松本美須々ケ丘高校「カラマーゾフの兄弟」

  • 原作:ドストエフスキー
  • 脚色:郷原玲(顧問創作)
  • 演出:櫻井美希
  • 録画映像による上演
  • 優秀賞

カラマーゾフの血を引く兄弟たちの織り成す物語。

良かった点

  • 抽象的な舞台と照明を的確に使って、独特の暗いムードと雰囲気をよく表現していた。
  • 全体的に声の演技がうまく、ドミートリーと、端役?か何か(あまり喋らかった女子)の声質も良かったと思う。

気になった点

  • 全体的に「叫ぶ」演技がとても多く、せっかく演じる能力が高いのに叫ぶことで演技の幅を狭めていました。叫ぶ以外の方法もあったのではないでしょうか。
  • 「ゾシマの復活」というシーンが2度ほど登場するものの、現在の構成では意味するところが全く分からない。

いろいろ

原作をバッサリ削って翻案したのだと思いますが「ゾシマの復活」という部分を残す必要があったのか疑問です。最後が、兄弟の話として終わる現構成なら、もっとこの部分にフォーカスすれば深みを出せたのではないでしょうか。原作が魅力的でその部分を一生懸命なぞっているんだろうなという以上の感想を(想像される台本からは)感じられないのです。

多分、原作を知ってる人(例えば審査員になるような人)には大ウケなのでしょうが、普通の観客には(そしておそらく会場にいた多くの生徒にとっては)よく分からんことになっていました。別に大衆向けこそが正義と言う気はありませんが、少なくとも原作の魅力が伝わる程度には翻案してほしいと感じます。

とはいえ、台本の問題を別とすれば、かなり良く作りこまれており、演技も安定し、声も聞き取りやすい。素敵な上演でした。

twitter等でみかけた感想へのリンク

岡谷南高校「変身」

原作:フランツ・カフカ
脚本:スティーブン・バーコフ
演出:小松 佑季子

※優秀賞

あらすじと概要

父と母と妹と。主人公グレコーザムはある朝目覚めると毒虫に変わっていた。稼ぎ頭で家族たちを支えていた優しい兄の変貌に、動揺する家族たち。兄が出勤しないためにやってくる会社の上司。どうしようどうしようと苦悩する兄。

主観的感想

舞台の写真がないのが残念で仕方ありませんが(どこかにアップされてないんだろうか)、幕が上がって、まず壮大な舞台装置に驚きました。毒虫というモチーフを巨大な金属製オブジェで、その中にいる兄の動きを通して毒虫に見せるというまさしく「唸る」演出。家族3人も、具体的に掛け合うのではなく、舞台に対して等間隔に置かれた3つの椅子の上で、とことんまで抽象的な動きを見せることで場面を想像させる。また照明や効果音を実に有効に使って、毒虫になった兄や家族とのかけあいをコミカルな動作で描いていく。ここまで芸術的な高校演劇があるとは、ほんとにびっくりしました。

個人的な話になりますが、ストーリー性のないものや起承転結のないもの、テーマ性のないもの、小難しいものはあまり好きではありません。つまり好きではないタイプの劇だったのですが、にも関わらず「これはすごい」と感じ、芸術として有りだと感じさせてくれたことに本当にびっくりしました。動作の演技において徹底的な省略と記号化そして誇張がされており、音については加工処理がとてもうまくされていました。

お話自体は、まあ救いのない悲劇というか「実に演劇らしい」内容で、それを「面白いかどうか」という尺度で考えた場合、評価は難しいところですが、こういうのも演劇だよなと感じさせてもらいました。ただ一つ、バイオリンのソロのシーンの効果音がソロではないものを使っていたので気になりました。ここまで作ったのだから、ソロバイオリンを何としても用意してほしかったなと欲を言えばそんなところです。

審査員の講評

【担当】西川
  • 幕が開いた瞬間にびっくりました。巨大な虫のオブジェが舞台一杯に広がっていて。
  • ある朝起きたら突然大きな毒虫に、家族の大黒柱がとつぜん要らない存在になってしまい、その兄が瞬間に家族に希望が見えるというまさに不条理劇だったと思う。
  • 装置がとてもうまいなーと感じた。そして音も照明もタイミングを外さない。
  • この芝居は台本を読んでも状況説明が多く書かれており、大変難しい。それらの状況を台本を読んでいない観客に伝えなければならないのだけども、成功していると感じた。
  • 他の審査員から出たのですが、形でもって型にはめていく演出を取っていたが、この方法では空間が無機的になっていく。その状況において家族の心理が兄から離れていくという描写が十分だったのかと考えると疑問を感じる。
  • 全体としては心理劇であるわけで、今回はこういう演出をとったわけだけども、もっと他の考え方で心理劇をきちんと描くという方法もあったのではないかと感じた。