前橋市立前橋高校「ホット・チョコレート」

作:曽我部マコト(既成)

あらすじ・概要

学校を休んだキッコ。そこに来る友人ミオ。期末テスト、そしてキッコの引越しまで約1週間。キッコのやっていたバンド活動はどうなるのか。全国大会の優勝校台本。軽妙な掛け合いの中と、友人達の微妙な心理のずれを描いた、定番の青春モノ。

感想

有名台本です。去年の吾妻の感想に書いたとおり「去っていくキッコ」と「去られてしまうミオ」の物語なのですが、その点きちんと上演されていたかというと難しいです。

講評でも指摘されていましたが、ホットチョコレートのシーンがあまり際立っていなかったことと、加えてキッコとミオの関係性がきちんと描き出されていなかった(まだまだ足りなかった)と感じました。具体的に何をどうこうというよりも「演出してください」と言うしかない気もします。

キッコとミオの関係ってのは(その他の人物含め台本全部)ガラス細工のように繊細で、台詞だけで表現できるものでは到底ありません。ガラス細工をひとつひとつ丁寧に組み合わせ、初めて表現できるような内容の台本なのですよね。

観ていて「全体的に漂う嘘っぽさ」はどこから来るのかなってずっと考えていたのですが、キャラが作りすぎなんじゃないかなと少し感じました。力が抜けてない、ステレオタイプ的な人物像になってる、人物の読み込みが甘い気がします。

荷造りしながら会話するシーンとか、ラジカセをちゃんと動かしていたのはよかったかな。引っ越しが徐々に進んでいくのもよかったのですが「この量なら1日で片付くよね?」としか思えなかったのが少し残念でした。歌の音源がL(左)しか入ってないのは素人がよくやる失敗なのですが、わざとその演出をしたのかは分かりませんでした。最後の方の「手紙送るから」の台詞は今なら「メールするから」じゃないかなとか思いました(時代に合わせてアレンジしたほうがいいよね)。

丁寧に一生懸命作ってはいるんですけど演出不在が致命傷だったかなという印象です。

前橋市立前橋高校「笛男 ‐フエオトコ‐」

作:亀尾 佳宏(既成)

あらすじ・概要

帽子をかぶった男、明夫が電話をしている。明夫はどうやら人を待っているようだ。そこで回想する子供の頃の出来事。子供のアキオはこの場所でダイスケ、ユウイチ、ユミの4人で遊んでいた。

感想

まず言わせてください「どうしてこれを入賞にしないのだ」と。それぐらい群を抜く完成度でした。

冒頭の回想で、明夫とアキオ(子供)の台詞を重ねることで同一人物であることを説明している。まずそれが上手い。回想シーンに入り、公園らしき場所。下手に灰色の板を重ねたもの、中央に3段の階段状になった長めブロック、上手に木の棒が何十本も積まれている。おそらくは公園だと思うのですが、このリアルすぎない抽象的な公園イメージがこの演劇にはよく合っています。

特筆すべきは小学生4人の演技でした。男の子二人、ダイスケとユウイチ。二人が好意を寄せるユミ。ユミに気にかけられているアキオ。アキオのことを邪魔に感じているダイスケとユウイチ。この4人の人間関係がきちんと演じられていました。それは表情であり態度、人物たちの距離感(心の距離、物理的な距離)です。登場人物たちの関係性をここまで明確に演じる高校は県大会ではまず見ることはありません。小学生4人は女子4人が演じているのですが、ちゃんと男の子してる。格好とか喋り方だけでなく、動作や人物位置がものすごく洗練されている。少し足を開き気味に、腕を開き気味な男たちと、足を閉じ気味で肘も体に寄せ気味のミキ(女子)。そして過剰ではない。終始、完璧に隙一つなく「本当にこんな小学生居るよな」という感想を通り越して、もうそこに小学生が4人居るとしか思えない。

現在の明夫と回想の中の「(不審な)おじさん」が重なるシーンの見せ方でも「ズレた」感じがきちんと演出されていて見事だったし、小学生の下手なリコーダーとおじさんの上手なリコーダー、それが教えてもらって練習してうまくなる(でも完璧じゃない)という演出も非常にうまくされていました。ラストシーンも綺麗でありながら必要十分だった。

見事すぎて突っ込みどころがないのです。あえて突っ込むとすれば、(現在の)明夫がもう少し大人っぽく演じられればよかったかなと思いますが、発声や背格好などは役者の限界があります。明夫ひとり語りシーンでのサスとの位置関係で顔や下半身が完全に影になっていたのを、多少後ろに下がるとか横から軽く光を当てるとか、ミキサーでミュートにせずただカセットかCDか何かを止めただけだったので、常時スピーカーから「ジー音」がして気になったとか本当にそれぐらいしかありません。

全体的に

講評で1回観ただけでは意味が分からないということを指摘されていましたが、個人的には充分理解できましたしこれで充分だと感じます。講評で別の方から出たこれ以上変にいじらないでほしいという意見に同意です。たしかに、他の観客に全部意味が伝わったかというと、上演後「結局おじさんと明夫の関係は?」みたいな雑談が聞かれたので安易に肯定はできないでしょう。しかし100%分からせる必要があるのかないのか。

改善点を挙げるなら、現在の笛男である明夫の舞台進行に合わせた心理変化をもっと表現する方法がなかったのかという点です。新たに娘を受け入れ、この先の生活や境遇の変化を受け入れようとしている明夫が過去の回想から何を感じとったのか。笛先を入れ替えて吹いてみるまでの心境変化は何だったのか。主役である明夫の、台詞ではない演技でミキちゃんや過去の自分自身、そしてまだ見ぬ娘に対する心理というものが演出されたなら完璧であっただろうとは感じます。

講評でほとんど批判的意見が出なかったことからも分かる通り、ほとんど突っ込みどころがありません。他校にはこの上演をよく研究して見習ってほしい。それぐらいの見事な上演なのにどうしてという感じです。関東大会行って欲しかったし、この学校を関東に行かせるべきだったと個人的には思います。

前橋市立前橋高校「夏芙蓉」

作:越智 優

あらすじ・概要

卒業式の日、深夜の教室。千鶴のもとへやってくる友人3人。何か言いたげで、それでも賑やかに4人で楽しむ千鶴たち。おかしを食べて談笑も盛り上がったところで、友人達が帰ろうとする。それを引き留めた千鶴は……。

高校演劇では非常に有名な台本です。

感想

左手に教壇、机がまばらに4つ。右手にも壁、そして黒板。教室をがんばって再現しているのだけど、致命的に机が足りない。演者に必要な机しか置かないという配慮は分かりますが、それに対する説得力が不足しています。最低でも10セットぐらい用意してらよかったのではないかと。加えて照明が明るすぎ。深夜の教室なのだから、もう少し明るさを控えて、教室以外の部分に照明が当てないようにすべきだったと思います。さらに言えば教室を舞台いっぱいに広げる必要も、教室全体を照明の中に収める必要もないわけで(全体感想も参考に)。

以前観た新潟高校の劇はもうおぼろげにしか覚えてませんが、それに比べるととてもよく出来ていたと思います。例えば、教室で友人達とちゃんと「にぎやか」にしているところなどは評価高いです。

台詞のかけあいはよく研究されていて、人物も服装を含めよく性格付けされ元気があってよかったのですが、笑いを狙ってところで台詞の間やアクション(体)をうまく使うともっと笑いが取れたと思います。台詞はとてもよく聞こえて、分かりやすいのだけども、これだけのレベルで演技できるならさらに上を目指してゆるみの演技もできたらいいかなと。力の入ってない台詞の発声。

そんな感じで、若干物足りなさはありましたが、ラストにかけての流れは見事でぐいぐいと引き込まれてしまいました。ラストシーンで「ちぃ、私たち一緒に卒業したよ」という台詞をいうシーンは特に秀逸だったと思います。それだけに、なぜそこで幕を降ろさないとずっこけてしまいました(笑)。客席でも拍手の準備してた人がいて、拍子抜けてしましたよ(苦笑)

全体的に

劇全体に対してうまく間を配分し1時間ぴったりに収めたのはうまい配慮だったと思います。

さらに上を目指すにはと考えるとやはり演出。この台本は、前半のシーンにおける「微妙なズレ(違和感)」を目立たさせずにそれでいて観客が認識できるように提示するという非常に難しいことを要求されます。その「ずれたパズルのピース」のような違和感を、劇全体のムードに反映することができていたかというと難しい。日常として観客に認識させながら、それでいてどこか非日常的な一コマと観客に認識させる必要があったのではないかと。

「幽霊である」ということをこれ以上前フリし過ぎるとあからさまになり過ぎてそれはそれで興ざめしてしまうので、それ以外のことで非日常性を表現することはできなかったのかな。それはちょっとした舞台装置かも知れないし、登場人物の格好や小道具に対する微妙な違和感かもしれないし、はたまた照明の処理かもしれない。具体的にどう改善するべきかは難しいのだけど、現状だとあまりにも日常過ぎた。

加えて全体の流れを通してのシーンの緩急をきちんと演出していたなら(個別のシーンの演出に目が行きがちですが、それと同じぐらい大切なことです)もっと良くなったのかも知れないなあと感じました。演出の仕事です。

市立前橋高校「EASY COME, EASY GO ~大切なモノ~」

作:山本 香苗(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

主人公の「かな」は、新人小説家。しかしデビュー作以来なかなか作品を作ることができていない。そこに、なんでも思いを叶えるセントラルドリームカンパニーなる会社のいかがわしグッズの話を聞いて、そこへ行ってしまう。

グッズの効果で次回作を書き、売り上げランキング入りになる「かな」。かなの友人たち、「ゆり」は歌手を目指すがなかなかオーディションに受からない。「だいすけ」は「かな」の小説が好きで、それを出すために出版社に入っていて「かな」を応援する。そんなある日、グッズの効き目が切れてしまい……。

主観的感想

【脚本について】

話としては王道の猿の手の変形。1つ前の高女の上演と並び、小説が書けない主人公なのですが、また趣向が違うという印象でした。話は実にシンプルで分かりやすく、自分の力でなく叶った夢に意味はあるのかということです。最後は「かな」がなぜ小説を書きたかったのかということを思い出し終焉します。

全体的にコメディタッチで描かれているのですが、ドラマという意味ではかなり不足。例えば高女のそれと比べても、書けない苦しみや安易に(グッズという手段に)逃げるほど追い詰められる様子もなく(または逆に、本気ではなく買ったのだけど効果が本物で驚くという様子もなく)、歌手を目指して一生懸命がんばる「ゆかり」の一生懸命さも描写されず(それがわかるようなエピソードもなく)、同じように「だいすけ」の「かなの小説が好きだから出版したい」という懸命さもない。

やりつくされているテーマだけに、エピソードの組み合わせ方は星の数のようにあると思うのですが、本来そこに充てるべき描写のすべてが笑いに費やされているので話が薄っぺらくなっています。全体の構成や、メイン3人の人物配置、その3人の組み合わせでシーンに変化を付けるなど上手くバランスが取れているだけに、非常にもったいないという印象です。例えば、講評で言われていた「三角関係」はまさにうってつけのやり方だったと思います。

【劇について】

「場面は変わって次の日」「1時間後」「2時間後」と、登場人物みんなで声そろえて時間経過してしまうというやり方やSEを役者が台詞で言ってしまう処理など、非常に面白いと感じました。その手があったかと。コメディメインですが、動きやポーズで笑わせるのがうまかった。間とかも大体適切です。

舞台セットは非常に簡素で裏に黒いパネルが3枚、その手前、舞台中央に大きさ的にも高さ的にもたたみ4畳ほどの木の台があり、その中央2枚がさらにたたみ一畳分高くなっています。全体の出来に対し舞台装置は適当な感じで、シーンが比較的多いのですから左右で別のものを用意して使い分けるなど、工夫がほしかったところです。

上でも書きましたが、やはり主人公「かな」の苦しみや迷い、「ゆり」の歌手に向けてひたむきな様子をもっと描写してほしかったところ。最後の「何で小説が書きたかったの」「わかんないよ、何で書けないの」などの問いかけやラストの結論の出し方などは良かったのですが、結局そこ(カタルシス)に至るまでのドラマ(抑圧)が不足したという点に尽きると思います。

【全体的に】

話は単純ですが、演出と演技で押し切ったという印象があります。OPでダンス+プロジェクタの投影、エンディングでBGMをバックに動きだけみせるという映像的演出がされた劇でした。そう考えれば、暗転も7~8回あったし、BGMもやや映像的に使われていたし(参考)、どちらも鼻に付くほどではなかったので大きな問題では無いにしろ、ではこれで万事OKかといわれると疑問符を出さざるを得ません(演劇は映像ではないのですから)。

コメディとしてみれば面白かったのですが、これもまた手放しで絶賛できるかといえばそうでもなく。多分、暗転3回で書いていれば、否応でもドラマがきちんとしたのではないでしょうか。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • 高女のときと同じ小説が書けない主人公ですが、また別の作品になっていて、こちらは何かに打ち込んでいる青春もの。役者が楽しんでる様子が伝わってきた。
  • 話がシンプルで分かりやすかった。
  • くちびる星人、まつげぷるるん星人など(編中:グッズの変な人形)、手作りだと思うけど可愛くできていた。
  • 基本的に裏の黒パネルの隙間から出入りするのだけど、平台の木目がむき出しで現実に戻される。また小説を書くシーンでは立ったまま書いていたし、そういう意味でも箱などを置いてみてはどうだったか。
  • 小説が書けないという「かな」のドラマが薄い。
  • 「ゆり」は素敵でいつも「かな」を励ます役回りだったが、例えば「ゆり」は本当は「だいすけ」のことが好きとして、「だいすけ」は「かな」が好きというふうに三角関係とかがあれば物語に厚みが出たのではないか。
  • オーディションのとき、サス(天井のスポットライト)だけで「ゆり」の顔がよく見えない。ピンスポ(前面からのスポットライト)とかあててほしかった。