館林女子高校「ANTI-」

作:江原さゆり(創作)
潤色:館林女子高校演劇部
演出:江原さゆり

※創作脚本賞

あらすじ

お掃除ガールズの3人は、いつも部屋を掃除する。清潔にして、そして防腐剤がないと死んでしまう人間だった。そこにやってくる自称サムライの二人(サムライの格好ではない、女子2名)、自称普通じゃない女。彼女たちはお掃除ガールズの邪魔をし、防腐剤を狙うのだが……。

主観的感想

【脚本について】

腐ってしまう人間という着想(題材)は非常に面白いのだけど、話が全体的に散漫。題材を生かし切れなかったという感じです。お掃除ガールズ3人の「腐る」ことに対する危機感がなく、最大のキーワードである「防腐剤」だけが一人歩きしたという感じです。ほかの人たちはなぜ邪魔をするのか、腐る人間と腐らない人間の差とは何なのか、どうして腐ってしまうのか、という点が不足しています。

例えば、腐らない人間と腐る人間で、どちらが正常でどちらが異常かを互いに言い合うとか、防腐剤は腐らない人間の血から作られるとか、そういう工夫があればかなりの良作になったと思われます。お掃除ガールズ自体は人物像として厚みが足りず、劇では常に3人出っぱなしでしたが、途中一人、二人いなくなるなどの組み合わせを使って、互いのことを噂し合えば深みが出たのではないかと思います。

ほか、話作りや台詞回しに特に大きな問題や初歩的なミスはなく、その点はよく出来ていました。構成に若干難ありですね。

【劇について】

普通の演技なんだけど、なぜか演技が非常にぬるい。だれるというか飽きるというかそういう感じがしました。演技にメリハリがなくずっと一本調子だったことが原因だと思います。演じるテンションとテンポが60分通してずっと一定でした。オーバーに演じるところはオーバーに演じて、弱く演じるところは弱く演じるなどメリハリを付けないと必要以上につまらなく感じてしまいます。

また登場人物がすべて薄っぺらく、演じ手としても特に役作りをしている様子かありませんでした。例え台本上で個性がなくても、役として演じるときに個性付けするべきです。あと舞台を転換しない暗転のとき、BGMを一区切り使って暗転したいたと思うんですが(記憶曖昧です)、意図が不明でした。すぐに切り替えてしまえばよかったと思うのですが。

【全体的に】

何と言っても、腐る人間という題材を生かし切れなかった、その一点につきると思います。それに加えて、変化が少なかったなーと思います。ブラシでひたすら床を掃除しているだけ。掃除の演技を見せるなら、他にも色々あったと思うのですが。

ひとつ、演出が主演してないことは評価したいです。

審査員の講評

【担当】ヨシダ 朝 さん
  • 台本を読んですごく面白いと思った。日常と非日常、腐っていくとか、防腐剤とかキーワードが散りばめられていて、不条理劇だったと思うのだけど、どう芝居にするかがポイントで、観念的なものがどれだけ演劇という具体的なものとして観客に伝わってくるかなと思った。
  • 実際に劇を見て、言いたいことがお客さんにダイレクトに伝わってないのではないかと思った。伝えるためには工夫が必要。
  • お掃除ガールズが、普通じゃない女やサムライズという「異物」を排除せずに受け入れているという状況に違和感を感じた。ここで拒否をして対立が出来ることで全体が見やすく(分かりやすく)なったのではないかと思う。
  • 全体的にテンポ(間)が遅い。もっとここは食い気味に(台詞をかぶせ気味に)言ってほしいというシーンもあった。
  • ふつうの女がゴミ箱からゴミを散らかすシーンで、その散らかすゴミのなかに「なぜ掃除をしているのか」「ここはどこなのか」というヒントをキーワードとして書いておけば面白かったのでは?
  • タイトルが「ANTI-」ということで、この後ろには何か付くのだと思うけど、本来アンチという言葉には主張がある。例えばアンチ巨人というのは「巨人ではなく○○が好き」というふうに、AではなくBであるという主張がある。しかし、この劇ではAではないけど(編注:腐らない人間ではないけども)、Bだという主張がないために対立構造がない。対立構造がないから分かりにくくなる。(編注:対立構造を作ることは、物語を分かりやすく伝えるための常套手段です)。

高崎女子高校「Story of story」

作:川口 麻美(創作)
演出:川口 麻美

あらすじ

高校生小説家の奈央(なお)が、文芸部部室で書けなくて悩んでいる。まわりには賑やかな友達。部員の恵介(けいすけ)と話しているとき、奈央は恵介の姉、遙(はるか/小説家)の幽霊が見えて……。遙は、作品が書けなくて困っている奈央に、自分の代わりに自分の作品を書かないかと言うのだけども。

主観的感想

【脚本について】

雑然とした部室でのやりとりからはじまって次第に奈央に焦点を当てていく様子や、文芸部部室であることや高校生作家であることなどを決して無理して説明せず、自然な会話の中で情報が出るようにかなり注意深く書かれています。今年はどの高校の創作脚本もかなり初歩的なミスがなくレベルが高かったのですが、その中でもこの辺の会話の処理や人の出入りをうまく使い変化を付けたのは秀逸です(個人的には創作脚本賞かなと思ってました)。

じゃあ手放しで絶賛できるかというと残念ながらそうでもなく。途中遙(はるか)が昔書いた小説を朗読するシーンがあり、朗読代わりに劇中劇が始まるのですが、これが結構長い。しかも、「物語についての物語」という作品テーマからして、そこに出る劇中劇(内容)の必要性が全く感じられません。もっと時間を減らして、普通に朗読+αぐらいにしておけばよかったように感じます(朗読劇みたいな感じで)。そもそも、そこに時間と労力を割くならば「物語を生み出す側の苦労や苦しみ」(奈央)と「物語はすらすら書けるのに書くことができない苦しみ」(遙)という対立をより明確にし、もっと深く描くべきだったのではないでしょうか。二人が互いの言葉を交わし、ときに争ってこそ、本当に物語りについて何か描くことが出来たのではないかと思います。

【劇について】

まず初っぱな声が聞こえない(聞き取りにくい)。幕開けて、ゴミっとした部室の様子はよく作られていて、この辺はさすが。前半、リアクションの間(台詞に対する反応の台詞)がわずかに早いところがいくつか。時間がないのか、練習慣れなのか分かりませんが、もったいない感じはしました。関連して気になったのは、「頭を打ったらしい」→「そこ腹っすよ」という掛け合いが被せ気味だったのですが間があった方がいいと思うし、逆に部室からみんな居なくなったとき「みんな帰っちゃった暇だなー」という台詞は、もう少し暇そうにしてから言った方がいいと思います。

物語のキーポイントである遙ですが、最初みんなと同じように制服を着て部室にいて、後々実は幽霊でしたという感じになり、その後、白い衣装に着替えています。観た感想としては、「実は…」という感じの意表がなく自然な流れで「あー幽霊なんだ」となるんですけど、そこに妙な違和感がありました(例えば、昨年の共愛昨年関東大会の秩農とかの幽霊の処理の仕方に比べると)。遙と奈央と恵介のシーンやその前の段階で、もう少し気を配って遙という存在の違和感を慎重かつ十分に出してから幽霊という設定を出してほしかったと思います。あと、幽霊であることを見やすくするためにその後のシーンで着替えさせたのだと思うのですが、それだったら最初から着替えさせててもいいような感じもするし、それよりも元から白衣ではない別の記号を(一人だけ夏服とか、目立つアクセサリとか、色々やりようはあったと思うんですけど)持たせておくほうが自然だったように感じます。

【全体的に】

県大会常連組の高女ですが、一時期の質は維持出来ず年々下がり気味。去年は県大会を逃しており今年はリベンジという感じです。そういえば上演時に着ていた女子制服は高女のではなく健康福祉大付属の制服にみえたのですが(12/24訂正、見間違え&勘違いでした)。高女の制服は黒の上下なので、男子生徒の制服(学ラン)と区別が付きにくいという配慮だと思うのですが、こうこう細かい気配りはさすがでした。

それに限らず、照明、装置(大道具・小道具)、台詞回しなど、本当に細かいところまで気を配って完成度を高めていた一方で、話(テーマ)を中心とした演出・構成という面ではひとつ、ふたつ物足りないという印象です。思うに、多分、劇中劇でやったようなストーリーが本当は好きでやりたかったんだと思いますが(だとすると割り切れてなかったかな)。

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 舞台は文芸部で劇中劇もあるなと期待していた。
  • 綺麗なパネルに段ボールなどのアクセントで雑然ともしていて良かった。特に壁の電気スイッチの処理は照明とのタイミングもバッチリで、また電気を切っても切れたことは分かりながら真っ暗にはならないなどよく出来ていた。
  • 劇中劇のとき、上手、下手から捌けるのは、少し気になった。また劇中劇において部室が見えてしまうのは気になった。
  • 朗読から劇中劇に移行するとき、台詞のハモりからうまく劇に移行した。
  • 文芸部の部室のカレンダーが10月から2月に変わったりとか、実に細かいところまでよく出来ていた(手抜きが全くない)。
  • 劇中劇のとき、奈央と恵介が着替えて出てくるのだけど、髪型がそのままなのが気になった。帽子を被るとか何か工夫をしてほしかった。
  • 遙が最初制服で、次に白い衣装(ゆうれいの格好)になったのですが、その遙の想いはきちんと奈央に伝わったのかなという疑問が残る。
  • 音響が大きすぎて台詞をかき消してしまったところがあったのが残念。
  • 台詞を喋るとき、キーワードに気持ちを込めるあまり、それ以外の部分で聞こえにくくなっていた(編注:多分たくさん話してるようなシーンだと思う)。
  • 全般的には創作でよく頑張っていて、いい芝居ができていた。

甲府西高校「盤上の沖縄戦」

脚本:土屋百合香(生徒創作)、高須 敏江(顧問)
演出:甲府西高校演劇部
※創作脚本賞

あらすじと概要

囲碁部員のカズミのもとへやってきたマキ。マキは演劇部のために台本を書いていた。囲碁の勝負と、マキの台本の沖縄戦。その二つが交叉して……。

主観的感想

囲碁の「捨て石」をキーワード(着想)として、沖縄戦を劇中朗読劇として描いた作品。囲碁という着想はよかったと思うのですが。

途中「あたり」「ウッテガアシ」「シチョウ」などの囲碁用語が出てきて、それを結びつけて戦争を描いていく過程において、どうにも疑問を感じてしまいました。私自身は囲碁をたしなむのですが、それもあり囲碁としての意味と描きたいものにギャップを感じてしまいます。囲碁的な意味でも、戦争という意味でももっと精査する過程が必要だったのではないでしょうか。

要するに、観客に対して、それらの用語から結びつけられる戦争における現実が効果的に伝わったかということなのです。また、どうみても囲碁を実際に打っているようには見えない。今年の北部関東大会で上演されたナユタという作品では、将棋を道具として使い、将棋の記譜をきちんと覚えた上で本当に打っていました。そういう小さなリアルの積み重ねが演劇には必要です。

物語終盤における戦時中の中絶についてのテーマ。カズミが大反対するのですが(それは物語構成上必要なのですが)、その背景が全く描かれません。なぜそこまで固執したのか、その背景をきちんと描いてほしいです。それに加えこれで戦中のお産のお話で終わってしまい、捨て石というキーワードはどこに行ってしまったのかという印象を受けました。テーマは1つに絞って、途中でブレないことを気を付けましょう。

全体的に、ゆるみのない演技であり、力を張りすぎてお客を置いてきぼりにしたといえると思います。メリハリ、ゆるみについては全体感想にゆずります。着想が評価された(?)創作脚本賞ではあるものの、その全体的な完成度については疑問符を打たざるを得ないでしょう。しかしながら、全体を通して真面目な作りには好感を持ちましたし、(おそらく修学旅行か何かで感じた)沖縄戦争についての衝撃を伝えようとする必死な想いは充分伝わりました。それだけでも大きな意味があったと思います。

細かい点

  • 演技中2人の出演者が(現代シーンで)ずっと机を挟み横で向き合ってるのが気になった。変化を付けてほしかったというか、二人の間の関係というものが見えてこなかった。普段は友達? とかクラスメイトとか? 囲碁の都合上、対面で向き合うのは分かりますが、対面というのは敵対という心の関係を示すので、そういう配慮がほしかったところ。
  • 戦中の中絶の話について、カズミがキレるシーンにおいて、彼女が怒っているのは分かってるのだけどやや嘘っぽい。本当に怒ったときというのは、心の底からわき出す怒り、ふるえ(声や体に表れたりすることもある)というものがあるのですが、それがない。上辺で精一杯怒っている感じで、リアリティーがない。
  • 戦争シーンでの声だけの出演で「あかんぼうなんて」とか「気づかれるぞ」とかがあるのですが、声の戦中の緊迫感が全くありません。嘘っぽいです。
  • これら怒りや緊迫感の表現は非常に難しいのですが、でもきちんと役として人物の気持ちを作ってほしいなと思います。
  • 部室にしては広すぎるので、正面で範囲を絞ってこじんまりとした舞台をつくった方が作品に合っていたのでは?
  • バケツを使って雑巾がけするシーンが本当に水が入ってて、本当に水拭きしているようだった。非常によかった。

審査員の講評

【担当】内山勉 さん
  • 分かりやすく素直な芝居作り。
  • どんちょう前の携帯の入りもいい。
  • シンプルな白黒のセットもよかった。
  • マキか語ることで(劇中物語の)チヨの世界が作られるわけですが、音楽→照明→語りという順番だったので物語の構造が分かりにくくなっていて並列的になってしまった。マキか語ることで生まれる世界なのだから、まず語りが入るべきだったのでは。
  • 二人の掛け合いの中からチヨの世界が生まれるきっかけがあるべきなんだけども、なんでチヨの世界が生まれるのか、どうして次にいう台詞を思いついたのかといった心の衝動としての言葉がないためウソになってしまい、台本通りやっているという印象を受けた。
  • 碁盤の上の戦いからチヨの世界が生まれるという展開だと、ストーリーが生きたと思う。
  • スカートとトレパン、白の服と黒の服という色分けをしてキャラ立てしてた。
  • チヨの話は作られた話っぽくなく、実話なのかなって感じがした。でも物語上は作られた話であるわけで。
  • 上下(かみしも)のエリアが広すぎた。狭まった空間(部室)から、はみ出るという芝居がよかったのかな。

作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。