筑波大坂戸高校「絶対矛盾的緑望論序説 ~ようこそグリーンマンパラダイス~」

脚本:演劇部(創作)
演出:(表記なし)
舞台監督:徳山 望

※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

「おじいさんとおばあさんはグリーマンになることになりました」とやってくる役所の職員。「この度、公務員の妻はグリーマンになることになりました」それに反対する主婦達。グリーンマンって何? 「グリーンマンバンザーイ」。グリーンマンはいい人なの? 家庭、幼稚園、公演と様々に変わる場面の中、グリーンマンの真実が徐々に明かされて……。

主観的感想

暗転回数は20回近いと思います。それだけ暗転が多くてそれでも成り立っている創作脚本を初めてみました。そのことにまず驚きです。その暗転の主要な役割を果たしているのが男子が演じる女子高生役で、それがギャグキャラとなり場繋ぎの役割を果たしています。舞台を手前と奥に分け、暗転の最中は手前にその女子高生役をおいて他の登場人物と寸劇を交わすことで、時間繋ぎをしている。こういう舞台の使い方も見事だし、シーンの切り方もうまいと。唸ってしまいました。

まあでもいくつ。女子高生役の男子の台詞の滑舌が気になりました。なんだろう少し粘る感じの発音で、しゃべり方というよりその人がそういう感じだというだけなんでしょうが、気にはなってしまいました。また「椅子屋ー、椅子屋ー」というかけ声で椅子屋さんが出てくるのですが、始め「椅子」と聞き取れませんでした。

全体の演技や演出は大人数でありながらよく作り込んできていて、カット割りの素早さを演劇できちんと成立させてみせたあたりが一番驚いたかな。個々人の役者もよく頑張っていました。ただまあ、お話としては「グリーンマン」というキーワードと多くの場面を通して、多面的に「人の持つ役割とはなんだろう?」ということを投げかけた劇だと思いますが、それにしては軽かったというか、上辺を舐めただけという印象。面白かったけど、あと足りないものは何ですかと言われたら、即答で演劇としての深み、そして起承転結と答えたくなる、そういうお演劇でした。でもその点を除けば、お話作りとしても完成度であり、大きな破綻もなく、創作脚本賞であることも頷けます。演劇としてもよく出来ていました。

審査員の講評

【担当】青木
  • スモークと黒子と美しく始まって大変綺麗でした。
  • 本でも読んだけど、劇では照明の使い方や人物配置のセンスとかラストの風鈴とか配慮がされている。
  • 「いらない人間をグリーンマン化」するというのが、現代人への風刺、警鐘になっていたと思う。全体的にみれば意味がないし論理的にはつながったないのだけど、それでもよくこちらに伝わってきた。
  • 全体的にうまくテンポ良かっただけに、ラスが少し間延びした印象。もっと切ってもいいんではないかな。全部言ってしまわないで、ラストを観客に想像させてほしい。
  • 女装して女子高生してた工藤君かな? 滑舌がすごく悪かった。自分もそれで苦労したのだけども、口先でしゃべらないように気を付けるといいとおもう。もし僕の方法が気になるならあとで聞きにきてください。
  • 全体に感じるところの多い作品でした。

岡谷南高校「変身」

原作:フランツ・カフカ
脚本:スティーブン・バーコフ
演出:小松 佑季子

※優秀賞

あらすじと概要

父と母と妹と。主人公グレコーザムはある朝目覚めると毒虫に変わっていた。稼ぎ頭で家族たちを支えていた優しい兄の変貌に、動揺する家族たち。兄が出勤しないためにやってくる会社の上司。どうしようどうしようと苦悩する兄。

主観的感想

舞台の写真がないのが残念で仕方ありませんが(どこかにアップされてないんだろうか)、幕が上がって、まず壮大な舞台装置に驚きました。毒虫というモチーフを巨大な金属製オブジェで、その中にいる兄の動きを通して毒虫に見せるというまさしく「唸る」演出。家族3人も、具体的に掛け合うのではなく、舞台に対して等間隔に置かれた3つの椅子の上で、とことんまで抽象的な動きを見せることで場面を想像させる。また照明や効果音を実に有効に使って、毒虫になった兄や家族とのかけあいをコミカルな動作で描いていく。ここまで芸術的な高校演劇があるとは、ほんとにびっくりしました。

個人的な話になりますが、ストーリー性のないものや起承転結のないもの、テーマ性のないもの、小難しいものはあまり好きではありません。つまり好きではないタイプの劇だったのですが、にも関わらず「これはすごい」と感じ、芸術として有りだと感じさせてくれたことに本当にびっくりしました。動作の演技において徹底的な省略と記号化そして誇張がされており、音については加工処理がとてもうまくされていました。

お話自体は、まあ救いのない悲劇というか「実に演劇らしい」内容で、それを「面白いかどうか」という尺度で考えた場合、評価は難しいところですが、こういうのも演劇だよなと感じさせてもらいました。ただ一つ、バイオリンのソロのシーンの効果音がソロではないものを使っていたので気になりました。ここまで作ったのだから、ソロバイオリンを何としても用意してほしかったなと欲を言えばそんなところです。

審査員の講評

【担当】西川
  • 幕が開いた瞬間にびっくりました。巨大な虫のオブジェが舞台一杯に広がっていて。
  • ある朝起きたら突然大きな毒虫に、家族の大黒柱がとつぜん要らない存在になってしまい、その兄が瞬間に家族に希望が見えるというまさに不条理劇だったと思う。
  • 装置がとてもうまいなーと感じた。そして音も照明もタイミングを外さない。
  • この芝居は台本を読んでも状況説明が多く書かれており、大変難しい。それらの状況を台本を読んでいない観客に伝えなければならないのだけども、成功していると感じた。
  • 他の審査員から出たのですが、形でもって型にはめていく演出を取っていたが、この方法では空間が無機的になっていく。その状況において家族の心理が兄から離れていくという描写が十分だったのかと考えると疑問を感じる。
  • 全体としては心理劇であるわけで、今回はこういう演出をとったわけだけども、もっと他の考え方で心理劇をきちんと描くという方法もあったのではないかと感じた。

作新学院高校「TSUBASA」

脚本:大垣 ヤスシ(顧問創作)
演出:仁科 朋晃

※優秀賞

あらすじと概要

理科準備室の準備室「開かずの部屋」。そこに忍び入った女子3名は、はしゃいでるうちにそのまま中に閉じこめられてしまった。助けを呼ぶためコータローに携帯から電話をする。コータローはサトコの幼なじみで、マナミの好きな人。マナミはスケッチブックにコータローの絵を描いていた。助けに来たコータローに大してカメ(亀田)が気を遣ってくっつけようとするのだけど……。

主観的感想

まず真っ暗な狭い空間。「開いた」という声と共にドアが開きあかりが差し込む。「真っ暗で何も見えないよ」という言葉に応じて部屋の電気を付ける。パッと明るくなる狭い準備室の雑然とした空間。こんな始まりの演劇で、説明台詞の応酬が気になって仕方ありませんでした。ラストシーン近くでも「夕陽きれいー」とかも、台詞で直接説明せずに、比喩的に表現して事実を感じさせるとか、台詞のリアリティをちょっと研究してほしいなと気になって仕方ありません。

さて、演劇の方。「作新で初めての女子高生等身大もの」(パンフより)ということで、3名の主役、サト子という普通キャラ、マナミという恥ずかしがり屋内向キャラ、カメというバカキャラ。実に基本を抑えた人物配置で、それを役者がうまく回して笑いに繋げていました。ノリの良さはよく出ていて、見ていて楽しい演劇でした。

装置の方、何年も使われていない開かずの間という割には、安易ではありますが蜘蛛の巣みたいな演出(別に演技だけでみせてもいいと思いますが)や、ホコリをつもらせるぐらいの装置の演出はできたと思うんですがそれはありませんでした(舞台を汚すとマズいのなら下に敷くとか)。

再び演技ですが細かいツメが甘い印象。電話するときの動作が相手の番号を探している様子がなかったり、冒頭で標本に驚くシーンがあるんですが、その驚きが「予期した驚き」になっていました。本当に驚いてください。感情表現のシーンについてもコータローはそこそこ出来ていたのですが、3名の主役はちょっとなーと感じました。ノリのよい演技、3人のワイワイ騒ぐというリアリティは実によく出ていただけに、反面感情表現の弱さが気になりました。もっと研究が必要でしょう(参考:演劇資料室)。

全体的に。登場人物の配置の配置が基本を抑えてると書きましたが、それは裏を返せばステレオタイプということです。つまり、人物像としての深みがあまり感じられず、そんな仲良し女子3人が開かずの間に迷い込んで幼なじみだったり好きな人だっりする人が助けに来たけど色々あって帰っちゃって最後は先生に見つかって出て行きましたというお話。そういう甘酸っぱいほどではないにしろ何気ない日常のひとコマを切り取って描いている劇。

面白い(笑う)という意味では言うことはありませんが、途中に差し込んだシリアスシーンを初め、いまいちテーマというか描きたい対象を絞り切れてない散漫とした「何気なすぎるひとコマ」という印象を拭えませんでした。いや面白かったしよく出来てたんですけどね、だから余計に…。

審査員の講評

【担当】若杉
  • 大変完成度が高く、総合芸術として全体のレベル高い仕上がりだったと思う。
  • 夢ひとつにも、茶化す人がいて、追いかける人がいて、笑いありドラマありで上手かった。
  • お芝居の作り、特に笑いのセンスなんか見事だった。
  • 気になった点として、日常の会話や告白の言葉とか感情表現、その辺を研究してほしい。叫ぶばかりが台詞じゃないし、呟いたりささやいたり沢山色々な話し方がある。感情と言葉が違ったり、言葉にも色があったりとか。そういう所を研究すればもう一段上にいけるのではないかと思った。
  • それでも、きちんとまとまった完成度の高い作品だと思います。

麻布大学付属渕野辺高校「幕末ジャイアンツ」

脚本:四海大
潤色:佐藤 栄一(顧問)
演出:江花 明里
※優秀賞

あらすじと概要

幕末の坂本竜馬。米国人とベースボールで戦うために、大久保利通、新撰組3名、西郷隆盛などとベースボールチームを結成し、一生懸命勝負するのだけど。

主観的感想

誰しも知ってる幕末の有名人がずらりと勢揃いして、ベースボースをするドタバタコメディ。前々からよく見かける作品で気になっていましたが、初めて観ました。主役9人中8人男子が演じる非常に勢いのある劇で、大変面白かったと思います。

パンフレットによると「みどころは迫力と殺陣」だそうですが、その殺陣がなぁ……。動きにキレがないんですよ。動作の美とでもいいましょうか。キレというのは静と動、「動作前の停止」と「動作中の動き」と「動作後の停止」、この3つがあって初めて成り立つものなのです。この3つを明確に演じなきゃいけないのですが、出来ていません。そして刀は金属(鉄)ですからもっと重いんですよ、絶対軽そうに持ってはいけません。こう言っては悪いかも知れませんが、大勢の「勢い」で誤魔化しているという印象でした。

これは劇全体にも言えることで、9人がよく合わせてリアクションを取るというコメディの基本ができており笑いも起こっているのですが、勢いに重点を置きすぎるあまり「間」が手抜かりになっています。必要な「間」まで早い(必要な止めもない)。同じことで、大勢しゃべることで必要な台詞が聞き取れないこともあり、ここも誤魔化した印象を受けました。

ただそれだけ勢いに重点をおいただけあり、テンポの良い笑いと、個々人のキャラクター付けなどを使って(もう少し人物像をつくった方がいい役もありましたが)、面白く仕立てていました。野球シーンで横を向き合って処理しそうなところを、打ち手も投げ手も正面を向けて処理したのはよかったと思います。

ラストは、再び敵同士みたいな終わり方でしたが、もうちょっと哀愁が出てもよかったかなとも思います。尺の問題もあるのでしょうが(元台本は2時間らしいので)、最初の敵同士と最後の敵同士の対比を意識して描くとか少し配慮がほしかったなと感じました。

細かい点

  • BGMが若干余計かなーと思いました。シリアスシーンのピアノ。
  • 木製バットなのに打った音が金属バッドだったり、ラストの9回裏のいいシーンで打ったときのSEがなかったり、その辺の処理が若干いい加減に感じました。
  • 全体的に巻きという感じで、もう少し間を使って演技してほしかったかな。

審査員の講評

【担当】中澤武志 さん
  • 途中までメモを取らずに「うわぁー面白れーなー」と思って観てた。面白かったです。
  • 出てくる人物は、すべて歴史上の有名な人物で、各自が持っているその人物のイメージを壊しながら進んでいくのが面白かった。
  • 集団のエネルギーはすごかった。
  • 竜馬のしゃべりが早く、台詞の意味を理解する前に「うわぁー」ってクションで動いてしまいそのシーンが流れてしまっている。(全体的に)どういう状況で、誰に向かって、どういう心情で話しているのかが見えてこなかった。
  • 刀って相当重いので、刀を挿したまま走るときは腰を落とす。袴や帯に刀を挿すということもない。
  • 台本で、所々歴史的事実を使っているところが本当にいいのかなーと思った(編注:架空なら架空で進んだ方がどっち付かずにならず良かったのではないかということではないかと思う)。
  • ベースボールシーンで盛り上がっておわってしまってもよかったかな。
  • とりかくエネルギッシュで面白かった。

甲府昭和高校「靴下スケート」

脚本:中村 勉(顧問創作)
演出:山下 僚子、大場 祥子
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

ゴミ袋の山の部屋にやってきた家庭教師。ゴミの山と不真面目な生徒と家庭教師、その中で……。

主観的感想

ものすごい肩の力の抜ける、なんとも捕らえどころのないシュールな劇です。なんとも言えない妙な雰囲気で起こるバカバカしさ、ゴミの山のゴミで意味不明に遊ぶというそういう作りで、顧問の先生が出演者二人(演劇部員が二人なんだそうです)のために充て書きした台本とのこと。

間の使い方はとても良いんですが、メリハリがなぁーと感じました(メリハリのなさを狙ったものかも知れませんが……にしてもなぁ)。全体にもう少し声を出していい気はするし、ゆるむところはもっとゆるんでいいと思います。テンポがずーっと変わらないから飽きてくるんですよね。ノリの部分はもう少し乗って(一時的にテンション上げて)いいと思うし、抜け(ゆるみ、ボケ、オチ)の部分はもっと抜けた演技をしたらよかったんじゃないでしょうか。その方が、もっとバカバカしさが出たと思うんですが、あまり演技で笑いを取れているという印象はありませんでした(爆笑には至らないという感じで)。BGM選曲ではかなり受けてましたけど。

二人しかいない演劇部という追いつめられた状況で、シュールでバカバカしいという不思議な舞台作りに懸命に取り組んだ姿には好感を受けました。

細かい点

  • 最後のゴミを投げ合うシーンは、きちんと役者が楽しんで投げ合っていた。
  • (申し訳ないけど)台本の要請に演技力が付いていってないなという印象を受けました。
  • 劇とは関係ないけど、高校演劇でよく見かける「作 中村勉」ってこちらの顧問だったんですねぇ……。

審査員の講評

【担当】青木勇二 さん
  • 幕が上がり、部屋として大きいかなと思った。
  • 進につれ、広大な夢の島が見えてきた。
  • 何もメッセージ性がなく、現代を象徴している。観ている方が常にさめて観ることで、二人の孤独感を想像させた。
  • BGMも何気なくて好き。
  • ゴミ袋から役に立たないものが出てくる楽しさがあった。
  • ゴミを投げ合うラストはいつまでもこのままでという感じが出ていて良かった。