新島学園高校「平成たばこ屋奇譚」

  • 作:大嶋昭彦(既成)
  • 演出:秋本花歩

あらすじ

学校でタバコが見つかったため謹慎になってしまったゆき子はお婆さんの家に居た。昔タバコ屋だったお婆さんの家。ゆき子はどうしてタバコを持っていたのか、謹慎から復帰することはできるのだろうか。

感想

タイトルこそ違いますが、2011年上演の「たばこ屋ラプソディー」とほぼ同内容です。

舞台の床に薄い板があり、その上に直接畳(ゴザ)が敷かれていました。それを壁で囲い下手に丸テーブルと高めの椅子3脚、下手にちゃぶ台といった舞台です。新島が部屋を作るときに全体を高く(台に)しないのは初めて見たかもしれない。

最初おばあさん3人の掛け合いから始まり、そのおばあさん3人は花札をしています。老人を老人らしく演じるのはさすがに良くできていまして、安定感があります。立て板に水のごとくおばあさん3人の掛け合いが流れていく様は見事なのですが、見事すぎて逆に入り込みにくいかなと感じてしまいました。するするとセリフが流れていく。心に止まらない、引っかからない……。

おばあさん3人に限ったことではないのですが、基礎演技力が高いだけに「間」の使い方が雑なのがどうにも気になってしまいます。台詞の応酬にも、リアクションとしての「間」があってしかるべきなのに、前の台詞が発声し終えたので次の台詞を発声している感がどうにも否めません。

途中で

  1. おばあさん二人が捌ける
  2. ゆっこが部屋に入る
  3. おばあちゃん去る
  4. 母が入る

という一連のシーンがあるのですが、ここも前の動作が完了したことをきっかけに直後に次の事象が発生します。そんなことあります?

隙間の無い転換は「人物の出入り自体をコメディ時に見せる」場合には成立しますが、そんなシーンでしたか?

良かった点は、おばあさんにお線香を上げると、母とおばあさんがユニゾンして「ありがとう」と言うシーン。あとEDの「デイ・ドリーム・ビリーバー」の生演奏(だと思うけど)ですね。

基礎演技力が高いだけに、今年も(演技力に比べて)演出が物足りなく感じてしまいました。正直なところ、前回(2011年上演)のほうが面白かったかなという印象です。

市立太田高校「木」

  • 作:藤井 絵里(既成)
  • 潤色:太田市立太田高校演劇部
  • 演出:坂本 雪乃
  • 最優秀賞(関東大会ヘ)

あらすじ・概要

今年で廃校になる、田舎の中学校に通う3年生女子4人。みんなで同じ高校に行こうと誓いあった4人だったのだけども……。

感想

舞台下手に向いて机が4セット置かれた教室。奥のに木製の壁があり、下手にドア、全面上部が窓になっています。田舎の校舎っぽさがよく出ていたと思います。窓の中央ぐらいに掲示板がありました。……窓側に掲示板? そんな教室あるのかな? もうひとつ教卓が用意できなかったのか、生徒用の机が2つセットで下手に置かれていました。ここは教卓を用意してほしかった。あと欲を言えば壁の高さが6尺しかなかったので、可能ならば7.5尺以上用意してほしい。

教室の扉は下手にあるのですが、廊下の人の出入りはすべて上手側です。出入りは必ず客席から見える廊下を通ることになります。単に出入りを見せたかったのだと思うのですが、上手からのみ出入りするということは建物全体の下手側の端っこにこの教室が存在することになります。なのに出入り口が端側にしかなく出入りの方向(階段側)に出入り口がない教室というのはなんとも不自然です。教室の扉を前後両方に用意できないのならば、職員室の方向、2年生の教室の方向、昇降口(玄関)の方向などをちゃんと設定した上で、出入りの方向を両方に分散させたほうが良いと感じました。

メインの女子4人がみんなセーラー服を着て、格好もスカートを短くすることなく田舎っぽさにちゃんと気を配っています。しかし、格好が似通りすぎて見分けが難しい。田舎っぽさを失うことなく差をつける方法はあると思うので、色付きヘアゴム、髪飾り、色縁のメガネ、スカートの中にジャージとかもっとわかりやすい見た目の差を付けてほしいです。スカート丈だって、1人ぐらいなら短くしても良いのかも知れません。


この舞台、はじまって普通のよくある上演かなと思ったんですよ。それが後半に向けてどんどん良くなって行きました。間がちゃんとしていて、ただの台詞の言い合いではなくちゃんとリアクションができている。正直なところそこまで完成度の高くないアラのある台本だと思うのですが、演出・演技がとっても良い。強く言うだけが演技じゃない。寂しそうに言ったり、投げるように言ったり、つぶやいたりと色々使い分けている。ひとつの台詞の中でのメリハリ、シーンのメリハリ、全体のメリハリもちゃんと配慮されている。

終盤の千里の「こんな大事な時期に言いやがって」とか「すっごいムカ付く」という怒りを抑えた台詞なんか唸りました。二人で椅子と机に座って前を見ているシーンとか二人の雰囲気が非常によく演技も最高でした。他の人も良かったですよ。

余計なことかもしれませんが「みんなで歌うシーン」「千里と奈緒のシーン」「木についての朗読シーン」の順番は変えても良いんじゃないでしょうか。時制を入れ替えることで、もっと効果的なエンディングにできそうです。

そして関東大会おめでとうございます。上演終わったときに泣いている観客もチラホラみかけました。関東突破を目指して、演技・演出をさらにブラッシュアップされることを期待しています。

桐生高校「通勤電車のドア越しに」

作:金居 達(既成)
潤色:桐生高校演劇部
演出:後藤 潤一
※最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

通勤電車のドアに顔だけ挟まれた男とその周りの人物が織りなすドタバタコメディ。

感想

すごく面白かった!

2005年の桐生南の上演で観ているのですが、その時より面白かった。人物がきちんと立っていて、リアクションがちゃんと取れている。それに加えてちゃんと演出されている。

気になったところとしてはドアをどかした後のポールが視覚的に分かりにくいことです。白や色つきの棒でも、昔の桐生南のように枠だけでも何でもいいのですが、もう少し分かりやすくしてもいいんじゃないかな。また、列車アナウンスを声でかき消すシーンは実際にかき消してほしかった。ミキサーでボリューム絞って中域少し下げれば聞き取りにくくなりますから(もしくは聞き取りにくい音加工をしておけば)十分可能だと思います。

それと暗転のテンポが少し悪かった。装置の転換はないのですから、もう少し早く処理できないものでしょうか。以前の桐生南はもっと手早く処理してた記憶があります(暗転しないで回想処理してたんだっけかな)。

カメラの少年が出てきますが、写真を撮る際フラッシュを炊いたほうがいいと思います。あと電車の椅子ですが少し大きいように見えました。椅子と分かりにくいので、欲を言えば左右に2つほしいし、もう少し固そうな座席に見せられないものでしょうか。

色々書いてしまいましたが、とても面白く、台本のアレンジもうまくされていて楽しめました。関東大会も頑張ってください。

前橋南高校「コックと窓ふきとねこのいない時間」

作:佃 典彦
演出:(表記なし)

※最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

猫のビッシースミスお抱えのコックは、ビッシースミスさまの帰りを何年も待っていた。そこにやってきた女と、その様子を眺める窓ふき。そんな3人が繰り広げるやりとりと、やがて明かされるビッシーの真相は……。

脚本について

1993年にB級遊撃隊という劇団により上演された劇のようです。→参考資料。いかもにプロの作風で、テーマや物語や笑いに主軸を置きがちな高校演劇創作とはひと味もふた味も違います。

主観的感想

四月当初、我が演劇部は1人しかいませんでした。新入生も1人も入りませんでした。気の毒に思った男2人が手をさしのべたのが運の尽きで、今こうしてなんとか劇として成り立つところまで持ってくることができました。素人の男ばかり3人で見苦しい点もございましょうが――(以下略)

以上、上演パンフレットより引用。開幕直後、どこが素人ですかという驚きの演技力をみせました。男ばかり3人ということからも分かるとおり、女役を女装でやっています。全体にシリアスな劇でありながら、本当に演技力だけでみせたという凄さには乾杯です。本当に素人のなせる技なのか、顧問の力なのか真相は闇の中ですが、役の読みこなしが大変優れています。言葉だけでなく動作や動きで表現するなど、演じるということの本質を実に的確に抑えていて、まさにそこに居る登場人物という絵も言われるリアリティがあります。

とかいいながら、恥ずかしながら優勝するなんてこれっぽっちも思っていませんでした。部員数が少ないということで、昨年度関東大会の松本筑摩高校(部員2名)を否応でも思い出して比べてしまったのですが、装置がいまいち。舞台はビッシースミスの部屋という設定ですが、舞台を広く使っているために物と物の間に必要以上の空間が出来て散漫な感じです。また窓ガラスも入ってなく、小道具も少なく、もう少しどうにかしてほしいところ(欲をいえばやっぱり部屋はパネルで囲ってほしいです。→舞台装置を作り込むときに変にリアルに作りすぎるとこの劇には合わないので注意が必要ですが)。

また、最大の問題はやはり台詞の間です。掛け合いシーンでの台詞と台詞の間がわずかに早いのです。一時的なものかと気になって、ずっと間を注意して聞いてたんですがやっぱり全部早い。相手の台詞に反応して、心の動きが起き、その反応(リアクション)としての言葉の返答(台詞)を発するべきなのですが、そこが若干早い。演技自体はかなりのものであるだけに、一度気になり出すと気になって気になって仕方ありませんでした。現在の状態で間を適切に取るともしかすると上演時間をオーバーしてしまうかもしれませんが、逆に言えばそこをきちんとしない限り関東大会は突破は難しいと思います。

あと女子が居ないために、男が女装として女を真面目に演じる潔さはとても好感を持ちました。最初は飾り気のない簡素な上着と簡素なスカート(手作りかな?)で、すぐにピンクのジャージ姿に着替えるのですが、着替える意味がわかりません。女装を真面目にするんだったら、ウィッグを付けて化粧をしなければならないのと同じレベルで女性としての記号であるスカートを脱いじゃいけません。ただでさえ高校演劇に置いては女装は笑いネタとして使いやすいのですから、真面目にやっているということを示すためにも、活用出来る記号は最大限活用すべきです(もちろん変にならない範囲で)。着替えないのはもちろんのこと、できれば元々の服装を多少飾り気のあるそれらしい作りにして、服としての質をよりあげてほしいと思います。多分、ウィッグが落ちてしまわないようヘアバンドをするために、それに合った服装に着替えたのだと思いますが、ウィッグはいくらでも別の方法で固定できるはずですよ。

その他、ラストの幕を降ろすのが若干遅かったのが気になりました。

【全体的に】

ほんとに演技が上手かったの一言に尽きると思います。さすがに部員不足からか、他の装置やらには手が回りきっていませんが、次は関東大会ですからその辺のクオリティーもあげて関東の上を目指してほしいと思います。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • 非常に面白かった。3人しかキャストが居ない中で1人1人が誠実に役を演じていた。
  • 女装して笑いをとったり、女装した人物そのものに話のスポットが当たったりと、演劇における女装はあざといものが多いのですか、女性そのものを実に誠実に演じていたと思う。
  • コックは理性があって猫を待っているという気品があり、その様子が最初から最後までブレなかった。そしてそんなコックと他の二人の間で自然と笑いが起こる。
  • 本当はもっと狭い空間の方がよかったのかな。
  • どの登場人物も、昔はどんな人だったんだろうとか過去とかを感じるリアリティがあった。
  • フランスパンをコックと女がまわして食べるシーンは官能的だった。
  • ビッシースミスのためにコックがメニューを書くときの至福感がよく表現されていた。
  • それだけに途中コックが台詞をとちったのは勿体なかった。
  • 音響は音量が適切だった。
  • ラスの照明が居ない猫に話しかけているコックの様子をうまくかもし出していた。

富士高校「紙屋悦子の青春」

脚本:松田 正隆
演出:西尾 匤史
※最優秀賞(全国)

あらすじと概要

紙屋悦子(かみやえつこ)の青春時代である戦中の、若い将校への恋心とその将校の友人とのお見合いを中心といて描いた物語。

主観的感想

すばらしいの一言に尽きます。高校演劇各校は、何としてもこの上演映像を手に入れて多くのことを分析・学んで欲しいと本気で思います。本当に良い見本となる演劇です。

良い良い言っていても始まらないので、具体的に。舞台は、年老いた悦子夫婦のモノローグに始まり、悦子が兄夫婦と住む実家で展開します。チラッと審査員が手にしている台本がみえたので覗き見したのですが、元台本の半分以上を削り間を十分に使って演じています。とても良い判断です。

最初間がとても良いなー、動作がとても良いなーと思ったんですが、何より「佇まい」がすごいのです。そこに座ってるだけで、立っているだけで、歩いてるだけで、ただそれだけで存在感とムードと日本の哀愁が出ています。パンフレットから長いですが次の言葉を引用します。

 この作品の稽古が進み、通し稽古になり音楽も入るころになると、今まで経験したことのないことが起こりました。役者が涙を流すことはこれまでにもありましたが、稽古を見守るスタッフが涙を流しながら音楽を流し、笑いをこらえながら照明のきっかけを出しているのです。
 最初から、この作品は今まで上演してきた作品とは違うなという印象は持っていましたが、稽古をすればするほどその感じは強まっていきました。気がつくと、作品世界とも役の人物とも抜き差しならないかたちで向かい合っていることに気付くのです。しかも実に自然に。

この状態になれたからこその演技であり、実にリアルに舞台上にその人物が居るのです。役者に本当に役が入っているのです。これこそ演劇の神髄で、この劇を観ることできただけでも本当に幸せでした。文句なしの最優秀賞です。

細かい点

  • プロローグが長いかなー。モノローグであることも考慮して、半分でよかったと思います。
  • 最初のシーンは暗転することなく切り替えられたんじゃないかな。
  • 食事シーンで本物を使い、本当に食べることにとても好感を持ちました。しかも、おはぎもご飯も実際よりも小さくまとめられていて役を演じる上で邪魔にならないよう工夫してあり、うまい処理だと思いました。
  • 照明をしぼって日本的な部屋というムードを装置と合わせよく出していました。
  • BGMのフェードアウトがいい加減です。フェードアウトというよりもカットアウトに近く、他がよく出来ているだけにとても気になりました。もっと丁寧にフェードアウトしてください。

審査員の講評

【担当】内山勉 さん
  • 台本の切り取り方は良かった。カット部分を多くして間をきちんと取って演じていた。
  • 曖昧なところがなく良かった。
  • 軍人達、ちょっと叫びすぎだったかな。
  • 舞台装置は石垣がよかった。花もよかった。贅沢をいえば、つぼみをきちんと見せてほしかったのと、幹と枝(花)のバランスを取ってほしかった。
  • おなじく欲をいえば、さくらの花びらは量はそんなに要らないのだから花の中から出てほしかった。
  • 小道具も衣装もよく研究されていた。ただ一升瓶とかもう一度見直してほしいかな。
  • 赤飯のシーンでふさがやや泣きすぎに感じた。悦子は席では涙をこらえて裏に引っ込んでから泣いた方がより印象できだったと思う。
  • ラストシーン、舞台の上下から役者が出てきて(その是非については議論のあるところだけど)、引っ込んでから幕が降りるのだけど、出てきたならそのまま幕を降ろしてよかったのでは。