高崎商科大学附属高校「ホット・チョコレート」

作:曽我部 マコト
演出:高崎商科大学附属高校
※優秀賞(関東大会)

あらすじ・概要

学校を休んだキッコ。そこに来る友人ミオ。期末テスト前。キッコはもうすぐ引っ越してしまいます。「バンドはどうするんだよ?」とせがむ友人。そんな中で起こる、キッコと友人たちの青春の1ページ。

全国大会の優勝校台本です。軽妙な掛け合いの中と、友人達の微妙な心理のずれを描いた、定番の青春モノ。

主観的感想

演出面

まず段ボール。せっかく良い小道具なのに生かしきれていません。だんだんと数が増えたり、日が経つにつれ部屋の片隅に重ねて置かれたりといった、状況の変化を見せる工夫をしてほしいです。単純に無地の段ボールを使っていましたが(それが良いかどうかは別として)引っ越し屋さんの段ボールや間に合わせたようなスーパーの段ボールを使うという選択もあります。重要なアイテムなのでもう少し考えてほしいです。

登場人物の服装。多少の変化は付けていますが、みんな制服姿で似た感じでした。髪飾り(ゴム等)で変化をつけようとしていたようですが、夏という設定を変えても話の筋上何一つ問題は起きないのですから服装にバライティを付けられる冬服にするとか、帽子を被るとか、鞄を変えるとか、何か工夫がほしいところです。

お話の大きなアイテムである「オリジナルのバンドの曲」をカセットでならすのは大変良い判断だと思いました。それだけに中盤であれだけ長く使ってしまったのは大変勿体ないです。しかもうるさくも感じました。ああいうものは、焦(じ)らして焦らして聞かせないほど引きつけるのですから、EDで使うのならばEDまで肝心なところは聞かせないようにするといいと思います。

携帯の音も本当鳴らしていた(ように聞こえた)ので大変よかったです。

途中の台詞で「オリエのピッチ(PHS)にもかけたんだよ」というのがありますが、これは「携帯」に変更すべきです。台本が書かれたときと時代が違うのですから、そのままやってはいけません。台詞は必要(演出)に応じて変えるものです

演出面

キッコの部屋ですべては展開するのですが、幕が開いて部屋。左手にベッド、本棚、中央に壁、右手に本棚、入り口……と部屋にしてはやけに広いです。こういう賑やかなものでは部屋(装置)をはじめとするムード作りというはとても大切ですので、もっと狭めた方がいいです(大きな装置を作らなくても、照明の範囲を狭めるだけで違います)。こじんまりまでは行きすぎですが、部屋ひとつ、装置ひとつで作品ムードががらりと変わりすから検討してみてください。女の子の部屋なんだから飾りとかあってもいいと思います。というのも引っ越しがだんだん近づいてくる様子が今のままでは非常に分かりにくいのです。大きな物は大変ですが、小物や壁飾り等々の飾りが多くあった部屋が、がらんどうに変化するだけでも、印象的に感じます。

そしてもう一つ装置に用意してほしいのが、椅子やおもちゃ(?)など(不自然にならない範囲で)登場人物が持ってさわれてるものです。友人の家に行ったとき、その辺に転がっているもので遊んだりしませんか? 適当に置いてあるものを何気なく手に取ったりしませんか? やりすぎは禁物ですが、装置とはそういうものです。

女子6人のわいわいとした騒がしい様子がよく描かれていて、台詞も良いため良いムードが出ています。ただもう少し性格付けができるともっと良くなると思います。この登場人物は「普段はきっとこんな生活をして、こんな風に物事を考えて居るんだろう」って役者一人一人が想像力をふくらませて、台詞だけでは見えてきにくい部分を掘り下げていくと、この演劇はプロみたいに良くなります。

とにかく「台本の勝利」という感じでした。本の面白さがきちんと描けていたと思います。

前橋南高校「姨捨DAWN」

作:能楽「姥捨」より 原澤毅一 翻案(顧問翻案)
演出:(表記なし)
※優秀賞(関東大会)

あらすじ・概要

乳母捨て山に迷い込んだ、今時の学生は不思議な老婆と出会った。

主観的感想

今年も少数の部員ながら、どうするんだろうと思いましたが「こう来ましたか」。昨年に引き続き、顧問の力をというのをまざまざと見せつけられた感じです。

幕が上がり装置はなし。光で幾何学模様(?)の上をゆっくりと一人の若い男が歩いてきます。ゆっくりとゆっくりと。音楽と共に。そしてカメラを取り出し写真を撮り、テントを組み立てます。ゆっくりゆっくりとした動作ですが、その挙動ひとつひとつにメリハリがあり、開幕から10分間たった一人で言葉は全くなく動くだけで魅せてしまいます。劇とは対話という人も居ますが、劇の対話ではない側面をまざまざと見せつけます。

やがて老婆(山神?)が出てきて、男がそれを撮影します。自然な動作に笑いが起きます。笑わせようとしていないのに笑いがおきます。完全に観客を引き込んでいる証拠です。途中、老婆がそなたも踊れみたいなフリをして、男が踊るシーンがあるのですが、能楽が鳴っている中で、ロック(?)な踊りがまざるというなんとも奇妙な構図が展開されるのは不思議な感じでした。

ほとんど台詞が無いのに魅せる演劇で、それでいて「自然の世界」から「都会」に戻るという喧噪を音と動きだけで表現しきっていました。とにかく動き・音(PA)・光(照明)をうまく作って仕上げられています。

軸もある、テーマもある、完成度も高い。芸術的な作品。さてではなぜ最優秀賞ではないのでしょうか? この問いの答えは非常に難しいです。好みの問題と片付ければそれで終わりですがあえて考えてみます。見入ってしまう面白さだけど、面白くない。引き込まれるけど感動はしない。見事に表現されているけど通り過ぎていく。芸術だからなのでしょうか、すごいけど純粋に面白くはない。観客とひとつになってこそ演劇と考えたとき、共有や共感がないことが問題なのかもしれません。もし仮に観客が男と同じ視点に立てたなら、また違ってみえるのでしょう(それにしては男に隙がなさすぎる)。そもそも「これでいいのだ」と言える演劇なのですが、あえて思考するとそんなところです。

桐生南高校「ハムより薄い」

原作:逢坂 みえこ 『ベル・エポック』(YOUNG YOU漫画文庫・集英社刊)
脚色:青山 一也
演出:桐生南高校演劇部

※優秀賞(次点校)

あらすじ

32歳の独身女性5人が雑談をしている。最近あった話、結婚している人も居たり、結婚してない人も居たり。そんな雑談の中で喧嘩をして、やがて……。

脚本について

漫画原作ということで、どの程度原作通りなのかは謎ですが、まあでも青山先生の本だなーという印象でした。

主観的感想

女性5名がテーブルを囲み、雑談という形で劇は進行します。始まってまず、相変わらず聞き取りにくい人が……。紫(ゆかり)役か茜役かなー。声が被ってしまうと(まあ聞かせなくてよい台詞なのかもしれませんが)何だかよく分かりません。ダンスをしながらBGMと共に役者が場転をやってしまう荒業にはちょっくらしてやられました。そしてここも使っていた「2時間後」という台詞による時間経過。流行なのかな。

往年の男子がほとんど抜けて(新入生は居ますが)、女子メインのお芝居。桐南は地区公演を含めると何回見続けてるんだという感じですが、その中では一番の出来だったと思います。一歩間違えば危険な「止め」を積極的かつ意欲的に使っていて、間の使い方が非常に慎重でシリアスとギャグの間も使い分けていました。例年の詰め込みすぎから内容を若干少なめにして、その時間を間の処理に回してあり大変よかったです。昔から比べればどんなに進歩したことか、とか感じてしまってはダメなのかもしれませんが(苦笑)。

一部声質が似通って聞き取れないのは健在だったものの(これでも前から比べればずいぶん良くなった)、緑(みどり)の間延びした感じとか、去年から定着感のある葵役の勝ち気な性格とかよく出てました。逆に言えば、桃子はお嬢様キャラなんですがもっとお嬢様お嬢様していた方がよかったと思うし、紫役と茜役は人物像がかなり弱かったですね。音のつけかたや照明の処理はほぼ適切で(良くも悪くも普通)今年の桐南はやけに(装置が)簡素だなーと油断していたら、ラストシーンの夜の公園はなかなか凝っていました。

とまあ結構褒めましたが、じゃあいいとこだらけかと言うとそうでもなく。まず、間(止めを含む)の処理がまだ甘い。例年に比べたら大分良くなったし大体正しい間なんですが、いまいち微妙にずれてるんですよね。具体的にどれというのは難しいのですが。ここまで来ると、演じ手だけでは詰めるのは難しく演出が仕事(見て判断して指示を出すこと)しなきゃならないのですが。ここで大体いいやで終わらせるか、完璧に合うまで調整するかが最終的な質を大きく左右します。関東大会やその上を狙うなら必ずやってほしいと思います(他校にも言えることです)。

あと前半の回想シーンにおいて、女性5人中1名が席を離れ中央で男1名と共に回想の様子を上演するのですが、回想シーンの前に言葉で説明しているので何で回想しているのかよく分かりません。おまけに回想中に他の4人が、思い思いの行動をとっています。ここの処理が全く意味が分かりません。まず、前後の繋がりから想像するに言葉で話す代わりに回想シーンを挟んだものと思われますが、非常に伝わりにくい。「それがさ…」などの台詞と共に回想に入ればわかるのですが、それがない。しかも予め何があったか説明してから回想シーンに入るので、それだったら最初から全部説明してしまえばよかったのではないかと感じてしまいます。(事前に起こったことを大体説明しているので)あそこで回想シーンを構成する必然性が分からないのです(画面に変化を付けるという演出上の必然性はわかるのですが、それはお客には関係のないことです)。

また回想中に、残りの4人が思い思いの動作をしている点もかなり疑問が残ります。話の主軸の外で性格付けされた人物がそれぞれの行動をするのは大切です。大切ですが、ここのシーンは回想です。しかも言葉で説明しているシーンに代えた回想です。回想シーンに入る寸前まで仲良く話を聞いていた4人が、回想シーンに入った途端に話も聞かず思い思いの行動を始め、回想シーンから戻るとすぐに回想シーン内の出来事に言及し興味深そうにわいわいと会話を続けることの不自然さが分かりますか? 結局残り4人は話を聞いてたのですか、聞いてなかったのですか? こんなことは演出がきちんと居ればすぐに気づけたはずです。

さて話の方ですが、茜と紫かな(記憶曖昧)が喧嘩して紫が出て行ってしまうのですが、そのあとで紫とその家族の回想シーンを挟みます。このシーンは、紫が実は結婚できないことを家族から言われ抑圧されていたという腹を立てた理由付けに相当するものなんですが、それがまた観客に対して真に伝わって来ません。むしろシーン自体が取って付けた感じがして、そこを端折って公園シーンに飛ばすか(そこで出せば済むでしょう)、それより前の雑談の中に伏線として折り込んだ方がいいように感じました(むしろ両方ですね)。

その他、5人がずっと出ずっぱりなので変化が乏しいのが気になりました。演劇という特性上、人の出入りはどうしても必要てす。お茶を汲みに行くのでも、トイレでも、遅刻しているでも、人の出入りがないのは寂しかったと思います。ラストのオチは、女の友情はハムより薄いということなんですが、その辺も押しがいまいち甘い。少し投げっぱなし感があり、オチとして完全に締めるか、この先を想像させるか、そういう含みがほしいと感じました。

【全体的に】

桐生南は何回も見ているだけに長文になってしまいましたが(しかもかなり辛口になってしまいましたが)、観てきた中では一番出来が良かったと思うし、面白かったには面白かったです(だから優秀賞をもらったのでしょう)。実際会場も結構笑っていましたし、あっというまに60分過ぎ去って魅入ってしまいました。でもさらに上を目指すならば、やっぱりこの辺はクリアしていかないとなあとも思います。

※顧問の先生による簡単な評はここで読めます

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 32歳の独身女性5人。高校生には難しい役で、よく頑張っていたけどもう一歩というところ。32歳にしては少し元気すぎる感じがして、リアルな32歳というのはもっとけだるさみたいのがあると思う。あのテンションの高さで話す32歳は居ないよなーと感じて惜しかった。
  • 酔っぱらったり、見合いした経験はないはずなのにがんばって演じていた。
  • 全体的にはよく作ってあって、ダンスを使った暗転やブルー暗転など考えられていた。
  • 音響は少しうるさすぎた。ちょっと耳障りかなと思った。
  • 女の友情はハムより薄いという漫画ベースで脚色してある台本だけど、台本をよく読んで研究して演じていた。おつかれさまでした。

新島学園高校「桜井家の掟」

作:阿部 順
演出:新島学園演劇部

※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

桜井家の4人姉妹の元へ、次女の蘭が彼氏を連れてくるという。乙女を夢見る長女夏実、ワルな感じの次女蘭、食べるの大好きな三女の杏、なんでも言ってしまう四女真希という個性豊かな姉妹劇(家族劇)。連れてくる彼氏にビクビクする夏実と杏。しかし、光一はごく普通の男子だった。ほっとしたその彼の前で、突然真希は「自分たちの親は離婚して、今週いっぱいで離ればなれになる」と告げる。

脚本について

2002年度に行われた第48回全国高等学校演劇大会で千葉県立薬園台高校が上演した優秀賞受賞作。高校演劇Selection 2003下収録

主観的感想

毎年毎年、変に小難しい台本を選んでは失敗してきた感がある新島ですが、今年は新島に合った(注:見下しているのでなく、過去の地区公演を見る限り気質として合っていると思う)台本でドタバタコメディ。掛け合いの間や登場人物の個性付けなど、非常によく出来てました。まあ、ほとんど地区公演の修学旅行と被る人物と配役だったような気もしますが、その意味でも余計役作りはしやすかったのではないかと思います。非常に面白かったです。

前半、少しだけ間か詰まっている(ほんのちょっと間がほしい)と感じる場面はありましたが、全体的にいい掛け合い(間)をしていました。掛け合いの妙(テンポ作りなど)はさすがです。途中、三女(か四女)のほほを叩くシーンでスローモーションで暗転したのですが、あれは意味がわかりませんでした。遊び心としては好きですが、あまり効果的な演出ではなかったように思います。

装置は部屋をきちんと作ってきていてさすが。ただ扉が若干ぐらついていたのが気になりました。講評によると、あれだけ激しく扱ってもびくつかないのは大変な労力ということですが、でも少しグラついてしまったのが残念。また階段の部分がセットで切れ目になっているのですが、階段を挟んで舞台奥側と手前側に隙間が見えるのが残念でした。奥側にもう1枚パネルをおいてほしいと思います。

さてここまではいいのですが、相も変わらず新島の問題はテーマとその解釈(演出)です。毎年のように演出不在の新島は、例年全編を通して何かの1つのテーマを描くということが大変苦手で、今回の家族劇というニュアンスで劇をみたときに光一の存在がどっちつかずになっています。姉妹劇(家族劇)なのに話の中心、スポットは常に「蘭とその彼である光一」に当たっているわけで、「あくまで4姉妹が主役なんだ」という主張(演出)がまるで見えてこないのです。ラストシーンで姉妹みんなでケーキを食べ、それをバックから(姉妹の)親とおぼしき人影が見つめるのですが、その前のシーンでは光一が居るのに、最後の最後で奥(台所?)に引っ込んでいて出てこない。なぜ出てこないんだという疑問と共に、このラストシーンに来てようやく主役は4人姉妹だということが分かるのです。逆に言えば、最後にそのシーンをみないと主役がどっちだか分からないのです。

ラストシーン前では、彼氏(光一)のことは噂させる程度にしておくべきだったのではないかと思います(引っ越しの手伝いには来ているけど何か買い出しに言ってるとか、用事で帰ったとか)。

【全体的に】

音の処理や光の処理はさすが新島という感じで、安定感がありました。演技や舞台装置、その他すべてを含め本当に安定した作りになっていると思います。とにかく間の使い方が適切で、他校にはぜひ参考にしてほしいと感じました。地区公演と違い作り込んでいる様子で(逆に言えば地区公演は若干手抜き感があるわけですが……)、全体の作りはさすがでした。

これだけ実力があれば、あと必要なものはテーマの解釈とその演出なんですけどね……。これ、地区公演含め昔から何度となく書いてきている割に進歩がないのでダメかもしれませんが(である限り関東突破もダメだと思いますが)。参考までに、検索して見つけた青山先生の評はこちら。私より的確でしょう。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • この作品は全国大会の台本だと後で知った。既成本でも、地元地名を取り入れ丁寧に作り込んでいた。
  • 時計の針が進んでいたり、カレンダーに×が増えたり、取り外したものの跡が残っていたり、最後のケーキがリアルだったりと、細かいところまで手を抜かず非常に丁寧な作りだったと思う。
  • 照明、音響、装置なども適切でよく作ってあった。
  • 窓があってその向こうにキャラクターの細部まで見えたのはすごい。
  • 四人姉妹が姉は姉として、妹は妹としてキャラが立っていた。
  • 光一の母の豹変ぶりとか、こっちの度肝を抜くような、かといって違和感を感じることもない全体的なアンサンブルの良さはさすがだった。
  • 光一の父がフィリピンパブの人と電話するシーンでは、さわやかすぎた感じがする。もっとギトギトした感じが出てもよかったのではないか。
  • 今後の4人姉妹を想像させる、よくい作品。
  • 欲を言えば、声が重なるところなどでそれぞれの役者がもう少し声が出たりパワーが出たりするとよかったかな(編注:記憶曖昧)。
  • あとカナヅチ、ノコギリとかは(編注:視覚的に)もっと分かりやすい方がよかった。

新島学園高校「桜井家の掟」

脚本:阿部 順
演出:演劇部
※優秀賞

あらすじと概要

4姉妹で暮らす家に次女蘭が彼氏を連れてくるという。一喜一憂する姉妹たち、訪れる彼氏の両親。実は姉妹たちには秘密があった。

主観的感想

関東大会参加校だけで一体何校が演じたのだろうか……というほど上演校の多い元全国上演台本です。パンフレット(別刷り)によると

この作品に取り組むにあたり、私たちはオリジナルの舞台(ビデオなど)を見ないことに決めました。

とあります。これは非常に陥りやすい劣化カーボンコピーを防ぐ大切な判断だったと思います。

さて内容ですが、前半の間が非常に悪い。県大会と比べるのは酷かも知れませんが、県大会よりも間が悪くなっています(間がなく台詞が続いてしまう、リアクションが早い)。役柄をあげるのは大変申し訳ない感じもしますが、長女夏実(なつみ)役が緊張していたのかまるっきり早口になっていました。初っぱな三女の杏(あんず)がダイエット中であるという下りの台詞を飛ばしてしまったらしく、この影響もあって杏に関するダイエットネタがすべて不発。このなかなか笑えない状況は、彼氏である光一の母の性格豹変ネタが出るまで続きました。長女役が責任というのではなく、お客の反応か思い通りいかず焦ってしまったのかどの役も県大会より間が悪かった印象です。肩の力が抜けておらず「ゆるみ」も出来てなかったと思います

笑いでお客を引き込めなかった最大の要因は「間の悪さ」なのですが、もう1つ、群馬ローカルネタ(地域名など)をそのまま県大会同様「笑いのネタ」として使ってしまったことにも原因があると思います。群馬の地域ネタでは笑いは起きないという覚悟が役者やスタッフたちにあらかじめあれば、もう少し違っていたかもしれません。

一方で、エンディングにかけての見せ方は県大会より良くなっていました。光一は台所にいるのではなく外に出かけていましたし、その変更も投げやりな書き換えではなくきちんとフォローを入れて行っていました。県大会であっかどうか忘れてしまいましたが、光一からもらったセーターを蘭が着ていたりとか(ただあっさり流しすぎな気もしましたが)。全体的に「家族劇(姉妹劇)」ということが、県大会よりもしっかり浮き彫りになっていたと思います。

前半の間の悪さが返す返すも悔やまれる、非常に惜しい演劇でした。いやもちろん、楽しかったんですけどね。

細かい点

  • 最初の自転車で買い物おばさんというギャクシーンで、夏実と杏がリアクション(別に台詞に限らず)しないのが勿体なかった。
  • 階段で叫ぶとき真横を向いて叫んでいた。建物の構造上、斜め上を向くシーンだと思います。
  • 携帯の音をリアルにならしていた(裏かな?)のは良かった。
  • スロー暗転がやっぱり意味がわからない。
  • 装置は県のときと変わらずよく出来ているんですが、暗転時多量の蛍光テープが客席でもはっきり見えてしまい非常に気になりました。
  • (光一の)父の電話シーンで、その電話の内容を英語(でたらめ英語ですが)にしたのは失敗です(県では英語じゃなかったと思う)。あの早さで喋った場合、何を言ってるのか客の理解が追いついていきません。同じく電話中に父は舞台袖に消えてしまうのですが、部屋の構造的にどこいったんだ? と疑問に感じてしまいます。別の処理を考えてほしかったところ。
  • 光一の母が、外で暴走グループをやっつけて戻りおしとやかに挨拶するシーンで、光一母はもっともっとおしとやかに挨拶するとより面白かったと思います。
  • 光一の父の携帯を窓の外に捨てるシーンで、投げ捨てるというよりは「そっと放っていた」いたのできちんと投げつけてほしいと思います。本物で投げる訳に行かない場合は、こっそりモック(店頭用の偽物)に入れ替えるとか。モックは(秋葉原やリサイクルショップなどで)比較的簡単に手に入ります。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • BGMの音量が全体的に大きかったと思う。
  • 役者の個性が大変生きていた芝居で、これは台本の力でもあった。
  • 台詞が頭から尻つぼみになっていたのが気になった。感情というのは語尾にでるので気を付けてほしい。
  • ところどころデフォルメされていて笑えました。
  • 心のやりとりから妹が姉を助けに行くしシーンや、(光一の)母が父を叩くとき普段は我慢している母が叩いた後でどんな気持ちに変わったのかとか、そういう心の部分が出るとよかった。
  • 恋をしていく姉(蘭)の姿は、もっと乙女になって良かったんじゃないか。恋によって変わっていく様子かもっと出てよかったんじゃないか。
  • 窓の外にホリが引いてあったけども本当に必要だったのか。大黒幕でもよかったんじゃないかと思う。
  • チームワークがよく楽しく観させて頂きました。