太田フレックス高校「先生、放課後って何時までですか?」

作:大渕秀代(顧問創作)
演出:川島 慎之介・大野 愛・深野 綾香
※創作脚本賞

あらすじ・概要

先生が校内を見回りしていると、校内で生活している女子生徒(神倉)を発見する。親に連絡するとしばらく来れないという。教師3人、職員室で待つのだが、ふとした物音から校内を探すと他にも校内で生活している生徒を数人見つけるのだった……。

基本一幕ものの、顧問創作台本。

感想

よく出来た台本です(創作脚本賞の是非については個人的に悩ましいところではありますが)。幕が開いて、3方を取り囲むようにパネル。下半分が茶色で上半分が白く塗られています。部屋らしさが十分出ています。高さもしっかり8尺あり(パネル1枚の高さ6尺だとやや低い)よくできています。中央左よりに広く窓がありカーテンが引かれ、手前にソファーが置かれその奥にあい向かいの教師卓、右手に木製テーブルとパイプ椅子が5~6個。右手の壁に木製の扉があります。とてもよく出来た部屋なのですが、どこなのかよく分かりません。第3職員室だそうですが、くつろげる部屋に教卓が置かれているという感じで、あまり職員室っぽさがない。たしかに現実には、こういう名ばかりの職員室もあるのですが。せめて木製の茶色い扉を、普通の職員室等で使う扉(白塗り+ガラス窓)にすれば違ってみえたように思います。もうひとつ、扉が開いたとき、パネルの立て付けが見えてしまうのはマイナスでした(舞台という幻想から現実に引き戻されてしまう=冷めてしまう)。

まず凄いなと思ったのが先生役3人が、きちんと先生に見えたこと。発声(や体格)もあるのでしょうが、やっぱりしっかりとした立ち居振る舞いが出来ていたおかげでしょう。とても良かったと思います。生徒たちを迎えに来る親も親っぽくなっていました。努力の成果だと思います。生徒たちも大勢でてきて、ドタバタとした非常に楽しい劇になっていました。進行と関係なく自分勝手に動き回る生徒とか、そういう個性もしっかり出ていたと思います。

特におどろいたのが神倉役でした。ラストシーン付近までほとんど無口で、親が迎えに来ていよいよ物語終演ということろで、堰(せき)を切ったように話し始めます。もうパニック気味に、泣きわめきながら頭の中を駆けめぐるよく分からない考えをそのまま口に出そうとする、とんでもなく難しい演技なんですが、うまかった。本当に泣いていたし(涙云々ではなく気持ちが)、本当にわめいていたし、その演技は舌を巻くほどでした。過去様々な泣きわめき演技を観てきましたが、これだけ上手いのは初めてです。

絶賛した後ですが、このシーン自体にはやや無理があります。迎えに来た母親に対して、なんで分かってくれないの!? という対立と悲鳴なのですが、その驚愕の演技力に支えられてはいてもここは独白であって、しかも前フリ(伏線)がない。ほとんど子供の面倒をみない嫌な(神倉の)母親というのはそのシーンでいきなり表現されるし、教師が巻き込まれた1日というリアリズムとして確かに伏線を置くことの無理が生じやすいのですが、そこは創作であって演劇。何故伏線を張らなかったのかとなる。

正直言って本作の最大の問題は台本にあると思っています。本の完成度も、よく出来た本であることも否定はしません。けれども、本作は教師たちが生徒たちに巻き込まれ、徹夜で色々な問題に否応なく付き合わされて、すべてを解決したら朝を迎えたという物語です。その最大の問題は神倉という生徒であって、朝方まで迎えに来ない神倉の母親です。そこから受ける迷惑というものが、一体どれだけ描かれているでしょうか。観客は神倉という娘の気持ちをこれっぽっちも理解できないし、抱えていた問題もまったく分かりません。……これじゃ落ちないでしょ? 大団円にならないでしょ? この本の構成上、神倉と母親の和解にカタルシスを感じないと(ほっとした気持ちになれないと)劇が終わらないし、ほっとしてもらうには「神倉は最後どうなっちゃうの」という緊張を事前に観客に与えなければならないんですよね。

全体的に

ものすごく情熱をもって劇全体が作られていたし面白かったと思います。教師は教師らしく、大人は大人らしく、生徒はまた生徒らしく、みんなきちんと個性をもって、それでいてきちんと演じられていました。本当にとっても良かった。

それだけに本は残念で(本を書いた)顧問の先生には大変申し訳ないのですが、この本は視点が教師なんですよね。色々なことあって巻き込まれた「教師の1日」であって「教師に見つかってしまった生徒の1日」じゃない。些細なのことなんだけど、大きな違いで、これ多分生徒からみたらそんなに面白くないですよ。

神倉役をベタ褒めしましたが、この演劇はそのラストシーン以外の印象がほとんどありません。神倉は、その前までの演技では何も語りませんでした。そういう意味ではとっても残念。言葉を使わなくても、身体で表現出来ることは言葉以上にたくさんあります。教師役もですが、もっと台本に解釈を加えて演じたらよかったんじゃないかな。教師たちは、神倉に対してどう思っているんだろう。心配なのかな、帰りが遅くなって邪魔だと思っているのかな、普段に問題のない生徒なのに何があったと心配になっているのかな、○○先生と一緒に残れて嬉しいと思っているのかな(下心)とか。神倉は見つかってしまったことをどう思っているんだろう。どんな気持ちで何日も学校に泊まっていたんだろう。そういうことに丁寧に気を配ってほしかった。それをするだけの実力はあると思うのです。表現する場面が必要なら、台詞やシーンを変えてでも、表現してほしかったと思います。

最後になりましたが、なんだかんだ言ってもよく出来ていた劇だと思います。情熱の入った舞台で、入賞しても不思議ではないと思っていました。

大泉高校「お部屋探し」

作:江原慎太郎(顧問創作)
演出:(表記なし)

あらすじ・概要

初夏、場所は大学生協。そこではこの時期になっても下宿部屋が決まらない3人の学生が。一人は大きな和太鼓を置く部屋がほしいという。もう一人コドモオオトカゲ(全長1m~3m)を飼いたいという。そこへ訪れたヨシダは、ほんの出来心で「みんなで一緒に住めばいい」と言うのだが。

感想

幕上がり、左手に扉のある白いパネル(高さ8尺)、水平になり右手までパネル(高さ6尺)。手抜きしないで8尺で統一してほしかった。左手に、壁に2方机にもう2方を囲まれたカウンターがありPCが置かれ、中に職員一人。中央のパネルにグリーンの掲示板、右手にスクール棚があり中に色とりどりのファイル。右手にホワイトボードで手前に机。ムードがよく出ていました。特にファイルが置かれていたのがそれっぽかったと思います。

ハイテンションでわいわいぎゃーぎゃーと部屋についてモメる3人と、それを無理矢理でもまとめようとするヨシダ。それを傍観者として完全に楽しんでいる職員。これらが織りなすハイテンションコメディが楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。もう3人は早口で何言ってるか分からないぐらいなのですが(ほとんどの台詞はきちんと聞き取れる)、何言っているかわからないぐらいのテンションというリアルがありました。早回し(早口)と、それにヨシダが口を挟んで「場が止まる」(止め)の行き来かがものすごく上手く演じられていて、とっても面白かった。間(止め)の使い方が秀逸すぎるぐらい秀逸。最初のややポカーンという印象から、だんだんツボにハマリ、観客をグイグイと引き込んでいきます。

登場人物の服の色を意識して変えてあり、また(台詞上の)性格付けもしっかりしていて、やっていることはハチャメチャで。さあどうなるんだとなったところで一緒に住む話がボツになりそうになって、ヨシダが焦り初める。「なぜ、みんなで一緒に住もうと思ったのか」が語られ大団円。コメディーからシリアスへ流れて落ちる典型であり、うまくできていました。シリアスシーンでも「止め」がとても冴えていました。あの会場の静寂感は忘れられません。

気になったところ。ホワイトボードで、ホワイトボードに書くシーンがありますが、ぜんぜん見えません。赤字は特に見えませんでした。極太の水性マジックを使えばまだ見えると思うのですが(もしすでに使っていたらごめんなさい)。

全体的に

非常に面白い公演で入賞しないのが不思議なぐらいでした。同じように感じた人もたくさんいるんじゃないかな。上演時間1分オーバーしたように感じたので(たぶん)、それが入賞しなかった原因でしょうか。また脚本賞をとっても不思議じゃなかったと思います(「放課後~」の方がウケがいいのは分かりますが……)。

楽しんで演じられていることが非常によく伝わってきて、本当に良かったと思います。講評では、ヨシダの「一緒に住もうと思った理由」に前フリがないこと、理由の弱さが指摘されていました。残念ながら指摘は的を射ていて、たしかに納得はできませんし、それもあり上演後に「絶対入賞」とも思えなかった。しかしギャグものと考えれば今の劇は十分アリです。

本作を観て思い出したのは、2003年の県大会で上演された堅ゆでたまごの中へという演劇でした。ハードボイルドという設定で、事件解決(謎追究)をするのですが、全編がギャグでオチまでギャグという会場大爆笑の演劇で、優秀賞を取りました。最優秀賞ではなかった。本作の「お部屋探し」も全編ギャグものです。上演後にまず「とても面白かった」のですが、面白かった(笑った)という印象以上のものを残すことが難しいとも感じました。それが高校演劇関東大会という枠の中ではたまたま評価されなかったと考えると良いと思います。とってもよく出来ていたし、県大会を突破できなかったと落ち込む必要は何一つありません。たまたま評価されなかった、アンラッキーと思えばいい。上演は非常に面白かったし、完成度も完璧に近かった。個人的には最優秀賞です。自信をもっていい。

蛇足

たしかに高校演劇コンクールでは、高校生『らしさ』のある作品が受ける傾向にあります。ギャグでも良いのですが、何かしら主題が描かれたもの。それはたしかに物語構成として重要な要素です。オチに対する伏線の弱さを指摘する講評も理解はできます。ですが、本作は言ってみれば「とにかく面白く」を狙って作られたものであって、そこに最後落とすためのラストを付けたものです。なまじ、そこがシリアスな内容だったために伏線不足や取って付けたという点を指摘されたのだと思いますが、そこすらもギャグとして片付けてしまう(ぶっ飛ばしてしまう)という手はあったと思います。コンクールとして入賞するかは別問題になるでしょうが、少なくともオチが云々と言われることはないと思います。

それにしても、これはやっぱり台本が読みたいな。