宇都宮高校「純粋で定言命法的な変態――或いは、」

  • 作:吉田真紘・畑康博・宇高演劇部(生徒・顧問創作)
  • 演出:丸山素生

文化祭当日、筋トレしりとり部の出展ブースを舞台とした物語。

良かった点

  • 照明で舞台を絞り、ちょうどよい空間を演出していた。
  • 男子4~5人の織り成す、元気で勢いのある舞台で面白かった。
  • 最後のほうで、しりとりをしながら台詞を掛け合うシーンが面白かった。
  • スローモーションと照明にたくみに使った演出がよくできていた。

気になった点

  • 声の通りは非常によかった半面、やや活舌の悪い部分があった。

いろいろ

筋トレしりとり部という題材ながら、その中で「審査」「地区大会」などのワードを通して高校演劇に対する言葉を投げかける作品となっていましたが、それらワードはともかくとして、全体的に何なのかというと特に何か思いつかないところに、やや問題がありそうです。

全員男子というパワーで押し切る舞台でありながら、後半になると、なんだか尻窄みな感じに……。そのパワーを後半で何かに転換して楽しませて欲しかったなと思います。もしくは、「ストーリーなんか知るか!!」という勢いですべてを放棄して押し切ってもよかったのではないでしょうか。別に、ラストシーンで哀愁なり何なりを表現しなければいけないという決まりはないわけですから。

とはいえ、ギャグエンタメとして作り込みは非常によくできていて、楽しめました。

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宇都宮文星女子高校「ジャングルジムが消えた日」

  • 作:海月(顧問創作)

グループ学習(?)課題として、廃校になった元学校に泊まり込みをした女子5人のおりなす物語。

良かった点

  • LINEのやり取りを、若干カタコトの声で読み上げることでうまく表現していた。
  • 主題の「ジャングルジム」を複数人で表現していて、それが崩れていく(公園から消えるの意図)表現が素敵だった。
  • みんなの声がよく通っていて、聞き取りやすかった。

気になった点

  • 舞台が広すぎるように感じたので、幕や照明を使って狭めて、今の半分ぐらいの広さでやったほうが、登場人物同士の「近さ」が出て内容によりマッチした気がします。今のままだと閑散とした印象がぬぐえません。
  • リアルな内容なのに、装置の教室の壁が、上手側で欠けていて廊下が見えるという抽象的な表現はミスマッチな感じがしてしまった。
  • パネルが6尺のため低く感じた(教室感が弱い)。
  • 火災報知器(消火栓)を止めるときに単に叩いていたけど、叩くだけでは止まらないのでは?(紐を引っ張くと止まるらしい)
  • プロジェクターを使った演出があるけども、表示サイズが1メートルぐらいであるため、よくわからない。装置の背面を使って大きく映してもよかったのでは。
  • 同じくプロジェクターを使う演出と、演技の演出が同時に行われている部分があり、どちらを見せたいのかよくわからなかった。

いろいろ

まっすぐに(結末から逆算した要素が少なく)作られた物語に感じられました。自由な発想で登場人物たちが掛けをするのは魅力だと思いますが、その一方で「この先どうなるんだろう?」「結末はどうなってしまうんだろう?」というワクワク感が少なくなっていました。前半にもう少し観客を引き込む要素があればより良くなったかも。

公園遊具問題(やそれを通したSNSとかの色々)はたしかに存在するし表現もしていたのですか、やや「問題の表層部分をなでた感」がありました。例えば、複数の「声」として表現される世間なる存在は、(現状の物語上は)ややステレオタイプに感じてしまいます。ぼんやりとした「世間」ではなく、具体的な一人を登場させたほうが伝わりやすかったのではないか、2つを無理につなげようとして話が少し散漫としてしまったのではないかという印象を受けました。

全体的には楽しかったです。

twitter等でみかけた感想へのリンク

宇都宮中央女子高校「あゆみ」

長方形のサスで区切った空半を次々と右から左(上手から下手)へと向かっていく人々(同じ格好)により、あゆみという主人公を中心とした、連続的な時間の流れのを表した舞台。言葉では非常に説明しにくいのですが、とても面白く完成度の高い試みでした。上演感想(感想板)をみた感じでは同じ形式での他校の先行上演(もしくは初代上演?)があるようです。

サスの外側は見えないという約束で、サスから消えた人たちは後ろ側を移動して右に再び待機するのですが、それが見えてしまうのが非常にもったいない。左から出ると同時に、右から入る別の人が同じ人の続きを上演するという高度なことをやっているのですから、内幕ないしは黒いパネルを用意してサスの両側を見えなくするだけで、面白さが倍増したと思うのです。実際、途中手で左右を隠してみてましたが、準備の様子が見えないだけで次どうなるんだろうというワクワク感がありました。もったいないです。

それともう一つ、映像(舞台)の文法としては進行するもの(物語進行)は通常「左(下手)から右(上手)に向かう」ので終始気になって仕方ありませんでした参考)。知ってて敢えて上下(かみしも)にしたのか、知らなくて上下にしたのか、映像と演劇は無関係だということなのかわかりませんが、気持ち悪さがありました。

さくら清修高校「自転車道行曾根崎心中」

教室に自転車で集合ということで度肝を抜かれました。この発想力は素直に称賛したいです。動かない銅像のクラスメイトは原発のメタファーで学校は市町村のメタファーなんだと思いました。講評で指摘されていましたが、これがわかると全部がすごく皮肉です。しかし、上演後の観客席の様子だと「よく分からなかった」人が多かったみたいで勿体無いかな。

主題となっていた古文(詩?歌?)もおそらく内容の何かとリンクしているのだと思うのですが、現代語でもないことも相まって内容がよく伝わってきませんでしたが、どこか底知れぬ怖さはありました。

作新学院高校「TSUBASA」

脚本:大垣 ヤスシ(顧問創作)
演出:仁科 朋晃

※優秀賞

あらすじと概要

理科準備室の準備室「開かずの部屋」。そこに忍び入った女子3名は、はしゃいでるうちにそのまま中に閉じこめられてしまった。助けを呼ぶためコータローに携帯から電話をする。コータローはサトコの幼なじみで、マナミの好きな人。マナミはスケッチブックにコータローの絵を描いていた。助けに来たコータローに大してカメ(亀田)が気を遣ってくっつけようとするのだけど……。

主観的感想

まず真っ暗な狭い空間。「開いた」という声と共にドアが開きあかりが差し込む。「真っ暗で何も見えないよ」という言葉に応じて部屋の電気を付ける。パッと明るくなる狭い準備室の雑然とした空間。こんな始まりの演劇で、説明台詞の応酬が気になって仕方ありませんでした。ラストシーン近くでも「夕陽きれいー」とかも、台詞で直接説明せずに、比喩的に表現して事実を感じさせるとか、台詞のリアリティをちょっと研究してほしいなと気になって仕方ありません。

さて、演劇の方。「作新で初めての女子高生等身大もの」(パンフより)ということで、3名の主役、サト子という普通キャラ、マナミという恥ずかしがり屋内向キャラ、カメというバカキャラ。実に基本を抑えた人物配置で、それを役者がうまく回して笑いに繋げていました。ノリの良さはよく出ていて、見ていて楽しい演劇でした。

装置の方、何年も使われていない開かずの間という割には、安易ではありますが蜘蛛の巣みたいな演出(別に演技だけでみせてもいいと思いますが)や、ホコリをつもらせるぐらいの装置の演出はできたと思うんですがそれはありませんでした(舞台を汚すとマズいのなら下に敷くとか)。

再び演技ですが細かいツメが甘い印象。電話するときの動作が相手の番号を探している様子がなかったり、冒頭で標本に驚くシーンがあるんですが、その驚きが「予期した驚き」になっていました。本当に驚いてください。感情表現のシーンについてもコータローはそこそこ出来ていたのですが、3名の主役はちょっとなーと感じました。ノリのよい演技、3人のワイワイ騒ぐというリアリティは実によく出ていただけに、反面感情表現の弱さが気になりました。もっと研究が必要でしょう(参考:演劇資料室)。

全体的に。登場人物の配置の配置が基本を抑えてると書きましたが、それは裏を返せばステレオタイプということです。つまり、人物像としての深みがあまり感じられず、そんな仲良し女子3人が開かずの間に迷い込んで幼なじみだったり好きな人だっりする人が助けに来たけど色々あって帰っちゃって最後は先生に見つかって出て行きましたというお話。そういう甘酸っぱいほどではないにしろ何気ない日常のひとコマを切り取って描いている劇。

面白い(笑う)という意味では言うことはありませんが、途中に差し込んだシリアスシーンを初め、いまいちテーマというか描きたい対象を絞り切れてない散漫とした「何気なすぎるひとコマ」という印象を拭えませんでした。いや面白かったしよく出来てたんですけどね、だから余計に…。

審査員の講評

【担当】若杉
  • 大変完成度が高く、総合芸術として全体のレベル高い仕上がりだったと思う。
  • 夢ひとつにも、茶化す人がいて、追いかける人がいて、笑いありドラマありで上手かった。
  • お芝居の作り、特に笑いのセンスなんか見事だった。
  • 気になった点として、日常の会話や告白の言葉とか感情表現、その辺を研究してほしい。叫ぶばかりが台詞じゃないし、呟いたりささやいたり沢山色々な話し方がある。感情と言葉が違ったり、言葉にも色があったりとか。そういう所を研究すればもう一段上にいけるのではないかと思った。
  • それでも、きちんとまとまった完成度の高い作品だと思います。