西邑楽高校「夕暮れに子犬を拾う」

  • 作:越智 優(既成)

あらすじ・概要

ある丘の上に集まる4人の生徒。川村エリカからいじめられている山越ミイナ。そんな彼女を守る会が結成される。

感想

2014年の全国大会で松山東高校が上演した本のようです。作者::越智優氏が書き下ろしたらしい。

ホリとベンチ2つと、ゴミ箱が置かれた簡素な舞台。公園かな?と思ったら小高い丘のようです。ゴミ箱にはきれいに洗われたペットボトルしか入ってなくて、それだったらまだ空のほうが良いような……。

いじめられているのに特に反撃しようとしないミイナと、理由は分からなず頑なにミイナを守ろうとするサオリ。そして見つける捨て犬。この台本すごいですね。とてもよい台本を選択したと思います。

結構頑張っていたのだけども、全体的に反応が甘かったかな。例えばABの間を割って入られたシーンでABが「何アレ」って捨て台詞と共に去っていくのですが、割って入って通り過ぎてしばらくその様子を眺めてから「何アレ」ですよね。割って入られるなりいきなり「何アレ」はおかしいですよね。

そういうアクションに対して、気持ちが動いて反応するというリアクション。相手の台詞が何か発せられて、その言葉で自分の気持ちが動くことでの反応。相手の台詞を言い終えたら、次の台詞を言うのでは伝わるものも伝わりません。「えっ」「うん」「あ」が多く、きっと台本に書かれているんだと思いますが、それはその言葉を発しろという意味ではないのです。そういう反応をしてくださいね、という意味です。

講評でも指摘されていましたが、ダンボールの中に居るはずの犬が「本当は居ないのに居るように演技してるんだな」と見えてしまいました。これ本来は「見えないけどダンボールの中には子犬居るんだ」と観客に思わせないといけません。中の犬はじっとしているわけではないですよね。いろんな姿勢や表情をしていると思うのです。それをちゃんと決めて、想像し、みんなで意思を統一して演じていましたか? 子犬をみて一喜一憂するだけで、そこに存在するように見えるのですよ。子犬はかなり大切なポイントなので、もっともっと大事にしてほしかったと感じました。

ラストシーンの「子犬が一匹居るだけで私良かったのに」は強烈でした。良い台本を選び、丁寧に演じていたと思います。楽しかった。

太田女子高校「厄介な紙切れ」

  • 作:大島昭彦(既成)
  • 潤色:太田女子高校演劇部

あらすじ・概要

翌日のテストの復習プリントをもらいにいったら、今年のテスト問題が混ざっていた。そのテスト用紙に翻弄される8人の物語。

感想

この台本の2012年に新島学園が上演したものです。もう6年も経つのですね。

舞台上に乱雑に椅子とテーブルが10セットぐらい置かれていて、照明で区切られた空間になって、後ろは幕が引かれていました。乱雑に並べて、区切られて、黒幕引かれて……となると、かなり抽象的な空間になります。幕が上がり抽象劇でも始まるのかな?と思います。でも実際に演じられるのはとことんリアルな劇です。ミスマッチになっているのがもったいなかった。

教室の装置は用意できない。でもただ単に机を並べるだけだと工夫がないということかなと想像しますが、残念ながらただ単に(きれいに)机を並べたほうが良かったと思います。そうすることで舞台上がよりリアルになります。

全体的にコメディなのですけど、ガンガン笑いを取るコメディでもないし難しいですね。人物立ちも演技もかなり頑張っていましたし、間にも気を使っていたし、楽しめたのですが、でも物足りない感じがしました。

演技・演出の完成度高めようとか、そういう抽象的なことを言うぐらいしかできないもどかしさ。

コメディって難しいんですよ。シリアスは軸がしっかりしてる分、どうすれば良いかハッキリするのですが、コメディってただひたすらに完成度を高める(それも相当なレベルに)しかないし、それをしたところで最後はセンスに左右される。

生徒8人が、この紙切れをきっかけとして、一喜一憂し個々の感情が大きく揺れ動き、色々なドラマや葛藤が起こり、その結果として「紙切れに振り回されてる感」が出てくる。この上演だと紙切れで遊びました、ぐらいにしか感じられない。もっと、個々の生徒が、ほかの7人に対して、先生に対して、このテスト用紙に対して、また明日のテストに対して、何を想い何を感じ、どう思っていたのかが(演技から)見えてくると違ったのかなと思います。

すごい頑張っていたし、上演は楽しめたのですが、もっと上を目指してがんばってください。

太田女子高校「マナちゃんの真夜中の約束・イン・ブルー」

  • 作:中村 勉(既成)
  • 優秀賞

あらすじ・概要

マナは真夜中に夢を見る。それは銀河鉄道の夜であり、友達が訪ねてくるものであり、指からピントルが出るものであった……。

感想

中村勉作の厄介な台本を、よく演じきったなと思いました。今大会で一番面白かった。15年ぶりの県大会出場だそうです。

ピンクやライトグリーン、ライトブルーなど淡い色の四角いブロックで構成された舞台。中央にそのブロックを6個くっつけて、その上に布団を敷き、マナがベッドにしています。ひと目で抽象空間と分かり、淡い色で統一感があるのも良かったと思います。

そして暗めの照明で舞台全体を照らさずに中央部を劇空間として区切っています。講評では、終始暗めなことに指摘がありましたが、個人的には問題に感じませんでした。また、単純に上からサスを当てるだけではなく、サイドスポット(SS)をちゃんと併用してたのも良かったです(SS使わず顔が影になってしまう上演があるんですよね……)。

気になったのは、ピストル以外のSE(最初や戦場)の音量が大きすぎて、台詞が完全にかき消されていたことです。そもそも大きすぎたし、最初だけ大きくして下げても良かったと思います。

この上演の何よりも良かったところは、主人公マナを初め登場人物がちゃんと会話しているところです。指がピストルになることにちゃんと驚いてるし、意味不明なことが起こってちゃんと戸惑っているところです。ちゃんと心がこもった演技がされている。今大会、それが最初から最後までちゃんと出来ている高校がなかった。

ちゃんとした演技だから、すっと上演が気持ちに入ってきて、それだけに途中「本当の幸いとザクリッチを探しに行こう」という台詞はおかしくて、おかしくてしょうがなかった。


最初にも書いたとおり、今大会で一番面白かったと思いますし、その理由は「ちゃんと気持ちのこもった演技になっていたから」です。しかし、講評を聞いてると不評のようで、概ね台本の解釈不足を指定されていました。多分、審査員のみなさんはオリジナルを知っているので、無意識にそれと比較されてしまったのだろうと思います。

というわけでオリジナルの情報を探してみると、甲府南高校の取材記事が見つかりました。テーマ的な部分では「本当の幸い」という部分が際立たなければならないのですが、そのキーワードで全体眺めたとき、エジプトやシリアなどへ行くシーン、戦争のシーン、指から銃で出る意味、田舎チョキをばかにされた私、などが指し示す台本上の意味への配慮不足(もしくは配慮はしてたのかもしれないけども演出不足)があり、それに代わる上演校独自の解釈があったわけでもなかった。*1

舞台装置がオリジナルに近いことからオリジナルを参考にしたと思われますので、解釈を十分に加えることなくオリジナルに近づけようとした結果に対する講評だったのかなと思いました。

とはいえ、今大会では終始まともに会話になっている(舞台上で実際に物事が進行している)リアリティを持った上演はなく、それだけでも相当な努力が伺えますし、とても一生懸命作られていたと思います。個人的には関東行くと思っていましたし、それぐらい楽しい時間でした。上演おつかれさまでした。今後の活躍を期待しています。

*1 : 多少無理はあるかも知れませんが、例えば徹底的に不条理で不可思議な劇という解釈は可能だったと思います。

富岡東高校「全校ワックス」

作:中村 勉(既成)
潤色:富岡東高校演劇部
演出:橳島 唯

あらすじ・概要

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

これまた有名な台本で、去年の新田暁の上演が強烈に印象に残っているのですが、それと比べると劣る印象は拭えませんでした。

去年の感想と多少共通するのですが「掃除が適当すぎ」「廊下の構造が適当すぎ」の2つに尽きると思います。バケツに水を汲んでくるシーンがあるのですが、汲んできた水は一度も使うことなく片付けられます。なんのために汲んできたの? 適当に掃除をすることはそれは高校生だからあるでしょうが、それにしたって「ここまで掃除した」ってものがわからないし、人物によってまじめに掃除する人も適当に掃除する人もいるでしょう。序盤で大家が廊下の窓を開けるジェスチャーがあるのですが、その後で窓より外側を掃除しているのはどうなんでしょう。

この台本は綺麗にワックスがけしたところを汚すことに最大の見せ場があるのです。そのシーンを際立たせるには「綺麗にワックスがけ」する必要があるし、嫌々でもなんでも広い廊下を一生懸命ワックスがけするからこそ「あぁー」というラストシーンにつながるのです。

それと同時並行で人物間の心の距離がだんだんと縮んでいく必要もあります。頑張って上演してはいましたが、台本を活かしきれなかったと言わざる得ないでしょう。

沼田女子高校「どうしておなかがへるのかな」

作:中村 勉(既成) ※台本はこちらで読めます
演出:(表記なし)

あらすじ・概要

姉妹が二人で織り成す家族劇。すねて家の外にいる姉を妹が呼びにいくところからお話は始まります。家族の構成や環境が変化していく中、姉妹の間にも微妙な気持ちの変化が起こります。

感想

キャストが妹と姉の2人だけで構成される舞台です。中村勉氏作ということで他作同様、比較的難しい台本なのですが、それが非常によく演じられていました。舞台上には左手に木製のベンチ、中央に木のオブジェ、右手に家と壁と扉。「家」と「その庭」ということなのですが若干公園ぽかったかなあ。もう少し工夫の余地はあるかもしれません。

最初声が弱々しく基礎的な発声の力は弱いようですが、途中からは役者が乗ってきて少し聞き取りやすくなりました。全体的に抑えた演技となり作品にとてもよくマッチしていました。ただ、そればかりだったのが勿体無かった。発生も演技も。別に元気に騒ぐシーンがあっても作品のムードを壊さず、それどころか元気なところもきちんと見えるとしんみりがより引き立つのです。例えば、中盤の二人がじゃれ合う(おいかける)シーンで手加減が見えたのがもったいなかった。全力で走れという意味ではなくて、わざと空振りしたりする必要はなかったのではないかということです。もっと元気に、力いっぱい追いかけっこをしてほしかった。台詞なら「制服いいよね。聖和」とか元気に言ってよかったと思います。

台詞や動作のメリハリのほかに、もう一つ気を使ってほしかったのは「間」。上演時間約50分というところからも分かると思うのですが、この作品の場合、もっと台詞をゆっくり話していいし、台詞と台詞の「間」はもっともっと気を使って欲しかった。さらに言えば、動きも大切にできたらよかったと思います。ほとんど動かず話をするってのはやっぱり勿体無い。

また2つ勿体なかったところがあります。1つはラストシーン。話が終わってから、一度暗転しエンドシーンとなっていましたが、暗転したせいで気持ちが途切れてしまいました。そこの暗転は絶対やめてほしい。ラストシーンは物語全体の余韻を残す一番重要なところなのですから、暗転しなくてもいくらでも見せようはあるはずです。ラストシーンの選曲も講評で指摘されていましたが、それを工夫してほしかった。もう1つは木のオブジェ。作品全体を貫く大切な大道具なのですから、木の部分をもう少しどうにかしてほしい(申しわけないけどしょぼい)。また青々とした木が本当にこの作品に合っているのかということももう一度考えてみてもいいと思います(考えた結果青々として木であったなら問題はありません)。

あとBGMがうるさくなく、主張しすぎず、また使いすぎることもなく良いムードを引き立てていたと思います。

全体的に

抑えたトーンでしんみりとしたムードをとてもよく意識して演じ手いたことに大変好感を持ちました。過去県内で観てきた中村勉氏の台本の舞台の中では一番の完成度といっても良いと思います。本当によくここまで台本を読み込みその意図を理解したと感激しました。県内の学校は、そういうこと(台本を読み込み・理解し・解釈し・自分たちのオリジナルとして構成し・演じること)がとても苦手な傾向がありますので、その点を高く評価したい。

あとは、台本自体そういうものだから仕方ない面もありますが、中盤にどしてもたるみがでてしまいます(客席をみていると寝てた人もいた)。変なアレンジをするというよりは、動作を含めた完成度を高め引き込むしかないかもしれません。メリハリ(強弱)を少し意識して出してみるだけでも印象は違うと思う。

個人的に関東行ってほしいなあと思ったのですが、今年はハイレベルな戦いで入賞もなりませんでした。たしかに演技技術等では他校に負けていますから仕方ないのかもしれませんが残念です。しかし、誰がなんと言おうといい演劇でしたよ。