創作脚本を書かれる方へ
構成編
まず演劇(コンクール)は基本的に60分1幕でやるものだと思ってください。
いきなりむちゃくちゃ言うなと思うかもしれませんが、基本だと思っておくと良いです。というのも、演劇コンクールによくある失敗のひとつに暗転や場面転換が多すぎるというのがあります。
演劇はTVとは違います。TVのカット割りの感覚で暗転を使ってしまいますと、演劇では瞬時に切り替えることが到底不可能なので、かなり無理が出てしまいます。暗転するたびに観ている方の集中力も削がれます。よほどうまく処理する自信や工夫がないのでしたら、60分なら数回が限度だと思います。
状況説明の方法
暗転や場面転換の数を減らしたとして、どうやって話を組み立てるのかというお話をします。
例えば昔の県大会で上演された「あの大鴉、さえも」という作品では、登場人物3人は親方に頼まれてガラスを運んでいます。TV風に(説明的に)構成するとこんな感じでしょうか。
- 親方からガラスを運ぶように頼まれているシーン
- ガラスを運んでいるシーン
しかし実際の舞台はそうてはありませんでした。
- ガラスを運んでいるシーン
- その後の自然な会話の流れとして親方に頼まれたものであることを表現
時系列を逆転させ状況説明を実際の状況よりも後に持ってくることです。むしろ実際の状況を見せてしまえば、その説明なんて最小限で良いのです。場合によってはそもそも説明を放棄したっていいのです。
例えば帰り道に3人ぐらい居る状況を作ったとします。開口一番「映画面白かったね!」では、あまりに説明的すぎますし、不自然です。
- 「(登場人物の)☓☓格好いい!」
- 「あのシーンのどこどこがよかった!」
のように自然と漏れる感想などを言ってるうちに、映画を見てきたことが伝わるぐらいだと良い感じになります。
大量の情報を自然に説明したい
さらに大量の情報を「説明台詞を使わずに」説明したいとします。
一番簡単な方法は、登場人物の知識の格差を使うことです。
事情を知っている人物Aと、事情をしらない人物Bを登場させ、Bに必要に応じて質問をさせれば良いのです。もし、そんなAとBの関係も説明したいなら、AかBの片方の知人としてCを連れてきて、Cに質問させればいいのです。知識の格差によって、比較的容易に状況説明を作り出せます。
問題を解決するお話
ドラマ、またはテーマ部分に「心の問題」を持ってくることはよくあることだと思いますし、実際よく見られます。そんな時よく見かける問題があります。
- 掘り下げ不足、考察不足による説得力不足
こういうの部分は、脚本を書く人間、演出する人間の洞察力や視点の広さに依存してしまうのですが、それでもいくつかポイントとなる部分はあります。
まず第一にテーマをひとつに絞ることです。何を描きたいのか、何を物語の中心に据えたいのか、漠然としたものではなくただ1つに絞ってください。いくつかの障害や問題を設定するのもよいのですが、60分では描ききれない可能性が往々にしてあります。欲を出して、あれもこれも盛り込みたいとすると描写が分散してしまいます。
そして悩みや思いを安易に台詞で言わせないでください。例えば、AがBのことを好きという表現をする際、Aが「Bのことを好き」と喋らせるよりも、視線で意識したり、Bが居るだけでソワソワしたり態度が変わったり、Bの前では妙に元気だったりと見せる方がよっぽど説得力が生まれます。気持ちはエピソードで描くものなのです。世に氾濫する多くの作品(アニメや映画やドラマ)でも、この基本が守れていないものが数多く見られます。
例えば悩みを抱えた主人公AをヒロインBが心配しているとします。
- 「Aを救いたい」「Aを助けてあげたい」
などと言わせてしまってはいけません。そんなことを真っ向から相手に言いますか? 嘘っぽいです。リアリティがないのです。
そういう気持ちは態度で表す必要があります。Aのために一生懸命努力を重ねるBが、それでも受け入れられなかったり、うまく行かなかったり、逆効果になったりという、そういう歯がゆさを出してあげるのもひとつの方法です。象徴的なエピソードがひとつでも作れたら、それはもう大成功です。
解決に必要なもの
「心の問題」に限らず、ラストに問題の解決を持ってくる、またはテーマを投げかける場合、大切なのはそれに見合った前フリです。問題の重さをラストシーンの前にきちんと観客に伝えておかなければ最後の解決は何の感動も生みません。そして一番多くの見られる勘違いは、心の問題はそうそう簡単に解決しないということです。
例えば、これを読んでいるあなた自身のことを考えてみてください。誰か嫌いな人はいますか? 大抵は誰かいますよね。では、その人のことを「明日から好きなれ」と言われて納得出来ますか? すぐに実行できますか? できませんよね。好き/嫌いというのは典型的な心の問題です。でもたかが「好き嫌い」です。そのたかが「好き嫌い」、たったそれだけのことでも気持ちを変化させるというのはもの凄く大変なのです。
高校演劇などで見られる心の問題は、こんな好き嫌いよりはるかに根の深い問題ばかりです。それを(ラスト10分ぐらいの言葉の投げかけで)あっさり解決されたときには茶番劇と誰だって思います。
じゃあどうするかと言えば、60分かけてたったひとつの問題を解決するだけの根拠を、物語り全編に渡ってばらまかなくてはならないのです。そして「本当にこの登場人物は気持ちを変えようと思うか」と何度も何度も慎重に検討を重ねて、そこまでしてやっと説得力というべきものが生まれます。そこまでして初めて想いは伝わるし、人は感動をします。
具体的方法はさまざまですが、ひとつ、有名台本などを、こういう視点で読んでみるとよい参考になると思います。ちょっとしたポイントを抑えるだけで脚本が見違えますので、ぜひやってみてください。
ドラマを作る
人物ごとに異なった性格付けや色づけを行い(おっとり型と勝ち気、不思議系などなど)、舞台上に違う個性の人物を配置することで面白みを出したり、その人物たちを適当に出入りさせ組み合わせを変えることで変化を付けるなどのテクニックは優れていても、その個性を持った人物たちのドラマという点で不足するなんてことがよくあります。
昔の上演作品で次のようなものがありました。
小説家である主人公が「なかなか小説が書けない」というところを物語の出発点として、最終的に自分で小説を書くというところにたどり着く
そのエンディングに説得力を持たせるために必要な描写は書くことに対する悩みや苦しみです。かと言って台詞で「書けない」と連呼させても全然伝わってきません。どうやってその気持ちを描くか、そのとき必要になってくるものこそドラマなのです。
そもそもドラマとは何なのか。登場人物の気持ちから生まれる行動がドラマです。ドラマを作ると言っても一概には言い難い部分がありますが、さっくり一番簡単な方法を述べます。それは対立です。
「書くことに対する悩みや苦しみ」を描く簡単な方法は「悩みも苦しみもなく書ける人」や「プロの物書き」などを登場させ、このような人物と戦わせることです。別に乱闘しろと言っているわけではありません。言葉を交わし互いに互いのことを述べさせる。その結果として物語りが転び何かしらの結論にたどり着く。言葉を単純にやり合うだけでの会話劇にすることなく「行動の差」として描くとより良いです。その対立二人にさらに第3者を足すのもよいでしょう。
もうひとつの方法は障害を設定することです。こっちの方が一般的かな。例えば小説を書こうとすると誰かが邪魔をして鉛筆などを隠す。家族などからほかの用事を頼まれ時間がなくなる。書くことを快く思わない人物が、いやがらせをする。
例えば昔の高女の「Story of story」では「筆が進まない主人公」と「書きたいけど書けない幽霊」という対立構造ができていました。にも関わらず、この二人がきちんと向き合って言葉を交わしておらず、対立しないから、お互いの気持ちが出てこないという問題がありました。
- 奈央「書くことがみつからない」
- 遙「書ける体を持っているのに贅沢なことを」
- 奈央「私は遙先輩のようにすごくないから、無理なんです」
- 遙「だったら代わりに書いてあげる、あなたは私のもの」
- 奈央「やっ、やめてください」
- 遙「どうして? 書くことがないならいいでしょう?」
対立と拒否、そこから対話が生まれるのに、残念ながらこの作品の主人公奈央はこの会話サンプルのように言葉を交わすことなく、対立相手である「遙」という存在をなんとなく受け入れてしまう。これだとドラマが生まれない。
ポイント
- 気持ちを描くにはドラマを作る必要がある。
- ドラマを作る簡単な方法は「対立」(敵)。次策は「障害」。
- ドラマがあることで、登場人物の気持ちを行動で示すことができる(台詞は副次的)。
- 問題は表現したい気持ちやテーマに対して、どのようなドラマを用意するか。
演劇がみんなドラマドラマされても困るのは確かですが、少なくとも心理的なテーマを扱うのならばドラマ的要素は切っても切り離せないのではないでしょうか。