富岡東高校「女や~めた!」

作:安倍いさむ(既成)
脚色:富岡東高校演劇部
※優秀賞

あらすじ・概要

女子校に入学した生徒が、ある時「男になりたい」と宣言。それが発端となって共学化検討委員会が発足し、議論が行われる。

「高校演劇Selection 2002下」収録作品。

感想

舞台中央と左右に1枚ずつ、計3枚のパネルが置かれ、それぞれに隙間があり出入りできるようになっています。中央には教壇ぐらいの段があり、その上に机と椅子、左右にも学校の生徒用の机と椅子が1セットずつ置かれ、そのまわりに椅子がバラバラと起これています。このバラバラと置かれた椅子の大半は使われることはなく、何の意味があって置いたのかよく分かりません。教室を示したかったのなら余り効果的ではありませんし……。あっても構わないといえば構わないのですが。

過去の男女教育などを、劇中劇を使って振り返るシーンで「木役」が非常に見事に機能していて笑わせてもらいました。コメディの部分は非常によく作られていて、特に演劇部部長だかの女役だった人が美味しいところを全部持っていった印象。人物づくりからして成功していたと思います。

講評で指摘があったように、劇背景を絵でめくってしまうのはチープだなというのは感じました。たしかに、この舞台ならこれはアリだとは思いますけど。ただし、舞台下手側の「演劇部」「上演中」という垂れ幕は必要だったのでしょうか? 途中「着替え中」などにめくって切り替えるのですが必ずしも正確ではない上、いちいちめくる音がするので気をそがれる。最後に「反省中」という笑いを取りたいだけだったのなら、余計ですので無いほうが良いと思います。

全体的に

以前、同台本を吾妻高校の公演で観たときも指摘したのですが、この台本には致命的な欠陥があって性同一性障害を扱うにはあまりにも考えが浅すぎます。人物像の問題はあまり感じなかったので演じ手でここまで変わるのだなあと感心する一方(潤色で全体的に直したのかも知れません)、ジェンダーの問題や男と女についての思慮は浅く、歴史観とか、振り返るフリ、議論してるフリをしてるだけで実際は何も議論していません。性同一性障害を発端にしながら、オチは共学化するかしないか。それなら性同一性障害なんて大層なものを持ってくることなく、共学化に焦点を当てれば済んだ話で、それを軸にして「共学化に対する登場人物たちそれぞれの思い」をきちんと描けば済んだ話でしょう。

つまり、男女のジェンダー論やその延長にある共学化に対して「単に反対」している以上の何かがまったく感じられず、その主題に関する人物たちの立場が「ただ反対」以上に何も感じられない。そのような台本上の欠陥を特に克服すること無く演じてしまった。ジェンダーや共学化に対する深い思慮は演技からも感じられなかったし、「男になりたい」に何の深みも想いも感じられない。結局それが問題になってしまった印象はあります。

しかしながら、コメディとして見ればこれほどの完成度で観客を沸かせたのは見事で、人物それぞれの演じ分けもきちんとされていました。とても面白かったと思います。

太田高校「どん底」

作:坂本幸基・吉田俊宏(生徒・顧問創作)

あらすじ・概要

部員1人で演じた一人舞台。中央部のサスに大きめのリュックを起きヘルメットをかぶった男が1人。「おーい、誰かー。俺はここに居るぞー」。一体どうしたんだろうか……。

感想

講評でのやりとりを見ると「1人ではこれしかできない」ということで逆説的に作られた台本であり演劇とのことです。1人の演劇部で県大会まで来たことは立派で40分の演劇を上演したことはたしかに評価されるべきですが、しかし。

「しりとり」「落語」「燃えよドラゴンの真似」「ルービックキューブ」とか遭難した男の暇つぶしなのでしょうが、最後ルービックキューブを置いてただ去るとか……結局何だったんだろう。何がしたかったの? というのが正直な感想でした。上記の事情は分からなくはないし、とにかく演じたかったというのも気持ちも分かるのですが、それと上演内容はまた別の話です。

それと途中出てくる落語。頑張っているのは分かりますが、トーンの使い分けがいまいちです。間もありません。本物の落語はもっと「間」や「止め」を効果的かつ贅沢につかいますし、人物の差はもっとオーバーにハッキリと演じ分けられます。落語の真似事のシーンだからこれで良いのだと言われればそれも成り立つでしょうが、もっとうまく落語すればそのシーンが面白くなったでしょう。

全体的に

演劇の醍醐味である人物の関係性が作れないので一人芝居はたしかに大変なのですが、もうすこし他の方法もあったように思います。例えば、相手が居るように片方の台詞だけで物語を紡ぐとか、それこそ落語のように一人で相手役も演じるとか。講評であったように、単にオチを付けることもできたでしょうし、それぐらいしても良かったのではないでしょうか。変化球なら1人の演劇部が頑張って地区大会に参加するまでを皮肉を交え演じるという手もあったかも知れないし、もしくはもっとリアルから遠ざかり良い意味で意味不明にしてしまって煙に巻く手もあったでしょう。

もう一工夫欲しかった印象です……。でも演技力はそれなりに高かったとは思います。

追記 評価が分かれる上演で高く評価する声もありますが、率直な感想を重視し書いてあります。