大泉高校「パラれ・夢!!!」

作:中村 ひかり(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

パラパラ同好会は部員が少なく廃部寸前。1年生獲得のためにも、部活紹介になんとしても参加したい。ところが、生徒会は先生の命により同好会を端からつぶそうとしていて、残すはパラパラ同好会だけに。サークル見学に来る1年生と、それを邪魔する生徒会。パラパラ同好会は無事部活紹介に参加し、1年生を獲得できるのか?

主観的感想

【脚本について】

登場人物はそのままに、大泉高校もそのままで、パラパラ同好会という架空の同好会を中心に繰り広げられる、私達の私達による私達のための作品です。

以上パンフレットより。配役そのものが本名で、架空の同好会を置いて作って演劇です。昔関学がやったような、活きの良さがある本。話運びも構成もベタベタの王道ですが、だからこそ「そういう元気さ」が基本となる本で、構成についてどうのというのはありません。

台詞回しなども、元の人物の性格を前提とした配役と思われ、特に無理もなく、結果いかにも高校演劇らしい舞台となっていますが、それはそれでいいのではないかと思います。

【劇について】

まずスタートしてタイトルと作者紹介も終わらないうちに幕を上げ始める。おいおい。そして最初の暗転に入るときも、突然照明が切れるという感じで、おいおい。時間ギリギリなのかもしれませんが焦りすぎです。登場人物が早口で話すのですが、早口をするには滑舌が悪い感じです。そして舞台装置。部室なんだから狭くしてほしいなー。しかも上手と下手と奥の幕の切れの3箇所から人が出入りしているので、一体この部屋はどういう構造なんだ? という疑問で一杯。パラパラ同好会部室が、ホワイトボードを回転させたり、装置の一部を回転させることで生徒会室になるのは上手かったと思います。

BGMを結構多用するのですが大きすぎてよく聞こえません。最初だけ大きく聞こえるようにしてボリュームをしぼる、または中域のレベルを下げて声を聞こえやすくするという手もあります(ミキサーにイコライザが付いているはずです)。生徒会長が「いい子をやってきたけど、パラパラ同好会にかけてみよう」というラスト付近のシーン。その後のシーンでBGMは不要ですし声も聞こえません。音楽で誤魔化しちゃいけません、演技でみせてください。

ラストシーンはカタルシスで、ある意味お涙シーンになっています。ここに至る作りはベタなりによく出来ていたし、ウルっときた人も結構居たとおもうのですが、その重要なキーパーソンである「踊れない踊れないよく分からない」と連呼していた「ともみ」がラストシーンのパラパラをきちんと楽しそうに踊れているのは大問題でしょう。せっかくのラストシーンが台無しです。あそこは、ぎこちなさそうに照れながら、それでも精一杯に踊るシーンです。

細かいところで、携帯電話の音をリアルに使っているのとか、天井スポット(サス)を使う際に少し下がったところとかそういう配慮はされていました。

【全体的に】

作りが粗っぽく、良くも悪くも愉快で楽しい高校演劇でありそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。しかし、ベタベタでありながら涙を誘う作りは大した物だったと思います。その点、よく出来ていました。

ただ芝居としてみたとき、とりあえずもう少し演劇らしい本を選んでやってみてくださいとしか言いようがありません。演劇は観客に向けて上演するもの(媒体)ですから、パンフレットにあるように自分たちが楽しければいいではこれ以上はどうしょうしもないのです。自分たちが楽しむことは創作としての基本精神ですが、自分たちが楽しむためにやることは間違えです。劇を通して伝えたかったことはなんですか? リアルな自分たちの持つ空気感や想い、そして日常を描きたかったのではないですか? それは十分に伝わりましたか?

日常の自分たちを伝えるために、自分たち自身をリアルに描くのだったら、そもそも丸1日ビデオで撮影すれば終わる話なんですよ。そんな押し付けでは伝わらないから演劇という言葉があり、役者が居て物語があるのです。描きたい想いを純化させ丹念に物語りとして紡ぎ、それを役者と共に丁寧に解釈し伝えるための工夫をすることで初めて伝わるし演劇として成り立つのです。難しい話に聞こえるかもしれませんが、伝えるということをもう一度考え直してほしいなと思った演劇でした。基礎的な演劇の力は充分にあるのですから。

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 先ほど桐生南高校は32歳の独身女性を演じていましたが、では等身大の大泉高校生を演じるのは楽だったかと考えると、決してそうではなかったように思います。
  • パラパラ、もう少し練習できてたらよかったなと感じました。
  • それぞれの個性が出ていて、ラストでみんなの成長を想像できた。
  • 大泉高校に本当にパラパラ同好会があったらどうなったかなと想像させてよかったと思います。
  • 女子高生は特に、興奮して話すと何だかよく聞き取れないので、その辺配所してほしかった。
  • 仲間割れとかよくある話で、全体として味のある演劇でした。