市立前橋高校「EASY COME, EASY GO ~大切なモノ~」

作:山本 香苗(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

主人公の「かな」は、新人小説家。しかしデビュー作以来なかなか作品を作ることができていない。そこに、なんでも思いを叶えるセントラルドリームカンパニーなる会社のいかがわしグッズの話を聞いて、そこへ行ってしまう。

グッズの効果で次回作を書き、売り上げランキング入りになる「かな」。かなの友人たち、「ゆり」は歌手を目指すがなかなかオーディションに受からない。「だいすけ」は「かな」の小説が好きで、それを出すために出版社に入っていて「かな」を応援する。そんなある日、グッズの効き目が切れてしまい……。

主観的感想

【脚本について】

話としては王道の猿の手の変形。1つ前の高女の上演と並び、小説が書けない主人公なのですが、また趣向が違うという印象でした。話は実にシンプルで分かりやすく、自分の力でなく叶った夢に意味はあるのかということです。最後は「かな」がなぜ小説を書きたかったのかということを思い出し終焉します。

全体的にコメディタッチで描かれているのですが、ドラマという意味ではかなり不足。例えば高女のそれと比べても、書けない苦しみや安易に(グッズという手段に)逃げるほど追い詰められる様子もなく(または逆に、本気ではなく買ったのだけど効果が本物で驚くという様子もなく)、歌手を目指して一生懸命がんばる「ゆかり」の一生懸命さも描写されず(それがわかるようなエピソードもなく)、同じように「だいすけ」の「かなの小説が好きだから出版したい」という懸命さもない。

やりつくされているテーマだけに、エピソードの組み合わせ方は星の数のようにあると思うのですが、本来そこに充てるべき描写のすべてが笑いに費やされているので話が薄っぺらくなっています。全体の構成や、メイン3人の人物配置、その3人の組み合わせでシーンに変化を付けるなど上手くバランスが取れているだけに、非常にもったいないという印象です。例えば、講評で言われていた「三角関係」はまさにうってつけのやり方だったと思います。

【劇について】

「場面は変わって次の日」「1時間後」「2時間後」と、登場人物みんなで声そろえて時間経過してしまうというやり方やSEを役者が台詞で言ってしまう処理など、非常に面白いと感じました。その手があったかと。コメディメインですが、動きやポーズで笑わせるのがうまかった。間とかも大体適切です。

舞台セットは非常に簡素で裏に黒いパネルが3枚、その手前、舞台中央に大きさ的にも高さ的にもたたみ4畳ほどの木の台があり、その中央2枚がさらにたたみ一畳分高くなっています。全体の出来に対し舞台装置は適当な感じで、シーンが比較的多いのですから左右で別のものを用意して使い分けるなど、工夫がほしかったところです。

上でも書きましたが、やはり主人公「かな」の苦しみや迷い、「ゆり」の歌手に向けてひたむきな様子をもっと描写してほしかったところ。最後の「何で小説が書きたかったの」「わかんないよ、何で書けないの」などの問いかけやラストの結論の出し方などは良かったのですが、結局そこ(カタルシス)に至るまでのドラマ(抑圧)が不足したという点に尽きると思います。

【全体的に】

話は単純ですが、演出と演技で押し切ったという印象があります。OPでダンス+プロジェクタの投影、エンディングでBGMをバックに動きだけみせるという映像的演出がされた劇でした。そう考えれば、暗転も7~8回あったし、BGMもやや映像的に使われていたし(参考)、どちらも鼻に付くほどではなかったので大きな問題では無いにしろ、ではこれで万事OKかといわれると疑問符を出さざるを得ません(演劇は映像ではないのですから)。

コメディとしてみれば面白かったのですが、これもまた手放しで絶賛できるかといえばそうでもなく。多分、暗転3回で書いていれば、否応でもドラマがきちんとしたのではないでしょうか。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • 高女のときと同じ小説が書けない主人公ですが、また別の作品になっていて、こちらは何かに打ち込んでいる青春もの。役者が楽しんでる様子が伝わってきた。
  • 話がシンプルで分かりやすかった。
  • くちびる星人、まつげぷるるん星人など(編中:グッズの変な人形)、手作りだと思うけど可愛くできていた。
  • 基本的に裏の黒パネルの隙間から出入りするのだけど、平台の木目がむき出しで現実に戻される。また小説を書くシーンでは立ったまま書いていたし、そういう意味でも箱などを置いてみてはどうだったか。
  • 小説が書けないという「かな」のドラマが薄い。
  • 「ゆり」は素敵でいつも「かな」を励ます役回りだったが、例えば「ゆり」は本当は「だいすけ」のことが好きとして、「だいすけ」は「かな」が好きというふうに三角関係とかがあれば物語に厚みが出たのではないか。
  • オーディションのとき、サス(天井のスポットライト)だけで「ゆり」の顔がよく見えない。ピンスポ(前面からのスポットライト)とかあててほしかった。