桐生南高校「ハムより薄い」

原作:逢坂 みえこ 『ベル・エポック』(YOUNG YOU漫画文庫・集英社刊)
脚色:青山 一也
演出:桐生南高校演劇部

※優秀賞(次点校)

あらすじ

32歳の独身女性5人が雑談をしている。最近あった話、結婚している人も居たり、結婚してない人も居たり。そんな雑談の中で喧嘩をして、やがて……。

脚本について

漫画原作ということで、どの程度原作通りなのかは謎ですが、まあでも青山先生の本だなーという印象でした。

主観的感想

女性5名がテーブルを囲み、雑談という形で劇は進行します。始まってまず、相変わらず聞き取りにくい人が……。紫(ゆかり)役か茜役かなー。声が被ってしまうと(まあ聞かせなくてよい台詞なのかもしれませんが)何だかよく分かりません。ダンスをしながらBGMと共に役者が場転をやってしまう荒業にはちょっくらしてやられました。そしてここも使っていた「2時間後」という台詞による時間経過。流行なのかな。

往年の男子がほとんど抜けて(新入生は居ますが)、女子メインのお芝居。桐南は地区公演を含めると何回見続けてるんだという感じですが、その中では一番の出来だったと思います。一歩間違えば危険な「止め」を積極的かつ意欲的に使っていて、間の使い方が非常に慎重でシリアスとギャグの間も使い分けていました。例年の詰め込みすぎから内容を若干少なめにして、その時間を間の処理に回してあり大変よかったです。昔から比べればどんなに進歩したことか、とか感じてしまってはダメなのかもしれませんが(苦笑)。

一部声質が似通って聞き取れないのは健在だったものの(これでも前から比べればずいぶん良くなった)、緑(みどり)の間延びした感じとか、去年から定着感のある葵役の勝ち気な性格とかよく出てました。逆に言えば、桃子はお嬢様キャラなんですがもっとお嬢様お嬢様していた方がよかったと思うし、紫役と茜役は人物像がかなり弱かったですね。音のつけかたや照明の処理はほぼ適切で(良くも悪くも普通)今年の桐南はやけに(装置が)簡素だなーと油断していたら、ラストシーンの夜の公園はなかなか凝っていました。

とまあ結構褒めましたが、じゃあいいとこだらけかと言うとそうでもなく。まず、間(止めを含む)の処理がまだ甘い。例年に比べたら大分良くなったし大体正しい間なんですが、いまいち微妙にずれてるんですよね。具体的にどれというのは難しいのですが。ここまで来ると、演じ手だけでは詰めるのは難しく演出が仕事(見て判断して指示を出すこと)しなきゃならないのですが。ここで大体いいやで終わらせるか、完璧に合うまで調整するかが最終的な質を大きく左右します。関東大会やその上を狙うなら必ずやってほしいと思います(他校にも言えることです)。

あと前半の回想シーンにおいて、女性5人中1名が席を離れ中央で男1名と共に回想の様子を上演するのですが、回想シーンの前に言葉で説明しているので何で回想しているのかよく分かりません。おまけに回想中に他の4人が、思い思いの行動をとっています。ここの処理が全く意味が分かりません。まず、前後の繋がりから想像するに言葉で話す代わりに回想シーンを挟んだものと思われますが、非常に伝わりにくい。「それがさ…」などの台詞と共に回想に入ればわかるのですが、それがない。しかも予め何があったか説明してから回想シーンに入るので、それだったら最初から全部説明してしまえばよかったのではないかと感じてしまいます。(事前に起こったことを大体説明しているので)あそこで回想シーンを構成する必然性が分からないのです(画面に変化を付けるという演出上の必然性はわかるのですが、それはお客には関係のないことです)。

また回想中に、残りの4人が思い思いの動作をしている点もかなり疑問が残ります。話の主軸の外で性格付けされた人物がそれぞれの行動をするのは大切です。大切ですが、ここのシーンは回想です。しかも言葉で説明しているシーンに代えた回想です。回想シーンに入る寸前まで仲良く話を聞いていた4人が、回想シーンに入った途端に話も聞かず思い思いの行動を始め、回想シーンから戻るとすぐに回想シーン内の出来事に言及し興味深そうにわいわいと会話を続けることの不自然さが分かりますか? 結局残り4人は話を聞いてたのですか、聞いてなかったのですか? こんなことは演出がきちんと居ればすぐに気づけたはずです。

さて話の方ですが、茜と紫かな(記憶曖昧)が喧嘩して紫が出て行ってしまうのですが、そのあとで紫とその家族の回想シーンを挟みます。このシーンは、紫が実は結婚できないことを家族から言われ抑圧されていたという腹を立てた理由付けに相当するものなんですが、それがまた観客に対して真に伝わって来ません。むしろシーン自体が取って付けた感じがして、そこを端折って公園シーンに飛ばすか(そこで出せば済むでしょう)、それより前の雑談の中に伏線として折り込んだ方がいいように感じました(むしろ両方ですね)。

その他、5人がずっと出ずっぱりなので変化が乏しいのが気になりました。演劇という特性上、人の出入りはどうしても必要てす。お茶を汲みに行くのでも、トイレでも、遅刻しているでも、人の出入りがないのは寂しかったと思います。ラストのオチは、女の友情はハムより薄いということなんですが、その辺も押しがいまいち甘い。少し投げっぱなし感があり、オチとして完全に締めるか、この先を想像させるか、そういう含みがほしいと感じました。

【全体的に】

桐生南は何回も見ているだけに長文になってしまいましたが(しかもかなり辛口になってしまいましたが)、観てきた中では一番出来が良かったと思うし、面白かったには面白かったです(だから優秀賞をもらったのでしょう)。実際会場も結構笑っていましたし、あっというまに60分過ぎ去って魅入ってしまいました。でもさらに上を目指すならば、やっぱりこの辺はクリアしていかないとなあとも思います。

※顧問の先生による簡単な評はここで読めます

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 32歳の独身女性5人。高校生には難しい役で、よく頑張っていたけどもう一歩というところ。32歳にしては少し元気すぎる感じがして、リアルな32歳というのはもっとけだるさみたいのがあると思う。あのテンションの高さで話す32歳は居ないよなーと感じて惜しかった。
  • 酔っぱらったり、見合いした経験はないはずなのにがんばって演じていた。
  • 全体的にはよく作ってあって、ダンスを使った暗転やブルー暗転など考えられていた。
  • 音響は少しうるさすぎた。ちょっと耳障りかなと思った。
  • 女の友情はハムより薄いという漫画ベースで脚色してある台本だけど、台本をよく読んで研究して演じていた。おつかれさまでした。

前橋南高校「コックと窓ふきとねこのいない時間」

作:佃 典彦
演出:(表記なし)

※最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

猫のビッシースミスお抱えのコックは、ビッシースミスさまの帰りを何年も待っていた。そこにやってきた女と、その様子を眺める窓ふき。そんな3人が繰り広げるやりとりと、やがて明かされるビッシーの真相は……。

脚本について

1993年にB級遊撃隊という劇団により上演された劇のようです。→参考資料。いかもにプロの作風で、テーマや物語や笑いに主軸を置きがちな高校演劇創作とはひと味もふた味も違います。

主観的感想

四月当初、我が演劇部は1人しかいませんでした。新入生も1人も入りませんでした。気の毒に思った男2人が手をさしのべたのが運の尽きで、今こうしてなんとか劇として成り立つところまで持ってくることができました。素人の男ばかり3人で見苦しい点もございましょうが――(以下略)

以上、上演パンフレットより引用。開幕直後、どこが素人ですかという驚きの演技力をみせました。男ばかり3人ということからも分かるとおり、女役を女装でやっています。全体にシリアスな劇でありながら、本当に演技力だけでみせたという凄さには乾杯です。本当に素人のなせる技なのか、顧問の力なのか真相は闇の中ですが、役の読みこなしが大変優れています。言葉だけでなく動作や動きで表現するなど、演じるということの本質を実に的確に抑えていて、まさにそこに居る登場人物という絵も言われるリアリティがあります。

とかいいながら、恥ずかしながら優勝するなんてこれっぽっちも思っていませんでした。部員数が少ないということで、昨年度関東大会の松本筑摩高校(部員2名)を否応でも思い出して比べてしまったのですが、装置がいまいち。舞台はビッシースミスの部屋という設定ですが、舞台を広く使っているために物と物の間に必要以上の空間が出来て散漫な感じです。また窓ガラスも入ってなく、小道具も少なく、もう少しどうにかしてほしいところ(欲をいえばやっぱり部屋はパネルで囲ってほしいです。→舞台装置を作り込むときに変にリアルに作りすぎるとこの劇には合わないので注意が必要ですが)。

また、最大の問題はやはり台詞の間です。掛け合いシーンでの台詞と台詞の間がわずかに早いのです。一時的なものかと気になって、ずっと間を注意して聞いてたんですがやっぱり全部早い。相手の台詞に反応して、心の動きが起き、その反応(リアクション)としての言葉の返答(台詞)を発するべきなのですが、そこが若干早い。演技自体はかなりのものであるだけに、一度気になり出すと気になって気になって仕方ありませんでした。現在の状態で間を適切に取るともしかすると上演時間をオーバーしてしまうかもしれませんが、逆に言えばそこをきちんとしない限り関東大会は突破は難しいと思います。

あと女子が居ないために、男が女装として女を真面目に演じる潔さはとても好感を持ちました。最初は飾り気のない簡素な上着と簡素なスカート(手作りかな?)で、すぐにピンクのジャージ姿に着替えるのですが、着替える意味がわかりません。女装を真面目にするんだったら、ウィッグを付けて化粧をしなければならないのと同じレベルで女性としての記号であるスカートを脱いじゃいけません。ただでさえ高校演劇に置いては女装は笑いネタとして使いやすいのですから、真面目にやっているということを示すためにも、活用出来る記号は最大限活用すべきです(もちろん変にならない範囲で)。着替えないのはもちろんのこと、できれば元々の服装を多少飾り気のあるそれらしい作りにして、服としての質をよりあげてほしいと思います。多分、ウィッグが落ちてしまわないようヘアバンドをするために、それに合った服装に着替えたのだと思いますが、ウィッグはいくらでも別の方法で固定できるはずですよ。

その他、ラストの幕を降ろすのが若干遅かったのが気になりました。

【全体的に】

ほんとに演技が上手かったの一言に尽きると思います。さすがに部員不足からか、他の装置やらには手が回りきっていませんが、次は関東大会ですからその辺のクオリティーもあげて関東の上を目指してほしいと思います。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • 非常に面白かった。3人しかキャストが居ない中で1人1人が誠実に役を演じていた。
  • 女装して笑いをとったり、女装した人物そのものに話のスポットが当たったりと、演劇における女装はあざといものが多いのですか、女性そのものを実に誠実に演じていたと思う。
  • コックは理性があって猫を待っているという気品があり、その様子が最初から最後までブレなかった。そしてそんなコックと他の二人の間で自然と笑いが起こる。
  • 本当はもっと狭い空間の方がよかったのかな。
  • どの登場人物も、昔はどんな人だったんだろうとか過去とかを感じるリアリティがあった。
  • フランスパンをコックと女がまわして食べるシーンは官能的だった。
  • ビッシースミスのためにコックがメニューを書くときの至福感がよく表現されていた。
  • それだけに途中コックが台詞をとちったのは勿体なかった。
  • 音響は音量が適切だった。
  • ラスの照明が居ない猫に話しかけているコックの様子をうまくかもし出していた。

関東学園大学附属高校「砂の城 ~彼女が僕に勇気をくれた」

作:中島 清志
潤色:関東学園附属高校演劇部
演出:(表記なし)

あらすじ

授業をサボって海辺にやってきた少年「勇気」のもとに魔女が現れる。その魔女は間違えてその少年の寿命を縮めてしまったという。それを修正するためには、少年「勇気」は少女「勇気」が手術を受けないように説得しなければならない。少年「勇気」と少女「勇気」のどちらかしか助からないのだという。そうして浜辺で会う少年「勇気」と少女「勇気」。二人は気持ちの交流をはじめ、やがて手術前日になり……。

脚本について

はりこのトラの穴掲載作品。見た印象からして、はりこだろうなーと思ったらやっぱりその通りでした。作りが高校演劇でよくある感じです。と思ったら地区大会上演ビデオの作者さんのレビューが。当たり前ですが、すごい的得てます。

主観的感想

最初のシーン、波音と台詞がかぶって声がきこえない。音響はアッタクだけ(音の最初だけ)大きく聞かせれば、あとは徐々にボリューム(フェーダー)を下げても大丈夫なのです。またギャグのシーンでBGMを少しかけるのですが、その後徐々にフェードアウトしている。そういう場面では区切りをつけるためカットアウト(ボリュームを急に下げる)の方が適切だと思います。

劇序盤に、魔女が「まあまあ、劇ってこういう所が面白いんだから」という台詞があるのですが、「劇」という単語を使った時点で観客は現実に戻されるということがまったく配慮されていません。全編通してそういう一歩引いたタッチならばわかりますが、ことシリアスな題材にはかなり不適切だと思います。例え台本に書いてあっても、自分たちで判断して削らないとダメです。

かなりキツい意見になってしまいますが、勇気(少年)の演技がいまいちです。頑張ってはいるのですが、この本において主役に要求される演技レベルは非常に高く、「自分の命と少女の命を天秤にかける迷いや苦悩」が滲み出なければならないのに、そこが出ていません。それを言ってしまえば、魔女、少女、その母親も、誰一人として表に出さない苦悩らしきものが演技から伺えませんでした(いや、少女は多少出てたかな)。与えられた役の情況を自分自身に置き換えて、どんな気持ちになるかということをもっとよく考え、ときには部員みんなで議論をし、役をきちんと作ることが大切です。

さて開始20分間、永遠と魔女と勇気少年のやり取りが続くわけですが、その時点で話の方向性がまったく見えずかなり眠くなってきます。実際、会場内で何人も寝ているお客さんが居ました。この辺は、地区大会で指摘されているにも関わらず本を修正しなかったことが最大の敗因でしょう。シナリオを書かれた方にも指摘されているのに。

【全体的に】

命というものに真正面から取り組んだ劇なんですが、それにしてはシナリオにいくらかの難があり、それにも増してドラマを演出するという視点が完全に抜け落ちたために悲惨な状況になってしまいました。テーマに対して演じ手の技量が不足したと言ってしまえばそれまでなのですが、同時に「では具体的にどうしたら良かったのか」という問いかけには非常に答えにくいものがあります。それぐらい難しいテーマです。

ちょっとキツくなりすぎてしまいましたが、そこまで酷いかと言うとそうでもなく。基礎的な演技力はきちんとあるのですから、もう少し「シナリオを読む」という作業(練習)をするだけで、より上達するのではないかと思います(県大会突破を狙えるぐらいに)。あと、勇気少女は設定上小学生なのですが、声がものすごく小学生しててよかったです。音響の方は、そこそこ適切に処理され、波音などよくムードがでていました。シリアスシーンでBGMに逃げる場面もありましたが、そこまで気になるほどではなかったように思います(ベストではありませんが)。

審査員の講評

【担当】ヨシダ 朝 さん
  • 台本を読んだとき「グッ」とくる泣かせる芝居だと思った。例えば、見に行った時、それを見てない友人に説明して一言で言える芝居ってつまらない芝居だけども、「実際にみなきゃ分からないよ」と言える芝居がいい芝居で、これはそういう種類の芝居だと思う。
  • 台本で読んで、魔女と勇気少年のコントが長いのではないかと思ったが、実際に見てやっぱり長いなと思った。テーマからして最初にやわらかいコントでお客さんを引き付けておくのは正しいのだけど、15分ぐらいあってせめて7~8分ぐらいにしてほしかった。観客として何が言いたいのかわからず、なかなか本題に入らないというジレがあった。
  • 波音がやってくるのと砂のお城が崩れるタイミングがシンクロしない。水をかぶる芝居もなかった。(編補足:そういう細かいことを表現することで、)本当は見えない波や砂の城が見えてくる。
  • キャラクターの作り方をもっと丁寧に。例えば(少女勇気の)お母さん。子供が心臓病なのだから、(子供が死んでしまうかもしれない)手術が近づくにつれ、少しずつ緊迫感が増すなど雰囲気を出してほしかった。そういう細かい役作りをすることは大事。
  • 最後の手術失敗の時、お母さんが「安らかな寝顔でした」というのだけど、それは言わなくても伝わったのではないか。むしろ言わない方が伝わったのではないか。言わずに少女勇気の手紙を読むことで、お客の想像が膨らんだのではないか。
  • 最初のコントとあとのギャップの、それぞれの部分をきちんと作りましょう。

新島学園高校「桜井家の掟」

作:阿部 順
演出:新島学園演劇部

※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

桜井家の4人姉妹の元へ、次女の蘭が彼氏を連れてくるという。乙女を夢見る長女夏実、ワルな感じの次女蘭、食べるの大好きな三女の杏、なんでも言ってしまう四女真希という個性豊かな姉妹劇(家族劇)。連れてくる彼氏にビクビクする夏実と杏。しかし、光一はごく普通の男子だった。ほっとしたその彼の前で、突然真希は「自分たちの親は離婚して、今週いっぱいで離ればなれになる」と告げる。

脚本について

2002年度に行われた第48回全国高等学校演劇大会で千葉県立薬園台高校が上演した優秀賞受賞作。高校演劇Selection 2003下収録

主観的感想

毎年毎年、変に小難しい台本を選んでは失敗してきた感がある新島ですが、今年は新島に合った(注:見下しているのでなく、過去の地区公演を見る限り気質として合っていると思う)台本でドタバタコメディ。掛け合いの間や登場人物の個性付けなど、非常によく出来てました。まあ、ほとんど地区公演の修学旅行と被る人物と配役だったような気もしますが、その意味でも余計役作りはしやすかったのではないかと思います。非常に面白かったです。

前半、少しだけ間か詰まっている(ほんのちょっと間がほしい)と感じる場面はありましたが、全体的にいい掛け合い(間)をしていました。掛け合いの妙(テンポ作りなど)はさすがです。途中、三女(か四女)のほほを叩くシーンでスローモーションで暗転したのですが、あれは意味がわかりませんでした。遊び心としては好きですが、あまり効果的な演出ではなかったように思います。

装置は部屋をきちんと作ってきていてさすが。ただ扉が若干ぐらついていたのが気になりました。講評によると、あれだけ激しく扱ってもびくつかないのは大変な労力ということですが、でも少しグラついてしまったのが残念。また階段の部分がセットで切れ目になっているのですが、階段を挟んで舞台奥側と手前側に隙間が見えるのが残念でした。奥側にもう1枚パネルをおいてほしいと思います。

さてここまではいいのですが、相も変わらず新島の問題はテーマとその解釈(演出)です。毎年のように演出不在の新島は、例年全編を通して何かの1つのテーマを描くということが大変苦手で、今回の家族劇というニュアンスで劇をみたときに光一の存在がどっちつかずになっています。姉妹劇(家族劇)なのに話の中心、スポットは常に「蘭とその彼である光一」に当たっているわけで、「あくまで4姉妹が主役なんだ」という主張(演出)がまるで見えてこないのです。ラストシーンで姉妹みんなでケーキを食べ、それをバックから(姉妹の)親とおぼしき人影が見つめるのですが、その前のシーンでは光一が居るのに、最後の最後で奥(台所?)に引っ込んでいて出てこない。なぜ出てこないんだという疑問と共に、このラストシーンに来てようやく主役は4人姉妹だということが分かるのです。逆に言えば、最後にそのシーンをみないと主役がどっちだか分からないのです。

ラストシーン前では、彼氏(光一)のことは噂させる程度にしておくべきだったのではないかと思います(引っ越しの手伝いには来ているけど何か買い出しに言ってるとか、用事で帰ったとか)。

【全体的に】

音の処理や光の処理はさすが新島という感じで、安定感がありました。演技や舞台装置、その他すべてを含め本当に安定した作りになっていると思います。とにかく間の使い方が適切で、他校にはぜひ参考にしてほしいと感じました。地区公演と違い作り込んでいる様子で(逆に言えば地区公演は若干手抜き感があるわけですが……)、全体の作りはさすがでした。

これだけ実力があれば、あと必要なものはテーマの解釈とその演出なんですけどね……。これ、地区公演含め昔から何度となく書いてきている割に進歩がないのでダメかもしれませんが(である限り関東突破もダメだと思いますが)。参考までに、検索して見つけた青山先生の評はこちら。私より的確でしょう。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • この作品は全国大会の台本だと後で知った。既成本でも、地元地名を取り入れ丁寧に作り込んでいた。
  • 時計の針が進んでいたり、カレンダーに×が増えたり、取り外したものの跡が残っていたり、最後のケーキがリアルだったりと、細かいところまで手を抜かず非常に丁寧な作りだったと思う。
  • 照明、音響、装置なども適切でよく作ってあった。
  • 窓があってその向こうにキャラクターの細部まで見えたのはすごい。
  • 四人姉妹が姉は姉として、妹は妹としてキャラが立っていた。
  • 光一の母の豹変ぶりとか、こっちの度肝を抜くような、かといって違和感を感じることもない全体的なアンサンブルの良さはさすがだった。
  • 光一の父がフィリピンパブの人と電話するシーンでは、さわやかすぎた感じがする。もっとギトギトした感じが出てもよかったのではないか。
  • 今後の4人姉妹を想像させる、よくい作品。
  • 欲を言えば、声が重なるところなどでそれぞれの役者がもう少し声が出たりパワーが出たりするとよかったかな(編注:記憶曖昧)。
  • あとカナヅチ、ノコギリとかは(編注:視覚的に)もっと分かりやすい方がよかった。

麻布大学付属渕野辺高校「幕末ジャイアンツ」

脚本:四海大
潤色:佐藤 栄一(顧問)
演出:江花 明里
※優秀賞

あらすじと概要

幕末の坂本竜馬。米国人とベースボールで戦うために、大久保利通、新撰組3名、西郷隆盛などとベースボールチームを結成し、一生懸命勝負するのだけど。

主観的感想

誰しも知ってる幕末の有名人がずらりと勢揃いして、ベースボースをするドタバタコメディ。前々からよく見かける作品で気になっていましたが、初めて観ました。主役9人中8人男子が演じる非常に勢いのある劇で、大変面白かったと思います。

パンフレットによると「みどころは迫力と殺陣」だそうですが、その殺陣がなぁ……。動きにキレがないんですよ。動作の美とでもいいましょうか。キレというのは静と動、「動作前の停止」と「動作中の動き」と「動作後の停止」、この3つがあって初めて成り立つものなのです。この3つを明確に演じなきゃいけないのですが、出来ていません。そして刀は金属(鉄)ですからもっと重いんですよ、絶対軽そうに持ってはいけません。こう言っては悪いかも知れませんが、大勢の「勢い」で誤魔化しているという印象でした。

これは劇全体にも言えることで、9人がよく合わせてリアクションを取るというコメディの基本ができており笑いも起こっているのですが、勢いに重点を置きすぎるあまり「間」が手抜かりになっています。必要な「間」まで早い(必要な止めもない)。同じことで、大勢しゃべることで必要な台詞が聞き取れないこともあり、ここも誤魔化した印象を受けました。

ただそれだけ勢いに重点をおいただけあり、テンポの良い笑いと、個々人のキャラクター付けなどを使って(もう少し人物像をつくった方がいい役もありましたが)、面白く仕立てていました。野球シーンで横を向き合って処理しそうなところを、打ち手も投げ手も正面を向けて処理したのはよかったと思います。

ラストは、再び敵同士みたいな終わり方でしたが、もうちょっと哀愁が出てもよかったかなとも思います。尺の問題もあるのでしょうが(元台本は2時間らしいので)、最初の敵同士と最後の敵同士の対比を意識して描くとか少し配慮がほしかったなと感じました。

細かい点

  • BGMが若干余計かなーと思いました。シリアスシーンのピアノ。
  • 木製バットなのに打った音が金属バッドだったり、ラストの9回裏のいいシーンで打ったときのSEがなかったり、その辺の処理が若干いい加減に感じました。
  • 全体的に巻きという感じで、もう少し間を使って演技してほしかったかな。

審査員の講評

【担当】中澤武志 さん
  • 途中までメモを取らずに「うわぁー面白れーなー」と思って観てた。面白かったです。
  • 出てくる人物は、すべて歴史上の有名な人物で、各自が持っているその人物のイメージを壊しながら進んでいくのが面白かった。
  • 集団のエネルギーはすごかった。
  • 竜馬のしゃべりが早く、台詞の意味を理解する前に「うわぁー」ってクションで動いてしまいそのシーンが流れてしまっている。(全体的に)どういう状況で、誰に向かって、どういう心情で話しているのかが見えてこなかった。
  • 刀って相当重いので、刀を挿したまま走るときは腰を落とす。袴や帯に刀を挿すということもない。
  • 台本で、所々歴史的事実を使っているところが本当にいいのかなーと思った(編注:架空なら架空で進んだ方がどっち付かずにならず良かったのではないかということではないかと思う)。
  • ベースボールシーンで盛り上がっておわってしまってもよかったかな。
  • とりかくエネルギッシュで面白かった。