伊勢崎興陽高校「夢に見た妖怪」
- 作:細野洋平(既成)
- 潤色:江原慎太郎(顧問)
山奥にある大きな穴。そこに様々な事情を抱えた人たちが集まる。
開幕スモークで、舞台奥に長方形状の物体が置かれそこにとこどころ花の付いた生け垣シート、そしてところどころに石や花のオブジェが置かれています。舞台中央に石で囲まれた黒い穴。
装置を用意するのは大変なことなのですが、残念ながら公園にしか見えませんでした。山奥で森なのだったら木のオブジェが欲しいところですが、いっそのこと緑ホリに「穴」だけ用意しても良かったのでは? 開幕に鳴らした音楽の代わりに「鳥の鳴き声SE」を使えば伝わったかなと思います。
そして「穴」。できれば深さを付けて穴にしてほしいというのは講評でもありましたが、高さを出すのは大変としても、大きさを今の3倍ぐらいにしたほうが穴感あったように思います*1。普通の山に縦穴洞窟があるというリアリティは置いておくとしても、穴に柵がしてないのは無理がありませんか。普通の人がやっくるような山にそんな穴が空いていたら、間違えなくロープぐらいは張ってあります。
役者さんも「落ちたら死ぬ穴」という演技ではないですね。そもそも迂闊に近くに寄らないし、近くであんなに素早く動いたりしないです。もっと慎重に動きます。あれだけ素早く動けるのは、それが本物の穴ではないと思って演じているからで、役者が思ってないことが観客に伝わるわけがありません。
つまり、最も大切な「穴」という装置のリアリティが全く観客に伝わってこないのです。この舞台の一番もったいないところはそこですね。
上演も中盤になり、まあそれだけ言うならここは山の中ってことなのかな……と仕方なく納得しようかと思っているところで、自転車で役所の人がやってきます。だからここどこなんですか(笑)。自転車で入れる山奥という混乱にノックアウトされました。
話の構成を考えるに、もっと穴に焦点を充てて進行したほうが良いと感じますので、登場人物それぞれが「穴をどうしたいと思っているか」に焦点をしててちゃんと演出したほうが良かったと思います。
結構がんばって演じていたし、大変な舞台装置もがんばって作っていたと思います。パンフレットを読むとまだ同好会とのことで、人数も足りなかったり色々大変なこともあるかと思いますが、これからもめげずに作っていってください。上演おつかれさまでした。
狭くてボロくて雨漏りするような家に住む、女だらけの一家のお引っ越し。引っ越しが間近に迫りながら、そこで交錯する人間模様。
舞台下手に大量に積まれた段ボール。舞台中央に1つだけ置かれた「わたし」と張り紙された段ボール。その上手側にお姉ちゃんと書かれ積まれた段ボール、さらに上手にお母さんと書かれ積まれた段ボール。舞台中央にテーブル1つという感じで舞台全体を使っています。極めて不自然でした。
結構頑張って段ボールとか用意したと思うのですが、残念ながら引っ越し前日というリアリティが欠如しています。また講評でも指摘されていましたが、片付けてをサボってると起こられても、部屋に何も散らかってないのでもう片付けるところないじゃん? という問題もあります。
さて、母親と長女と三女、なんとなく雰囲気似てる。家族っぽくて良かったです。掛け合いとか面白いし、間の使い方も結構頑張っていたと思います。母親はちょっと早口だったかな。もう少し落ち着きがあっても良かったかも知れません。
劇中、古いバット(とグローブ)が出て来るシーンがあるのですが、バットが新品同様。汚しておいてほしかったかな。
講評でも指摘されていましたが、最後のカントリーロードのBGMがカットオフされるのは不自然でした。しかも歌詞の途中の変なところで突然切れるのは良くない。「あの街にー、続いていくー、気がするー、カントリーロード」の部分まで十分聞かせてフェードアウト。幕の落ちるタイミングもそれに合わせた方が良いでしょう。
間や緩急の使い方は、よく気を配っていたと思うのですが、演技、特に動きが「型」だったなと思います。相手に向かって行く演技。怒られて縮こまっている演技。挙げればキリがないのですが、それらしい演技をただしていたという印象がとても強い。かと言って、コメディ劇というわけでもない(コメディに振り切った上演でもない)。
つまり、舞台装置からも、演技からもリアリティが感じられない。それが最大の問題だと思いました。*2
台本にいくつか問題はありますが、それでも台本の作りを考えると父親や家族の関係にもっと焦点を当てて上演してあげるか、それらをすべて投げ捨ててコメディに振り切って上演する必要があるように感じました。関係性(や距離感)が上演から示されたという感じがあまりしなかったので、ラストシーンの印象もなんかもやっと……。
とはいえ、きちんと笑いが取れる演技をしていて、家族感もあり良かったと思います。上演おつかれさまでした。