桐生高校「Re; BOrN」

  • 作:武島美智子・桐生高校演劇部(顧問・生徒創作)
  • 演出:深田 遼

あらすじ・概要

高校卒業から10年。ある日、宮本に呼びだされた3人の同級生たち。そこには火文字という学校行事で使った布が置かれていて、それを処分してほしいのだと言う。その布には処分しようとすると呪われるという怪談があるのだった。

感想

幕があいて、サスの少女の開幕シーンが終わったあと、舞台が照らされました。上下(かみしも)、奥手前に4本の灰色の長方形オブジェが置かれていて、舞台中央に椅子や机が乱雑に置かれています。そして床にはなぜか開いたダンボールが。少し廃墟感のあるようななんとなく抽象的な舞台に映り「これはきっと抽象劇でも見せてくれるんだろうな」と期待したら、実際は現実劇でした。もう少し現実っぽい装置は作れなかったのでしょうか(机が倒れてないだけでもよかったのですけども)。

この劇は「火文字」という桐生高校の文化祭の後夜祭などで実際に行われる行事を題材にしています。その説明なのか、何度か写真だけぱっとプロジェクター投影されます。いや、欲しいのはそういう説明じゃなくて……。もちろん説明台詞でこれこれこうなんてやられた時には白けますが、その時の様子を会話で間接的にもうちょっと説明してほしかったかな。

演技は概ね安定していて、全体的には安心して観ることができました。ただ役者さんによって発声が悪く、少し聞き取りにくい台詞があったり、リアクション(演技)がやや弱いところもありました。金子はキャサリンだっけ、演技や発声もあるのか結構リアリティのある女装キャラで面白かった。

気になったところを箇条書きに。

  • 冒頭サスで少女が語るシーン。サスが完全に消える前に少女(いぶき)が動いてしまった。
  • 机を使って全員が倒れるシーンの前に、机の上に置いてあったオムライスを大して意味もなく片付けたのでこれから机でも倒すんだろうなってことが見えてしまった。台詞にしないで、進行と関係ない人物が無言で(その人物の判断として)片付ければよかったのでは?
  • 回想シーンの挟み方やタイミング(その情報が必要になる直前)がいちいち説明的で、特にプロジェクターで動画(縄跳びシーン)を使ったシーンなどは全く必要性が分からなかった。
  • かと思えば、サクラの枝を出す前に春ということを感じさせる配慮が少し足りないし、火文字に対する間接表現の説明も少し足りない。フリが足りないから唐突な印象を与えてしまう。
  • そういう意味で最もフリが足らなかったのは「宮本=幽霊」の設定。「実在したと思ったら幽霊でした」は高校演劇でよく使われる設定ではありますが、あそこまで普通に交流してた人が幽霊だとこじつけ感が出てしまう。
  • 舞台上のダンボールがずっと気になっていたのですが、布を燃やすシーンで使う照明のケーブルを隠すためのものらしい。机を倒した時に床を傷つけないために敷いたそうです。何に使うんだろう、何の意味があるんだろうとずっと思っていましたので不自然です。劇で使用しない「特異なもの」を舞台中に置くのはよくありません。
  • 燃やすのに使用した小道具がそもそも何なのかよくわからないのですが、最初から置いておけばよかったんじゃないでしょうか。
  • どうして布を燃やすのに、布よりも燃えにくい薪が必要なのかよくわかりませんでした。

中でも観ていてもっとも気になったことはここはどこですか?

  • 学校の
  • 屋外ではなく
  • 乱雑に机が置かれていて
  • 学校行事で使った布が10年保管されていて
  • 校庭で行われた火文字の行事を眺めることができて
  • 物を燃やすことができる場所

……ほんとにどこ? そんな場所さっぱり検討が付きません。頂いた情報によると、体育館が2階建の2階になっていて1階部分が屋外(吹き抜け)ということらしい。地方の大手電気店で1階が駐車場とかでよく見かける構造(参考図)。謎の灰色オブジェはコンクリート柱かな。全く伝わってません(苦笑)。抽象劇ではなく現実を舞台にした劇ならば「どこで」という情報はかなり重要です。舞台で今まさに起こっている状況を飲み込めないのです。


全体として、声はよく聞こえるし、演技も安心感があるし、台本に大きな欠陥もないし、観ていて面白いし、良い要素がたくさんあるのですが、致命的ではない細かい配慮不足が非常に多く積み重なってしまったなという印象を受けました。特に、演者と観客の情報の格差、知識の差に対する配慮不足が目立ちました。

「何も知らない観客がこの舞台を見た時どう感じるだろうか?」という客観視。演出面では絶対に欠かすことのできない配慮が不足したと感じました。

色々言ってしまいましたが、オリジナルの創作脚本できちんとまとめ上げ、しかも楽しめる上演したことはとても素敵だと思います。上演おつかれさまでした。