高崎商科大学附属高校「8月5日(晴れ)」

  • 作:高崎商科大学附属高等学校演劇部(創作)
  • 演出:櫻井 桃夏
  • 優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

大学生4年生になった高校時代の仲良し5人が集まって、山小屋に泊まりに行った。そこでの行われる会話劇。

感想

木の板を貼り合わせ作ったように見える見事な山小屋セットでした。手前が床になっていて壁は奥の出入り口面だけ。奥の壁側に服掛け、上下に長椅子という様子で、空間を狭く区切ったのもムードが出てて良いですね。

内容は特になく「今どうしてる?」「昔はこうだったよね」という感じで進む会話劇です。会話をしながら、きちんと話す人の顔をみて、リアクションもちゃんと出来ていて、台詞まわしもとても自然。山小屋での女子会って感じにも取れますね。演出がかなりしっかりされています。観ながら「外が雨の気分」になってきました。

気になったところとしては、講評でも指摘されていましたが雨音の処理ですね。ただまあずっと鳴らしておくのは邪魔なので、講評のアイデアのとおり扉あいたときだけ聞かせるのもアリかもしれません。あとヘッドライトでは小屋全体明るくならないよねというのも同じく気になりました。

非常によく演じられていてレベルも高いのですが、ちょっと難点を挙げると「ただの会話」なので終盤まで引きつけるものがありません。王様ゲームとかみせられても何を楽しんで良いのか困ります。一人だけ、メンバーに禍根を持つ人物が居るのですが、それも比較的序盤で解決してしまい、中盤少し飽きてくるのが問題ですね……。

もっと言いたいけど言えないことがあるとか、小屋の中に不思議なもの(不自然なもの)が置いてあるとか、小屋に不思議な点があるとか、何かしら話を引っ張る仕掛けがほしかった。もしくは、惹きつけるほどに魅力的な会話内容にブラッシュアップするとか(難しいですが……)。

ラストシーンとの絡みを考えると、小屋の中の不思議なアイテムをおいて、あれこれ想像を膨らませた挙句に、結局最後にあっけなく壊れているとか……あんまり良いアイデアではないか。これだけ演じられるなら「ただ仲が良い」だけではなくて、もっと色々な5人の関係性をみてみたかった。タイトルについて少し調べてみたのですが、8.5水害あたりなのでしょうか。

まさかそんなオチ!という衝撃はありましたし、全体の演技もよく出来ていたと思います。関東大会がんばってください。

前橋南高校「Act@gawa.jp」

作:吉田 藍(顧問創作)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

ネット詐欺に注意しましょうと言われてる中、スマホに買い替えた白井(男子)のもとへ、高岸(女子)から詐欺を装ったメッセージが届く。そんなの嘘だよと友達に言われた白井は「俺は信じてみたいんだよ!」と答える。

感想

この台本は、伊勢物語の芥川をモチーフとして使っています。

上手に高さの違う灰色い柱のようなものが4つ。下手に横にした同じものが2つ。奥だけ幕を少し開けてあり3段ぐらいの階段2つ。その他、舞台上に白い服の白子(黒子に対して白子らしい)が4人。見るからに抽象的な舞台で「これから抽象的な演劇をやります」っていうことがこれだけで分かる良いセット。

螺旋(モチーフはLINE)を通じて白井に「助けて」というメッセージを送る高岸がメインとして進行します。はたして嘘なのか本当なのか。ちなみにこのメッセージ着信音がまんまLINEなのですが、これ著作権大丈夫なのかな?(効果音にも著作権はあるしJASRAC登録されているとは思えない)。著作権の問題は別として最初、会場の人が間違って音を鳴らしたと思ったので、あまり適切ではないと思います(もしくは舞台上から音が鳴るようにするか)。

本当に演技がうまい。力はちゃんと抜けてるし、声はきちんと聞こえるし、台詞のタイミングもうまい。

抽象的でどうのこうのと述べるは難しいのですが、2つほど。高岸がなぜそこまで闇を抱えてしまったのか(どういう闇を抱えているのか)という部分がいまいち伝わってきませんでした。こんなことをする人物ってのは普通に振る舞ってても、どこか常識とは異なる隠し切れないズレた部分を持っていると思うのですが、それを上演から感じ取ることはできませんでした。なぜ高岸はこんなにも狂ってしまったのでしょうか(狂気が感じられない)。シーンとして説明があるかないかという話ではなく舞台として説得力が不十分だと感じました。もうひとつは、講評でも指摘されていましたが、白井がどうしてそこまで高岸や詐欺のようなメッセージを信じてみたくなったのか分からないということです。

結局、高岸と白井の関係がこの劇の核心なのですが、それがあまり描写されてません。そう考えるとネット相談センターはあくまで抽象として存在させて、高岸と白井の物語には関係させず、高岸と白井の関係を描くことに注力したほうがよかったのではないでしょうか。「白玉」や「鬼」というモチーフもイマイチ活かしきれてない感じがします(伊勢物語を知らなかったので上演だけでは理解できなかった)。

全体の演技のレベルは非常に高く、とても安心してみることができました。関東大会もがんばってください。

桐生南高校「笠懸野」

作:伊藤 藍(顧問創作)
演出:新井里実、春山奈々
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

マラソンで3位となってしまって居場所を失った男が河原に。そこに魔女のような女が現れ……。ついで同級生たちが現れるがそのとき男の姿はなく……。

台本の感想

河原での出来事と河原の記憶としての回想。笠懸地方で昔あった出来事の再現。男と同級生たちの関係も、何も説明しないまま進む舞台進行。そして最後に、男が自殺したことが明かされる。着想や構成は面白いなと思いますが、講評でも指摘があったとおり(顧問創作なので言い淀んでましたが)全体の構成から見ると個々の回想エピソードが完全に浮いてしまっていて正直なところ「要らないよね?」としかならなかった。散漫な話という印象が拭えません。

男と魔女の関係(会話)で進めてしまったほうがよっぽどすっきりするし、もっと男の深い部分を描くこともできたんじゃないかなとしか思えませんでした。マラソンで自殺は円谷幸吉がモチーフなんでしょうか。

感想

舞台の端から端まで河原の土手が表現され、奥にホリ。手前への階段が2つ。河原や手前の地面全体に落ち葉が置かれ(河原には落ち葉の絵と落ち葉を貼り付けて)いました。今年大掛かりな装置を用意したところは少なかったので、よく作ったなと感じました。でも土手にしては高さが1mちょっとしかなく傾斜が緩いので低く感じてます。仕方のないところですけど。

女のしわがれた声の演技うまかったですね。あと田中正造とか、そのあたりの回想エピソードも非常によく演じられていました。ただ人物によって滑舌や声に力が入りすぎたり、複数人で同じ台詞のところは声がずれたりして聞き取りにくかった気はします。これが現代の言葉なら問題なかったのでしょうが、古い言葉なので通常以上にきっちり聞こえないと分からないのですよね。

土手が紅葉色でホリも紅葉色にしているシーンがあるのですが、綺麗と言うよりも色が一緒で混ざっちゃってる印象が強かったので、もう少しホリの色味を変えるとかできなかったのでしょう。雷の演出は上手かったと思います。あと舞台下手の巨大なブランコとその音は非常に良く効果的に使われていました。

他方、水音のSEがループの繋ぎ目がハッキリ分かってしまい、しかもループの間隔が短いので気になってしょうがなかった。PCでフリーのWave編集ソフトを使えばこの手のループは簡単に処理できますし、別の音源を探してくることもできたと思うので(川音にしては土手の大きさと乖離している)絶対的にどうにかすべきだったでしょう。

全体的に

演技や芝居の実力はあるし、よく演じられていたのに台本が少しもったいなかったかなという印象はあります。この台本ならこうなるよねという感じです。

ただまあ、台本が散漫なところを散漫にならないように演出する配慮は可能だったかもしれません。スポットを当てるとしたら男なのかな。男とその同級生という関係性でもよかったかもしれない。やっぱり台本を直さないと難しいところがありますけど。

新島学園高校「厄介な紙切れ ─バルカン・シンドローム─」

作:大嶋 昭彦(顧問創作)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

放課後の教室、数名の生徒が居るその場所に明日のテスト問題が紛れ込んだ。返すべきか、返さざるべきか。テスト用紙をめぐって繰り広げられるコメディ。

感想

舞台奥側に教壇を置いて、その方向に5列、それぞれの列に机を3つずつ。教室の前半分ということでしょう。それにしては教室の構造が少し謎ではありましたが(出入り口どこ?)。

スタート時。教室で3グループが並列して起こる会話を、その他のグループごとにストップさせて1グループだけ時間軸を進行させて見せるのは面白いなと思いました。実力を見せつてくれるなとも感じましたけど、静止タイミングや微動だにしないあたりはさすがの新島。同時並列を、同時並列にして順序を整理して見せるのも1つの方法ですが、こういうやり方もあるんだなと思いました。

相変わらずの演技力で、声がよく通り、それでいて力みすぎず、それぞれの登場人物がきちんと立っていて、非常に安心して見ていられました。また台詞のタイミングもよく整理されていて、わかり易かった。先生が少し先生っぽくないのは、仕方のない面はありますが、でも新島の実力ならもう少し頑張れますよね?

全体的に

講評の指摘がほぼ台本だったということが象徴してると思うのですが、くだらない話なんだけど演劇としてはきちんとできている。でもくだらない話。

くだららない話=ダメということはもちろんないのですが、盛り上がらない作りだなとは感じました。何も起こらず、終わって何か残るものもなく。最後にもう1つ厄介な紙切れがあればいいという講評の指摘もあり、もっともっとくだらない方向に突き抜けていればまた印象が違ったのかなと思いました。話全体がくだらない割に、細部の構成が真面目なんですよね。

新島らしい完成度の高めの安心できる芝居ではありました。