沼田高校「馬鹿でもわかるラブソング」

作:小野 知明(創作)
演出:星野 一成

あらすじ

典男は父親である馬之助と二人暮らし。そこに家庭教師がやってくのだが、典男は本当はミュージシャンになりたかった。友人と家庭教師をそそのかし、自分の身代わりをさせて、ひっそり家を抜け出してオーディションを受ける典男だったが……。

主観的感想

【脚本について】

昨年、一昨年に引き続き小野知明氏(現3年生みたいです)創作の演劇です。サマーフェスティバル上演作品のようですね。一昨年のハードボイルド昨年のホームステイものからして正直脚本は期待してなかったのですが(失礼)、今年はまともな台本でした。かなり進歩してます。

全編コメディでよい意味で弾けています。お寒いこともなく十分にドタバタしたお話でした(今年上演の中では一番ドタバタ劇だったかも)。テーマ的なものやドラマ的な部分では不足する感じはあるものの、話筋もまともでこれでありと思わせる面白い本でした。

【劇について】

県内の高校演劇を見渡せば女子ばかりという状況の中で、年々実力と質を上げてきている男子校。今年もその活きの良さ健在で十分に楽しくドタバタしてました。ここ3年では一番よかったんじゃないかと思います。典男の部屋を照明装置の関係でしぼることができなかったのか、無駄にだだ広くなってしまったのが残念ですが、その広さも使ってドタバタしてました。天井スポット(サチ)を使うときに半歩下がって顔が見えるようにするなど、細かい配慮もなされていたと思います(昨日の上演校ではなかった)。

ただ全体に荒っぽさのようなものがあったのが残念です。例えば、ギャグの作り(演出)がイマイチ甘く、「もう少しタイミングとリアクションを練れば」というシーンがいくつかあり、全体として演技に締まりがない。みんながみんなテンションの高いキャラクター(人物)になっていて、役ごとの人物像の違い(性格の違い)や色付けみたいなものが全くされていなかったのが原因だと思います。静かな人物が居てこそうるさい人物が目立つということを覚えておくといいと思います(人物配置の妙とは要するに対比ですから)。

ほかには、ラストシーンで重要なメッセージがラジオから流れるのですが、そのラジオの音が聞き取りにくいのは最大のマイナスポイントです。一番大切なところなんですから、聞こえないなんてもっての他。録音環境が悪いのです。部屋鳴りだと思うのですがキンキンしています。高いマイクや録音機材はたしかにお金かかりますし用意出来なくても仕方ないのですが、『声を録音するときは、できるだけ広い部屋でカーテンなどを閉めて、可能ならば録音する人物の四方を厚手の布で覆う』などするだけで、安いマイクでも比較的まともに録音することができます(できればせめてカラオケマイク程度とスタンドは欲しいところですが)。

【全体的に】

2年前に比べかなりレベルが上がっているだけに、細かい作り込み不足という面で勿体ない感じがしました。せっかくここまで来たのですから、勢いもありつつ、作り込みも忘れない(手抜きをしない)という意気込みで頑張ってほしいと思います。そうすれば関東大会も十分に狙えると思いますので。

審査員の講評

【担当】ヨシダ 朝 さん
  • 台本をみたとき面白かった。くだらないことを必死になって一生懸命やることの大切さみたいのがあり好感が持てる。
  • だけど、今は一生懸命くだらないことをやっているのだけど、その上の命がけでくだらないことをやってほしい
  • 例えば、10万円では納得しなかった家庭教師に、ポッキー1年分を渡すことで納得させるというシーンがラストにあったけども、家庭教師は芝居中ずっとポッキーを食べていて、それは大変だろうけど死ぬ気で食ってほしい。
  • そういう意味でまだまだやれることは沢山あったと思う。
  • 隣に軍事オタクが住んでいるという発想が面白い。今回は、テープのメッセージと爆弾ぐらいだったけど、もっとこっちの家と関わって例えばバズーカ砲を持ってくるとかそれぐらいやるともっと面白いと思う。
  • もう1点。これをきちんと芝居として成立させるにはどうするか。今やってるのはアクションであって、演劇はアクションではなくリアクション。自分が何かするのではなく、相手に対して自分がどうしていくかがリアクション。父のキャラ(やほかのキャラ)に対するリアクションをすることで芝居として成立させることができる。(編注:これはものすごく大切なことを言っています。お笑いでボケと突っ込みが必要なのは、ボケも大切ですがボケに対するリアクションである突っ込みがあって初めて笑いが伝わる。演劇ならば、ある台詞や行動に対して、それについての返答や反応を示す行為があってこそ初めて登場人物同士が存在し交流し、二人の関係が見えて、そこにリアルな空間が生まれる。→参考になるサイト

沼田高校「リオ・デジャネイロに乾杯!!」

脚本:小野 知明(生徒創作)
演出:小野 知明(兼 主演)

※優秀賞(次点校)

あらすじ

「今年はホームステイは断ったよ」と勇気(ユウキ)は兄の元気(ゲンキ)に伝えた。毎年、勇気たち山本家ではニュージーランドの酪農家をホームスティに迎えていた。そこにやってきたホームスティの(自称)ブラジル人の「リオ・デジャネイロ」。また、山本家では母親が居らず、父親と喧嘩して出て行った様子だった。

そんな感じではじまるホームスティだが、TVのニュースでブラジル人が起こした一家惨殺事件が報じられる。もしかしてリオは犯人では……という疑心暗鬼。結局ラストは、勘違いでしたということで、リオも奥さんに連絡を取る、父親さんも母親に連絡をといういい話で終わります。

主観的感想

【脚本について】

創作脚本としては基本を抑えていて、大した破綻もなくよくできています。笑いの部分を引いた、ドラマとしての仕立てはまだまだ不足するかな……というところ。リオの奥さんと、山本家の母親という2つの構造を並列に並べ切れていない、深めようという配慮が不足しているかなと感じました。

例えば、家族における母親の位置や立場、それについての個々人の想いというものを(それとなく)描き出しておくと、全体として筋立てができて話が引き締まると思います。(参考:創作脚本を書かれる方へ

【脚本以外】

中央に部屋のセットを置いて、ステージ全体を部屋に見立てていたわけですが、中幕を引いたり(共愛のように)ライトを中央部のみ当てるなどして部屋としての狭さを出すべきだったように思います。そのせいで無駄なだだ広さを感じてしまいました。特にTVを点けるシーンにおいてそれは顕著だったと思います。

つづいてBGMの使い方。うるさいと感じました。もう少しボリュームを下げて、安易にBGMに頼らないように(特に回想シーンでの使い方は長すぎる)しましょう。暗転のとき(作業のためだと思いますが)明かりを残すとやはり気になります。他校は消した状態でもできているのですから、そこもきちんとしましょう。

山本家の父親役は見事に役にあっていましたが、背広を着ていたので酪農家っぽくなかったのがやや気になりました。その父親、上着を冒頭のシーンで部屋にかけたまま外に出て行ったのですが、それは意図したものだったのか若干疑問です。

【全体的に】

一昨年、昨年と県大会で沼田高校を見てきたので正直なところまったく期待していませんでしたが、それはよい意味で裏切られました。今年は、方向性を絞ってきちんと作りこんできており「ああ、すごい成長したなぁ」というのが正直な感想です。例えば、TVのシーンでTVによる明るさの変化をライトを物でさえぎることで行っていまして、実に細かいところまで気を回しているのがこのことからも分かります(ただまあ、せっかくの細かい芸もあれでは分かりにくかったので、色の変化を付けるとか、もっと遮る物の大きくオーバーにしてもよかったかと思います)。

全体としてもう少しコメディ色を強めてもよかったかなとは感じました。

審査員の講評

【担当】原澤
  • まず幕が上がってブツクサ言っている男がコンロの前でバタンと崩れて。正直なところ、そのシーンですごく期待した。(あまり昨年のことは言いたくないが)昨年と比べるとすごい進歩で、1年間部活として頑張った成果が現れていると思う。
  • ただ(もしかすると致命的な)問題点があって、終盤に行くに従ってお話が小さく小さくまとまっていった。中盤でリオが殺人犯ではないか、という報道があったのに実際には違ったし、山本家の母親もなんだかんだでいつでも帰ってきそうなムードで。(終盤では)問題らしい問題は見あたらず、「みんないい人だったなー」で終わってしまい(演劇としての)ドラマはどこへ行ったのかという感じになってしまった。
  • ドラマといっても、別に殺人や地球滅亡といった大それたものではなくて、先ほど(桐生南など講評で)光瀬先生からあったように、人と人の間のドラマをもっと描いてほしいかった。
  • お父さんの衣装が「酪農家?」に見えなかった。
  • (例年)男子校の演劇は、勢いはあるものの完成度は……だったが、(男子校でも)きちんと演劇を作りうまくまとまっていた。その点、良かったと思う。

沼田高校「港の空に銃が叫ぶ」

脚本:小野 知明(生徒創作)
演出:小野 知明

あらすじ

港にて、事件を追っている刑事3人の。うち2人が外に出ていき一人刑事――信夫が 残されると、そこへ容疑者――和也が現れ捕らわれてしまう。

【以下ネタバレ】

やがて、和也と信夫の二人は山のふもとまで逃げ隠れる。 そのうちに、犯人に着せられた罪はデタラメで、 警察書の所長と暴力団が癒着してて、それを知ったために狙われているのだと言い、 信夫はそれを信じる。そしてその容疑者に協力するのだけど……。

主観的感想

【脚本について】

ハードボイルドを作りたかったのでしょう。 それは分かるのですが、台詞回しがやや稚拙。 ハードボイルドの決まり文句といえばそうなのかも知れませんが。 例えば、平田オリザ著「演劇入門」の冒頭に書かれている 台詞回しについての話、遠いイメージから入り、 直接的な説明を避けるということが出来てない。 劇曲、シナリオ全般についてやや勉強不足。 他の(優れた)劇曲の構成を分解するなどの経験もおそらく不足している。 そして、細部の考証が甘い、またはいい加減。 署長が直接「電話に出たり」「容疑者像」を作ったりということに無理がある。

という感じで、見ていて苦笑いしてしまった作品。 考えようによっては、ブロックや全国を目指さず、 創りたいものを創り続けた正面突端な脚本で、 これはこれで良いのだと思います。

【脚本以外】

まず演技に手抜きが見られる。動作の演技、表情の演技、 リアクションの演技、 どれをとっても「きちんと動作を考えて、検証して、更に検討して……」と いう煮詰めたプロセスが伺えない。 演じてる方も、一つの動作を最後まで行わず、 途中で止めてしまう点が多々みられた。 それと全体的に『間』が悪い……というか余り考えられていない。 全て一言で表すならば『荒い演技』。

また、ステージ上、手前から奥に幅数メートルに光が当たっているのですか、 その光の当たっている部分の一番手前で演じていることが多く、 時々、Yシャツに(光が)混ざる前の原色が映ったり……。

審査員の講評

【掘】
  • 男の子の世界。こういうのがやりたい! というのを見せてらもった気分。格好いい。 演じる人たちも楽しんでいた。
  • ただでも、台本書いた人は、書いたときのイメージと実際できあがったものを観て、 イメージが違うと感じたのではないか。
  • もっと格好よくやろう。例えば、殴り合いのシーンで間が開きすぎ (注釈:実際にあてず空振りで殴り合いを演じていた)。
  • 最初のシーンで段ボールが山積みされていたが倉庫には見えなかった。落書きとかあれば……。
  • シーンが移って山道であることを、後から台詞で気づくのはお客に不親切。
  • ゴミ捨て場のゴミの神様のフリして、そんなのを簡単に信じちゃったり、 いろいろな意味で真っ直ぐ過ぎてしまったのかもしれない。
【原】
  • BGMをもう少し作り込んでいい。最初のBGMはいらないかな。
  • 男の子の役者がずらっといるのがうらやましい。男が椅子を蹴飛ばすと、 こんなに怖いのか(迫力あるのか)と思い知った。特に高校生に見えない人も居た。
【中】
  • まさに男の世界で、他の(二人の男性)審査員が喜んでました。
  • (女子校に居るせいもあり)男子の役者という存在がうらやましい。
  • すべてギャグ路線で行くのかと思ったらリアルっぽいところもあって、 コンビニ袋持ってきたと思ったら中は出さないし、多少統一感に欠けた。
  • 殴り合いを倉庫の中でやってしまって、段ボールを崩してしまってもよかったかも。

沼田高校「二人いる!?」

脚本:磯田 武久(生徒創作)
演出:磯田 武久

主観的感想

高校の美術室を舞台にして「ミステリーに挑戦」がパンフレットのうたい文句。 コンセプトは良いにしても全体的に不足だらけ。 観ただけでは何を目指したのかすら少々分からなかった。 男子3名によって繰り広げられる主人公との関わり合いが主軸なのですが、 そのどれもが中途半端。お約束の独白あり。 劇中、暗転が非常に多く、 おまけに多くの暗転が「時間跳躍」をしているために最後にならないと意味が分からない。 ミステリーには必要ですか、多少演劇には合わない見せ方のような気もしました。 あまりお客さんを引き込めていない様子で、 物語の導入に「つかみ」がないせいかなと感じました。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 物語の流れに沿っていない一発ギャグが多かった。 その種のギャグは慎重に使わないと、物語の流れを止めてしまう。 芝居に組み込まれた物なのか、芝居の上に取ってつけたものなのか、もう一度慎重に考えて。
  • ラストシーン近くで父の声がスピーカーから聞こえる場面があるが、 二人の人物両方に聞こえてしまったために、物語が現実を超えてしまった。 一人ならば心の声になるが、二人に聞こえると超常現象になってしまう。
  • 説明的な台詞や独白が多く、これは(60分という)時間枠を超えないためだと 思うが、例えば「虐待をうけてたんだ」などの言葉を軽々しく述べたりはしない。 自分がどういうシチュエーションならそんな話を友人とかにするか考えてみてほしい。 そういう言葉の持つ重みを慎重かつ丁寧に描いていくのが、本来の演劇の姿。