桐蔭学園高校「それください」

作・演出:高橋 淳(創作)

あらすじと概要

自殺志願者掲示板、そこで集まった5人の人物。でも主催者は遅刻して来るのだが……なんだか主催者の様子がおかしい。

主観的感想

作・演出ということですが、自殺志願者が集まるというありがちなエピソードを使いながら、実は集団自殺ではなく新興宗教に狂った主催者に殺されるだけとし、そこで自殺志願者が死ぬことを拒否するという構成は非常に秀逸です。自殺という話を使いながら、これだけ嘘くさくない話作りは初めて見たような気がします。

さて幕開き、舞台手前に白っぽい薄幕があり、その奥に一人の人物……というのがよく分かりませんでした。その薄幕もどいて、部屋に見立てた黒パネルで囲まれた部屋(ビルの部屋かな)と簡素な椅子。そこにやってくる自殺志願者たち。その自殺志願者の人物立てがよく、偏屈なおじさんである鬼火、絶望さん(オタク)、女装者(性同一性障害設定かな?)麻衣とその彼氏亮とか、一見肉体派な智宏とか。

各人のエピソードが若干浅いなぁーと思ったら、鬼火さんが最後にラストをもっていって、よかったと思います。もっと鬼火の苦悩を掘り下げて描いたらなとは思いますが、それでも適度に笑いに振りつつシリアスな劇としてまともに見られたのはめずらしかったです。面白かった。

細かい点

  • 麻衣(女装者)が「私のような存在が認めらないので自殺します」って言うんですが、残念ながらというべきか何というか女装がとても似合ってます。さまになっていて普通に可愛いんですよ。あれで「認められないから……」と言っても説得力のかけらもありません。女装者が認められないのは、似合わない(可愛くない)から生理的に受け付けられないという要因が大きいので、似合ってしまったというのは配役ミスです。
  • さらに言えば、似合ってしまったことは最悪構わないのですが、役作りというか人物像がステレオタイプであることが問題です。世間からの拒絶 → 苦悩という過程を踏んだようには見えず、「あの前向きな元気さがあるなら(二人は)普通に生きていけるんじゃない?」と感じてしまいます。
  • おなじく麻衣と亮なんですが、二人が距離を取りすぎです(特に前半)。もっと近づかないとダメです。心理学でパーソナルスペースと言うものですが、心の距離が近いカップルは常に手の届く範囲に居て、同じ空気を持ちます(こっちはユニゾンや同調と言われる)。心が寄り添うカップルというムードが出ると良かったでしょう。
  • オタクキャラの絶望さんは(配置的に)美味しい役なのですが、ステレオタイプではないオタクな描き方が良かったと思います。
  • 鬼火さん(おじさん)がよくゆるんだ演技ができていてよかった。声の震えを演じることができたのはなかなか。
  • 欲をいえば、シリアスシーンが若干長くワンテンポだったかなぁーという感じはしました。

審査員の講評

【担当】瀧川真澄 さん
  • 幕が開き、つめたい白でくらっときた。とても美しい。
  • でも芝居の中身を組み立てるための装置だということを考えると、あの白い幕の意図は何だったのかなと疑問を感じる。
  • キャラクターをよく作っていた。「キャラを作るというのはこういうことよ」という感じに、心理的な作りとかが出来ていたと思う。
  • 落ち着きがありながらみんな違う服を着ていて、空間にたったときよく際立っていた。
  • 人と人の距離というのは心理的な距離を表します(編注:心理的な距離が人と人の距離となって表れるという心理学における事実があります)。中盤以降立ち位置が固定されていたのだけど、みんなが団結していくシーンなんだからもっと近づいたよかったのでは。こういうのは演出の仕事。
  • 自殺志願からみんなで生きるという話の展開が非常によく出来ていた。
  • 生きたいなってなっこときの人々のアンサンブルにも考慮を。
  • 幕切れで椅子に集まるというシーンの意味が少し分からなかった。(編注:その後演出に質問して)演出回答「人と人のつながりがあれば」という意味。

富士高校「紙屋悦子の青春」

脚本:松田 正隆
演出:西尾 匤史
※最優秀賞(全国)

あらすじと概要

紙屋悦子(かみやえつこ)の青春時代である戦中の、若い将校への恋心とその将校の友人とのお見合いを中心といて描いた物語。

主観的感想

すばらしいの一言に尽きます。高校演劇各校は、何としてもこの上演映像を手に入れて多くのことを分析・学んで欲しいと本気で思います。本当に良い見本となる演劇です。

良い良い言っていても始まらないので、具体的に。舞台は、年老いた悦子夫婦のモノローグに始まり、悦子が兄夫婦と住む実家で展開します。チラッと審査員が手にしている台本がみえたので覗き見したのですが、元台本の半分以上を削り間を十分に使って演じています。とても良い判断です。

最初間がとても良いなー、動作がとても良いなーと思ったんですが、何より「佇まい」がすごいのです。そこに座ってるだけで、立っているだけで、歩いてるだけで、ただそれだけで存在感とムードと日本の哀愁が出ています。パンフレットから長いですが次の言葉を引用します。

 この作品の稽古が進み、通し稽古になり音楽も入るころになると、今まで経験したことのないことが起こりました。役者が涙を流すことはこれまでにもありましたが、稽古を見守るスタッフが涙を流しながら音楽を流し、笑いをこらえながら照明のきっかけを出しているのです。
 最初から、この作品は今まで上演してきた作品とは違うなという印象は持っていましたが、稽古をすればするほどその感じは強まっていきました。気がつくと、作品世界とも役の人物とも抜き差しならないかたちで向かい合っていることに気付くのです。しかも実に自然に。

この状態になれたからこその演技であり、実にリアルに舞台上にその人物が居るのです。役者に本当に役が入っているのです。これこそ演劇の神髄で、この劇を観ることできただけでも本当に幸せでした。文句なしの最優秀賞です。

細かい点

  • プロローグが長いかなー。モノローグであることも考慮して、半分でよかったと思います。
  • 最初のシーンは暗転することなく切り替えられたんじゃないかな。
  • 食事シーンで本物を使い、本当に食べることにとても好感を持ちました。しかも、おはぎもご飯も実際よりも小さくまとめられていて役を演じる上で邪魔にならないよう工夫してあり、うまい処理だと思いました。
  • 照明をしぼって日本的な部屋というムードを装置と合わせよく出していました。
  • BGMのフェードアウトがいい加減です。フェードアウトというよりもカットアウトに近く、他がよく出来ているだけにとても気になりました。もっと丁寧にフェードアウトしてください。

審査員の講評

【担当】内山勉 さん
  • 台本の切り取り方は良かった。カット部分を多くして間をきちんと取って演じていた。
  • 曖昧なところがなく良かった。
  • 軍人達、ちょっと叫びすぎだったかな。
  • 舞台装置は石垣がよかった。花もよかった。贅沢をいえば、つぼみをきちんと見せてほしかったのと、幹と枝(花)のバランスを取ってほしかった。
  • おなじく欲をいえば、さくらの花びらは量はそんなに要らないのだから花の中から出てほしかった。
  • 小道具も衣装もよく研究されていた。ただ一升瓶とかもう一度見直してほしいかな。
  • 赤飯のシーンでふさがやや泣きすぎに感じた。悦子は席では涙をこらえて裏に引っ込んでから泣いた方がより印象できだったと思う。
  • ラストシーン、舞台の上下から役者が出てきて(その是非については議論のあるところだけど)、引っ込んでから幕が降りるのだけど、出てきたならそのまま幕を降ろしてよかったのでは。

まとめ感想 - 2006年度 関東大会

県名高校名演目
最優秀賞 静岡 富士高校 紙屋悦子の青春
優秀賞(全国大会へ) 静岡 三島南高校 うぉーっっ
優秀賞(全国フェスティバルへ) 山梨 甲府昭和高校 靴下スケート
優秀賞 茨城 水海道第一高校 リングの中の王子様
優秀賞 神奈川 麻布大学付属渕野辺 幕末ジャイアンツ
創作脚本 山梨 甲府西高校 盤上の沖縄戦

審査過程について発表後にコメントがありました。最優秀賞の富士高校は非常に美しい台詞回しと姿勢が高く評価されてとのこと。次いで三島南高校の「うぉーっっ」と甲府昭和高校の「靴下スケート」で割れたが、最終的には投票で前者に。残りは靴下スケートと、あとはすんなりと「水海道第一高校」「麻布大付属淵野辺」が決まったとのことでした。

最優秀賞は誰が観てもというところでしょう、文句なく。1日目を観ていないので、まああんまり何ともいえませんが(靴下スケートは予想外でしたが)。こうして見ると静岡が強いですね。県外の情報はかなり疎く、人口の多い東京、神奈川あたりが強いのかなと単純に考えていたのでちょっと意外でした。たまたま今回そうだったのか、人口とは関係なく盛んな地域とそうでない地域があるのかなーという印象です。

創作脚本については、着想を評価されて「盤上の沖縄戦」というところみたいですが、個人的には「それください」の方がよく出来ていると思います。むしろ上演台本をお探しの人(?)には「それください」を勧めます、非常に良いです。

2006年度 関東大会/南部

新島学園高校「桜井家の掟」

脚本:阿部 順
演出:演劇部
※優秀賞

あらすじと概要

4姉妹で暮らす家に次女蘭が彼氏を連れてくるという。一喜一憂する姉妹たち、訪れる彼氏の両親。実は姉妹たちには秘密があった。

主観的感想

関東大会参加校だけで一体何校が演じたのだろうか……というほど上演校の多い元全国上演台本です。パンフレット(別刷り)によると

この作品に取り組むにあたり、私たちはオリジナルの舞台(ビデオなど)を見ないことに決めました。

とあります。これは非常に陥りやすい劣化カーボンコピーを防ぐ大切な判断だったと思います。

さて内容ですが、前半の間が非常に悪い。県大会と比べるのは酷かも知れませんが、県大会よりも間が悪くなっています(間がなく台詞が続いてしまう、リアクションが早い)。役柄をあげるのは大変申し訳ない感じもしますが、長女夏実(なつみ)役が緊張していたのかまるっきり早口になっていました。初っぱな三女の杏(あんず)がダイエット中であるという下りの台詞を飛ばしてしまったらしく、この影響もあって杏に関するダイエットネタがすべて不発。このなかなか笑えない状況は、彼氏である光一の母の性格豹変ネタが出るまで続きました。長女役が責任というのではなく、お客の反応か思い通りいかず焦ってしまったのかどの役も県大会より間が悪かった印象です。肩の力が抜けておらず「ゆるみ」も出来てなかったと思います

笑いでお客を引き込めなかった最大の要因は「間の悪さ」なのですが、もう1つ、群馬ローカルネタ(地域名など)をそのまま県大会同様「笑いのネタ」として使ってしまったことにも原因があると思います。群馬の地域ネタでは笑いは起きないという覚悟が役者やスタッフたちにあらかじめあれば、もう少し違っていたかもしれません。

一方で、エンディングにかけての見せ方は県大会より良くなっていました。光一は台所にいるのではなく外に出かけていましたし、その変更も投げやりな書き換えではなくきちんとフォローを入れて行っていました。県大会であっかどうか忘れてしまいましたが、光一からもらったセーターを蘭が着ていたりとか(ただあっさり流しすぎな気もしましたが)。全体的に「家族劇(姉妹劇)」ということが、県大会よりもしっかり浮き彫りになっていたと思います。

前半の間の悪さが返す返すも悔やまれる、非常に惜しい演劇でした。いやもちろん、楽しかったんですけどね。

細かい点

  • 最初の自転車で買い物おばさんというギャクシーンで、夏実と杏がリアクション(別に台詞に限らず)しないのが勿体なかった。
  • 階段で叫ぶとき真横を向いて叫んでいた。建物の構造上、斜め上を向くシーンだと思います。
  • 携帯の音をリアルにならしていた(裏かな?)のは良かった。
  • スロー暗転がやっぱり意味がわからない。
  • 装置は県のときと変わらずよく出来ているんですが、暗転時多量の蛍光テープが客席でもはっきり見えてしまい非常に気になりました。
  • (光一の)父の電話シーンで、その電話の内容を英語(でたらめ英語ですが)にしたのは失敗です(県では英語じゃなかったと思う)。あの早さで喋った場合、何を言ってるのか客の理解が追いついていきません。同じく電話中に父は舞台袖に消えてしまうのですが、部屋の構造的にどこいったんだ? と疑問に感じてしまいます。別の処理を考えてほしかったところ。
  • 光一の母が、外で暴走グループをやっつけて戻りおしとやかに挨拶するシーンで、光一母はもっともっとおしとやかに挨拶するとより面白かったと思います。
  • 光一の父の携帯を窓の外に捨てるシーンで、投げ捨てるというよりは「そっと放っていた」いたのできちんと投げつけてほしいと思います。本物で投げる訳に行かない場合は、こっそりモック(店頭用の偽物)に入れ替えるとか。モックは(秋葉原やリサイクルショップなどで)比較的簡単に手に入ります。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • BGMの音量が全体的に大きかったと思う。
  • 役者の個性が大変生きていた芝居で、これは台本の力でもあった。
  • 台詞が頭から尻つぼみになっていたのが気になった。感情というのは語尾にでるので気を付けてほしい。
  • ところどころデフォルメされていて笑えました。
  • 心のやりとりから妹が姉を助けに行くしシーンや、(光一の)母が父を叩くとき普段は我慢している母が叩いた後でどんな気持ちに変わったのかとか、そういう心の部分が出るとよかった。
  • 恋をしていく姉(蘭)の姿は、もっと乙女になって良かったんじゃないか。恋によって変わっていく様子かもっと出てよかったんじゃないか。
  • 窓の外にホリが引いてあったけども本当に必要だったのか。大黒幕でもよかったんじゃないかと思う。
  • チームワークがよく楽しく観させて頂きました。