桐生高校「赤鬼」

作:野田 秀樹(既成)
構成・潤色:武島美智子
演出:矢部 雅也

あらすじ・概要

海辺に打ち上げられ助かったはずの3人。しかしその時フカヒレのスープを飲んだために助かった妹は自殺してしまう。なぜ自殺してしまったのか。それには、以前浜辺に流れ着いた赤鬼が関係していた。

感想

暗幕を半分ぐらい閉めて、その奥にホリを見せている簡素な舞台。そこに浴衣のような衣装を来た3人。男2人と女1人。役が足りない部分は、3人が役割を交代することで次々と展開していきます。演技も安定しているし、この交代を分かりやすく見せるのが本当にうまい! ただ衣装、もうちょっと服っぽくして欲しかったかな……。浴衣って昔の部屋着なので違和感あるんですよね。あと波音がうるさいシーンが何回かありました。最初だけ大きく聞かせれば後は下げていいので見る邪魔にならないようにしてほしかった。

プロの劇団が上演していた本格的な台本で非常に魅力があります。ですが、60分に収めるためあちこちカットしたみたいです。ただそれでも時間が足りないらしく早足な感じが否めませんでした。もっと間を取ればいいのにってシーンがいくつもあって(特に前半)、さらに大胆にカットしてもよかったんじゃないでしょうか。じっくり聞かせるべき台詞が早口で流れていっちゃったんですよね。あと暗転時に、完全に暗くなりきる前に焦って移動するのが見えてしまった。こういうのはとても勿体無い。削ろうと思えば削れるシーンはまだまだあったと思います。

何を言ってるかわからない赤鬼が、だんだん異国人とわかってくる当たりの流れとか素敵な演出だったと思います。見ていてにやりとしてしまいました。とんびのバカっぽさがうまかったな。とんびだけじゃなく全員うまかった。細かいことですが、船の漕ぎ方。講評でも指摘されていましたが、力入ってないし、戻すときあんなに高く上げません。水面ギリギリを戻します。

非常に怖い話で、しかも本格的な舞台でぐいぐいと引き込まれとても楽しむことができました。こういう台本って下手に上演すると白けるだけですので、そこをきちんと楽しませた実力は大したものです。本当に良かった!

桐生高校「通勤電車のドア越しに」

作:金居 達(既成)
潤色:桐生高校演劇部
演出:後藤 潤一
※最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

通勤電車のドアに顔だけ挟まれた男とその周りの人物が織りなすドタバタコメディ。

感想

すごく面白かった!

2005年の桐生南の上演で観ているのですが、その時より面白かった。人物がきちんと立っていて、リアクションがちゃんと取れている。それに加えてちゃんと演出されている。

気になったところとしてはドアをどかした後のポールが視覚的に分かりにくいことです。白や色つきの棒でも、昔の桐生南のように枠だけでも何でもいいのですが、もう少し分かりやすくしてもいいんじゃないかな。また、列車アナウンスを声でかき消すシーンは実際にかき消してほしかった。ミキサーでボリューム絞って中域少し下げれば聞き取りにくくなりますから(もしくは聞き取りにくい音加工をしておけば)十分可能だと思います。

それと暗転のテンポが少し悪かった。装置の転換はないのですから、もう少し早く処理できないものでしょうか。以前の桐生南はもっと手早く処理してた記憶があります(暗転しないで回想処理してたんだっけかな)。

カメラの少年が出てきますが、写真を撮る際フラッシュを炊いたほうがいいと思います。あと電車の椅子ですが少し大きいように見えました。椅子と分かりにくいので、欲を言えば左右に2つほしいし、もう少し固そうな座席に見せられないものでしょうか。

色々書いてしまいましたが、とても面白く、台本のアレンジもうまくされていて楽しめました。関東大会も頑張ってください。

桐生高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:桐生高校演劇部
演出:(表記なし)

あらすじ・概要

生徒会主催の部活予算会議に集められた6人の部長と生徒会長(かつ手芸部部長)。私たちは、教員たちが決定した削られ続ける部活予算をただ承認するだけなのか。それとも全会一致で拒否権を発動して、部活予算を作り直すことができるのか。各部長たちとのの駆け引きと議論が進み…。

感想

パンフレットにも書かれていますが、高校演劇界では有名な台本です。私は初めてみましたけど。

左手側に移動式の黒板が置かれ、議長席として机と椅子、そこに生徒会長。中央から右手にかけて6脚のパイプ椅子がずらっとならび、全部で7人の部長が集まったという舞台風景。元台本は女子7人らしいですが、男子6人+女子1人という非常に勢いと元気のある舞台になっています。

声やテンションは高くてわいわいがやがやすごく良いんだけど、間がないからあんまり笑いにつながらない。特に前半。後半はきちんと間が取れていたので、緊張があったのかなあと思いますが少し勿体なかった。元々の台本が面白いから、もっと笑いがとれるはずなのです。また見ていていまいち分かりにくかったのは会話のがやがやが整理されてなかったからでしょう。ものすごくリアル志向の演技で、よくぞここまで研究したという褒め称えるぐらいワイワイなんだけども、舞台としてみせるには少し問題がありました。がやがやしすぎてよく分からないことです。

台本はコメディなので、そういうリアルよりも少しだけオーバーに演じる必要があります。もちろんリアルを取り去ってはまずいのだけども、リアルでありながらもオーバーな部分を作ってあげて、同時に少し弱める部分を作ってあげるとグッと全体が引き立ちます。何をどうしてと具体的に書くよりは、参考意見を言ってくれる観客か演出を立ててその前で一度演じてみてください。それが早道です。観客の視点からの作り込みが欠けたのが最大の問題で、あの演技の勢いですからそれがあれば会場を大爆笑させることができたでしょう。

観客視点といえばBGMが非常にうざったかった。ほとんど要らない。BGMをあれだけ多用することは「BGMに頼らないとムードが出せません」と敗北宣言しているようなものなのですが、実際の舞台はBGMなんていらないぐらい面白い。だからものすごく邪魔でしょうがなかった。

全体的に

後半はコメディの止めを使ってうまく笑いをとっていましたが、コメディ以外の台詞と台詞の間も注意してほしかったなと思います。あとは上にも書いたけどゆるむ演技、トーンの弱い演技を所々に入れてあげるとよかったでしょう。意識的に弱めた場所をみせることで、ワイワイはもっと引き立つのです。

元気いっぱいに作っていたのはすごくよかったし面白かったのんだけども、観客視点を忘れずにそれをさらに発展させるような工夫をするとより上を目指せるかと思います。それはともあれ、あそこまで力一杯演じている姿はやっぱり清々しく好感を持ちました。

桐生高校「未定」

作:キリ平
演出:遠藤 有希子

あらすじ・概要

無茶苦茶を行う大学当局に対抗する学生たちの物語。学園祭の実行委員を依頼されたが大学批判や政治などに関する出し物はすべて禁止された。学生運動をモチーフとした、学生と大学の戦いを描いています。

主観的感想

脚本について

幕が開いて最初に「反対ー、反対ー」というシュプレヒコールから始まり、「何について反対なのか」と思ったあとに「授業料値上げ反対」といった台詞が出されるあたり、遠くの情景から近くの情景へという台詞回しがよく出来ていました。

メインの舞台は大学付近の喫茶店。装置もよくできていてムードがあります。話のメインはこの喫茶店です。もう1つ「大学側」として黒服みたいな男が出てきて「○○は禁止とする」と言ったり「大学当局へ反抗するものはみんな排除する」といった具体化された『敵』のシーン(スポット)があります。その他、登場人物がゲームオタクというフリがあり、それを説明するために回想シーンがあったりします。そういうの以外は全部喫茶店で話が動きます。

はっきり言って喫茶店以外のシーンはすべて不要(邪魔)です(最初のシュプレヒコールは除く)。それらのシーンはほぼすべて状況を説明するために置かれているのですが、そういうものは登場人物達の会話から状況が推測できる程度の情報を出せば済む話です。本を書く人が陥りやすいのですが、物語の状況を詳細に決めることは大切です。しかしそれを直接的に説明することは全く余計なことです。前口上的なものは要りません。このような背景状況は、物語の展開に必要最低限の部分だけ登場人物達の会話に滲ませるとムードが沸き、少し謎めいた背景世界に対して観客の想像力が掻きたてられます。観客を作品世界に引きつけることになります。

演劇では場面転換に時間がかかります。自分たちの上演を録画したビデオがあれば確認してみるといいのですが、作者のあなたが想像したように、綺麗にA/B2つのシーンを挟んで画面切り替えが出来ていますか? 最初に脚本を書いたときの想像通りスムーズに転換ができていますか?

あともう1つ。このお話では結局「敵」を倒していません。基本構成は勧善懲悪(正義が悪を倒す)にも関わらず悪を倒しません。では悪に負けたかというとそうではありません。話を「敵」と「私たち」という形で転がしながらその部分に明確な決着を付けずに終わります。今の、主人公が未来へ向かっていくというラストが悪いというのではありません。それはとても良いのです。けれども同時に「敵」と「私たち」の間に決着を付ける、または決着に向けた未来への標(しるべ)をみせてくれないと、観ている方としてはフラストレーションが溜まってしまいます。

会話の処理やシーン作りがよく研究されうまく書かれているだけに、そういう部分が本当に勿体ないなと思いました。

脚本以外

カウンターのある喫茶店、テーブルが2組。ドアは存在しないのに、ベルをならすことであたかもあるように見える。一生懸命苦心して作り上げた「喫茶店」というリアリティがよく出ていました。椅子がやや嘘っぽかったですが、それは別として限られた中での努力と熱意がとてもよく伝わってきます。登場人物を色づけ(性格付け)して、人物たちが会話をするという見せ方もきちんとしたものでした。基本的なことはきちんとクリアしてきています。

しかしながら、完璧かと問われるとそうでもなく。本のアラの方が目立ってしまい講評もほとんどそこに終始していましたが、もうひとつ登場人物に実在感がありません。ひとつひとつの台詞をきちんと言うことに注力していたのですが、その先の「その人物の思考、普段の生活」という部分までは見えてこない。

実力はあるのですから、もう一段階ステップアップ。台詞をきちんとこなそうという部分の先に、役者自身による「この人物はこういう性格の持ち主」という理解があり、それを観客に向かってどう表現しようというと考えると人物のリアリティがぐんと増します。台詞上の性格付け以上のもの、例えば必死さや一生懸命さ大雑把さに投げやりなところが表現できるようになると、あたかもそこにその人物が居るように見えてきます。

地区公演を含め、本当にいつも一生懸命作ってきて上演しているのですが、今一歩というところで勿体なく感じました。