動作で演技しよう

動きで演じる

演技と言うとまず台詞を思い浮かべるでしょう。実際、台詞を覚えなければお話にならず、覚えた台詞をきちんと言えるかどうかは最重要です。この台詞をどう演じるか、自然な会話とはなにかということは、最近はよく研究され、演技に活かさているように感じます。

一方で、動作の演技・演出がおざなりになっている学校が目立つようになりました。動かなすぎたり、動いても不自然だったり、美しくなかったりしてます。

「ねえねえ、そこにあるノート取って」

こんなシーンを考えてみます。ただ言葉で言うだけでも通じますが、「そこ」と言う時に視線が「そこ」に行くだけでなく、思わず指を差してしまったりしませんか。取ってもらいたい相手が近くに居て、それが親しい友人なら「ねえねえ」という時に方や腕を軽く叩いたりしませんか?

次に、言い争いをしているシーンを考えてみます。

「どうして今まで黙ってたんだよ」

こんなとき、ただ言葉で言い合うだけなのでしょうか? 感情を高ぶらせて喚きながら、せいぜい机を叩いたり、足を大きく踏み込んで足音立てたりぐらいでしょうか。でも相手がそこに居るならガツガツと前に詰め寄ったり、顔を相手に向けてつきだしたり、場合によっては掴みかかって相手の体を振ったりしませんか? 「どうして」と言いながらダダダダダと相手に接近し、そこで台詞と動作を止め、「今まで」と言いながら少し離れ視線を外し「黙ってたんだよ」と言ってから相手を睨む。この例が良いか悪いかはともかく、体を使えばこれだけ色々な表現をすることができるのです。

こういう体の動きって、普段は感情の反応として自然と出てしまうものです。台詞の演技は良く研究されているようなので、同じ要領で体の反応についても研究してみると良いかもしれません。

立ち振舞い

人物の動作にはその人物像が出てきます。例えば、座り方ひとつ取ってもその人物の性別はもちろん性格まで出てくるのです。きちんと座るのか、ダルそうに座るのか、猫背で座るのかでも意味がぜんぜん違います。足を閉じるのか、開くのか。開くとしてもどのぐらい開くのか。これだけでも全然意味が違ってくるのです。

そして人物の関係性。台詞では表現しにくい登場人物たちの相互の関係性は動きによって表現することができます

極端な話、人物AとBが戯れていれば仲が良いことがわかるし、その様子をCが羨ましそうに見ていて、それに気づいたBが軽く嫌そうな顔をすれば、たったそれだけで3人の関係性が如実に説明されます。むしろ、この体の演技を抜きにして台詞だけで関係性を表そうとするから嘘っぽくなるし真に迫らないのです。*1

*1 : 台本を書く人も、このつもりで「台詞で説明しすぎない」「こういう演技に時間を取れるだけの余裕を残す」配慮が必要です。

静止の動作

動作に関連してもう1つあります。それは「静止」の動作です。これができていない学校が非常に多い。

静止と言ってもコメディのストップモーションを言っているのではありません。演技、演出上必要になった「止まるべき演技」のときにはきちんと止まってください。道路の「一時停止」でスピードを緩めて止まった風というのはNGです。どこから見ても分かるように止まる。頭のてっぺんからつま先まで神経を張り巡らせて止まる。特に、動作に美的なものが求められるシーンや人物では、動くことよりも止まることを意識してください。

美的でなくてもコメディ的な部分でもそうなのですが、動作にメリハリが感じられない理由の多くは「動き」の雑さよりも「停止」の雑さに原因があります。日常シーンではあまり必要にならないとは思いますが、「止まる」ということを意識すると動作のメリハリが付き、演技の印象がとても良くなりますのでぜひ覚えてください。