太田女子高校「マナちゃんの真夜中の約束・イン・ブルー」

  • 作:中村 勉(既成)
  • 優秀賞

あらすじ・概要

マナは真夜中に夢を見る。それは銀河鉄道の夜であり、友達が訪ねてくるものであり、指からピントルが出るものであった……。

感想

中村勉作の厄介な台本を、よく演じきったなと思いました。今大会で一番面白かった。15年ぶりの県大会出場だそうです。

ピンクやライトグリーン、ライトブルーなど淡い色の四角いブロックで構成された舞台。中央にそのブロックを6個くっつけて、その上に布団を敷き、マナがベッドにしています。ひと目で抽象空間と分かり、淡い色で統一感があるのも良かったと思います。

そして暗めの照明で舞台全体を照らさずに中央部を劇空間として区切っています。講評では、終始暗めなことに指摘がありましたが、個人的には問題に感じませんでした。また、単純に上からサスを当てるだけではなく、サイドスポット(SS)をちゃんと併用してたのも良かったです(SS使わず顔が影になってしまう上演があるんですよね……)。

気になったのは、ピストル以外のSE(最初や戦場)の音量が大きすぎて、台詞が完全にかき消されていたことです。そもそも大きすぎたし、最初だけ大きくして下げても良かったと思います。

この上演の何よりも良かったところは、主人公マナを初め登場人物がちゃんと会話しているところです。指がピストルになることにちゃんと驚いてるし、意味不明なことが起こってちゃんと戸惑っているところです。ちゃんと心がこもった演技がされている。今大会、それが最初から最後までちゃんと出来ている高校がなかった。

ちゃんとした演技だから、すっと上演が気持ちに入ってきて、それだけに途中「本当の幸いとザクリッチを探しに行こう」という台詞はおかしくて、おかしくてしょうがなかった。


最初にも書いたとおり、今大会で一番面白かったと思いますし、その理由は「ちゃんと気持ちのこもった演技になっていたから」です。しかし、講評を聞いてると不評のようで、概ね台本の解釈不足を指定されていました。多分、審査員のみなさんはオリジナルを知っているので、無意識にそれと比較されてしまったのだろうと思います。

というわけでオリジナルの情報を探してみると、甲府南高校の取材記事が見つかりました。テーマ的な部分では「本当の幸い」という部分が際立たなければならないのですが、そのキーワードで全体眺めたとき、エジプトやシリアなどへ行くシーン、戦争のシーン、指から銃で出る意味、田舎チョキをばかにされた私、などが指し示す台本上の意味への配慮不足(もしくは配慮はしてたのかもしれないけども演出不足)があり、それに代わる上演校独自の解釈があったわけでもなかった。*1

舞台装置がオリジナルに近いことからオリジナルを参考にしたと思われますので、解釈を十分に加えることなくオリジナルに近づけようとした結果に対する講評だったのかなと思いました。

とはいえ、今大会では終始まともに会話になっている(舞台上で実際に物事が進行している)リアリティを持った上演はなく、それだけでも相当な努力が伺えますし、とても一生懸命作られていたと思います。個人的には関東行くと思っていましたし、それぐらい楽しい時間でした。上演おつかれさまでした。今後の活躍を期待しています。

*1 : 多少無理はあるかも知れませんが、例えば徹底的に不条理で不可思議な劇という解釈は可能だったと思います。

伊勢崎興陽高校「お引っ越し」

  • 作:笠原 彰(既成)
  • 潤色:江原 慎太郎(顧問)
  • 優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

狭くてボロくて雨漏りするような家に住む、女だらけの一家のお引っ越し。引っ越しが間近に迫りながら、そこで交錯する人間模様。

感想

舞台下手に大量に積まれた段ボール。舞台中央に1つだけ置かれた「わたし」と張り紙された段ボール。その上手側にお姉ちゃんと書かれ積まれた段ボール、さらに上手にお母さんと書かれ積まれた段ボール。舞台中央にテーブル1つという感じで舞台全体を使っています。極めて不自然でした。

  • 台詞にある狭くてボロくて雨漏りするような家にしては広すぎる。しかもこれ以外に次女の部屋等があるっぽい。
  • 段ボールに直接書かず、邪魔な張り紙(しかも上だけで止めている)をしてラベルを書くことが不自然。
  • その不自然さを演出として許容したとしても、このラベルは一体誰が書いたものなのか? ラベルの内容から三女が書いたと解釈するのが自然なのだけども、自分が梱包した段ボールに自分でラベルを貼らない不自然さやラベルに「わたし」と書くことの不自然さが際立つ。*1
  • 下手に積まれた大量の段ボールは、ほぼすべてに張り紙がしてあり、「ポスター」とか趣味系のものが並んでいて(中にはネタっぽいものもあり)、生活用品など当然あるべきものが見当たらない。
  • 引っ越し当日ではないのに、家具が全くない。

結構頑張って段ボールとか用意したと思うのですが、残念ながら引っ越し前日というリアリティが欠如しています。また講評でも指摘されていましたが、片付けてをサボってると起こられても、部屋に何も散らかってないのでもう片付けるところないじゃん? という問題もあります。

さて、母親と長女と三女、なんとなく雰囲気似てる。家族っぽくて良かったです。掛け合いとか面白いし、間の使い方も結構頑張っていたと思います。母親はちょっと早口だったかな。もう少し落ち着きがあっても良かったかも知れません。

劇中、古いバット(とグローブ)が出て来るシーンがあるのですが、バットが新品同様。汚しておいてほしかったかな。

講評でも指摘されていましたが、最後のカントリーロードのBGMがカットオフされるのは不自然でした。しかも歌詞の途中の変なところで突然切れるのは良くない。「あの街にー、続いていくー、気がするー、カントリーロード」の部分まで十分聞かせてフェードアウト。幕の落ちるタイミングもそれに合わせた方が良いでしょう。

間や緩急の使い方は、よく気を配っていたと思うのですが、演技、特に動きが「型」だったなと思います。相手に向かって行く演技。怒られて縮こまっている演技。挙げればキリがないのですが、それらしい演技をただしていたという印象がとても強い。かと言って、コメディ劇というわけでもない(コメディに振り切った上演でもない)。

つまり、舞台装置からも、演技からもリアリティが感じられない。それが最大の問題だと思いました。*2

台本にいくつか問題はありますが、それでも台本の作りを考えると父親や家族の関係にもっと焦点を当てて上演してあげるか、それらをすべて投げ捨ててコメディに振り切って上演する必要があるように感じました。関係性(や距離感)が上演から示されたという感じがあまりしなかったので、ラストシーンの印象もなんかもやっと……。

とはいえ、きちんと笑いが取れる演技をしていて、家族感もあり良かったと思います。上演おつかれさまでした。

*1 : おそらく父親不在を暗喩したかったのだと思いますが、だとしても不自然すぎました。

*2 : 最優秀賞の学校でも書きましたが、今年の審査基準は「舞台上で本当に起こっていると感じられたか」だそうです。その基準でこの高校を優秀賞に選んだ審査員の感覚はやはり疑問です。

県立前橋高校「ON AIR」

  • 作:古澤 春一(既成)→台本はこちら
  • 翻案:群馬県立前橋高等学校演劇部
  • 演出:加藤 奏汰
  • 最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

あおぞら高校文化祭にて放送される校内放送「あおぞらラジオ」。しかしその放送にはとある秘密があった。

感想

舞台上にはラジオの放送卓と、卓上の小型ミキサーやペットボトル(水)などが置かれ、ひと目で放送ブースとわかります。その中で進行する一人芝居になります。台本とは高校名とか主人公の名前とか変えて、ラジオドラマやはがきなどかなり脚色されているようです。

この役者さんが発声がよくFMラジオチックな魅力のある男の一人喋りを聞かせてくれます。聞いているだけでも心地よい不思議な時間が流れます。途中のラジオドラマシーンなどでは3人分の登場人物を即座に演じ分け、それでまた違和感なく進行します。とても素晴らしいです。

迷いがなく滞りもなく、立板に流れに水のごとく流暢に喋りと舞台が進行し、この演劇はどこに行くんだろう?と思わせてくれます。途中のラジオドラマでは完全に笑いを取り、観客の心を掴みます。さすがの最優秀賞です……と終われればよかったのですが(苦笑)


文化祭の生放送ラジオという建前で進行しているため、見ていてものすごい違和感を覚えます。

  1. 放送中にサブブース(放送スタッフ)とやり取りしている様子が全くない。
  2. はがきを、淀みなく流暢に読み続ける。
  3. 進行表(タイムテーブル)を確認している様子も、時計を確認している様子もない。

このうち1番目は問題ありません。実際には一人でやっている録音というオチにつながるので、この違和感は正常です。

しかし問題は2番目、3番目です。実際に10分でもいいので、どんなに準備しても良いので「生放送ラジオ」(無編集本番)というものをやってみると分かるのですが、一度も「えーっと」みたいにならず進行することなど不可能です。それは実際のラジオの生放送(一人喋り)を聞いてみればすぐに分かることですが、次のはがきを探したり、次の進行を一瞬考える「間」だったり、時計や進行表を確認して時間配分をどうするかという「迷い」があります。

はがき等は、字のうまい下手もあり簡単に読めないこともありますし、フォーマットが決まっているわけではないので、ラジオネームを書く場所も人によってバラバラです。裏側にラジオネームを書く人も入れば、表側に書く人もいますし、そもそもラジオネームを書かない人も居ます。このようなラジオネームを探す「間」なんて、実際のラジオを聞いていれば飽きるほど見かけるシーンです。

しかもこれらの「間」はプロが行って、サブに数人のスタッフがいる状態でも起きます。放送部員とはいえ素人がサブのスタッフが居ない状態で行って「間」が発生しないことはあり得ません

つまり「本当に放送している」というリアリティがまるでないのです。これがこの演劇の最大の問題点です。*1

リアリティの欠如は以下の点でも見られます。

  • 卓上で操作してないのに、SEやBGMがタイミング良く鳴っている。*2
  • ラジオドラマの効果音が、ラジオドラマの効果音の付け方ではなく演劇の効果音の付け方になっている。*3

上演を見ているだけで、とても練習されて、いっぱいいっぱい努力されているのはよく分かるんです。それは本当によく分かるのですが「練習して練習して練習して、もう全部、台本の最初から最後まで頭に入った状態で、一度それをすべて忘れてリアクションをする(初めて経験したことだと見せる)」という、演劇の基本要素をクリアできていないことも悲しいながらまた事実です。ラジオ生本番というのもは、完全に練習されて流れるように演じてしまってはいけないのです。

「一言一句すべての台本が用意されたラジオ放送であり、主人公は並々ならぬ情熱でそれをすべて頭に入れた」

という反論が成り立つかどうか。それは、その意見を(多数の)観客が「妥当だ」と判断できるかどうかで考えると良いです。個人的意見としては「そんなものはラジオ放送とは言わないし、それを納得させる説得力は舞台になかった」と思います。

関東大会前に本物の生放送ラジオやラジオドラマをよくよく研究されることを切に願います。


色々述べてしまいましたが、一人舞台という難しいものに挑戦し、それを見事に演じきり、ものすごい量の練習を重ね、滞りのない舞台を完成させたことはすばらしいと思います。ちゃんと笑えたり、観客を楽しませたりする劇を上演するというのは簡単なことではありません。上演おつかれさまでした。

*1 : 今年の審査基準は「舞台上で本当に起こっていると感じられたか」だそうですが、その基準でこの高校を最優秀賞に選んだ審査員の感覚は甚だ疑問です。

*2 : 設定上は存在しないサブのスタッフが仮に居るとしても、きっかけ合わせをしている様子がまるでない

*3 : おそらく、まともにラジオドラマを聞いて研究するということを行っていない。