高崎商科大学附属高校「ニューカマー」

  • 作:荻野 葵平(生徒創作)
  • 潤色:商大附高演劇部
  • 演出:五十嵐 千華
  • 創作脚本賞

あらすじ・概要

おかまバー「レインボー」を訪れるOL二人。クリスマスの夜、不幸せな人たちに訪れた、ちょっぴり幸せな物語。

台本の感想

基本的に一幕で進行する劇です。とても面白かった。

よく出来てるんですよね。言葉の掛け合いとか、台詞回しとか、よくありがちな失敗がなく、自然な会話の中からストーリーを無理なく説明していきます。そもそも、おかまバーという設定が面白い。途中漫才のシーンとか、この辺も上手いです。演じてる人も上手いのですが、台本の時点でちゃんと面白く掛け合いや笑いが作られているというのは相当なことです。

かなり完成度も高いと思います。

感想

十分な高さの(8尺程度)のパネルで囲まれたバー。赤レンガ風に塗ってあり、下手に出入り口、中央にバーカウンター、上手にステージが置かれています。最初のBGMを含めムードがとてもよく、入り口を開けると奥にバーの電飾看板が見えるのもにくい演出です。美品やコート掛け、酒瓶など、抜かりがありません。

主役であるバーのトシちゃん。おかま演技なんだけども、実際にこういう人「居そうだな」と感じさせます*1。リアクションがだいたいちゃんと出来ていて、台詞の掛け合いもリアリティがあります。間の使い方がとても上手いんですよね。特にギャグシーンや漫才シーンでは間の使い方が際立っていました。いい演出です。

気になった点。

  • クリスマスなのに、お客さんがほとんど居ない。
  • クリスマスなのに、店内装飾にクリスマス色がない。
  • ステージがあるほどの広さなのに、お客さんがほとんど居ない。
  • ステージに何人も芸人が出て来るのに、お客さんがほとんど居ない。*2
  • トランプマジックで使った巨大トランプは、客席から見やすいように「A」とか「2」とか小さめの数字にしたほうが良い。
  • お菓子を出すシーンで、実際にお皿にお菓子を乗せていたのはとても良かったのですが、袋ごと乗っていたのは気になりました。普通は開封して白い紙の上に並べたりします。

バーのステージの使い方なのですが、配置の都合上、舞台上手に置くのまでは分かります。でも、客席の方を向いて演じるシーンと、舞台下手(バーの中心)を向いて演じるシーンが両方あるので疑問に感じました。このステージの正面はどっちの設定なんですか? 歌のシーンで、置いてあったスピーカーを使ったのかその場から音が聞こえる演出はとても良かったのですが、唯一そのシーンて下手を向いていて正面の設定が分からなくなりました。どちらかに統一したほうが良いと思います。

全体的に、非常によく演出されていて、どのシーンでも客席がどう受け取るかよく考えられており、そして相当念入りに練習されています。それでいながら、やりたいことをやりきった感があり、見ていてずっとワクワクしていました。面白かったし、演技・演出面からも入賞すると思ってました。サクライの使い方とか面白すぎるでしょ(笑)

装置を見るだけで引き込まれる完成度の高さと、細かい部分まで配慮された演出。それでいて入選しなかった理由を考えると難しいですね。講評で指摘があった人間ドラマの不足、最後のしんみり感の不足は、しいて言えば台本の問題であって、それを舞台評価に含めるのは違うような気がします。

構成の選択肢として、ステージの登場人物を減らして、その分を恋愛模様・恋模様に振るという手はたしかにあります。お客より、ステージ演者が何倍も多いという問題も解決できるでしょうし、登場人物の背景を描き出すこともできると思います。バーのマスターやサエコの背景をより描く選択肢はあったでしょう。でもそれ、好みの問題だと思うのですよね。ギャグに振り切った舞台もありだと思うし、純粋に観客を楽しませるという行為も、もっと評価されるべきだと思います。*3

とても笑わせて頂きました。上演おつかれさまでした。

*1 : 行ったことあるわけではないので分からないけども

*2 : どう考えてもお店が赤字になってしまう。

*3 : ただし、その場合は、もっともっと覚悟を持ってギャグに振り切ることは必要だったかもしれません。