新田暁高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:青山 一也(顧問)
演出:有賀理中奈
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

部活動予算会議に集められた7人の部長。予算案を承認して終わるはずが、削られた予算に拒否権を発動しようと言い出して……。

感想

これもとても有名な台本です。よく力が抜けて演じられ、リアクションがきっちりされていたので、とても面白く観ることができました。台本も過不足なくアレンジされていました。

まずきっちり部屋を作ってきていました。ちゃんとした部屋の装置で七人の部長を見たのは初めてかも。これだけモノがあると動きを付けにくいじゃないかと心配したのですが、左右にテーブルと離れた椅子を用意することでこれをうまく処理していて、動きを含めてしっかりと演出されていました。

例えば生徒会長が言い間違える演技とか、すごく難しいと思うのですがちゃんと成り立っていました。剣道部部長もアニメ部部長も、演劇部もみんなちゃんと性格が見える演技になっていて、とても良かった。

この台本は全体がコメディタッチなので終盤のシリアスシーン(生徒会長の想いのシーン)への流れがとても難しいのですが、これをきちんと成り立たせていました。

ラストシーンでスポットの下の紙切れが落ちたのは偶然なのか仕組んだのかわかりませんが、おおっと思いました。

欲を言えば、台本の問題もあるとは思うのですが演劇部の人のラストの流れはちょっと長いかなと感じてしまいました。生徒会長のシーンが一番の見せ場なのにそれが薄まってしまう。無くすというわけにはいかないかも知れないけど、重点をもっと生徒会長のシーンに置いて(時間を使って)演劇部の人のシーンはおまけ程度の扱いでよかったんではないかなとも思ってしまいました。全体的に、生徒会長をもう少し際だたせる演出をしてもよかったのかもしれません。劇のどの場面でも生徒会長が主役だと分かるように、あくまで生徒会長が主役なんだと分かるように。

序盤から装置から気合がぜんぜん違ったし面白かった。関東行けるかなと思っていました。上演おつかれさま。ラストシーンのBGMを連動させた処理うまかったです。

2013年度 群馬県大会

渋川女子高校「流星群」

作:品田 歩(既成)
演出:渋川女子高校演劇部

あらすじ・概要

宮沢賢治作の「銀河鉄道の夜」と「よだかの星」を混ぜてモチーフにしつつ、宮沢賢治についての創作劇。

感想

暗幕の手前に、白い幕を3つ垂らしたシンプルな装置で、ピアノBGMをふんだんに使って幻想的な演出をしていました。

たまたま「銀河鉄道の夜」を読んだ直後でして、題材となった2作がどのように省略されているのも見てて分かるぐらいだったのですが、それでも全体的に分かりにくい気がしました。

宮沢賢治の作品自体、現代の小説とか娯楽に比べると分かりにくい部分があるのですが、賢治作品のそういう「生死観」みたいものを浮かび上がらせ、なおかつそれを踏まえて「宮沢賢治」という人物に少し空想して迫ってみようという台本ですよね。後者はともかく、前者さえうまくいったとは言えないのではないかと感じてしまいました。

よく演じられていたとは思うのですし努力しているのもわかるのですが、幻想的に見せることは果たして本当に必要だったのかも含め、演劇としてもう1歩2歩進んでもらいたいなと思います。

前橋市立前橋高校「ホット・チョコレート」

作:曽我部マコト(既成)

あらすじ・概要

学校を休んだキッコ。そこに来る友人ミオ。期末テスト、そしてキッコの引越しまで約1週間。キッコのやっていたバンド活動はどうなるのか。全国大会の優勝校台本。軽妙な掛け合いの中と、友人達の微妙な心理のずれを描いた、定番の青春モノ。

感想

有名台本です。去年の吾妻の感想に書いたとおり「去っていくキッコ」と「去られてしまうミオ」の物語なのですが、その点きちんと上演されていたかというと難しいです。

講評でも指摘されていましたが、ホットチョコレートのシーンがあまり際立っていなかったことと、加えてキッコとミオの関係性がきちんと描き出されていなかった(まだまだ足りなかった)と感じました。具体的に何をどうこうというよりも「演出してください」と言うしかない気もします。

キッコとミオの関係ってのは(その他の人物含め台本全部)ガラス細工のように繊細で、台詞だけで表現できるものでは到底ありません。ガラス細工をひとつひとつ丁寧に組み合わせ、初めて表現できるような内容の台本なのですよね。

観ていて「全体的に漂う嘘っぽさ」はどこから来るのかなってずっと考えていたのですが、キャラが作りすぎなんじゃないかなと少し感じました。力が抜けてない、ステレオタイプ的な人物像になってる、人物の読み込みが甘い気がします。

荷造りしながら会話するシーンとか、ラジカセをちゃんと動かしていたのはよかったかな。引っ越しが徐々に進んでいくのもよかったのですが「この量なら1日で片付くよね?」としか思えなかったのが少し残念でした。歌の音源がL(左)しか入ってないのは素人がよくやる失敗なのですが、わざとその演出をしたのかは分かりませんでした。最後の方の「手紙送るから」の台詞は今なら「メールするから」じゃないかなとか思いました(時代に合わせてアレンジしたほうがいいよね)。

丁寧に一生懸命作ってはいるんですけど演出不在が致命傷だったかなという印象です。

前橋南高校「外箱:Hen-Pin」

作:大友 佳栄(生徒創作)
演出:吉澤のん、石井大樹
※創作脚本賞

あらすじ・概要

物流倉庫の返品受付E区画。通称ゲロ部屋にいる作業員と、そこにやってきた事務方の手伝いと……。

台本の感想

えっ「これ本当に生徒創作なの!?」。また原澤先生が書いたんじゃないの?と思ってしまいました。先生のアドバイスがどれくらい入っているのかわかりませんが、それを差し引いても非常に完成度の高いとても面白い台本です。

着想が面白く、掛け合いもよくできていて、コメディかなと見せかけておいて「実はホラーでした」っていう。よくできてるなあと思いながら観ていました。

感想

黒幕にダンボールが置かれたステージ。1つの事務机。

さすがに演技がうまく、きちんとリアクションができていて、台詞も詰め込みすぎず「間」もちゃんと使われていて、とても安心して観ることができました。

途中「豚」の返品が出てきたあたりから人が狂っていくのですが、ここが少しもったいなかった。狂っている側の視点で舞台上には「人」を置いてしまったので、観ている側はどっちが狂っているのか分からない。分からせないことの気持ち悪さをあえて出したのかもしれませんが、それにしても「狂い」を見せることがこの台本のキーポイントではあるのですから、全体通して見た時にイマイチだったと言わざる得ません。

つまり、台本の持つ「怖さ」みたいものを活かしきれてなかったと感じました。狂うシーンでは、もっと怖くしていいんじゃないの? 講評では外向きに狂っていたと言われていましたが「狂気」が感じられなかったとも言えると思います。舞台上に「狂気」が見え隠れして成り立つ台本ではないのかな? どこが正常でどこに異常が生まれているのか。方法はいくらでもあると思いますが、もう少し配慮が欲しかった。

完成度は高く、観ていて面白かったし、入賞するんじゃないかなと思っていました。本当にあとちょっと、もう一歩だったと思います。