桐生南高校「本日も大安なり」

脚本:青山 一也(顧問創作)
演出:藍原 宏心

あらすじ

同性愛の父親と、息子二人と娘(一番下)今日子。今日子は、父親のために恋人 大輔(男)を探し紹介する。そんなちょっと変わった、でもどこか温かい家族でのお話。

【以下ネタバレ】

ドタバタの中、家族に受け居られていく大輔と、それを快く思わない今日子。 やがて父と養子縁組をするという話になると、今日子は喧嘩をし、家を飛び出した。 それを追いかける大輔。彼女はファザコンだった。

主観的感想

【脚本について】

もう既に何作も創作脚本を書かれているベテラン(?)。 昨年の桐生南も同顧問の創作脚本でしたが、 シナリオの出来以前に力及ばすといった印象でした。 お話の作りは昨年よりも良い印象です。 上演パンフの紹介欄に(以下引用)、

この台本は非常に出来が良いのですが、とても難しく、 台本のレベルに生徒が付いていけないという状態が長く続いてしまいました。
とある通り、とても完成度の高い脚本です。 笑いの中に何か一つを描き出すという、演劇らしい要素がよく詰まっています。 多分本だけ読んでも面白いと思います。

ただ問題を上げるとすれば、 今日子のラストへのフリがないかな、前半から少し入れた方が良かったよう に感じます。

【脚本以外】

紹介にある通り、演技が頼りない。 一番上の兄貴、大輔に始まり、他も多少演技に不安を感じる。 笑わせるところではもっとオーバーにしていいし、 演技のメリハリ、強弱をもっと付けるといい。 兄貴とかは、もっと性格を出していいと思う。 この学校も、声のトーンがほぼ一本調子なのが残念。 その辺は自覚があるのか、台詞の間を意識的に開けることで 変化を付ける努力は買いたい。 ただ、だからと言ってトーンの変化、 声色の変化をしなくて良いという理由にはならない。 特に気になったのは、ラスト付近で今日子が飛び出していくシーン。 全然飛び出してないのでただ走っている。あれは大問題。

舞台が広すぎた印象。 幕などを使って狭めた方が良かったと思われます。 また、冒頭に内幕を引いてその前に出るシーンがありますが、 舞台を狭めて袖付近をスポットで使うとか、 なんとか一場面で済ませる工夫がほしかった。

【全体的に】

とにかく演技をもっと頑張ってください。 これだけ笑わせつつも、家族というテーマを描いたのは見事です。 演技が多少頼りないながらも、十二分に楽しんで観られる劇でした。

審査員の講評

【原】
  • 台本を読んだとき(同性愛もので)「これはすごいことになっちゃったな」と感じた。 これを高校演劇でやっていいのかとすら感じた。
  • 実際の舞台をみて、さわやかでドロドロしておらず、 ぜんぜんいヤラしさを感じないことがよかった。
  • お父さんが(高校生が演じているのに)お父さんに見えて、 しかもそれっぽく見えたのは上手かった(目つきのおかげか?)。 大輔の方もよかった。
  • 幕をおろして大学のシーンを(前)でやるが、あれは省けるのではないか。
  • お父さんが家族に受け入れられているわけで、 その告白をしたシーンの方が(この劇でフォーカスがあてたものより) よっぽどドラマではないかと考えてしまった。
【中】
  • 本来重たいテーマを軽く扱ってみせる劇という印象を受けた。
  • 家族が(お父さんを)明るく受け入れてしまっている姿が腑(ふ)に落ちない。
  • ラストの養子縁組の話は本当に必要だったのか?  そんなことをしなくても良いように、十分幸せそうに映ってしまった。
  • 一部の台詞が聞き取りにくかった。
【掘】
  • この本は青山先生しか書けないのではないかと感じた。
  • 軽いタッチで演出されていて、楽しめた。
  • リアル志向でやろうとしているのか、 嘘のリアル志向(そんなのあり得ないということの積み重ね)でやろうとしているのか、 どっちつかずの印象を受けた。
  • それが災いして、「嘘リアルな嘘(ばかばかしい嘘)によるリアルさ」ではなく、 単なる嘘っぽさを全体から感じてしまったのが残念。 (補足注釈:おそらく、 例えばお父さんの設定や家族に受け居られているなど無理のある部分を、 バカバカしい嘘によって裏付けすることで逆にお客の意識を取り込めたのではないか、 という意図の評だと思われる)

桐生南高校「アリスは筋書きの中で踊る」

脚本:青山 一也(顧問創作)
演出:藍原 宏心

劇の概要

ある少女が学校へ。 気がつくと、そこはなぜか不思議の国で、 その少女はみんなから「アリス」と呼ばれる。 アリスと呼ばれる少女は、驚き職員室へ向かうのだが……。

主観的感想

身も蓋もなく言ってしまえば、 導入とラストの方で掛かるテープ(スピーカーの音)にあるように 「周りの大人から、こうあるようにと求められ、そう演じ続ける少女」の物語。 不思議の国という舞台を用意する事で、直接的な明言を避けながら構成されています。 ただ、その不思議の国という舞台の中にテーマ性が埋没した感じがあって、 もっと現実的な問題に関する事件を劇中で起こしても良かったのかな、と少し感じました。 実際にアリスと呼ばれる少女が筋書きの中で動かされつつ、そこに抵抗を覚える。 在り来りですが、こういう構成の方か話が見えやすい。 とはいえ、創作脚本としては全体の中でもかなりよく出来ていると感じました。

演技・演出面では、全体的に無難すぎる印象がありました。 もっと突出した点をみせても良かったのではないでしょうか。 本に対する(演じ手の)理解が甘い感じもしました。 ラストシーンは印象に残すよう演出されていましたが、 やはり全体的にあと一歩踏み込んで欲しかった。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 背面にある大きな衝立。扉の開け閉めは良かったのだけど、 閉まるときにバタンという音がしてしまうのはもったいなかった。 スポンジ等を使ってなんとかしてほかった。
  • よくまとめられ丁寧に作られているが、もう一つ何か「欲」のようなものがあれば。