まとめ

久しぶりの関東大会観劇でした。上演校と運営校のみなさまお疲れさまでした。

今大会は、なんといっても芸術総合高校「Midnight Girlfriend」高崎商科大学附属高校「Arco iris」がけた外れに面白かったです(特に後者)。同じぐらい面白い作品は、自分の観測範囲だと数年に一度あるかどうかレベル。関東大会といえども、破格に面白い作品には滅多に出会えるものではないので、一回の大会で2つもこのような作品に出合えたことは幸運です。

もちろん他の上演校も総じてレベルが高く、楽しめました。中でも群馬の出演校は自然で力の抜けた演技が良かった印象があります。このちょっぴりリアル志向の演技は群馬で流行なのでしょうか。

大会運営の話になりますが、「ポストイットを配布して感想ボード貼る」&「QRコードで感想をGoogleフォームから送れる」の二本立ては非常によく考えられた仕組みだと思いました。紙と鉛筆配るより良いですね。

感想、もっと簡単に済ませようかと思ったのですが、どの演目も魅力的だったので気づいたら気合たっぷりになってしまいました。久しぶりの更新な上、関東大会なので、多分ほとんどの上演校には気づかれないと思いますが、興味がある人に届けばいいなと願っています。

それではまた。

蛇足だけども

審査員ウケする台本(の演劇)が高く評価されて、普通に面白く完成度が高いことをぜんぜん評価しないのはどうなんでしょうね……。どっち平等に評価してほしいものです。

高崎健康福祉大学高崎高校「グッド・モーニング」

  • 作:三浦直之(既成)
  • 潤色:荻野恭子(顧問)

いつも最初に登校する白子が駐輪場に行くと、そこには見知らぬ同級生の姿があった。

良かった点

  • 学校の駐輪場とその周辺を四角い照明で区切って舞台空間を明確に絞っていた。
    • ただの全面照明と比較すると劇全体の印象がぜんぜん違う。
  • 謎の同級生(逆おとめ)と、白子の関係が徐々に打ち解けていく様子が素敵。
  • 演技に合わせてBGM音量を適切に調整していて見やすかった。
  • 態度で二人の関係性の変化を表現しようとしていた。

気になった点

  • おとめの性格付けは、本当にこれでよかったのだろうかという疑問が残る。
    • いかにもステレオタイプに想像しがちな引きこもり風の様子や喋り方をしていたのだけども、本当に必要だったのだろうか。
    • むしろ、もっと普通な人物像として演じたほうがリアリティが増して良くなる可能性はないだろうか。
  • 照明の関係でそう見えただけかもしれないけど、白子の自転車がピカピカに見えてしまった。
    • おとめの自転車がピカピカで、白子の自転車が薄汚れていたほうが良かった気がする。
  • ラストシーンをLINEのやり取りにして、やり取りの内容を客席の想像にゆだねていたけども、台詞のほうが良かった可能性はないだろうか。
    • おそらく台本の通りなのだと思うけど、そうすることの必然性をこの上演からは感じられなかった。

いろいろ

調べてみると高校演劇用にプロが書き下ろした台本のようです。なるほど、難しそうだ……。

「解釈」や「演出」がすこし足りなかったんじゃないかなという感じがしてしまいます。二人の関係性と、二人それぞれの心境の変化がきちんと表現されるとこの舞台は完成されと思うのですが、現状ですと全体的に散漫にな印象が拭えません。

おとめの性格以外に、具体的にどうのと述べるのが難しいのだけども、もっともっと態度から二人の関係性が見えてほしかったかな。

とはいえ、会話により観客を惹きつけていて、笑いもとれていて、楽しめる舞台でした。

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新潟江南高校「アルキメデス・スリッパー」

  • 作:長崎北高校学芸部と福田耕(既成)
  • 潤色:新潟江南高校演劇部
  • 演出:中村友理佳
  • 優秀賞

バス停で出会った陽気な高校生北川と、無口な青木の織り成す物語。

良かった点

  • 演技がとても良い。動作や間の使い方がとくに秀逸。
  • きちんと演出がされている。
  • 二人の関係性が徐々に構築される様子が、きちんと表現されている。
  • 感想な舞台装置と、舞台全体広く使った演出が内容にマッチしている。

気になった点

  • 開幕のBGMが長すぎる。北川が動き始めたらBGMはすぐ止めてよいような気がする。
    • 北川が(自撮りする様子を)きちんと演じられているので、BGMが邪魔に感じる。
  • 全体的にレベルが高いだけに、一部のリアクション動作が「型の演技」(不自然な反応)に感じられる部分があり、もったいなかった。

いろいろ

とにかくにも演技・演出がよかったなという印象です。言葉で表すとシンプルですが、それを実行するのはとても大変なことで、この手のギャグ台本は演技(や演出)がダメだと、本当にただただ寒いだけの上演になってしまいます。この舞台では、シーンひとつひとつ、立ち振る舞いひとつひとつが観客の立場にどう映るのかきちんと配慮がされています。その積み重ねが、最初の「スリッパの打音」だけで会話を成立させ、観客を舞台に惹きつけることにつながっています。

欲を言うならになってしまいますが、全体的に「青木を北川が食っている」(北川が主役である)感じが少し強く、未来に向かって歩むと決めた北川の心境の変化にもう少し演出的焦点が当たってもよかったのではないかなと思いました。*1

とにもかくにも、非常にレベルが高く、とても楽しい上演でした。

*1 : 台本云々ではなく、あくまで演出的なお話。

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秩父農工科学高校「群白残党伝」

明治維新後に起きた秩父事件から2年。秩父事件の残党がある山小屋に集まっていた。今度は武力闘争ではなく直訴を目指すというが……。

良かった点

  • 小屋を表現した装置と照明による「舞台」の構成が巧み。
  • 演技力が高い。
  • 笑いと狙うところではきちんと笑いをとれている。
  • キーとなる、竹次郎と女の子(役名忘れた)の関係性がきちんと構築されている。

気になった点

  • 全体の演技力が高いだけに、苗吉の声がよく聞き取れないのが非常に惜しい。
    • 大人っぽい声を作ろうとして聞き取りにくくなっている感じがするので、聞き取れないぐらいなら無理に声を作らなくてもよかったのでは
  • もっと笑わせて観客を引き付けることもできたのではないか。

いろいろ

埼玉では有名な秩農ですが、10年ぶりの観劇でした。笑いに対するすさまじい執着というイメージだったのですが、今回は高校演劇寄りの(高校演劇でウケそうな)題材でした。*1

とてもよく作りこみされていて、そして結末はどこに向かうのかと思ったら、最初の語り手に戻し、しかも制服を着ている違和感をだして無事着地というあたりはさすがといった印象です。

でも、なんというか、完成度が高いだけに「もっとできたのではないか」という欲もあります。よく知らない「秩父事件」を説明されて、直訴とか言われても「直訴ねー、ふーん」という感想を持ちます。これからどうなるのというワクワクではなく、「直訴してどうなるの?」冷めた感情がありました。これ、多分、前半で「これから出てくるコレコレは美味しいですよ!」って観客に提示しきれてないせいだと思います。最後のオチがどれだけうまくても、そのオチに興味を持たせられなかったら(演出としては)失敗だと思うんですよね。

もしくは、もっと笑いに振ってしまうとかもあるのかな。笑い要素は入れていたのだけど、全体のバランスで見たとき「無茶苦茶笑わせます!」でもなければ「要所要所で笑いを取るぜ」でもないため、ちょっとアンバランスな印象を受けました。シリアス一辺倒という選択肢もあったのでは。

とはいえ、警察隊が来た当たりからの引き込まれてグイグイ見ていましたし、着地もきれいで演技も良い。楽しく観劇させていただきました。

*1 : 10年前のイメージを持つのはよくないですね……。

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松本県ケ丘高校「遠藤周作「深い河」より」

  • 原作:遠藤周作
  • 脚色:日下部英司(顧問創作)

妻の余命宣告を受ける男。妻の死後から3年、妻の生まれ変わりを求めて男はインドへと旅立った。

良かった点

  • 照明を効果的に使い、抽象的でダークな舞台をきちんと作り上げていた。
  • 開幕の動作を合わせるシーンの動きが見事にそろっていた。
  • 小道具としての椅子が効果的に使われていた。
  • おじいさんや病気の妻など、動作による演技がとても良かった。

気になった点

  • 抽象劇ということを差し置いても、病院の個室の出入り口がバラバラなのは気になる。例え抽象的だとしても、病室であるその瞬間はリアルであるわけで、(銀杏の木以外は)きちんと1つの出入り口から出入りすべきでは。
  • 場面転換は一瞬だとしても照明を落としても(多少暗くしても)よかったのではないでしょうか。

いろいろ

この手の劇は苦手なのですが、それでも率直な感想を述べたいと思います。

序盤と河に入るシーンで、「動きを合わせる演出」の動きを合わせる意図がよくわかりません。動きを合わせることを見せたかったのはわかりますが、それでも何がしたいんだろうという疑問が残ってしまいました。

そして不条理劇としての男のむなしさが際立って表現されていたのかなと考えると、やや疑問が残ります。意味ありげな元ボランティアの女性の背景を中途半端に描いていたのですが、それ必要だったのでしょうか。主軸がぶれてしまった印象もあるので、もう少し男のフォーカスしても良かったのではないだろうか……とか色々考えましたが、まあ難しいですね。

基礎演技力が高く、演出も終始安定していて、安心して楽しめました。

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