市立太田高校「木」

  • 作:藤井 絵里(既成)
  • 潤色:太田市立太田高校演劇部
  • 演出:坂本 雪乃
  • 最優秀賞(関東大会ヘ)

あらすじ・概要

今年で廃校になる、田舎の中学校に通う3年生女子4人。みんなで同じ高校に行こうと誓いあった4人だったのだけども……。

感想

舞台下手に向いて机が4セット置かれた教室。奥のに木製の壁があり、下手にドア、全面上部が窓になっています。田舎の校舎っぽさがよく出ていたと思います。窓の中央ぐらいに掲示板がありました。……窓側に掲示板? そんな教室あるのかな? もうひとつ教卓が用意できなかったのか、生徒用の机が2つセットで下手に置かれていました。ここは教卓を用意してほしかった。あと欲を言えば壁の高さが6尺しかなかったので、可能ならば7.5尺以上用意してほしい。

教室の扉は下手にあるのですが、廊下の人の出入りはすべて上手側です。出入りは必ず客席から見える廊下を通ることになります。単に出入りを見せたかったのだと思うのですが、上手からのみ出入りするということは建物全体の下手側の端っこにこの教室が存在することになります。なのに出入り口が端側にしかなく出入りの方向(階段側)に出入り口がない教室というのはなんとも不自然です。教室の扉を前後両方に用意できないのならば、職員室の方向、2年生の教室の方向、昇降口(玄関)の方向などをちゃんと設定した上で、出入りの方向を両方に分散させたほうが良いと感じました。

メインの女子4人がみんなセーラー服を着て、格好もスカートを短くすることなく田舎っぽさにちゃんと気を配っています。しかし、格好が似通りすぎて見分けが難しい。田舎っぽさを失うことなく差をつける方法はあると思うので、色付きヘアゴム、髪飾り、色縁のメガネ、スカートの中にジャージとかもっとわかりやすい見た目の差を付けてほしいです。スカート丈だって、1人ぐらいなら短くしても良いのかも知れません。


この舞台、はじまって普通のよくある上演かなと思ったんですよ。それが後半に向けてどんどん良くなって行きました。間がちゃんとしていて、ただの台詞の言い合いではなくちゃんとリアクションができている。正直なところそこまで完成度の高くないアラのある台本だと思うのですが、演出・演技がとっても良い。強く言うだけが演技じゃない。寂しそうに言ったり、投げるように言ったり、つぶやいたりと色々使い分けている。ひとつの台詞の中でのメリハリ、シーンのメリハリ、全体のメリハリもちゃんと配慮されている。

終盤の千里の「こんな大事な時期に言いやがって」とか「すっごいムカ付く」という怒りを抑えた台詞なんか唸りました。二人で椅子と机に座って前を見ているシーンとか二人の雰囲気が非常によく演技も最高でした。他の人も良かったですよ。

余計なことかもしれませんが「みんなで歌うシーン」「千里と奈緒のシーン」「木についての朗読シーン」の順番は変えても良いんじゃないでしょうか。時制を入れ替えることで、もっと効果的なエンディングにできそうです。

そして関東大会おめでとうございます。上演終わったときに泣いている観客もチラホラみかけました。関東突破を目指して、演技・演出をさらにブラッシュアップされることを期待しています。

太田市立商業高校「サクラの、その。」

作:高場 光春(既成)

あらすじ・概要

高校入試合格発表の日。教室で、生徒の合格(不合格)報告を待つ担任。親友である「りょうこ」と「ちえり」は同じ学校に行けるのだろうか、はたしてちえりは志望校に合格しているだろうか。

感想

下手を向いた机が4つ×2列で8脚。手前の中2つだけ向きあわせで先生と面談形式。後ろにホリゾントが引かれて、シーンごとに使っていました。講評でも指摘があったけど、飛び降りシーンのホリは余計だったと思います。あまり過剰に説明的な演出というのは、やはり好ましくありません。舞台全域を明るくしていましたが、もう少し狭くしてもいいような気もしました。教室の構造はどうなってるんだろう? という疑問もあり「机をおいたからなんとなく教室」より上を見せてほしかったところです(前橋南は何もなくても舞台上に屋敷を作ってみせたわけで)。

テンションが高くてテンポもいいけど、ちょっと声を張りすぎて聞き取りにくかったかな。気合入ったところでは声を張り上げて大きくアクションするだけになっていたのがもったいないところ。講評でも同じような指摘がありましたが、強く激しく言う以外にもあえて弱く言うことで強い印象を残すこともできるのです。冷めて強烈に怒ることもできます。「怒るときはこんな演技」という演技を型でやりすぎた印象がありました。よく言えば妥当なんですがベタすぎるのですよね。リアルではなく記号化された演技になっている。

シーンによって緩いところは緩めに演技はできていたのですが、もっと緩くてもいいかなという感じもありました。しかし、あまり緩すぎると中学生っぽくなくなるので、これも難しいところです。大森先生はゆっくりとした動きや大人っぽさを気をつけていましたが、もっとゆっくりでも良いと思います。

全体的に

これ、あんまり良くできた台本ではないんですよね……。ラストのお守りのシーンのくだりとかは結構良いんだけど、逆に言うとそこだけで、そこに至るまでの台詞の応酬とか、全体の構成がうまくない。それをそのままやってしまったなという印象があって、それが実力よりも評価を下げてしまったのではないかなと感じました。

あとは演技・演出のツメの甘さ。シーンシーンで分けて考えられてはいたのですが、それでも全体的なメリハリや緊迫シーンの工夫が欲しかったところです。りょうことちえりの関係性がもっともっと見えて来たらよかったかな。台詞以上の関係性が。お互いがお互いのことをどう思っていたのか、そういう部分が(台詞以外から)あまり見えてこなかった気がします。

太田市立商業高校「お葬式」

作:亀尾 佳宏

あらすじ・概要

おじいちゃんのお葬式。実感の湧かないトモコは友人2人と公園へ遊びに行く。やがて公園で、メダカのお葬式をしようということになり……。

感想

おさげの少女トモコと、格好いい少年のユウタ、ランニング姿の恰幅のいいヒロシ。この3人が織りなすドタバタ劇で、台詞のかけあいすごく楽しむことができました。素直に面白かった。公園でお葬式を始めるあたりから「次は何をしてくれるだろう」というワクワクで支配され、それを裏切らない笑いが楽しかった。どれもがとても秀逸。

台本の台詞が面白いこともありますが、かけあいが秀逸で台詞に対する反応(リアクション)がきちんと出来ていたこと、3人の人物の性格付けがきちんとされていたこと(演じられていたこと)、間を意識的かつ積極的に活用していたことが面白さを増大させたと思います。台本のダブルミーニング(1つの言葉で2つの意味をもつ言葉)を積極的にギャグ利用していたのは面白かったけど、それをちゃんと活用できてたのもうまかった。

そしてランニング姿のヒロシの圧倒的存在感が(笑)。もともとの体格もありますが、それに加えて演技とかも非常にうまい。ギャグキャラなのでヒロシの素朴さ(至って真面目であるという演技)が出ないとまったく笑えなくなります。この学校はそれをちゃんと演じていた。きわだって一人の演技がうまかったわけではなく、みんな演技がうまかったのだけど、おいしいところは全部ヒロシが持って行ってたなあ。

演技でいえば、ユウタの声が聞き取りにくいシーンが多かったのが残念でした。少年役ってことで難しいところはあるのでしょうが、テンション高く発声するシーンで(聞こえることが必要な台詞では)少しだけトーンを抑えてでも聞き取りやすくしてほしかった。

問題といえば、公演の装置がちょっと殺風景だったなあ。ゴミ箱、砂場、ちっぽけなベンチ、水道が広い舞台に散漫に置かれていたため公園らしく映らなかった。トイレ、街灯、フェンス、噴水などなど方法は色々ですが、もう少し公園らしく見せる工夫があったらもっと良くなったと思います。

全体的に

メダカがザリガニに食われて、弱肉強食からメダカのお葬式になり、色々なもののお葬式になり、子供達のギャグの流れでおじいさんのお葬式の式を挟み(このときトモコは止まっている)、夕方の公園でおじいちゃんのことを考えるトモコたち。「おじいちゃん焼かないで」というのは強く気持ちが出ているシーンで印象深かった。陽の落ち方と心情変化がリンクしていくのも良い演出です。

けれども、トモコの「おじいちゃん」や「おそうしき」に対する気持ちの変化がみえてこなかったのが残念な点です。最初と最後だけで、中盤が飛んじゃってるんだよね。最初と最後だって、本当のところどう思っているのかまではみえてこない。トモコの心情は最初と最後でどう変化したの? 最初のトモコの心情は? 最後に至るまでに何があったの? ここがうまく演出されたなら、言うこと無しだったなあ。

本の良さはともかく、演技の上手さが際立った上演でした。面白かった。