伊勢崎清明高校「くまむしくらぶ」

作:小野里康則(顧問創作)
演出:(表記なし)

あらすじ・概要

小学生の啓太はお風呂場に閉じこもっていた。飲まず食わずでクマムシになりたいと言っている。母親と従姉妹の仁で外に出るようにあれこれ工作するのだけど……。

※クマムシは炭化することで宇宙空間でも生きていける地上最強の生物と劇中で説明されています。

感想

舞台上、中央奥に何かあるなと思ったらどうやら風呂桶らしい(風呂桶と分かりませんでした)。棚とも椅子ともとれる装置が左右に2~3配置されている質素な舞台です。奥手が風呂場で、手前が部屋という設定みたいでした。場面転換によって右手側は学校の教室になったりしました。風呂場に閉じこもること(その風呂場から出てくること)が物語上の鍵なのですから、もう少し風呂場を意識させるセットを期待したいなと感じてしまいました。装置に扉を用意しろ労力をかけろと言っているのではなく、場所と空間の距離感を照明やちょっとした飾り、見えない壁といってものでみせる(パントマイムの意味にあらず)ことで十分提示することはできたのではないかと思います(たぶん、手前と奥で遠近法により大きさの差を出したかったのだと思いますが)。

演技は一生懸命されていました。よかったと思います。ですが一生懸命で頑張りすぎてしまった印象があります。声を客席に届けることで一生懸命だったのかもしれませんが、もうすこし声のトーンを意識して変えてみると良いと思います。早口になったりゆっくりなったり、弱く発声したり(抜き・ゆるみ)、強い口調で言ったり。そういう使い分けに気を配るともっと臨場感が増します。力を抜いた演技を少し研究すると良いのかなと感じました。プロの劇団や他校の上演が参考になると思います。単純に真似から始めてみるとよいのではないでしょうか。

最初登場したとき仁が父親にしかみえなくて、従姉妹のお兄ちゃんという設定らしいのですが、予想される設定年齢よりも高めに映り、年齢を高く見せることに苦労することの多い高校演劇と考えると不思議な気分になりました。学校で啓太が「KY、KY」といじめられるシーンでずっと「啓太はKY」という音をSEで流すのですが、役者が話す瞬間だけこのSEの音量を少し下げる音響操作をしていました。うまかったと思います。こういう細かい気配りはとっても大切です。

講評でも指摘されていましたが、姫川と啓太の和解シーンでBGMを流すのはやっぱり余計に感じました。気持ちは分かるのですが、BGMで状況(心情)を説明するという方法は、テレビの常套手段ながら演劇では禁じ手に近いものです。詳しくはこっちみてね

台本について

去年に引き続き顧問創作ということなのですが、独特な世界観だなあと感じます。物事を直接的に表現しない会話の記述はうまくされています。でも、こう言っては申しわけないけど、一言で表現すると華がない。悪い本ではないのですが、題材がやや小難しく、演じるのが難しい印象を受けます。

思うのですが、演じる生徒たちに原案(こんな内容の劇が上演したい)というのを決めてもらい、だいたいの話の流れまで考えてもらった上で、顧問の先生が創作台本を書かれてみてはどうでしょうか。その方が生徒のニーズ(上演したいという情熱)にマッチした本ができあがるように感じます。

全体的に

啓太は姫川みるくというクラスメイトに嫌われたと勘違いしいたというストーリーですが、この姫川の可愛さ(劇中曰くツンデレ)がよく出ていました。姫川をかわいく魅せるということに重点が置かれ、そのことを(すべての)役者たちがきちんと意識して観客に伝えようとしていたという姿勢が感じられとても好感が持てました。うまかったと思います。最後に啓太をお姫さまだっこするシーンなんか見せ場でしたね。

他方、主役の啓太が姫川や従姉妹の仁に完全に食われた印象があります。物語の主人公は啓太であって姫川ではありません。やや難しめの台本ではありますが、ネタ的にならず真に啓太の悩みとその解決を描くとしたらどうしたら良かったと思いますか? おそらく、啓太と仁のやりとりをもっともっと丁寧に描いて(演じて)あげることが必要だったのではないでしょうか。最初の状態の啓太と仁は、会話重ねることでだんだんと変化していったはずです。どういう風に変化していったかわかりますか? それを知るためには(台詞の)裏を読む練習と努力が欠かせません。そしてここには国語のテストの「そのときの○○の気持ちを答えなさい」のように正解もありません。役者やスタッフが一緒になって本を読み、議論を重ね、はじめて得られる答えであって、そうやって得た答えはどんなものでも正解です。これが啓太の気持ちなんだ、これが仁の気持ちなんだと役者自身の思った啓太や仁の姿を自信を持って演じると良いと思います。特に、台詞だけではなく体全体(動き)で表現すれと一層よくなります。

劇を作り上げる努力を強く感じただけに、もう一歩というところでもったいないなと感じました。台詞ではなく気持ちを演じること(「気持ちを入れる」と言ったりします)に気を付けてみると、すごく上達すると思います。大変だとは思いますが、がんばってください。