甲府西高校「盤上の沖縄戦」

脚本:土屋百合香(生徒創作)、高須 敏江(顧問)
演出:甲府西高校演劇部
※創作脚本賞

あらすじと概要

囲碁部員のカズミのもとへやってきたマキ。マキは演劇部のために台本を書いていた。囲碁の勝負と、マキの台本の沖縄戦。その二つが交叉して……。

主観的感想

囲碁の「捨て石」をキーワード(着想)として、沖縄戦を劇中朗読劇として描いた作品。囲碁という着想はよかったと思うのですが。

途中「あたり」「ウッテガアシ」「シチョウ」などの囲碁用語が出てきて、それを結びつけて戦争を描いていく過程において、どうにも疑問を感じてしまいました。私自身は囲碁をたしなむのですが、それもあり囲碁としての意味と描きたいものにギャップを感じてしまいます。囲碁的な意味でも、戦争という意味でももっと精査する過程が必要だったのではないでしょうか。

要するに、観客に対して、それらの用語から結びつけられる戦争における現実が効果的に伝わったかということなのです。また、どうみても囲碁を実際に打っているようには見えない。今年の北部関東大会で上演されたナユタという作品では、将棋を道具として使い、将棋の記譜をきちんと覚えた上で本当に打っていました。そういう小さなリアルの積み重ねが演劇には必要です。

物語終盤における戦時中の中絶についてのテーマ。カズミが大反対するのですが(それは物語構成上必要なのですが)、その背景が全く描かれません。なぜそこまで固執したのか、その背景をきちんと描いてほしいです。それに加えこれで戦中のお産のお話で終わってしまい、捨て石というキーワードはどこに行ってしまったのかという印象を受けました。テーマは1つに絞って、途中でブレないことを気を付けましょう。

全体的に、ゆるみのない演技であり、力を張りすぎてお客を置いてきぼりにしたといえると思います。メリハリ、ゆるみについては全体感想にゆずります。着想が評価された(?)創作脚本賞ではあるものの、その全体的な完成度については疑問符を打たざるを得ないでしょう。しかしながら、全体を通して真面目な作りには好感を持ちましたし、(おそらく修学旅行か何かで感じた)沖縄戦争についての衝撃を伝えようとする必死な想いは充分伝わりました。それだけでも大きな意味があったと思います。

細かい点

  • 演技中2人の出演者が(現代シーンで)ずっと机を挟み横で向き合ってるのが気になった。変化を付けてほしかったというか、二人の間の関係というものが見えてこなかった。普段は友達? とかクラスメイトとか? 囲碁の都合上、対面で向き合うのは分かりますが、対面というのは敵対という心の関係を示すので、そういう配慮がほしかったところ。
  • 戦中の中絶の話について、カズミがキレるシーンにおいて、彼女が怒っているのは分かってるのだけどやや嘘っぽい。本当に怒ったときというのは、心の底からわき出す怒り、ふるえ(声や体に表れたりすることもある)というものがあるのですが、それがない。上辺で精一杯怒っている感じで、リアリティーがない。
  • 戦争シーンでの声だけの出演で「あかんぼうなんて」とか「気づかれるぞ」とかがあるのですが、声の戦中の緊迫感が全くありません。嘘っぽいです。
  • これら怒りや緊迫感の表現は非常に難しいのですが、でもきちんと役として人物の気持ちを作ってほしいなと思います。
  • 部室にしては広すぎるので、正面で範囲を絞ってこじんまりとした舞台をつくった方が作品に合っていたのでは?
  • バケツを使って雑巾がけするシーンが本当に水が入ってて、本当に水拭きしているようだった。非常によかった。

審査員の講評

【担当】内山勉 さん
  • 分かりやすく素直な芝居作り。
  • どんちょう前の携帯の入りもいい。
  • シンプルな白黒のセットもよかった。
  • マキか語ることで(劇中物語の)チヨの世界が作られるわけですが、音楽→照明→語りという順番だったので物語の構造が分かりにくくなっていて並列的になってしまった。マキか語ることで生まれる世界なのだから、まず語りが入るべきだったのでは。
  • 二人の掛け合いの中からチヨの世界が生まれるきっかけがあるべきなんだけども、なんでチヨの世界が生まれるのか、どうして次にいう台詞を思いついたのかといった心の衝動としての言葉がないためウソになってしまい、台本通りやっているという印象を受けた。
  • 碁盤の上の戦いからチヨの世界が生まれるという展開だと、ストーリーが生きたと思う。
  • スカートとトレパン、白の服と黒の服という色分けをしてキャラ立てしてた。
  • チヨの話は作られた話っぽくなく、実話なのかなって感じがした。でも物語上は作られた話であるわけで。
  • 上下(かみしも)のエリアが広すぎた。狭まった空間(部室)から、はみ出るという芝居がよかったのかな。

作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。