伊勢崎清明高校「あさぎゆめみし」

作:小野里康則(顧問創作)
演出:岩田 里都

あらすじ・概要

中学の遠足登山の最中で谷に落ちてしまった啓太と姫川、そして熊谷。さてどうしよう。

感想

くまむしくらぶの啓太と姫川が成長して中学生になりましたというお話。「くまむしくらぶ」を知ってると「啓太と姫川、変わらないな」と少しニヤニヤできます。虫好きはまだ変わらないのか(苦笑)

人物がステレオタイプなのは相変わらずなのですが、台詞の間が悪いかなという印象です。リアクションがとれてない感じです。全体的にギャグの流れなのにあまり笑いが取れてないのはその辺が原因だと思います。

舞台装置の高いところと、全体を広げて落ちた後の場所を切り替えてるあたりはうまく処理してたなと思います。

説明的な台詞がやや目立ち、BGMもやや説明的で、体を打って動けないはずの人物が気づいたら普通に歩いていたり、色々と細かいところが気になりました。

頑張って演じられていたとは思います。

新田暁高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:青山 一也(顧問)
演出:有賀理中奈
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

部活動予算会議に集められた7人の部長。予算案を承認して終わるはずが、削られた予算に拒否権を発動しようと言い出して……。

感想

これもとても有名な台本です。よく力が抜けて演じられ、リアクションがきっちりされていたので、とても面白く観ることができました。台本も過不足なくアレンジされていました。

まずきっちり部屋を作ってきていました。ちゃんとした部屋の装置で七人の部長を見たのは初めてかも。これだけモノがあると動きを付けにくいじゃないかと心配したのですが、左右にテーブルと離れた椅子を用意することでこれをうまく処理していて、動きを含めてしっかりと演出されていました。

例えば生徒会長が言い間違える演技とか、すごく難しいと思うのですがちゃんと成り立っていました。剣道部部長もアニメ部部長も、演劇部もみんなちゃんと性格が見える演技になっていて、とても良かった。

この台本は全体がコメディタッチなので終盤のシリアスシーン(生徒会長の想いのシーン)への流れがとても難しいのですが、これをきちんと成り立たせていました。

ラストシーンでスポットの下の紙切れが落ちたのは偶然なのか仕組んだのかわかりませんが、おおっと思いました。

欲を言えば、台本の問題もあるとは思うのですが演劇部の人のラストの流れはちょっと長いかなと感じてしまいました。生徒会長のシーンが一番の見せ場なのにそれが薄まってしまう。無くすというわけにはいかないかも知れないけど、重点をもっと生徒会長のシーンに置いて(時間を使って)演劇部の人のシーンはおまけ程度の扱いでよかったんではないかなとも思ってしまいました。全体的に、生徒会長をもう少し際だたせる演出をしてもよかったのかもしれません。劇のどの場面でも生徒会長が主役だと分かるように、あくまで生徒会長が主役なんだと分かるように。

序盤から装置から気合がぜんぜん違ったし面白かった。関東行けるかなと思っていました。上演おつかれさま。ラストシーンのBGMを連動させた処理うまかったです。

新田暁高校「全校ワックス」

作:中村 勉(既成)
演出:長瀬 颯希

あらすじ・概要

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

全校ワックスってこんなにおもしろい台本だったんだなというのが印象的でした。

中割幕を使って少しだけ奥への道を開けた舞台。舞台全体が廊下という設定のようです。廊下にしては少し幅がありすぎたかなという印象があります。学校のどこならこんなに幅のある廊下があるだろうか?と。直線を照明で区切るのは難しいとしても、もう少し方法はなかったんでしょうか。舞台の自由度を取るなら幅はまあ良いと思うのですが、それでも「ここからここまでのこういう構造の廊下である」というのが少しも見えてこなかった。それは掃除やワックスがけのシーンからも伝わりませんでした。装置がないから適当でいいってことはないですよね?(前橋南を例に出すまでもなく)

小道具である掃除道具がうまく使われていて、バケツも、外れるデッキブラシもすごく面白かった。たぶん、外れるように仕込んだんだと思うのですが、うまかったなと思いました。バケツやワックスの入った容器を持ち運ぶとき、最初はかなり巧みに中に水が入っているようにしてたのですが、後半適当だったり、人物によって(特に相川)持ち方が甘かったりして(ギャグ的なのは別として)重さに統一性がないと感じました。揺れてしまうと軽く見えるので相当注意するか、水分は無理でも中に重りぐらい貼り付けてもよかったのかもしれません。あとワックスがけするとき、ワックス容器を持ちながら移動するかなという疑問ありました(ベタベタするのであまり持ち歩きたくはないはず)。記憶がたしかならワックスがけする場所の近くに移動しながら使ってたと思います。

各人物がよく立っていて本当に面白かった。人物の距離や移動も非常によく配慮されていて、同時進行させながらもスポットを当てることを怠らなかったので見づらくならず分かりやすかった。掃除の仕方にもきちんと個性を出していたのも好感があります。ただ全体的に散漫な掃除が多くて、もっと几帳面に箒がけやワックスがけをする人物がいてもよかったかなとは思いました。隅々まできっちりやるタイプも居ますよね。

段ボールで廊下に橋を作るシーンがありましたが、この会場の床は茶色でしたので、白い段ボールを用意したほうがわかり易かった気はしました。ただ白い段ボールだと適当に持ってきた感じはしないのでリアリティのバランスとしては難しいところですが、そもそも手近に段ボールがあること自体リアルではないので白くても問題ない気がします。

それにしても大宅さん美味しすぎ(笑)

全体的に

正直、とても面白かったのです。爆笑してました。6分オーバーでは仕方ないですが、関東行ってほしかった。時間オーバーしているということは当然わかっていたと思うのですが、一切の焦りを感じさせることなくきちんと最後までやりきったことは賞賛したいです。実際、観客には時間が多少オーバーしようがしまいが関係ないことですから。

講評や感想ボードなどで前半の間が少し緩い(間延び)しているとの指摘がありましたが、個人的にはこれぐらいが好みです(スタート少し聞き取りにくかったけど)。たっぷり、ゆったりとしながら、静と動をきちんと使い分け、止めも効果的に使いながら演じられていたと思います。

これ以上どこを改良すべきかというのは難しいのですけど、最初から少し仲が良すぎた感じはあります。最初は初対面っぽさやヨソヨソしさ、なんでアイツと一緒になっちゃったんだろう……ってのがあると、それが「偶然」集められ、集められたことで仲良くなってしまった。偶然という神の仕業によって仲良くなってしまったので、足あとを付けたくなったということに繋がるんじゃないかなと感じます。本当に何も事件の起こらない舞台なので、こういう台詞に現れにくい心理的な変化がより一層重要になってきます。今回の上演では最後に足あとを付けたくなる心境的な変化までは感じ取れなかった。足あとをつけたことの意味は理解できても、自然と伝わりはしませんでした。

あとはやはり掃除の様子を今よりいっそうきちんとすること(真面目に掃除しろと言ってるのではありません)。どこがどう掃除されたのか伝わるようにすることなんじゃないかと思います。「ああ、さっきせっかくワックスがけしたところに足あと(紙吹雪)が……」と今のままでは見てる側が思えないのですよね。

共愛学園高校「見送る夏」

作:越智 優(既成)

あらすじ・概要

夏休みの宿題をするため早枝子の家に集まった友人3人。そこに居候をしている従姉妹の栞莉がやってくる。おばあちゃんのお葬式に行けないという栞莉は……。

感想

後ろに6尺パネルを数枚立ててその手前に段差を作った畳敷きの居間、左右につながる廊下というイメージ。壁の上手側にクーラーが設置されています。今年はセットが簡素な学校が多かったのですが、結構しっかりしたセットでした。段になってる居間から降りるための階段があったのですが、使いましたっけ?

部屋感を出すために照明をある程度制限していてよかったのですが、反面、夏感との両立は難しいなという感じもしました。例えば、壁に窓があって、そこから強い光が差し込む(もしくは強い光が見える)等あれば、夏感が増したような気もします。SEやすいか(すいか本物っぽかったけどよく用意したな)以外の要素でもう少し夏感が出せなかったのかなと思いました。

ラストシーンで評価が高かったクーラーですが、踏み台を使わずに届く位置にあるのは違和感がありました。あの高さにクーラーがついているお部屋はないですよね。大変だとは思いますが、パネルをもう少し高くしてほしかったところです。

宿題をやるために集まった3人。ワイワイガヤガヤとしたリアリティが非常によくできていて、演技も力を抜いて騒ぐところ、スローテンポのところのメリハリができていました。ただ、最初や途中で「聞かせるべきキーとなるセリフ」のいくつかがガヤガヤし過ぎて聞き取れなかったのが大変もったいないところです。

姉(塔子)が訪ねてきたときの塔子とその他4人の対比(動き)は綺麗でおじぎとか面白かったです。その塔子が「茉莉、来なよ」と言うときの間(止め)の使い方は非常に緊迫感あり良かったのですが、座りながら言わなくてもよかったのではと少し感じました。塔子ですが、もう少し「たまたま通りがかったと嘘を言っている」ことの嘘っぽさが出たらよかったかな。大人っぽく見せる(演じる)ところに意識が行って他に回ってない気がしました。

全体的に

夏休みの宿題というワイワイの中に各人が抱えるものが浮かんでは消える詩のような台本なのですが、その主題というべきものに光を当てることが蔑ろにされた印象があります。そこを強調し忘れると、すごく散漫とした演劇になってしまうし、実際そうなってしまった印象もあります。細部にこだわった演出や個別のシーンはよくよく考えられていたしそこは評価したいのですが、その一方で「物語全体としてどう見せようか(どうすれば伝わるか)」という部分が弱かった感じがします。物語全体から考えると、個別のシーンの扱いや演出も変わってくる(変わるべき)だと感じました。引いた立場で全体を見渡す演出がいなかったのかな。

話自体は単純ですし、いっけん難しい台本にも見えない。でも、個々人の抱えるものをどうやって演じるか、どうやって観客に伝えるか、どうやって表面的なセリフには現れない心情を描き出すか、セリフに現れない登場人物たちの心情は一体何であるかを強く強く意識しないと「ただ宿題をした」だけで終わってしまう台本のように感じます。各シーンはよく演じられていたし、大道具なども気合入っていたのですけどね……。惜しい。

前橋南高校「狩野【kanou】」

作:原澤 毅一(顧問創作)
演出:星野ひかり
※最優秀賞(関東大会へ)、創作脚本賞

あらすじ・概要

東京の山の手にひっそりと暮らす姉妹の物語。お嬢様育ちで親の遺産で過ごす、姉のほぼ言いなりになっている妹。姉の恭子は屋敷を売り払って群馬に引っ越すと言い出すのだが……

感想

狩野って何かと思いましたが、叶姉妹を明らかにモチーフにした非常にバカバカしい台本です。原澤先生の台本は毎度よくわからなかったのですが、今回のでなんとなく楽しみ方がわかったというか本当にバカというか。今回、バカらしいことをすごく真面目そうに格好よさそうにそして舞台芸術風にも作られていますが、その本質は単なる悪ふざけ。下手に上演すれば、ただ呆れられるだけなのですが、すごいクオリティで上演するから成り立ってしまう。

幕が引かれて、椅子が2脚あるだけの非常に簡素な舞台です。椅子1つ1つにサスを当てる、もしくは2つ一緒にサスみたいな照明だけで進めていますが、横から照明をあてて顔が影にならないように配慮することは忘れていません。舞台装置はほぼ何もないのに部屋や屋敷の構造を感じさせる動きがこれまた素晴らしい。

声の演技をはじめ、人物の動きがとてもとても美しく、とても上品な上演となっています。そしていつも通り、スモークを使ったり、飾りサスを使って舞台芸術的なものも見せ、舞を見せ、脈略も何もない。ひどいもの(褒め言葉)です。ラストシーンは姉をリサイクルしてしまうという怖くかつ抽象的な終わり方でした。

全体的に

例年通りの前橋南でしたが、今年は完成度高かったように思います。もう圧倒的。文句なしの最優秀賞です。