作りというか人物像がステレオタイプであることが問題です。世間からの拒絶 → 苦悩という過程を踏んだようには見えず、「あの前向きな元気さがあるなら(二人は)普通に生きていけるんじゃない?」と感じてしまいます。
  • おなじく麻衣と亮なんですが、二人が距離を取りすぎです(特に前半)。もっと近づかないとダメです。心理学でパーソナルスペースと言うものですが、心の距離が近いカップルは常に手の届く範囲に居て、同じ空気を持ちます(こっちはユニゾンや同調と言われる)。心が寄り添うカップルというムードが出ると良かったでしょう。
  • オタクキャラの絶望さんは(配置的に)美味しい役なのですが、ステレオタイプではないオタクな描き方が良かったと思います。
  • 鬼火さん(おじさん)がよくゆるんだ演技ができていてよかった。声の震えを演じることができたのはなかなか。
  • 欲をいえば、シリアスシーンが若干長くワンテンポだったかなぁーという感じはしました。

審査員の講評

【担当】瀧川真澄 さん
  • 幕が開き、つめたい白でくらっときた。とても美しい。
  • でも芝居の中身を組み立てるための装置だということを考えると、あの白い幕の意図は何だったのかなと疑問を感じる。
  • キャラクターをよく作っていた。「キャラを作るというのはこういうことよ」という感じに、心理的な作りとかが出来ていたと思う。
  • 落ち着きがありながらみんな違う服を着ていて、空間にたったときよく際立っていた。
  • 人と人の距離というのは心理的な距離を表します(編注:心理的な距離が人と人の距離となって表れるという心理学における事実があります)。中盤以降立ち位置が固定されていたのだけど、みんなが団結していくシーンなんだからもっと近づいたよかったのでは。こういうのは演出の仕事。
  • 自殺志願からみんなで生きるという話の展開が非常によく出来ていた。
  • 生きたいなってなっこときの人々のアンサンブルにも考慮を。
  • 幕切れで椅子に集まるというシーンの意味が少し分からなかった。(編注:その後演出に質問して)演出回答「人と人のつながりがあれば」という意味。

富士高校「紙屋悦子の青春」

脚本:松田 正隆
演出:西尾 匤史
※最優秀賞(全国)

あらすじと概要

紙屋悦子(かみやえつこ)の青春時代である戦中の、若い将校への恋心とその将校の友人とのお見合いを中心といて描いた物語。

主観的感想

すばらしいの一言に尽きます。高校演劇各校は、何としてもこの上演映像を手に入れて多くのことを分析・学んで欲しいと本気で思います。本当に良い見本となる演劇です。

良い良い言っていても始まらないので、具体的に。舞台は、年老いた悦子夫婦のモノローグに始まり、悦子が兄夫婦と住む実家で展開します。チラッと審査員が手にしている台本がみえたので覗き見したのですが、元台本の半分以上を削り間を十分に使って演じています。とても良い判断です。

最初間がとても良いなー、動作がとても良いなーと思ったんですが、何より「佇まい」がすごいのです。そこに座ってるだけで、立っているだけで、歩いてるだけで、ただそれだけで存在感とムードと日本の哀愁が出ています。パンフレットから長いですが次の言葉を引用します。

 この作品の稽古が進み、通し稽古になり音楽も入るころになると、今まで経験したことのないことが起こりました。役者が涙を流すことはこれまでにもありましたが、稽古を見守るスタッフが涙を流しながら音楽を流し、笑いをこらえながら照明のきっかけを出しているのです。
 最初から、この作品は今まで上演してきた作品とは違うなという印象は持っていましたが、稽古をすればするほどその感じは強まっていきました。気がつくと、作品世界とも役の人物とも抜き差しならないかたちで向かい合っていることに気付くのです。しかも実に自然に。

この状態になれたからこその演技であり、実にリアルに舞台上にその人物が居るのです。役者に本当に役が入っているのです。これこそ演劇の神髄で、この劇を観ることできただけでも本当に幸せでした。文句なしの最優秀賞です。

細かい点

  • プロローグが長いかなー。モノローグであることも考慮して、半分でよかったと思います。
  • 最初のシーンは暗転することなく切り替えられたんじゃないかな。
  • 食事シーンで本物を使い、本当に食べることにとても好感を持ちました。しかも、おはぎもご飯も実際よりも小さくまとめられていて役を演じる上で邪魔にならないよう工夫してあり、うまい処理だと思いました。
  • 照明をしぼって日本的な部屋というムードを装置と合わせよく出していました。
  • BGMのフェードアウトがいい加減です。フェードアウトというよりもカットアウトに近く、他がよく出来ているだけにとても気になりました。もっと丁寧にフェードアウトしてください。

審査員の講評

【担当】内山勉 さん
  • 台本の切り取り方は良かった。カット部分を多くして間をきちんと取って演じていた。
  • 曖昧なところがなく良かった。
  • 軍人達、ちょっと叫びすぎだったかな。
  • 舞台装置は石垣がよかった。花もよかった。贅沢をいえば、つぼみをきちんと見せてほしかったのと、幹と枝(花)のバランスを取ってほしかった。
  • おなじく欲をいえば、さくらの花びらは量はそんなに要らないのだから花の中から出てほしかった。
  • 小道具も衣装もよく研究されていた。ただ一升瓶とかもう一度見直してほしいかな。
  • 赤飯のシーンでふさがやや泣きすぎに感じた。悦子は席では涙をこらえて裏に引っ込んでから泣いた方がより印象できだったと思う。
  • ラストシーン、舞台の上下から役者が出てきて(その是非については議論のあるところだけど)、引っ込んでから幕が降りるのだけど、出てきたならそのまま幕を降ろしてよかったのでは。

まとめ感想 - 2006年度 関東大会

県名高校名演目
最優秀賞 静岡 富士高校 紙屋悦子の青春
優秀賞(全国大会へ) 静岡 三島南高校 うぉーっっ
優秀賞(全国フェスティバルへ) 山梨 甲府昭和高校 靴下スケート
優秀賞 茨城 水海道第一高校 リングの中の王子様
優秀賞 神奈川 麻布大学付属渕野辺 幕末ジャイアンツ
創作脚本 山梨 甲府西高校 盤上の沖縄戦

審査過程について発表後にコメントがありました。最優秀賞の富士高校は非常に美しい台詞回しと姿勢が高く評価されてとのこと。次いで三島南高校の「うぉーっっ」と甲府昭和高校の「靴下スケート」で割れたが、最終的には投票で前者に。残りは靴下スケートと、あとはすんなりと「水海道第一高校」「麻布大付属淵野辺」が決まったとのことでした。

最優秀賞は誰が観てもというところでしょう、文句なく。1日目を観ていないので、まああんまり何ともいえませんが(靴下スケートは予想外でしたが)。こうして見ると静岡が強いですね。県外の情報はかなり疎く、人口の多い東京、神奈川あたりが強いのかなと単純に考えていたのでちょっと意外でした。たまたま今回そうだったのか、人口とは関係なく盛んな地域とそうでない地域があるのかなーという印象です。

創作脚本については、着想を評価されて「盤上の沖縄戦」というところみたいですが、個人的には「それください」の方がよく出来ていると思います。むしろ上演台本をお探しの人(?)には「それください」を勧めます、非常に良いです。