共愛学園高校「あゆみ」

作:柴 幸男(既成)
演出:成柄 桃子
※優秀賞

あらすじ・概要

あゆみという人物の過去や現在を、区切られた空間で代わる代わる演じていく特殊な舞台。

感想

舞台の長方形の頂点に置かれた4本のSS。そこへやってくる演劇部員たちが、椅子を置き、小道具を置き、テープを貼って上演を開始する。長方形のサスが舞台を照らしている。枠の中が上演されている舞台であって、その外では部員。照明枠の外へ出た瞬間、もうひとりが反対側から入ってくる。その二人は同一人物という設定で話が進行する。枠で区切られながら無限に続く空間。

以前に関東大会で見ているのですが、やはり同じ感想を持ちました。「上手から下手に移動しながら進行するのは違和感がある」「劇空間である照明枠の両側を隠したほうが面白いんじゃないか?」です。原典があるのだろうしとやかく言ってもしょうがないのですが、でもやっぱりその疑問を超える回答を上演から得ることはできませんでした。個人の意見に過ぎない細かいことですけども(ちなみに台本には順守する必要はないって書かれています)。

左右だけではなく、手前と奥の照明枠を作ってそれでも上演していました。地区大会から進化させたみたいです。そんな高度なことをしながら、人物の入れ替わりを隙なく演じきったことはすごい。ただただ唸るしかありません。

とりあえず台本をみてみると(ここで公開されています)、ところどころ「あゆみと未紀」ではなく「女と同僚」のシーンが入ってます。しかも、同じ「あゆみと未紀」でも時間軸が複数存在してそれを分割しながら進めています。人物の違いは当然ですが、時間軸が違うってことは年齢(状況)が違う。年齢が違うなら演じ方が違ってしかるべき。台本には何本の時間軸が並列しているか書かれてはいませんが、読み解くことはできます(読み解けなくても解釈することはできます)。時間軸の差を読み取って、それをきちんと分けて演じましたか?

ラストのト書きは「ゆっくりと光の道が消える。役者たちは歩くのを止め、客席に向かって一礼」となっています。これを変更し劇中劇として強調しているのは、はたしてどうなのかなと。狙いがあったのかもしれませんが、残念ながら何か意味を感じ取ることはできませんでした。長編があってそれに対する短編ということを考慮すると、あゆみという人物の半生の「歩み」を舞台化したものであるし、人物入れ替わりという難しい演出を想定して書かれているし、時間軸が並列しながらリフレインしている複雑な台本なのですが、ちゃんとそこまで分かって演じてたのかなという疑問がどうしても残ってしまいます。そこをちゃんとやらないと最後の「バイバイ」が何の意味も持たないんです。

技術的な上演として面白さやそれを演じきる圧倒的な力量は賞賛に値するんだけども、そちらにばかり注力してしまってこの抽象的な台本を読み込んでどう解釈したかという部分が伝わってこなかった。縦サスを入れたのはすごいんだけども、その前にもっとやることがあったよね。演技がとてもうまっかただけにそこが残念でした。上演おつかれさま!