新潟江南高校「アルキメデス・スリッパー」

  • 作:長崎北高校学芸部と福田耕(既成)
  • 潤色:新潟江南高校演劇部
  • 演出:中村友理佳
  • 優秀賞

バス停で出会った陽気な高校生北川と、無口な青木の織り成す物語。

良かった点

  • 演技がとても良い。動作や間の使い方がとくに秀逸。
  • きちんと演出がされている。
  • 二人の関係性が徐々に構築される様子が、きちんと表現されている。
  • 感想な舞台装置と、舞台全体広く使った演出が内容にマッチしている。

気になった点

  • 開幕のBGMが長すぎる。北川が動き始めたらBGMはすぐ止めてよいような気がする。
    • 北川が(自撮りする様子を)きちんと演じられているので、BGMが邪魔に感じる。
  • 全体的にレベルが高いだけに、一部のリアクション動作が「型の演技」(不自然な反応)に感じられる部分があり、もったいなかった。

いろいろ

とにかくにも演技・演出がよかったなという印象です。言葉で表すとシンプルですが、それを実行するのはとても大変なことで、この手のギャグ台本は演技(や演出)がダメだと、本当にただただ寒いだけの上演になってしまいます。この舞台では、シーンひとつひとつ、立ち振る舞いひとつひとつが観客の立場にどう映るのかきちんと配慮がされています。その積み重ねが、最初の「スリッパの打音」だけで会話を成立させ、観客を舞台に惹きつけることにつながっています。

欲を言うならになってしまいますが、全体的に「青木を北川が食っている」(北川が主役である)感じが少し強く、未来に向かって歩むと決めた北川の心境の変化にもう少し演出的焦点が当たってもよかったのではないかなと思いました。*1

とにもかくにも、非常にレベルが高く、とても楽しい上演でした。

*1 : 台本云々ではなく、あくまで演出的なお話。

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高田北城高校「見送る夏」

  • 作:越智優(既成)
  • 潤色:高田北城高校演劇部
  • 演出:小池悠菜

夏休みの宿題をするため早枝子の家に集まった友人3人。早枝子の家で居候をしている従姉妹の栞莉(まり)が部屋にやってくる。栞莉はなんで居候をしているのか……。

良かった点

  • 越智優さんの難しい台本をきちんと舞台として成立させていた。
  • 部屋という空間をとても大切に扱っていて、立ちパネルを用意することなく、演技と照明をうまく使い8畳程度の空間がきちんと存在していた。
    • 特に部屋の扉の表現には気を使っていた。
  • 演出がきちんと仕事をしていた。
    • 特に間を丁寧に使い、動作による演技をよく見せていた。
  • 栞莉のお姉さんが、この物語唯一の大人として登場するのだけど、立ち振る舞いが(他の5人)と明らかに異なり、きちんと大人を表現できていた。

気になった点

  • 緊張なのか、最初台詞が早口で掛け合いになっておらず、聞き取りにくく分かりにくかった。
  • 序盤の携帯のバイブ音のSEが大きすぎてびっくりした。
  • スイカや麦茶を持ってくるシーンで、人数分のスイカやコップを持ってこないことに違和感があった。
    • 冬にスイカは無理でも、麦茶は「実際飲んだ」ほうが良かったのでは。
    • スイカではない別の果物(用意可能なもの)に変えてもよかったのでは。
  • 部屋の入り口である(装置としては存在しない)扉の表現に気を使っていたけど、それでもところどころ違和感があった。
    • 途中、4人で両側から扉を閉めるシーンが特に問題に感じました。両側から閉められる扉は普通「4枚の襖」ということになりますが、廊下と直結された4枚襖なんて普通の家にはないかと思います。
    • お姉さんが出ていくシーンや、夜のシーンで扉を開けっぱなしのシーンがあり、(台本が書かれた当時は不明ながら)今の関東で冷房入れなかったり、冷房を入れているのに扉を開けっぱなしにすることあるのか大いに疑問。
    • ここまで扉の大切にするのであれば、大変だとは思いますが大道具として作ったほうが良かった気がします。
  • 部屋は板の上にゴザか何か張り付けた畳敷きの和室という表現でしたが、畳の敷き方がおかしいのが気になってしょうがなかった。
    • 8畳の部屋で、あれだけサイズが不揃いということはあり得ないし、そもそも(現代ということを考えたら)洋室でもよかったのでは?
  • ラストシーンでラジオ体操のBGMを使用することで、強烈に朝のイメージが想起されるのですが、それは本当に意図した演出だったのでしょうか?

いろいろ

この台本は何も考えずに演じると「まるで意味が分からない上演」になるのですが、演出がきちんと仕事をしていたので舞台として成立していました。演者も含め、本の内容をきちんと解釈し、どこに時間を使うか考え、その時間で何を見せるべきかを考える。演劇において、とても重要なこの要素はしばしば見落とされるのですが、きちんと仕事をされてとても好感を持ちました。

ただそれでも、少し物足りなさを感じてしまいました。夏芙蓉とかもそうなのですが、細かいシーンを丁寧に積み重ねていって哀愁を漂わせるタイプの台本で、台本が要求する演技・演出のレベルが無茶苦茶高いというのもあるかもしれません。登場人物同士の関係やシーンひとつひとつの描写がより深く表現されないと、おそらく(全体が)うまく伝わらないんですよね……。

とはいえ、前半は高校生5人のワチャワチャ感が出てて良かったし、後半は存分に引き込まれワクワクしました。面白かったです。

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柏崎高校「あなたのおうちはどこですか」

脚本:内山 ユニ(創作)
潤色:柏崎高校 演劇部
演出:内山 由紀

あらすじと概要

地方の小島の、小さな洋服店。そこに、長男(?)が洋服の修行から何年かぶりに帰宅した。歓迎する温かい家族。そんなところへ迷い込んだ一人のいえで少年は、この島へ母親を探しに来たのだという。そんな少年すらも温かく受け入れる家庭。その家庭は、昔洪水のときに赤ん坊を家族として迎え入れたことがあるから普通のことなのだと。

またそんな折、親に恵まれい子供のための施設を運営する二人がその家庭に強盗(?)に訪れるが、やがて事情を話お金が必要だと一致する。そのとき島のお金持ちの後白河家が主催になって洋服コンテストがあり優勝すればお金が入るという情報が。親探しにきた少年の母親もそのお金持ちの家に関係あるようで、修行帰りの長男のコンテスト応募にみなが期待するわけだけども……。

主観的感想

終始ほんわかムードの本当に「田舎の温かさ」を前面に押し出した演劇です。そんな人たちと、少年の邂逅がある意味お話のメインです。

まず舞台なのですが、居間のセットが右手側にぽつんと置かれ、その周りにミシンやトルソーなどが見られます。お店または土間という設定みたいですが、居間の2面から出入りするためにその場所の位置関係というものが理解しにくい。どこが入り口なのかということはハッキリ3次元的に装置を使う方がよいと思いました。また空間がとびとびなので妙にだだ広く、温かい田舎というイメージとは反対に若干寂しい感じをうけたので、演出的に統一された方かよかったと思います。

話の内容からしてシリアスシーンがどうしても増えるのですが、進行役以外の人が棒立ちという状況が多々みられました。この高校も個性不足かな。また全体的に演技が弱く、気持ちから演じる(なりきる)ということをもう心がけて演じるとよいように感じました。結局のところ、探している母親は死んでしまっているのですが、それがわかったときの重さも出ていない。全体的にそんな感じです。

お話の作り(脚本)はというといまいち整理されてない印象で、温かい田舎のほのぼのしたムードをを書きたかったのはよくよく分かり演出面からも配慮されていたものの、ストーリー性、起承転結といった盛り上がりはないかなという感じでした。お話を作るには起承転結がやはりどうしても基本になってしまうと思いますので、まあ実際現状でも起承転結あるのですが「ストーリーの起伏」といった波を出せるとより良くなるかと感じました。とてもいいお話なんですが「いいお話」という印象以外に何も残らないのが難点のように感じました(印象に残りにくい)。でも、この劇はこれでよいと思います。

審査員の講評

【担当】西川
  • 「居場所探し」という、普通の高校生がよく作るテーマだったと思うが、登場人物をすべて善人で構成してしまったというのがぜんぜん違うところだと思う。
  • 若杉さん(審査員から)「今日の芝居好感度No.1だよね」という意見があったが、たしかにそう思う。
  • 台本からすれば無茶苦茶でなのに演劇として成り立っていたのは、演技が実に素直で、素朴さが役者の全身から出ていたのだろうと思う。
  • この芝居のよいところは、村や田舎の温かさや豊かさを中心として、主役/脇役といった区別なくどの役者にもいいところを割っているとこだと思う。
  • 少年の母親探しのとき、捜査本部の看板をその家の居間に置いたとき、少年が「普通じゃないよ」と言ったことに対し、村長が「ボクらには普通なんたよ」と言っていた。実にほっとする芝居で、そういう温かさを見せることで逆に現代の社会を見せているだろうなと感じた。
  • 舞台が仕事場っぽくなかったり、事件が一気に解決したり、欠点はいっぱいあるけども、それらを許して逆に観ている側の心が洗われる芝居だったと思う。