渋川女子高校「雨上がりを待ちながらⅡ ~女子校版「ゴドーを待ちながら」クジャク篇~」

  • 作:石田 諭(顧問創作)
  • 脚色:渋川女子高校演劇部

あらすじ・概要

ゲリラ豪雨で教室に閉じ込められた生徒3人。そこへ、謎の男の侵入者が……。

感想

中幕で少し区切った空間に、椅子と机が4セット。空き教室という設定かな? 「登場人物が4人だから4セット用意しました」みたいな感じがしました。ここがどういう空間なのかということから物を配置してほしかったし、椅子と机をいくつも持ってくるのが大変なのだったら、椅子しかなくても、それ以外のものを持ってきても、はたまた何もなくても成り立たった劇だと思います。

気になったところ。

  • 悪天候ぐらいでは携帯は不通にならない。
  • 演技が型になっている。詰め寄る演技、怯える演技、おどろく演技とか。
  • (講評でも指摘されてたけど)女子校の教室に見知らぬ男の人が入ってきたことをすんなり受け入れている違和感。
  • 男役の人、動きとか座り方とか男っぽくなるように頑張ってたけど、手の上げ方とか、動作の細かい部分で女の子だった気がする。

タイトルの元ネタにされてるゴドーを待ちながらは不条理劇だそうですが、この劇はどうやらコメディのようです。コメディだとしたら、もっと進行や演出を完全にコメディに振り切ってしまったほうが良かったと思いました。普通の劇進行(シリアスな進行)として演出されると、観客は笑ってよいシーンなのか分からないのです。

途中にあった客席いじりと上演時間いじりは、コメディであっても結構なタブーです。劇リアリティを積極的に投げ捨てる行為なので、安易にはやらない方がよいです。

ただ、それらを含めて良い意味で無茶苦茶をしていたので、その点面白かったです。筋立てなんて破棄して、もっともっと無茶苦茶でも良かったと思います。全体的にとても頑張って演じられていました。上演おつかれさまでした。

高崎女子高校「ラストメッセージ」

  • 作:山下 真尋(生徒創作)
  • 演出:尾池えみり

あらすじ・概要

不思議な招待状で集められた4人。そこは人間界と天界の狭間の世界だった。

台本の感想

登場人物のうち3人の問題を解決していくというストーリーになっています。

基本的に独白ベースで、それぞれ1つだけでも60分以上かかりそうな問題だらけで、ちょっと違和感を覚えました。この問題は「創作脚本を書かれる方へ」に書かれているので省略しましすが、3人分も描かなくても、学(マナ)のことだけで良かったんじゃないかな? そうしたとしても個人の抱えてる問題を、エピソードの積み重ねではなく、その場の対話だけで解決しようとすると説得力を持たせるのは大変かもしれません。

あと細かいことなのですが、白衣を着た研究者くるみの「この人の専門はなんなんだろう」という疑問が残りました。研究者って、狭い専門分野のことは詳しいけども専門分野以外のことは大して詳しくはないのです。専門分野=興味を持つ対象はとても限られています。くるみの発言を聞いていると、その特定の「専門分野」が見えて来ず、何に対して学術的な興味を持っているのかもよく分からず、科学的なこと全般に詳しい人みたいになっていました。*1

とはいえ、生徒創作で県大会に上がられたことは素直に評価したいです。60分を一幕で処理しているのも良いですね。不自然な破綻もなく、よく出来ていると思います。

*1 : さらに言えば遺伝研究は、今時単純な交配(優秀な遺伝子と優秀な遺伝子を組み合わせる)などより、遺伝子組み換えや直接的な遺伝子操作のほうが説得力がありますし、何のテストもしないで他人の遺伝子を「優秀」と判断することもあり得ません。

感想

この世とあの世の狭間の世界に迷い込んだ4人の物語。いくつかの抽象的なカラーブロックと、ソファー、ホワイトボード、椅子、ダルマ、ぬいぐるみなどが置かれた舞台。講評で指摘がありましたが、たしかにカラーブロックだけの抽象的な舞台のほうがこのお話には合っていたように思います。おそらく「現実とあの世の間」ということで両方の物を置いたのだと思うのですが、「現実とあの世の間」という設定自体がそもそも非現実の世界なので、現実的な要素を排してもよかったのかもしれません。

天使なのかな、進行役のアナンとバルは白い服を着ています。他4人との対比で分かりやすいです。

気になったのは、見知らぬ世界でミッションを解くという妙な状況に陥ったのに、4人が案外すんなり受け入れてることです。もっと戸惑ったりするよね? 良かったのはニュース音声。高校演劇だと嘘っぽいものが非常に多いのですが、文面も喋り方もリアリティがあって良かったと思います。でも、ラストシーンのニュース音声は余計だった気も。なくても分かるよね……。

喋り方とかよく気をつけて演出されていたと思いますが、演技が型だったのがもったいなかったと思います。

  • 「おどろく」という演技
  • 「悲しむ」という演技
  • 「手を広げて遮る」という演技
  • 「物を探す」という演技
  • 「手を合わせてごめん」という演技
  • 聞きたくないと「耳をふさぐ」演技

全部が悪いというわけではないのですが、「それらしい演技」をしているシーンがとても多くて嘘っぽさを感じてしまいました。棒立ちよりは型であっても体を使う方が良いのですが、リアルではないんですよね。気持ちを作らないで演じてしまったんじゃないかな?

色々言ってしまいましたが、素直に60分楽しんで見れましたし、全体的に丁寧に作られていたと思います。上演おつかれさまでした。

前橋南高校「南流 新陰流怨 ~分裂~」

  • 作:吉田 藍(既成扱い/元顧問による創作)

あらすじ・概要

高校分裂をかけて戦う、剣道部男子vs女子の決戦。それに向けた、練習の様子。

感想

新陰流怨と書いて「シンカゲリオン」だそうです。どういう舞台かを説明する前にキャスト表を貼っておきます。

2016ken_s22.jpg

話の筋としては、男女を別々の学校に吸収合併させることの是非をかけ、剣道部男子と女子で戦うというものですが、実際にはそんなことはどうでもよくてエヴァンゲリオンの同人誌ならぬ同人劇です(笑)

登場人物の名前を見ればわかると思うのですが、そのままエヴァのキャラを借りてきて、アスカなど多くのキャラは見た目や髪型も似せて、更に1人はエヴァの女子制服を着ています。台詞もエヴァ劇中からパクってきた台詞の応酬。エヴァ暴走をパクったエピソードも起こります。BGMもエヴァのものを使っています。同人誌と表現するのが一番しっくり来ます。

しかし、これを舞台として見せられますと、辛い。高校演劇の舞台で、同人誌を朗読されたら居たたまれないですが、劇なので朗読以上に居たたまれない(苦笑)

完全にネタ上演だし、ネタとして全力投球しているので、もう何を言うのも野暮というものですが、それでも書くとすれば以下の点です。

  • エヴァの知識がない人にはおそらく意味不明。
  • 構成を考えるにエヴァのネタ要素をすべて引いても十分成り立ったのでは?
  • 同人劇として完成度を高めるなら、全編ただのネタですよと分かる演出をしてもよかったのでは?*1
  • そもそも今時の高校生にエヴァ*2なんて通じるの?

剣道部員が居るのか、剣道部に修行に行ったのか分かりませんが、剣道シーンが素人目にはかなり説得力がある演技になっていました。経験者からはツッコミどころもあるのかも知れませんが、動きや見せ方がよく出来ていたと思います。

脚本書いた先生の趣味なのか、生徒側からの要望による脚本なのか、ひたすらそれだけが気になる上演でした。よくこれだけネタに全力投球できたなと称賛します。そのエネルギーはすごい。上演おつかれさまでした!

*1 : ギャップを狙ったのかもしれませんが、普通の演劇として演出されているので、せいぜい失笑ぐらいしかできないのは困りものでした……。

*2 : しかもネタの多くがTV版

桐生第一高校「問題の無い私たち」

  • 作:久保静江+観音寺第一高校演劇部(既成)
  • 潤色:山吹緑+桐生第一高校演劇部
  • 演出:小暮きらら、松村桃花、植松真紗紀

あらすじ・概要

開幕、高校演劇の審査員シーンから始まります。「ネット台本はNG」「等身大の芝居を」などのダメ出しをされる部員たち。それから1年が経ち、再び高校演劇の大会がやってきてた。

感想

調べてみると、2014年の全国大会の台本だそうです。

最初の講評シーン、リアリティがありすぎてびっくりしました。特に先生役の見た目。

「えっ、何、上演なのに、講評始まっちゃった??」

上演だと分かっているのに軽い混乱状態。ただ、もっと嫌味たっぷりに演出したら笑えたんじゃないかなとも。あとちょっと早口だったかな。

さて中幕が空いて、舞台装置が見えます。下手にテーブルや四角い箱。椅子とテーブル2セット。上手側に、黒いフレーム場の3段の段差。更に上手に低い棚で後ろはホリ。部室という設定らしいのですか、もっと部室っぽいゴミゴミした部屋感を出せなかったのかな? ホリを使っているところもですが抽象劇っぽく感じます。でも、この劇は完全にリアルに振らないと面白くない。

全体的に演技が早口で聞き取りにくい。聞き取りにくいので進行の把握が遅れます。理解が追いつきません。かなりもったいなかったですね。もっとゆっくり話した方が良いシーンがたくさんありました。

常に結構な人数が舞台上に居る集団劇なのですが、動きはよく整理されていました。集団の中でのそれぞれの動きなどはよく考えられていたと思います。でもリアクションがあまり出来ていませんでした。準備している(順番待ちしている)様子すら感じられてしまった。

気になったところ。

  • 相手を指さして叫んだり、両手を挙げて呆れたりという「型」の演技が多く見られました。リアルじゃない。
  • 照明ミスがちょっと多かったかな。
  • 客席に出るシーンではピンスポットを使って照らした方が良い。
  • お菓子の箱、明らかに中身が空だったんだけども、空にした意味が分からない。全くリアルじゃない。
  • ラストシーンで踊るのなら、もう少し綺麗に踊ってほしい。

この上演を見て、台詞回しは酷いし、無理な独白ばかりあるし、シナリオ進行のための無茶なシーンばかりで酷い台本だなと思いました。いわゆるネット台本かなとすら思いました。ですが、それはすべてわざとだということが、上に書いたサイトの感想を読んで分かりました。少し長いですが引用します(太字強調は当方による)。

ただ、そんな審査員批判、よくある演劇部モノで終わらないのが、本作のすごさ。

途中、「勝つために演劇をすることと、楽しんで演劇をすることの、どちらが正しいのか」「放射能汚染から逃れるために転校してきた男子生徒の悩み」「病弱な弟に家族の愛情が集中し、孤独を感じる女子生徒の悩み」「ほのかな部内恋愛」など、もはや高校演劇でさんざんやり尽くされたテーマを登場人物たちが延々と吐露しはじめた時は、結局、ここも審査員の求める高校演劇の型を踏襲するだけかと危惧しました。

が、最後にそのすべてを投げ打って、それぞれの登場人物たちが吉本新喜劇や宝塚、ミュージカルなど自分の好きな演劇の衣裳を身にまとい、『コーラスライン』の音楽に乗せてラインダンスを披露。そして、緞帳が半分まで降りたところで全体がストップモーションし、「ま、これも顧問が作ったんですけどね」とすべてをぶち壊す一言で幕となります。

すべては作り手の巧妙かつ狡猾な仕掛けの中で踊らされたと気づいた瞬間に、なぜか湧き上がる圧倒的な爽快感。客電がついた瞬間、異様などよめきで場内が揺れました。

第60回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【2日目】 | ゲキ部! -Official Site-

本上演の問題は、中盤の「登場人物たちが問題を投げ捨てた」感がしないことです。投げ捨てたというよりも、強引に解決しました「ちゃんちゃん」みたいに取れてしまいました。もっと投げ捨てたとはっきり分かる演出をしてほしかったし、部長はもう少し「登場人物たちの悩み」を取り入れることに執着して欲しかったかなと思います。執着を表す台詞表現はたしかにあるんだけども、舞台上にいる部長という人物が異様に執着しているという印象がなぜか薄く感じられました。

そしてラストシーンの「ま、これも顧問が作ったんですけどね」という最重要台詞が抜け落ちていることです。(桐生第一の)顧問が書いてないから削ったのかもしれませんが、「他校の顧問が書いたんですけどね」と言い換えたり、代わりのものを用意したりせず、その台詞を単に削ったということはこの台本の意図を全く理解していないということになります。

パンフレットによると5年ぶりの県大会だそうです。桐生第一は真剣にすごく手間をかけて舞台をいつも作られているのですが、それでも5年ぶりになった最大要因をあえて指摘するなら、そういう全体を見通す視点の欠如、観客視点の欠如です。桐生第一ほど「実力があるのにもったいない」と毎回感じる高校もなかなかありません。*1


色々書いてしまいまたが、舞台に真撃に取り組む姿勢は素直に評価したいです。とても頑張って、そして終盤はとても楽しんで演じられていたと思います。特に踊りは楽しさが伝わってきました。上演おつかれさまでした。

*1 : そしておそらくそれは顧問の先生(?)に欠けている部分です。上演は生徒のみなさんのものです。顧問の先生に頼り切ることなく、生徒のみなさん自身でちゃんと劇を作り上げてください。当サイト内の過去の桐生第一の感想を読むだけでもヒントになるかと思います。

新田暁高校「靴下スケート」

  • 作:中村 勉(既成)
  • 演出:半田 実

あらすじ・概要

部屋いっぱいのゴミ袋。それは中学生、加奈子の部屋だった。そこへやってくる大学生の家庭教師、優子。

感想

開幕……のベルが鳴ってから2分開幕しない! 何かトラブってるのかとソワソワしました(苦笑)

幕が上がり、薄汚れた白壁(風のパネル)で囲まれた部屋に、いっぱいの黒いゴミ袋。200個ぐらいあったのかな。小道具もこの中に一緒に隠されているので(ゴミとして)、これ用意と配置相当に大変だったろうなうと。

中村勉さんの台本*1ということで、これまた難しい内容でしたが、すごく丁寧に演じられていたと思います。間を慎重に使い、二人の掛け合いをとても重視して、リアクションにもかなり気を使っていました。良かったと思います。

気になったのは「黒いゴミ袋」。よく探してきたなというのもありますが、今時黒いゴミ袋でゴミを出せる自治体があるとは思えない。膨らみ方もほとんど一緒。そして中に入っているものが「軽くてカサのあるものなんだろうな」ってのが見えちゃった。つまり嘘が見えてしまった。

ゴミに埋もれてた椅子と机が、新品同様に綺麗だったことも不思議でした。壁が薄汚れてる部屋にある椅子と机としては不自然。ちょっともったい無いけど汚して欲しかったかな。そして劇中でさんざんゴミと戯れた後の、最後のシーンで「汚れるから」と作業着に着替えるシーン。これも説得力がないですね……。

細かいところだと、BGMが少しうるさく感じられた部分があったのと、大学生の優子はもう少しだけ落ち着きがあると雰囲気が出て良かったかなと思いました。


かなり丁寧に作られていたし、ラストシーンでゴミ投げ合うところとか序盤との対比になっていてよかったと思います。でも、見ていてどこか物足りない。それはなんなんだろうと考えると、二人の距離感に変化が感じられなかったからだと思います。それは心の距離であるし、分かりやすくは物理的な距離でもあります。

加奈子は「優子が邪魔で邪魔でしょうがなかった」し、優子は「(受け持つ受験生として)面倒くさいハズレを引いてしまった」ぐらいに思っていたはずです。そう考えると、二人は最初からお互いに「相手に対して興味を持ち過ぎ」だったし、「相手の話をちゃんと聞きすぎ」だったと思うのです。

この二人の距離感に対する配慮が足りなかったのではないかと感じました。

難しい台本に挑み、よく研究して上演されていたと思います。上演おつかれさまでした。