伊勢崎工業高校「あの大鴉、さえも」

脚本:竹内 銃一郎
演出:當間 聡美(兼 主演)

※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

親方に頼まれ大きなガラス(大ガラス=大鴉)を届けようとする3人の独身者(男1+女2)。言われたとおり白い壁が沿ってみても行き止まり。もしかすると、壁の向こうに住人がガラスの受け取り人なのか。その住民は誰なのか。

脚本についての説明

昨年に引き続き(同じ人の)古い演劇の本(80年代)を持ってきたようです。上演を観たときは何を描いた台本か分からなかったのですが、審査員講評やネットで検索してみた限り、肉体労働の独身男3人が(ガラスの届け先である)壁の向こうに住む女性に夢想する演劇のようです。

主観的感想

県大会常連、昨年度最優秀賞の伊工はさすがに演技力や完成度がまるで違います。実に安定した「これが演劇だよね」という劇をみせてくれました。……だけではちょっと済ませられないかも。

3人で大きなガラス(透明)を持っている演技をするわけですが、実によく出来ていますが細部までみると大きさが微妙に変わっていたり(立てかけるとき)、持ち替えたとき赤い服を来た方の女性の左手が右手より高かったりしました(水平でないとおかしい)。また女性2名に比べて男の演技がいまいちパっとしない印象で、キャラ付けとしても弱く(人物作りがまだまだ足りない)、特に台詞が数回詰まったのはさすがにマズいと思います。その他、バケツの水をかけるシーンがあるのですが、そのSEがしょぼかったのは残念でした。

【全体的に】

あの伊工ですらここまで苦戦するか……というのが正直なところです。前回は確実に最優秀でしたが、今回は他にこのレベルの高校が居なかったから優秀賞という感じです。部員が少なくなって力のある人たちが抜けていってるんでしょうね(ちゃんと引き継がれることを祈るばかりですが、来年はやばいのかも)。

演出としても、台本を「ほぼそのままやってしまった」という感じで、そこから来た無理というものを庇いきれていません(あまり考慮されていません)。男を女に変更した分、別の要素を付け加えるとか、いっそ大胆に脚色して「設定を現代に置き換えてしまう」とか、そういう工夫をしても良いのかもしれません(注:これはオーバーな例えですが)。たしかに変更するリスクはありますが、逆に考えればこのままでは関東大会での入賞は厳しいでしょう(関東大会を見たことはありませんが)。

審査員の講評

【担当】原澤
  • この台本を選び部活動として完成度を高めていったということを素直に評価したい。
  • 役者各々がソロでも引きつけるだけの力があり、それが3人になった掛け合いでもよく出来ていた。
  • 本来は独身男3人が壁の向こうの独身女性3人を夢想する劇だと思う。キャストを2人女性に変更していたが、それでも成り立っていたと思う。
  • 全体的に会話劇であって60分観客を引きつけなければならないのだけど、まだまだ努力が必要だと思う。
  • BGMが何カ所か不要、または違和感を感じた。
  • 難解な台本によくチャレンジしてここまで仕上げたことを素直に評価したい。

沼田高校「リオ・デジャネイロに乾杯!!」

脚本:小野 知明(生徒創作)
演出:小野 知明(兼 主演)

※優秀賞(次点校)

あらすじ

「今年はホームステイは断ったよ」と勇気(ユウキ)は兄の元気(ゲンキ)に伝えた。毎年、勇気たち山本家ではニュージーランドの酪農家をホームスティに迎えていた。そこにやってきたホームスティの(自称)ブラジル人の「リオ・デジャネイロ」。また、山本家では母親が居らず、父親と喧嘩して出て行った様子だった。

そんな感じではじまるホームスティだが、TVのニュースでブラジル人が起こした一家惨殺事件が報じられる。もしかしてリオは犯人では……という疑心暗鬼。結局ラストは、勘違いでしたということで、リオも奥さんに連絡を取る、父親さんも母親に連絡をといういい話で終わります。

主観的感想

【脚本について】

創作脚本としては基本を抑えていて、大した破綻もなくよくできています。笑いの部分を引いた、ドラマとしての仕立てはまだまだ不足するかな……というところ。リオの奥さんと、山本家の母親という2つの構造を並列に並べ切れていない、深めようという配慮が不足しているかなと感じました。

例えば、家族における母親の位置や立場、それについての個々人の想いというものを(それとなく)描き出しておくと、全体として筋立てができて話が引き締まると思います。(参考:創作脚本を書かれる方へ

【脚本以外】

中央に部屋のセットを置いて、ステージ全体を部屋に見立てていたわけですが、中幕を引いたり(共愛のように)ライトを中央部のみ当てるなどして部屋としての狭さを出すべきだったように思います。そのせいで無駄なだだ広さを感じてしまいました。特にTVを点けるシーンにおいてそれは顕著だったと思います。

つづいてBGMの使い方。うるさいと感じました。もう少しボリュームを下げて、安易にBGMに頼らないように(特に回想シーンでの使い方は長すぎる)しましょう。暗転のとき(作業のためだと思いますが)明かりを残すとやはり気になります。他校は消した状態でもできているのですから、そこもきちんとしましょう。

山本家の父親役は見事に役にあっていましたが、背広を着ていたので酪農家っぽくなかったのがやや気になりました。その父親、上着を冒頭のシーンで部屋にかけたまま外に出て行ったのですが、それは意図したものだったのか若干疑問です。

【全体的に】

一昨年、昨年と県大会で沼田高校を見てきたので正直なところまったく期待していませんでしたが、それはよい意味で裏切られました。今年は、方向性を絞ってきちんと作りこんできており「ああ、すごい成長したなぁ」というのが正直な感想です。例えば、TVのシーンでTVによる明るさの変化をライトを物でさえぎることで行っていまして、実に細かいところまで気を回しているのがこのことからも分かります(ただまあ、せっかくの細かい芸もあれでは分かりにくかったので、色の変化を付けるとか、もっと遮る物の大きくオーバーにしてもよかったかと思います)。

全体としてもう少しコメディ色を強めてもよかったかなとは感じました。

審査員の講評

【担当】原澤
  • まず幕が上がってブツクサ言っている男がコンロの前でバタンと崩れて。正直なところ、そのシーンですごく期待した。(あまり昨年のことは言いたくないが)昨年と比べるとすごい進歩で、1年間部活として頑張った成果が現れていると思う。
  • ただ(もしかすると致命的な)問題点があって、終盤に行くに従ってお話が小さく小さくまとまっていった。中盤でリオが殺人犯ではないか、という報道があったのに実際には違ったし、山本家の母親もなんだかんだでいつでも帰ってきそうなムードで。(終盤では)問題らしい問題は見あたらず、「みんないい人だったなー」で終わってしまい(演劇としての)ドラマはどこへ行ったのかという感じになってしまった。
  • ドラマといっても、別に殺人や地球滅亡といった大それたものではなくて、先ほど(桐生南など講評で)光瀬先生からあったように、人と人の間のドラマをもっと描いてほしいかった。
  • お父さんの衣装が「酪農家?」に見えなかった。
  • (例年)男子校の演劇は、勢いはあるものの完成度は……だったが、(男子校でも)きちんと演劇を作りうまくまとまっていた。その点、良かったと思う。