深谷第一高校「少女1/4」

作・演出:田光 葵(生徒創作)

あらすじと概要

親と喧嘩をして家で出た少女は、公園で別の家出少女たちと会う。4人の家で少女は偽装誘拐を思い立つのだけど……

主観的感想

家庭内で親に追いつめられる少女という感じのよくある作りです。この手の作品を見る度に(南のシンデレラたちのマーチも)出だしの喧嘩描写は必要だったのかなという感じがしますけど(ないほうが「何があったんだろう?」と観客の興味が沸くんじゃないかな>参考資料)。パンフによると

演出は”リアリティー”を追求することに力を入れました。

ということで、作・演出・主演みたいな感じです。この方を中心に、みんなで一致団結して作ったという感じで、そういう意味でよく出来ていたと思います。

……なんですが。その懸命さは買うものの、リアリティについては成功しているとは言い切れない。たしかに、この作・演出の彼女は他の部員に比べ演技は良かったしリアリティに気を遣っているのは分かりました。ですが、妙にリアルなために一人だけ若干浮いているのです。劇空間というのは役者やスタッフ含め全員でどのラインのリアルを作るかをきちんと決めなければなりません。これを統一するのは演出の役目です。そこにずれがあると、観客は違和感を感じてしまいます。そしてもう1つ、大変言いにくいことですが、演劇のリアルと現実のリアルは微妙に違います。残念ながらこの点を完全に履き違えています。詳しくは全体感想に書きますので参照してください

話の中心となる偽装誘拐のシーンですが、いたずらっ子のようなワクワク感、そして、本当にこんなことしていいのかよというドキドキ感、そういうものが全く感じられませんでした。それと「いいのかなー、ほんとにこんなことして」的な人物が居ないいんですよね。こういうのこそ人物の個性、しいてはリアリティに通じてくるものです。小さい頃いたずらをしたことはないのかな? 

観た感想として「結局何が言いたかったんだろう?」という疑問を持ちました。ちょっとした引き金があれば事件が起こる狂った世の中だと言いたかったのでしょうか。パンフをみると、そんな「追いつめられた社会状況にいる私たち」を描きたかったようですが、だとすればラストの終わらせ方をよく考えてほしいと思います。このおかしくなった世の中の状況(事実)を描くことには成功していると思いますが、その先の「私たち」の希望や意志がなかなか見えてきません。「こんなのはもうイヤとか」そういう何かが加わるだけでよかったのに、それがなかった。そのためせっかくこれだけ頑張って作ったのに、事実の描写の上の「作者(私たち)の想い」がなかなか見えにくい舞台となってしまいました。

全体的に強い意志や意気込みもを感じるだけに、とてもとても勿体なかったという印象です。

細かい点

  • やすお(おじさん役)の演技は、もっとドクっぽく、アクっぽさみたいのが出たらよかったと思う。
  • うさぎとちゃお役の人物像が弱い。どういう性格の人物なのか、そういうのが見えるとよかったかな。
  • もじ子役は比較的よく演じてたと思います。
  • まき役(兼演出)はシリアスシーンではかなり良く演じられていました。
  • 暗転時にブルー暗転を使い、中の動きが丸見えだったのが気になりました。
  • ちゃお独白シーンやラストのBGMがうるさく感じました。BGMより演技でみせてほしいです。
  • 事件を起こし後のシーンで「ふるえ」というものが出ていなかった。足がすくむ様子(地面に足をすっかり着いた状態で上半身でビクビクした演技をしても嘘になってしまうんです)もなく、そういうのが感情が出ていないので嘘っぽい感じがしました。
  • 1ヶ月後というシーンで、公園のゴミ箱がそのままなのが非常に気になりました。
  • 「駆けつけてきた母親が歩いてる」というのは問題でしょう。きちんと「駆けつけて」ください。母親が戻っていくときの振り向きもいい加減(ざつ)な感じがした。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • ラストのメッセージは強烈で「この現実をどう受け止めるんだ」と言われている気がした。
  • 多分殺人は「紙一重」ということなんだと思う。
  • 日常の中で、父殺しや母殺しというのは心の深いところで実行しているのだけで、それがうまくできない人は現実にやってしまうのかも知れない。
  • 特に前半、独白か多かったように思う(編注:各人の状況を独白で語っていた)。
  • 社会を代表しているのが母親だけだったのだけど、警察に取り囲まれても戦ってほしかった。
  • 母を殺したときのリアリティーが足りなかったと思う。本当に母親を殺したらどうなるんだーということをよく考えてほしかった。
  • 全体に、強い感情、感情で押しすぎたように感じる。

まとめ感想 - 2006年度 関東大会

県名高校名演目
最優秀賞 栃木 栃木高校 塩原町長選挙
優秀賞
(全国フェスティバルへ)
新潟 三条東 例えばジャニスのソウルフルナンバー
優秀賞
創作脚本賞
栃木 作新学院高校 ナユタ
優秀賞 群馬 新島学園高校 桜井家の掟

結構意外な審査結果でした。最優秀賞もあるかと思っていた筑坂の選漏れ、一緒に観ていた人と共に首をかしげた三条東の入賞、入賞はしないだろうと思っていた新島の入賞(個人的にはあの出来では入賞して欲しくなかったです)。最優秀賞だろうと思われていたナユタ(作新)に代わり、最優秀賞は難しいかなーと思われていた、栃高の最優秀賞など。

今回の審査基準の推測は簡単、観て面白かったものです。舞台や照明などを含めた演劇技術や総合力で考えれば、筑坂、作新、栃木、前橋南、新島あたりだと思うのですが、筑坂については感想で述べたとおりで、前橋南については講評で「脚本で80%決まる」と述べられていた意味、そのままでしょう。栃高については、装置なし、照明的演出もほぼなし、BGMも普通。唯一飛び抜けたテーマに関連する演出(演技)の驚異的な完成度、そして何より本の面白さということなのでしょう。

2006年度 関東大会/北部

三条東高校「例えばジャニスのソウルフルナンバー」

脚本:大島 昭彦
演出:藤石 愛巳
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

夢の世界と現実の世界と。夢の世界にいるもう一人の僕。そんな抽象的なイメージの中で現実と夢を行き来しながら描かれるものは。

主観的感想

非常に難しい抽象劇です。夢の中の僕と現実の僕。現実のフラストレーションが夢に昇華され、夢での出来事がまた現実に跳ね返る。主人公(高校生?)の日々の思いのかけらを拾い上げ描いていく作品なんだと思います。夢の中で工事現場監督かと思えば、学校の先生だったり、クラスメイトの(武者小路)祐子と親しくなったと思ったら夢だったり……。

優秀賞(フェスティバル)とのことですが、残念ながらとてもそうは感じられませんでした。全体に早口であり、間が悪く、テンポが一定でメリハリがない。リアクション(動作)もメリハリがない。そういう演技の基本や細かい嘘をきちんと積み上げてこそ、夢とも現実ともおぼつかない独特の空間にリアリティ(というと変ですが説得力とでもいいましょうか)が生まれるのですが、そこがないがしろにされ、劇空間としての成立が失敗したのではないかと思います。

台本を解釈なく(または解釈不足で)演じたという印象が非常に強く、台詞が役者を置いてきぼりにして一人歩きし、テーマを描ききれなかったという印象がぬぐえません。真に迫らないんですよね。主人公の「僕」が最初と最後で変わったんだということを、僕の内面として魅せてほしかったと思います。

細かい点

  • 演技力にかなりの疑問を感じます。間などはそうなのてすが、「うわぁ…、なんで武者小路さんがここにいるわけ」「花火大会の日に街の巡回なんてつまわらいわね」など、説明台詞をやや棒読みした感じがあり、台詞を書き換えたり内面から言葉を発するという努力が不足した印象があります。気持ちで演じてください。その言葉はどういう心の動きから出でいるのか考えることを、もっともっと大切にしてください(詳しくは資料室を参照してください)。
  • 主人公僕と祐子が会話しているシーンを、他のクラスメイトが覗き見するというシーンがあるのですが、主人公と祐子が親しく会話しているという感じにはどうにも見えません。ほとんど動きなく向き合って楽しい会話なんて現実にはあまりありません(向き合うというのは、基本として敵対の関係です)。親しく話すということをなんとなくで演じてませんか? 自分が親しく談笑するときどんな感じですか? あのシーンで実際に心の中で言葉を交わしてみましたか? 言葉を交わしてみてから、その言葉を(舞台上で)省略するというプロセスを取りましたか?
  • 最後の方で主人公僕と祐子のキスシーンがあるんですが、まるきり嘘です。キスに至るということは、本当に好きになった結果でなければならないのです。役作りというのは、役の中で相手を好きになることから始まります。ドラマで共演した男女が現実でも恋愛してしまうのは、ドラマの中で本当に好きになる(という役作りをする)ので、それが現実に影響して恋愛してしまうのです。役をきちんと作るということは、こういう内面を作ることを意味します。厳しいかも知れませんが、少なくとも舞台の上に居るときは本当に好きにならなければいけないのですよ。
  • 工事現場のSEが舞台にマッチしておらず説明的でうるさい印象を受けました。電車のSEもしつこかったように思います。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • ソウルメイキング(河合隼雄の言葉)ドラマだったと思う。魂にまつわる物語を現代人は失っているというが、まさに神話(個人の神話?)についての話(編注:記憶曖昧)。
  • ひとつひとつの言葉を味わうということをよくやっていたと思う。
  • 本音と建て前、現実と非現実をうまく演じ分けていた。
  • ジャニスジャップリンの歌が途中で終わってしまって、もっと聞いていたかった。
  • 舞台装置は左右のバランスを考えて使うともっとよかったと思う。やや右に寄っていた。

作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。