渋川高校「猫ふんじゃった」

  • 作:別役 実(既成)
  • 演出:渋川高校演劇部

あらすじ・概要

舞台中央に畳が何畳か置かれ、上手にゴミ箱のような段ボール、下手に該当と公衆電話。そこに通りがかった男女が、休憩のために少し休んでいく。すると公衆電話に電話がかかってきて、アメリカ大統領の身代資金として84億円を請求された。

感想

去年に引き続き「別役実」作の台本ってことで結構期待して見ました。この捉えどころのない不条理な会話劇大好きです(笑)

意味もなく出てくるおまわりさん、意味もなく電話しようとする登場人物、元々そこで仮住まいしていた夫婦がやってきて、身代金の相談。この作品もくだらない、本当にくだらない(褒め言葉)

ただこの台本、登場人物に圧倒的な演技力が要求されるんですよね。大人の緩みや余裕みたいなものが演技にでないと台本がそもそも成立しないのです。無理に声を張ることなく、緩んだ丁寧な演技を心がけていて、とても頑張って演じていたと思うのですが、残念ながら台本が要求する演技レベルには達していなかった。

細かいところだと、電話の音が鳴るシーン。登場人物が誰も驚かないんですよね。次に電話が鳴るって分かってるから。演じてる役者は電話が鳴ることはわかってても、中の登場人物は分からないので驚かないといけないのです。同様に、相手が次に何を言うか役者は分かっていても、登場人物は分からないので「相手の台詞に」反応しないといけないのです。反応の結果として、次の台詞が出ないといけないのです。これをリアクションと言います。

演劇は、ましてこの台本はリアクションが生命線なのです。そのリアクションがちょっと足りなかったかなと感じました。


でも電話の演技とか違和感なく出来てましたし、本当に頑張って演じていたと思います。上演おつかれさまでした。

桐生市立商業高校「わが家のあかし」

  • 作:中原 久典(既成)
  • 演出:(表記なし)

あらすじ・概要

春菜、夏代、秋穂の3人姉妹の一家。ある日、次女の夏代が彼氏を家に連れてくるという。それに右往左往する父親と、家族たちのコミカルな劇。

感想

面白い台本ですね、これ。コメディでありながら、一本話の筋を通していて、説明し過ぎない台本。最後にはちゃんと収束させているのがまた素敵です。

さて幕が上がって、後方に一面の白い8尺パネルで中央にドア。下手にソファー、上手にテーブルと椅子。リビングっていう設定っぽいです。それにしては中央の空間が少し気になってしまった……。この空間はもっと狭くして近づけたほうがよかったような気がします。

中盤、下手で家族たちが、上手で部外者がそれぞれ居るシーンでは、距離が少し遠く感じてしまったのですよね。家族と部外者なので、あんまり近いのもおかしいのですが、それにしては少し遠かった印象。だだ広いと寒々しさを感じまして、これがこのアットホームな上演には不釣り合いなんです。照明ではなく*1移動する範囲が部屋であることにして、後ろの幕をもっと寄せて部屋空間を狭めることはできたのではないかと感じました。

装置といえば、途中から忽然と消えた壁の時計は一体?


この台本、下手をすると笑いが取れずに寒々しいだけになりかねないのですが、父親や彼氏のキャラ立ちがしっかりしてたおかげで面白い上演になっていました。特に、お父さん! いい味出してたなあ。ただ、シリアスシーンではちょっと違和感を感じることもありましたけども、ある程度しょうがないのかな。

ひとつ大きな違和感を感じたのが、日記のダンボールから冬彦の日記を読まれてることを父親や母親が気づいたシーン。台詞には出さなくても、もっとびっくりしません? もしくはそれが意図したものなら「しめしめ、思い通り見つけてくれたな」って反応をしませんか? ほぼ無反応なのはおかしいと思うのです。

それも含めリアクションはちょっと甘かったかなとも感じましたが、それでもきちんと演技され、声もよく聞こえ、分かりやすい上演になっていたと思いました。

でももっと良くするならと考えると、そこはやはり3姉妹かなと思います。高校生が演じるので難しいのは分かりますが、それでも3人が並んだ時に誰が長女で、次女で、三女かということが伝わってこなかった。長女と三女は5歳差でしたっけ? 舞台からは全然伝わってません。

演じ分けも立ち居振る舞いや動作速度によって色々と工夫する要素はありますが、一番簡単なところで服装をもっと工夫できなかったのでしょうか。そう考えると、服装を分けるにあたって夏服である必要あったのかな? 夏服って服装を変え辛いのです。母親のエプロンは良いアイテムだっただけに、3姉妹ももう少し分かりやすくしてほしかった。

3姉妹の関係性がパッと見でわかりにくいせいで、関係性がより見え辛くなっていてます。それぞれがそれぞれに対してどう想っているか伝わってこない。そして、キャラを優先させすぎて想いの面で少し弱くなってしまった父親、全体として印象が弱かった母親。母親を母親らしく見せるには、母親自身の立ち振舞(結構頑張ってたと思います)の他に、母親に対する娘たちの視線や接し方もとても重用です。他の人物に対しても全てそうです。

この台本を成立させるのに一番大切なことは分かりますか?

それは尾崎家5人の関係性です。その関係性は台本には直接書かれていませんが、だからこそ上演するときに解釈して伝わるように演じる必要があります。それが不足した。本当にそれがもったいない。


とはいえ、終盤に向けて観ている側をグイグイと引き込んでいく面白い上演だったと思います。カッターは見た目よくわからないけども、カッターの音でちゃんと伝えるとか、色々工夫もされていました。上演おつかれさまでした。

*1 : この劇場の照明はあまり自由が効かないようなので