新田暁高校「全校ワックス」

  • 作:中村勉(既成)
  • 演出:新田暁高校演劇部

あらすじ

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

高校演劇ではよく上演される台本ですが、さすがに台本に古さを感じつつありますね。

全校ワックスの感想には過去何度も書いていると思いますが、廊下の構造が曖昧すぎます。奥のカーテンの一部だけが割れていて、そこから少しホリが見えて出入りするのですが、奥の上手側と下手側に行くときがあって、「ゴミを捨てに行った」のに行った方向がバラバラだったり、ダンボールは奥ではなく上手から出てきたり、ワックスを2度がけするのに、舞台上手周辺だけは全くワックスがけしていなかったり……。

この作品は舞台装置なしで成り立つのですが、だからといって舞台設定をしなくて良いわけではありません。廊下の幅もきちんと考えて演じてほしかったし、逆にそうしないと廊下という舞台がきちんと成り立たない(観客に伝わってこない)のです。「下手の奥に真っ直ぐな廊下がつながっていて、たぶん見えてる分の倍ぐらいの長さがあるんだな」ときちんと伝わってきて、そこはとても良かったので、それを舞台全体に対して表現できたらもっと良かったのかなと感じました。

奥のホリと目立つように置かれたライトなのですが、舞台始まってすぐに「あー、エンディングのためのライトとホリですね……」となってしまいます。上手と下手の出入りだけでも良かったのでは? そのほうが廊下の構造として(表現上の)無理が少なかったのでは? とか色々思ってしまいました。

小道具である、ホウキやブラシ、バケツ等の扱いを慎重にそして丁寧に行っていたのは良かったと思います。ただ置く時に「軽い音」がしてしまったのがもったいないので、金属かなにかの重りを入れておくと良かったかなと思います。数センチ以下の厚みならバケツを傾けない限り中身は見えないですし、重さも十分出せます。

演技も頑張っていたと思うのですが、この台本[演技力(と演出)への要求レベルがかなり高い]んですよね。5人の微妙な心の動きと、その変化をうまく表現できないと、閑散としたよくわからない上演になってしまいます。そのための人物の読み込みも、距離感のとり方も、観客への見せ方も、ちょっと物足りなかったかなと感じてしまいました。

ライトについては苦言も書きましたが、それでもエンディングの綺麗な静止(きちんと静止するのって案外難しいのです)と逆光演出は良かったですよ。

伊勢崎清明高校「秘密の花園」

  • 作:中村 勉(既成)
  • 潤色:原澤 毅一
  • 演出:前田友梨奈

あらすじ・概要

短歌甲子園を目指す文芸部。大会目前に顧問の先生が入院して居なくなってしまった。明日までに予選に送る句を選ばねばならない。3人の生徒は、入院中の顧問の先生に会いに行くことにした。

感想

甲府南高校の中村勉先生による台本(noteで公開されています*1)。過去伊勢崎清明の上演とは相性が悪く色々と書いてきましたが、今年こそハッキリ言わせてほしい。

最高でした!

幕があがり、(教室にある)椅子が6脚置かれただけの簡素な舞台。そして背景に短歌などがプロジェクターで投影されます。台本で指定されている演出ですが、これがなかなか良かったです。電車やバスのアナウンス等が表示されるのは面白いですね。「なめとこ山のくま」の下りだけは文字が無いほうが良いと感じましたが、多分「文字」と「演技」という組み合わせに観客を慣らすための配慮なんでしょうね。でもそのシーン、演技でなく文字を見てしまうので演技が見れずもったいない気持ちに……。タイミング等の問題もあるのかもしれません。

あと講評でも指摘がありましたが、短歌の表示がやや早すぎた印象。あの短時間で文字を「五七五七七」として韻を踏んで読むのは至難の技です。いっそ詠んでくれてもよかったと思うし、せめて「五七五七七」が分かりやすい(読みやすい)ようにスペースや改行を工夫してくれたらな……と思いました。*2

それと短歌の「題詠」も表示してほしかった。題詠「先生」という表示がないから、「なんでこの部員たちは、先生のことばかり短歌にしてるんだろう。全員が全員先生を好いていて血みどろの戦いでも起こるのか?」と思いました。


先生のものまねが多く登場するのですが、とてもうまく演じられていました。この劇は「言葉」をとしても大切にしている台本で、演じている側もそれを意識して「言葉」を大切にしていたのが伝わってきました。そして全く登場しないのに、3人の先生への想いがヒシヒシと伝わってくる。

椅子だけの簡素な舞台なのに、体の揺れや椅子の配置で電車はバス、タクシーなどの乗り物をきちんと表現していたのは演技力の為せる技ですばらしいと思います。クマも面白かったです。

台本について

かなり脱線して台本の話なりますが、中村勉先生の台本は日常モノでかつ難しいものがとても多い中、本作は特に秀逸だと思いました。みなさん「となりのトトロはなぜ面白いのか」って考えたことありますか? 

お母さんの病気のために田舎に引っ越してきたサツキとメイが、2人だけで病院へお見舞いに行く

ただそれだけなのです。しかも実際にはお見舞いに行くことはできず、木の上から眺めているだけ。それだけなのに本当に面白い。

この台本は、

病気のため入院した先生の元へ、3人の部員が会いに行く

ただそれだけのお話です。筋立ては「何も起きてない」。でも面白い。少しファンタジー。トトロみたいじゃありません?

そんなことを上演をみながらぼんやり考えていました。

まとめ

言葉を大切にし、とてもとても丁寧に演じられていて、ここまで作るのにどれだけのエネルギーを注いだのだろうと感じずには居られません。

どうして関東に選んであげないんですか!

というのが正直な感想です。

強いて言えば短歌をもう少し大切にみせてくれたら、もっと最高だったかなというのはありましたが、そんなの圧倒するぐらい実力も内容も十分あったと思います。

*1 : 余談ですが、きっちり感想を書きたいので台本が公開されている上演はとてもありがたいのです。審査員と違って台本読めませので、細かい台詞まで追えず、どこまでが台本でどこまでが演出かの境界引きも難しく毎年辛い。

*2 : 現状は台本の指定通りなのですけど、別に変えてはいけないわけではないはず(許可下りればですが)。

新田暁高校「靴下スケート」

  • 作:中村 勉(既成)
  • 演出:半田 実

あらすじ・概要

部屋いっぱいのゴミ袋。それは中学生、加奈子の部屋だった。そこへやってくる大学生の家庭教師、優子。

感想

開幕……のベルが鳴ってから2分開幕しない! 何かトラブってるのかとソワソワしました(苦笑)

幕が上がり、薄汚れた白壁(風のパネル)で囲まれた部屋に、いっぱいの黒いゴミ袋。200個ぐらいあったのかな。小道具もこの中に一緒に隠されているので(ゴミとして)、これ用意と配置相当に大変だったろうなうと。

中村勉さんの台本*1ということで、これまた難しい内容でしたが、すごく丁寧に演じられていたと思います。間を慎重に使い、二人の掛け合いをとても重視して、リアクションにもかなり気を使っていました。良かったと思います。

気になったのは「黒いゴミ袋」。よく探してきたなというのもありますが、今時黒いゴミ袋でゴミを出せる自治体があるとは思えない。膨らみ方もほとんど一緒。そして中に入っているものが「軽くてカサのあるものなんだろうな」ってのが見えちゃった。つまり嘘が見えてしまった。

ゴミに埋もれてた椅子と机が、新品同様に綺麗だったことも不思議でした。壁が薄汚れてる部屋にある椅子と机としては不自然。ちょっともったい無いけど汚して欲しかったかな。そして劇中でさんざんゴミと戯れた後の、最後のシーンで「汚れるから」と作業着に着替えるシーン。これも説得力がないですね……。

細かいところだと、BGMが少しうるさく感じられた部分があったのと、大学生の優子はもう少しだけ落ち着きがあると雰囲気が出て良かったかなと思いました。


かなり丁寧に作られていたし、ラストシーンでゴミ投げ合うところとか序盤との対比になっていてよかったと思います。でも、見ていてどこか物足りない。それはなんなんだろうと考えると、二人の距離感に変化が感じられなかったからだと思います。それは心の距離であるし、分かりやすくは物理的な距離でもあります。

加奈子は「優子が邪魔で邪魔でしょうがなかった」し、優子は「(受け持つ受験生として)面倒くさいハズレを引いてしまった」ぐらいに思っていたはずです。そう考えると、二人は最初からお互いに「相手に対して興味を持ち過ぎ」だったし、「相手の話をちゃんと聞きすぎ」だったと思うのです。

この二人の距離感に対する配慮が足りなかったのではないかと感じました。

難しい台本に挑み、よく研究して上演されていたと思います。上演おつかれさまでした。

新田暁高校「全校ワックス」

作:中村 勉(既成)
演出:長瀬 颯希

あらすじ・概要

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

全校ワックスってこんなにおもしろい台本だったんだなというのが印象的でした。

中割幕を使って少しだけ奥への道を開けた舞台。舞台全体が廊下という設定のようです。廊下にしては少し幅がありすぎたかなという印象があります。学校のどこならこんなに幅のある廊下があるだろうか?と。直線を照明で区切るのは難しいとしても、もう少し方法はなかったんでしょうか。舞台の自由度を取るなら幅はまあ良いと思うのですが、それでも「ここからここまでのこういう構造の廊下である」というのが少しも見えてこなかった。それは掃除やワックスがけのシーンからも伝わりませんでした。装置がないから適当でいいってことはないですよね?(前橋南を例に出すまでもなく)

小道具である掃除道具がうまく使われていて、バケツも、外れるデッキブラシもすごく面白かった。たぶん、外れるように仕込んだんだと思うのですが、うまかったなと思いました。バケツやワックスの入った容器を持ち運ぶとき、最初はかなり巧みに中に水が入っているようにしてたのですが、後半適当だったり、人物によって(特に相川)持ち方が甘かったりして(ギャグ的なのは別として)重さに統一性がないと感じました。揺れてしまうと軽く見えるので相当注意するか、水分は無理でも中に重りぐらい貼り付けてもよかったのかもしれません。あとワックスがけするとき、ワックス容器を持ちながら移動するかなという疑問ありました(ベタベタするのであまり持ち歩きたくはないはず)。記憶がたしかならワックスがけする場所の近くに移動しながら使ってたと思います。

各人物がよく立っていて本当に面白かった。人物の距離や移動も非常によく配慮されていて、同時進行させながらもスポットを当てることを怠らなかったので見づらくならず分かりやすかった。掃除の仕方にもきちんと個性を出していたのも好感があります。ただ全体的に散漫な掃除が多くて、もっと几帳面に箒がけやワックスがけをする人物がいてもよかったかなとは思いました。隅々まできっちりやるタイプも居ますよね。

段ボールで廊下に橋を作るシーンがありましたが、この会場の床は茶色でしたので、白い段ボールを用意したほうがわかり易かった気はしました。ただ白い段ボールだと適当に持ってきた感じはしないのでリアリティのバランスとしては難しいところですが、そもそも手近に段ボールがあること自体リアルではないので白くても問題ない気がします。

それにしても大宅さん美味しすぎ(笑)

全体的に

正直、とても面白かったのです。爆笑してました。6分オーバーでは仕方ないですが、関東行ってほしかった。時間オーバーしているということは当然わかっていたと思うのですが、一切の焦りを感じさせることなくきちんと最後までやりきったことは賞賛したいです。実際、観客には時間が多少オーバーしようがしまいが関係ないことですから。

講評や感想ボードなどで前半の間が少し緩い(間延び)しているとの指摘がありましたが、個人的にはこれぐらいが好みです(スタート少し聞き取りにくかったけど)。たっぷり、ゆったりとしながら、静と動をきちんと使い分け、止めも効果的に使いながら演じられていたと思います。

これ以上どこを改良すべきかというのは難しいのですけど、最初から少し仲が良すぎた感じはあります。最初は初対面っぽさやヨソヨソしさ、なんでアイツと一緒になっちゃったんだろう……ってのがあると、それが「偶然」集められ、集められたことで仲良くなってしまった。偶然という神の仕業によって仲良くなってしまったので、足あとを付けたくなったということに繋がるんじゃないかなと感じます。本当に何も事件の起こらない舞台なので、こういう台詞に現れにくい心理的な変化がより一層重要になってきます。今回の上演では最後に足あとを付けたくなる心境的な変化までは感じ取れなかった。足あとをつけたことの意味は理解できても、自然と伝わりはしませんでした。

あとはやはり掃除の様子を今よりいっそうきちんとすること(真面目に掃除しろと言ってるのではありません)。どこがどう掃除されたのか伝わるようにすることなんじゃないかと思います。「ああ、さっきせっかくワックスがけしたところに足あと(紙吹雪)が……」と今のままでは見てる側が思えないのですよね。

共愛学園高校「クレタ島の謎の謎」

脚本:中村 勉
演出:川合 和子

劇の概要

まずダンスに始まって、次に3名が出てメタシアターについて説明を始める。 メタシアター、劇中に関する演劇、演劇とは何であるかを 演劇によって考えていくための演劇。 それについて説明している姿も、はたして演劇なのか?  それとも劇に入る前の説明なのか?

演劇部を舞台に、先輩・後輩の間で演劇についてのやりとりと、 演劇関係の内輪ネタ、分かりやすいところで言えば 「どうせ(コンクールの)優劣なんて審査員の好みだよ」 みたいなものが多数出てくる。 演劇関係者しか笑えないネタに少々疑問を覚えながら、 そんなやりとりが約半分続く。 その後、「エチュードやります」と宣言し、 繰り返しエチュードを上演する。

主観的感想

全体的にテーマとの脈絡が感じられず、 本当に演劇の姿を追求する気があるのかな?  と疑問を感じて迎えたラスト近く、 テーマ付近の内容に触れて終わる。 出演者3人は本当によく(素晴らしく)演じられているにも関わらず、 メタシアターとしては少々軽すぎる印象。

劇中に「クレタ人のパラドックス」という台詞があります。 この言葉は「すべてのクレタ人は嘘つきだ」とクレタ人が言った。 このクレタ人は嘘つきか? 正直者か? という問いです。 類似のものとしては「この文章は間違っている」、 さてこの文章は正しいか、正しくないか? というものがあります。 この手の問題をパラドックス(逆説)と言います。 演劇というのは、現実を描いた虚構だし、 虚構なのに舞台の上で実際に起こっている現実です。 このパラドックスを、クレタ人のパラドックスに引っかけて 『演劇』の姿に迫るのが本来の狙いかなと感じました。

余談ですが、矛盾を追求し、 矛盾が抱える問題を分析することで真の姿が見えてくるというのは、 1900年代始め頃、数学(や哲学)の世界でよくやられた手法で、 クレタ人のパラドックスもこの文脈で出てきます。 背理法というのものをご存じでしょうか?  矛盾を導き出す事で、ある事実を証明する方法。 数学の世界で「どんな集合よりも大きな集合が存在する」って証明が 丁度この背理法を用いており、 矛盾によって更に大きな世界の存在を示しています。 そして、この証明法をほんのちょっと変えるだけでパラドックスが得られます。

完全な私情ですが、これを演劇に類推して 「演劇の中から、外の世界(現実)」を描けたならば、と残念に思います。 テーマに対する理解・説明がやや不足した印象を受けてました。 しかしながら、劇としての完成度は高い作品です。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 最初と最後に演じていたダンスが、 そこら辺のダンス部を超える完成度で凄かった。
  • 演じてる方は「メタシアター」が何であるか本当に分かってやっているのか?  観ている方はなんだか分からなかった。